第２回カリスマ・森本英世さん。 | TOBIさん＋ボーナムさん

おなじみレ・ロマネスクのTOBIさんと、
おもしろいツイッターで知られる
しまりすボーカル教室のボーナムさんに
語り合ってもらいました。
何でかっていうと、TOBIさんの初小説に
「敏いとうとハッピー＆ブルー」
が、印象的な感じで出てくるんですけど、
ボーナムさんは、
その「敏いとうとハッピー＆ブルー」の
メンバーだったことがあって、それで。
念のため、おふたりともに日本の方です。
担当は「ほぼ日」奥野です。どうぞ。

＞TOBIさんのプロフィール

TOBI（とびー）

広島県比婆郡（現在の庄原市）出身。フランスで結成された音楽ユニット「レ・ロマネスク」のメインボーカル。相方・MIYA（ミーヤ）と、ピンク色のコスチュームで歌い踊るキッチュな楽曲とパフォーマンスで徐々に人気を集め、2008年春夏パリコレでのライブをきっかけに、世界 12カ国50都市以上で公演。09年フランスの人気オーディション番組に出演した動画のYouTube再生回数が、フランスで１位、世界で4位を記録し、「パリで最も有名な日本人」となる。11年フジロック出演を機に日本に拠点を移す。18年、自らの稀有な体験をまとめた書籍『レ・ロマネスクTOBIのひどい目。』（ほぼ日・青幻舎）が話題に。「お伝と伝じろう」（NHK Eテレ）、「激レアさんを連れてきた。」（テレビ朝日）などメディアに出演し、最近では、ブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』（19〜20）、映画『生きちゃった』（石井裕也監督、20）への出演など俳優や、ラジオパーソナリティとしても活動の幅を広げている。20年9月から放送の「仮面ライダーセイバー」にタッセル役としてレギュラー出演中。はじめての小説作品となる『七面鳥山、父、子、山』（リトルモア）が2021年3月1日発売。
@rmnsq

＞ボーナムさんのプロフィール

ボーナム（ぼーなむ）

しまりすボーカル教室講師。
趣味はTwitter。スズメとゴリラを全身全霊で愛する。
@spdkm

──: ボーナムさんのデビュー秘話すごい。

TOBI: ある意味「ひどい目」ですよ。

ボーナム: ただ、新メンバーと呼ばれて
ステージに上がって歌ったんですが、
実際には
正式メンバーにはなれずに、
ずっと「半メンバー」だったんです。

──: そんな、半ライスみたいな？

ボーナム: はい、やっぱり、「新米」だったんで。; なので、その後も、
基本的には運転手を兼務していました。
大きなセルシオのハンドルを握らされ。

TOBI: うわー、そんな高級車イヤだなあ。

ボーナム: それまでは「軽自動車」しか
運転したことがなかったにも関わらず。

──: 「軽」から急に「高級」に！

TOBI: それは‥‥イヤだ。

──: さすが内山田洋とクール・ファイブの
内山田さんの運転手を、
１日だけ務めたご経験を持つ人だけに、
イヤの言葉に質感がありますね。

TOBI: 敏いとうさんを乗っけてたんですか。

ボーナム: 敏いとうさんと、奥さまと、
ときには娘さんもいらっしゃったり。; でも、そうやって運転手でありつつ、
衣装は常に持ち歩いていたんです。

──: ああ、なるほど。
また「急な出番」があるかもだから。

ボーナム: はい、アロハシャツなんかも一緒に。; 実際、ときたま、曲によっては
ステージにあげてくださったりして。
「足手まとい」とか
「他人」とかのときは、
けっこう、あげていただいたりとか。

──: 「他人」？

TOBI: 「他人じゃないの」ですね。

ボーナム: あ、そうです、そうです。; 内々では「他人」と呼んでいまして、
「わたし祈ってます」は
「祈ってます」でした、たとえば。

──: 「他人」「祈ってます」‥‥。

ボーナム: つまり「祈ってます」とか「星降る」とかは、
当時のメインボーカルである
二見さんが歌う大切な曲という位置づけで。; そういうときはソデでじっと見てたんですが、
「足手まとい」は、
もともとが「サザンクロス」だったので‥‥。

TOBI: 森雄二とサザンクロスね。

ボーナム: そう、そういうこともあって
「足手まとい」とか「他人」の場合には、
新人、新米、半メンバーにも、
歌わせていただけるみたいな習慣でした。

TOBI: 「よせばいいのに」とかは？

ボーナム: 「よせば」は二見さんです。

TOBI: やっぱり。ヒット曲だから。

ボーナム: あの名曲を、ヘタに歌ってしまったら、
名ボーカリストだった
森本英世さんの名を
汚すことになってしまうので、
メインボーカル二見さんが歌うんです。

──: 森本英世さん。TOBIさんの好きな。
尊敬されてるんですよね、たしか。

TOBI: もう‥‥物ごころついたときの記憶に
こびりついているのが、
森本英世さんがメインボーカルだった
敏いとうとハッピー＆ブルーです。; 森本さんは‥‥本当に、すごい方です。

ボーナム: はい、そう思います。

──: そのすごさ、ぜひ、お聞かせください。

TOBI: まず、森本英世さんは、
もともと「スクールメイツ」なんです。; ナベプロ（渡辺プロダクション）が
肝いりでやっていた音楽学校の中でも、
とくに優秀な生徒をよりすぐって
結成されたのがスクールメイツですが。

──: なるほど。

TOBI: 敏いとうとハッピー&ブルーより前は
「新田洋」の名義で、
タイガーマスクの主題歌を歌ってたり。

ボーナム: うん、うん。
（目を閉じ腕を組んで深くうなずく）

TOBI: ‥‥してたんですが、なかなか芽が出ず。; でも、敏いとうとハッピー＆ブルーの
２代目か３代目のボーカリストとして
森本さんが入ってからは、
それこそ
「わたし祈ってます」
「星降る街角」
「よせばいいのに」‥‥をはじめ、
ミリオンセラーを連発していくんですよ。

──: おお。

TOBI: ただ、「よせばいいのに」は、
もともと、どこのカバーなんでしたっけ。

ボーナム: ハニーシックスですかね。

TOBI: ああ、そうだ。; 三浦弘とハニーシックス‥‥っていう
たしか５人きょうだいでやってた、
５人きょうだいなのに、
なぜかハニー「シックス」なんですが。
長兄の三浦弘さんのご長男が
のちに入って６人になったからかなあ。

ボーナム: ガンズ・アンド・ローゼズだけど、
アクセル・ローズはただ１人みたいな。

──: 複数形なのに、ローズさんは１人だけ。

TOBI: そう‥‥きょうだい５人のグループで、
京子さんという
女の人もひとりいらっしゃるんですが、
ともあれ、その人たちの持ち歌だった
「よせばいいのに」という曲を、
敏いとうとハッピー&ブルーが
７９年にカバーで出して大ヒットして。

ボーナム: うん、うん。
（目を閉じ、メロディをなぞるように）

TOBI: ８０年代の「幕開け」って、
一般的には「TOKIO」じゃないですか。; 沢田研二さんの。

──: ですね、８０年の１月１日リリースの。
作詞したのは弊社の社長です。

TOBI: ぼくの中の「８０年代の幕開け」って、
森本英世さんが歌った、
敏いとうとハッピー&ブルーの
「よせばいいのに」以外にないんです。; ７９年６月にリリースされたものが、
１２月くらいから
ベストテン入りするようになって、
８０年を迎えるとき、
もっとも売れていたので。

ボーナム: いつまでたっても駄目なわたしね～♪; 駄目な、駄目な、本当に駄目な、
いつまでたっても駄目なわたしね～♪

──: 無闇にうまい‥‥。

TOBI: そう、やさしく包み込むような声で。
聴いていると、森本さんに
抱かれているような気持ちになる。

ボーナム: 自分は８０年生まれなんで、
まさに、その状況で生まれたんです。

TOBI: ああ、そうなんですか。
「駄目な～駄目な～」の真っ只中に。

ボーナム: 産み落とされた。

──: 申し子じゃないですか。

ボーナム: ありがとうございます。

──: 生まれたときから
敏いとうとハッピー&ブルーに入ることが、
運命づけられていたんですね。

ボーナム: そうかもしれないです。
森本さんの歌声は半端ない情緒なんですよ。

──: 「半端ない情緒」。

TOBI: ムードコーラスのグループというのは、
主に「女心」を歌うんですけど、
前川清さんのように
強めに出していくタイプの人もいれば、
森本さんみたいに
ちょっとナヨっとした感じっていうか、
しなやかなに歌うタイプの人もいたり。

ボーナム: ですね。

TOBI: 菅野ゆたかさんがメインボーカル時代の
森雄二とサザンクロスにしても、
さっきの「足手まとい」とか、
あるいは「好きですサッポロ」なんかは、
いい感じでナヨっとしてますし。

ボーナム: それに対して「強めに出してくる」のは、
先ほどの前川清さんだったり、
あるいは、
秋庭豊とアローナイツの木下あきらさん。

──: 秋庭豊とアローナイツ。

TOBI: 全員が炭鉱夫のご出身のグループですね。

──: そうなんですか。全員？

TOBI: だから「強め」なんですかね。

──: 厳しい現場のご出身だから。

ボーナム: 地に足がしっかりついてる感じの歌声です。

──: 地下足袋越しに地面を掴んでる、みたいな。

ボーナム: そうそう、そんな感じですね。; 中でも「献身」という歌が有名ですけれど、
「尽して、尽して、みたいから～♪」
というね、
この部分を木下あきらさんが歌うのと、
森本英世さんが歌うのとでは、
もう、ぜんぜん世界観がちがってきますね。

TOBI: うん。どっちもいいんですけどね。

──: ひとくちにムードコーラスと言っても、
流派があるんですね。勉強になります。

ボーナム: 家系のラーメンを食べたい夜もあれば、
中華そばを食べたい夜もある‥‥。

TOBI: でも、どっちにしろ、
ラーメンは大好きですっていう状況ですね。; 今日は、どの人の声で楽しもうかなあって、
今の気分に寄り添うボーカリストが、
必ずいるんですよ。ムードコーラスの中に。

ボーナム: 森本さんはね、歌うときに、
なんだか口をあんまり開けないんですよね。

TOBI: ああ、そうそう。

ボーナム: どうにもならない愛だとわかっていても～♪
（口をすぼめがちにして歌う）

TOBI: そうそう、そう（笑）。
ていうか、なぜだか「半笑い」なんですよ。

ボーナム: そうなんです！; 今のお声は、かなり熟成されていますけど、
若いころは、もっと線が細くて、
まるで柳の葉がユラユラしてるかのような、
なんとも言えない魅力があります。

TOBI: どうにもならない愛だとわかっていても～♪

ボーナム: 左手でマイクをお持ちになってるんですが、
右手の指先を、ちいさくこうやって。

TOBI: そう、そう（笑）。

──: そこから「煙」が出そうです。

ボーナム: 女に生まれて～、来たけれど～♪; いつ聞いても、やっぱり、すごすぎますね。
森本さんは、ムード歌謡の中では、
ぼくは「白いごはん」だと思ってますので。

──: つまり、主食。

TOBI: そう、いろいろと浮気とか寄り道をしても、
最後は森本英世に戻ってくるんです。; ムードコーラス界の中の、カリスマですよ。

ボーナム: その認識は、みなさん一致していますよね。

TOBI: ムードコーラスというのは、
ある意味、森本英世さんが拓いて行きた道。; 森本さんが歩んできた背中のうしろに、
ムードコーラスの道が、できてきたんです。

（つづきます）

2021-03-02-TUE

フランスで最も有名な日本人のひとりであり、
人に勇気を与える「ひどい目の人」であり、
最近では仮面ライダーのナゾの語り部である
レ・ロマネスクのTOBIさんが、
こんどは「小説家」になってしまいました！
気になる内容は‥‥版元さんによると、
４歳・９歳・１９歳・３８歳の４章で綴る
ぼくと父の３９年‥‥とのこと。
ピンクではなく緑の表紙で、意外ですよね。

ピンクと緑は「補色」の関係にあたります。
いままで
あまり語ってこなかった僕の緑色の部分を、
このたび小説にしました。（TOBIさん）

レ・ロマネスクのTOBIさんが描き出す、
ピンクな自分の、緑の部分。
ジ・アザー・サイド・オブ・トビー。
どうぞ、裸の心で飛び込んでみてください！
Amazonでのおもとめは、こちらから。