toeというカッコいいバンドの山㟢廣和さんを
知人が紹介してくれました。
よく晴れていたし、家から遠くなかったので、
山㟢さんとこまで歩いていって、
中学のころに聴いていたBOØWYのこととか、
いまのバンドのことについて、
みごとに、とりとめもなくおしゃべりをして、
帰ってきました。
toeはこの2025年10月25日、25周年LIVEで、
両国国技館に8000人を集めます。
担当はほぼ日の奥野です。ゆっくり読んでね。

>山㟢廣和さんプロフィール

山㟢廣和(やまざきひろかず)

横浜市生まれ。中学時代からバンド活動を始め、2000年にポストロックバンドtoeを結成。インテリアデザイナーとしての顔も持ち、デザイン会社METRONOME INC.を主宰する。

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第3回 つくったものがカッコよければ

山㟢
ほぼ日も長いですよね。
ぼくもずっと「ほぼ日手帳」使ってました。
──
えっ、マジですか。ありがとうございます。
ぼくらは27年なんで、
山㟢さんのバンドより少しだけ長いのかな。
でも、長くやってきたからこそのジレンマ、
みたいなのってないですか。
つまり、もっと若い人と出会いたい、とか。
山㟢
ぼくは内装デザインの仕事もやってるけど、
クライアントから
「老若男女、全員に来てもらえる店にしてほしい」
って言うような要望あったりするんです。
でも、そんなこと無理なんですよね。
むしろ、
「この人たちには来てもらわなくていい」
を先に決めちゃったほうが、
つくりたい店の形がクリアになるんです。
──
つまり「これは、誰に向けた表現なのか」
ってことが大事。
山㟢
50歳のおじさんが
「若い女の子に来てほしい」って言ったって、
「50のおじさんが想像する若い子に向けた店」
にしかならないんです。
つまり、ぜんぜんちがってる可能性が高い。
であれば、自分たちの得意なこととか、
よく知ってる方向で突き詰めていくほうが、
結果的に、若い人からも
「いいね」って言われる確率が上がると思う。
──
なるほど。「自分」をむりに寄せない。
山㟢
音楽だって、無理して若い人のほうを向いて、
流行ってるっぽい音楽をやったって、
当の若い人の音楽とは、別物になりますよね。
さっき話してた「カッコいい」っていうのも、
ハードロックでもシャンソンでも、
ライブで「カッコよかった」って感じるのは、
表面的な部分じゃなくて、
もっと、その人たちの「芯の部分」じゃないかなと
思っていて。
──
ああ、それはわかります。
カッコいいなって思う人は「芯の部分」が丸出し。
山㟢
だから、本気で若い人へ届かせたいなら、
若い人にチャンスとお金を渡して、
彼らにやってもらったほうがいいと思う。
──
雑誌『SWITCH』の新井敏記編集長も、
「本質的には、同世代にしか届けられない」
と以前、おっしゃっていました。
だから、
若い人の特集は若い編集者に任せてるって。
山㟢
でしょうね。それがいちばんだと思う。
──
40代のバンドがつくった歌が、
いまの10代が、その40代になったときに
刺さることだってあるでしょうし。
「音」として残してさえいれば。
山㟢
だから「発表すること」が大切だと思います。
以前、ある建築家が
「いい建築を考えて造ることと同じくらい、
発表することが重要」だと書いてたんです。
つまり、建築が完成したら、
ちゃんと写真を撮ってメディアに載せること。
──
残しておくこと。
それって、まだ見ぬ未来の建築家のためでも
ありますよね。
山㟢
いま、ぼくらが100年前の建築を見て
「カッコいい」って思えるのも、
当時の誰かがつくってくれたことに加えて、
別の誰かがその姿を残してくれたから。
自分の考えをかたちにして世に出すことは、
本当に重要だと思います。
──
そこからしかはじまらないですもんね。
本当にそうだよなあ。
山㟢さんのバンドは、
まさにメンバー全員が別の仕事をやりながら、
バンドを「続けて」きましたよね
山㟢
ぼくは「はたらきながら」だったからこそ、
ここまで長く続けてこれたと思っています。
音楽で生活をすべて賄おうとすると、
売れるとか売れないの判断が生活と直結する。
売れなくなったら大変でしょ。
明日からの生活どうすんの‥‥ってなったら
「売れるものを」になっちゃう。
──
逆に、生活の糧を他で得ているなら、
やりたいことの純度を守れるってことですね。
山㟢
もちろん専業で純度を保てる人もいますよね。
本当にすごいことだと思います。
自分にはそれができないので。
でも、結局は「でき上がったもの」に対して
「カッコいいじゃん」って納得できることが
重要だと思うんです。
であれば「兼業か、専業か」は、
それほど大きな問題でもないのかなと思うし。
──
少し前に長崎県美術館で、
ゴヤの『戦争の惨禍』という展示を見ました。
ゴヤって当時は宮廷の首席画家で、
えらい人の肖像画を描く仕事をやってた人で、
つまり地位も名誉もあった。
でも、そのかたわらで、
誰に頼まれたわけでもないのに、
フランスとスペインの戦争であらわになった
「人間の本質」を描いていたんです。
山㟢
ええ。
──
何年もかけて。しかも、
敵国フランス兵士のやったことだけじゃなく、
自国スペインの民衆が
フランスの兵士に対して行った行為も描いた。
それによって「戦争」というものの本質、
それが
人間をどんなふうに変えてしまうかを描いた。
「趣味」って言ったら変だけど、
本業とは別のところで、
何年もかけて、すごい仕事を残したんですね。
山㟢
なるほど。
──
信じた道だけに邁進しなければならない、
という神話のようなものが
昔からあったと思うのですが、
そうじゃないやり方でも、
つまり、専業だろうが兼業だろうが
結局、うまれたものがカッコよかったら。
山㟢
そうですね。どんだけ
自分たちが「やりたい」ことをやって、
かつ「カッコいいじゃん」
って思えるかが重要じゃないですかね。
──
なるほど。
ちなみに明日からtoeのみなさんは、
もうひとつの仕事を休んで海外ツアーへ。
山㟢
はい。
──
そんな慌ただしいタイミングで、
長々としゃべってしまってすみません。
どちらへ行かれるんですか?
山㟢
タイからインドネシア、マレーシア、香港、
韓国、台湾とまわってきます。
──
国によってお客さんの感じもちがうんですか。
山㟢
そうですね、南米はぜんぜんちがいましたね。
アルゼンチン、ブラジル、チリでやったとき、
全ての曲の曲との間に
「オーレー、オレオレオレ!」ってサッカーの。
──
つまり「声援」ですか、それは。
山㟢
曲間がいちばん盛り上がってるんじゃねえ?
くらいな感じで、独特でした。
──
そして、そのツアーから帰ってきてすぐの
10月25日には、
25年周年を記念した、国技館でのライブ。
国技館って、
どれくらいお客さんが入るんですか。
山㟢
8000人弱、かな。
──
ひゃ~、すごい!
山㟢
これまでは、
プロモーションにお金をかけるって考えがなくて、
たいしたことをしてこなかったんです。
音楽雑誌にお金払って記事を載せてもらう、
みたいなこととか、あんまり好きじゃないなぁと。
でも、こうやってジジイになって、
「他のバンドがふつうにやってること」を
1回やってみようかな、って。
でも、さすがに8000は、はじめての規模。
──
どれくらい‥‥埋まってるんですか。
山㟢
現状、ほぼ満席だと思います。
あとちょっとだけ、残ってると思いますが。
(編集部注:現在は「満員御礼!」となったそうです!)
──
わあ、すごい。見に行きます。
山㟢
ありがとうございます。
──
いやあ、楽しみだなあ。
山㟢さんも、楽しみです‥‥よね?
山㟢
はい。楽しみです。
ぼくは、バンドが好きなんで。

写真:太田好治 写真:太田好治

(終わります)

2025-10-25-SAT

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  • 約8000人を集める
    toe 結成25周年記念特別公演のチケットは
    すでにソールドアウト!
    でも、あきらめるのはまだ早い。
    チケット完売につき
    YouTubeでの無料生配信が決定しました。
    詳細は、toeのYouTubeチャンネルで。

    日程:2025年10月25日(土)
    会場:東京・両国国技館
    開場/開演:16:00開場/17:30開演
    チケット: SOLD OUT!!
    特設サイト: https://www.toe.st/25th/