「テルミン」という楽器をご存知ですか?
1920年にロシアで発明された、
「世界最古の電子楽器」です。
なんと、楽器にいっさいふれずに演奏します。
世界中に愛好家がいます。
歌をうたうことに似ている、瞑想できる、
ストレス発散できる、でも演奏者は棒立ち、
奥が深すぎる、理解されづらすぎる、でも、
「テルミンなしの生活は考えられない」
という人もいるほど、ハマる楽器でもあります。
テルミンの「いい演奏」って、
いったいどういうものなのでしょう?
すばらしい3人の演奏家を招き、テルミンの入口から
できるかぎりの出口まで、ご紹介したいと思います。
テルミンを練習しはじめてかれこれ9年の、
ほぼ日の菅野が担当します。

>街角マチコさんのプロフィール

街角マチコ(まちかど まちこ)

テルミン奏者。
2005年よりテルミン教室「テルミン大学」を開校し、これまで教室やワークショップで教えた生徒は1000人以上にのぼる。テルミン奏者としてNHKのサカナクション山口一郎氏の音楽実験番組への出演や、落合陽一氏の日本フィルプロジェクトVOL.6 「遍在する音楽会」に参加。シンガーソングライターの小山田壮平、吉澤嘉代子、声優の上坂すみれなど幅広いアーティストの作品にテルミンで参加している。
国際的怪電波ユニット「ザ・ぷー」や、バンド「新種のImmigrationsB」のメンバーとしても活動中。テルミンを軸にした音楽フェス「全日本テルミンフェス」を開催。

>クリテツさんのプロフィール

クリテツ(くりてつ)

テルミン奏者、パーカッショニスト、鍵盤ハーモニカ奏者。
2008年より、ダブバンド「あらかじめ決められた恋人たちへ」に加入、「FUJI ROCK FESTIVAL」などの大型フェスにも出演している。東京都のストリートパフォーマー制度である「ヘブンアーティスト」として、テルミンのストリートライブを定期的に行う。ソロ活動では2013年にアルバム『Floating』をリリース。ワークショップやテルミンレッスンなども開催。

>濱田佳奈子さんのプロフィール

濱田佳奈子(はまだ かなこ)

テルミン奏者。
声楽を前野邦子氏に師事。俳優として、円演劇研究所を経て「ぼっくすおふぃす」、「元祖演劇の素いき座」『阿房列車』などの舞台公演に出演。
テルミン奏者として、D.ショスタコーヴィチ専門「オーケストラ・ダスビダーニャ」と共演、2010年には映画「のだめカンタービレ最終楽章・後編」でテルミン演奏のスタントを務める。2018年、テルミンアンサンブル集団である「東京テルミンオーケストラ」を発足、音楽監督に就任。ソロのほか、アコーディオンとのデュオ「アンテナ」など、演奏活動を精力的に行う。指導者としては現在、池袋コミュニティ・カレッジ、ヤマノミュージックサロン吉祥寺にてテルミン、マトリョミンの講師を務める。

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第2回 音の彫刻師 街角マチコさん

 
今回からひとりずつゲストをお迎えして、
テルミンのいったいなにが「いい」のか、
なぜそんなに人を魅了するのか、
お伝えしていこうと思います。
このたびインタビューする街角マチコさん、
クリテツさん、濱田佳奈子さんは、
それぞれ日本を代表するテルミニストです。
最初のゲストは2026年3月28日に開催される
「全日本テルミンフェス」の主催者である
街角マチコさんです。
──
街角マチコさん、こんにちは。
ほぼ日には「宇宙鳥シジュ」という
見習い勤務のゆるいキャラクターがいて、
たまにイベントでテルミンを演奏します。
今回のテルミンフェスにも出演するのですが、
シジュが長年「師匠」として尊敬しているのが
街角マチコ先生、と聞きました。
街角
私はテルミン大学という音楽教室を
2005年から開いています。
そこにシジュちゃんが
通ってくれているということもあり、
ときどき共演したりしています。

▲怪鳥シジュとの共演。 ▲怪鳥シジュとの共演。

──
街角さんはもう20年以上、
テルミンを教室で教えておられるのですね。
ミュージシャンとしての活動はいつから?
街角
演奏活動をはじめたのも2005年で、
テルミン教室を開くほうが先でした。
音楽活動をする友人がゲストで呼んでくれたり、
クリテツさんも入っていた
「フレンズ・オブ・テルミン」という
コミュニティからご縁が広がって、
当時高円寺にあった「円盤」という
お店のイベントによく出ていました。
「円盤ジャンボリー」というフェスで、
その後長く一緒に演奏活動をしていくことになる、
下田敦さんに出会います。
今回の菅野さんがレッスンで使用する音源も
下田さんと作ったものです。
その後「テルミン&東京アコースティック
インストゥルメンツ」という、
テルミン、ギター、アコーディオン、
パーカッションのバンドもやったりしていました。
──
現在活動中のユニット「ザ・ぷー」や
「MACHIKADO」のメンバーである
街角マチオさんは、
最初のバンドにいらっしゃったのでしょうか。
街角
いえ、その当時、
私のライブをマチオが見にきたことがきっかけでした。
マチオは当時、シャンソン歌手である
戸川昌子さんの「青い部屋」のスタッフだったんです。
「青い部屋」で自分のイベントもやっていたので
「こんどいっしょにやりましょう」
ということになり、それが現在の
「ザ・ぷー」につながります。
──
「ザ・ぷー」は、音楽的には
どんなジャンルでしょうか。
街角
EDMみたいな曲もあれば
ボサノバっぽいものもあって‥‥
菅野さんは「ザ・ぷー」のライブ、
ごらんになったこと、ありますよね?
──
何度かあります。
街角
ではご存知だと思いますが、
けっこう「しゃべり」が長いです。
──
そうですね、ものすごくMCタイムが長いです。
演劇作品を見ているかのような見ごたえも‥‥。
街角
それはですね、マチオ曰く、
「これはシャンソンなんだ」ってことなんです。
──
えええええ?
街角
戸川昌子さんも10分とか、
いろいろと前段となるお話をしてから、
曲に入られていたそうです。
話と曲が、前フリとオチ、みたいな(笑)。
ですから、マチオは
「これはぼくにとってのシャンソンなんだ」
とゆずらないんです(笑)。
──
いやぁ、シャンソンとは、
気づいていませんでした。
しかし「ザ・ぷー」のライブは
唯一無二の味わいがあるとは思ってました。
曲を聴いたことがない方にも行ってみてほしいです。
街角
「ザ・ぷー」は音源もありますけど、
ライブに行くと、倍ぐらい違う時間があるので。

──
たしかに物理的に倍、違う要素が(笑)。
マチコさんは最近、
「新種のImmigrationsB」の活動も
なさっていますね。
街角
はい、ポエトリーリーディングバンドです。
──
ポエトリーリーディングって、
あまりふれたことがないんですが、
どういうたのしみかたをすればいいのでしょうか。
「チル」な感じ?
街角
チルな感じのポエトリーリーディングは
たくさんありますし、
私はそういうのも好きなんですけれども、
「新種のImmigrationsB」は、
わりとノイズ要素を含んでいるというか。
ギターがジャジャーーーン、
変拍子ドラムがバカスカ鳴って、
音と詩とぶつかり合い、
そこにテルミンが入っていく、というような。
──
わりとアグレッシブな感じなんですね。
街角さんがテルミンの演奏で、いつも
工夫したりめざしていることはなんでしょう。
街角
「その場その場がどうしたらたのしくなるか」
ということをベースに考えます。
テルミンが入ることで、歌や詩がどう映えるか、
ステージの時間帯や場所もあわせて考え、調整します。
すると結果的に、自分の演奏の幅も
ひろがっていく気がします。
──
街角さんは、なぜテルミンを
はじめられたのでしょうか。
街角
2001年に「テルミン」という映画が
封切られたこと、憶えておられますでしょうか。
テルミンを発明した
レフ・セルゲイビッチ・テルミン博士の
半生を描いたドキュメンタリータッチの作品です。
そのときに小さなテルミンブームが起こって、
いろんなメディアでテルミンが取りあげられました。
ちょうどその時期、日本におけるテルミンの第一人者、
竹内正実さんがCDを出されて、
私はコンサートに足を運びました。
そこで生まれてはじめて演奏を生で見て、
雷に打たれました。
──
竹内正実さんの演奏で。
街角
衝撃で動けなくなるほどでした。
「私はぜったいに、これを弾けるようになりたい!」

──
うわぁ。
街角
そこから途切れずにもう、
ずっとテルミンに夢中です。
──
2001年、映画によるテルミンブームが
あったということなんですが、
最近またテルミンがメディアによく出てますね。
街角
そうなんです、またブームの波が来ていると思います。
──
街角さんが衝撃を受けたという、
テルミンの魅力はどういうところにあるのでしょうか。
街角
「テルミン」の映画のビジュアルも
ちょっとそんな雰囲気だったのですが‥‥
電子楽器であるはずなのになぜだろう、
あのレトロフューチャー感。
未来的でアナログ。
そして聞こえる音が、いい。
──
未来でレトロ。いわば、前衛と哀愁。
街角
何年経ってもその両方を兼ね備えているところが
人を惹きつけてやまないんじゃないかと思います。
さらに音は、電子楽器であるにもかかわらず、
弦楽器的な響きがあります。
開発したテルミン博士もチェロの奏者でした。
──
たしかに低音部はチェロに似てますね。
街角
電子楽器なので
「これがテルミンの生音だ」
というものが、じつはありません。
しかし演奏方法がとてもアナログなので、
弦楽器や人の声のようなゆらぎがあって、
あたたかい響きが出ます。
しかも、演奏している手の動きが美しいでしょう。
──
思います、思います。
街角
その手の動きと音がシンクロしている。
完全に音がとれている電子楽器とは違う、
あの響きが美しい動作から作り出されている。
そこにロマンを感じます。
──
ここで、街角マチコさんによる演奏、
「スターダスト」をみなさまごらんください。
──
世界中にテルミン演奏家がいますが、
街角さんが気になる人は?
街角
ぱっと思いつくのは、
映画「きみの色」でテルミン演奏を担当した
グレゴワール・ブランさんです。
すごく美しい響きを出す方で、
何度でも演奏を聴きたくなります。
あとはリディア・カヴィナさん、
カロリーナ・アイクさん、
ドリット・クライスラーさんも、
それぞれにすばらしいアプローチで演奏され、
普及にも努めていらっしゃいます。
あとは、日本のToshihiro Yoshiokaさん。
自分とは全く違ったアプローチですが、
音楽って本質的にこういうものだな、と思います。
また見たい、聴きたいと思える、
すばらしいパフォーマンスです。
──
日本はテルミンプレイヤーが多いですね。
街角
はい、国土に対しての密度がすごいです。
あ、そういえばサカナクションの新しい楽曲
「いらない」にもテルミンが入ってましたよ。
──
うわぁ、そうなんですか、聴いてみます。
私はいつも家でテルミンを
ダラダラと練習しているのですが、
演奏するコツを教えてください。
街角
音程ばかりにとらわれすぎないことかなぁ、
と思います。
テルミンは音程を取ることがすごく難しいので、
そこばかり気にして練習しがちです。
もちろん、ある程度、
音がとれることは基本中の基本です。
でも、音程が取れたところでどうなんだろう?
音を正確に取るなら
シンセサイザーでもいいと思います。
──
シンセなら鍵盤を押せば正しい音が鳴りますね。
街角
テルミンの命はやっぱり、ニュアンスだと思います。
音程がどんなに正しくても、
のっぺりした演奏だと魅力がありません。
たとえばこれをおしゃべりに
置き換えて考えてみましょう。
話すときの息づかい、声の雰囲気、
そこに人の個性や魅力が出ますよね。
それがないとAIの読み上げみたいな
音になると思います。
「アー キョウハ スガノサン ノ 
インタビューデス」
という話し方だと、味気ない。
それよりももうちょっと、
市原悦子さんみたいな感じで、
ニュアンスが欲しいのです。
それはもう音程以外の強弱とか、
タイミングであるとか、そういうところで。
──
でも、私のようなテルミン初心者は、
音を外すと「あらららら」と
そっちが気になってしまいます。
街角
みなさんそうです。
でも音程は、反復して練習すれば
取れるようになります。
ですから最初から、同時並行的に
テルミンでニュアンスを出すことを
気にするほうがいいと思います。
──
考えてみれば、歌も同じですね。
打ち込みの声もいいけど、
もっと前川清さんのような哀愁とか迫力とか。
街角
そのとおりです。
私のイメージとしては、一本の丸太です。
──
丸太ですか。
街角
彫刻は、丸太のような木材を削ることによって、
凹凸を出していくでしょう。
たとえば先を繊細にしあげる場合、
シュッと消えるような線を
木で描いたりするわけです。
そんなふうに、音を削り出して
立体物を作っていくような感覚で演奏しています。
──
音を削り出すとは、
具体的にどういうことでしょうか。
街角
基本的にテルミンは電子楽器なので、
ブザーのような均一な音が
永遠に鳴りつづける性質を持っています。
ピアノであればポーンと鳴らせば
弦の震えはいつか消えますし、
吹奏楽器も息が尽きたら消えます。
でもテルミンはいつまでも、
こちらが止めない限り鳴る。
そこに息吹を吹き込むという、
いわばふつうの楽器とは「逆」の演奏です。
吹奏楽も歌も、「スッ」と息を吸って準備する、
半拍前からが演奏だと思うんです。
その「生きてる感じ」を乗せたい。

──
テルミンは、街角さんにとってどんな存在ですか?
思えば、すごく大きな出会いでしたよね。
街角
もうほんとうに膨大な時間をこれに投じていて(笑)、
人生そのものです。
いわば自分の体の半分がテルミン、
みたいになっています。
テルミンは「不思議」と言われることが多いです。
でも、不思議ってなんでしょう。
手を近づけたら音が高くなる、
遠ざかると低くなる、
考えてみればすごく明白なしくみですよね。
スマホで写真が一瞬で共有できる、なんていうほうが、
よっぽど不思議だと思うんです。
──
音の感じが不思議感を
増しているのかもしれませんね。
街角
「ああ、テルミンね」で終わらない魅力を
もっとたくさん伝えることで、
テルミン文化が豊かになっていくといいなと
思っています。
──
全日本テルミンフェスが
3月28日に行われます。
テルミンを浴びるまたとないチャンスですね。
いったいどんなことが起こるのでしょうか。
街角
いろんなスタイルの
テルミンの演奏を聴けることはもちろん、
「出張テルミンミュージアム」など、
さまざまな角度から
テルミンを知っていただくことができます。
──
当日は、代官山で2会場?
街角
3会場です。ひとつのチケットで
行き来できますので、
テルミンをたっぷり味わってください。

──
私は幼いころから三味線をやっていたので、
「フレットレス感」がテルミンと似ていて、
すごく習得したくなりました。
それでは最後に、テルミン初心者の私が
各先生方に教えていただく
ミニレッスン動画をごらんください。
レッスンでは、それぞれのみなさんが
「演奏で何を重視しているのか」が
わかりやすいと思います。
街角マチコさんにお教えいただく曲は
「小さな木の実」です。
さて、一本の丸太を削り取って、
小さな木の実を収穫できるでしょうか。

(次回は月曜日。クリテツさんの登場です!)

2026-03-19-THU

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  • 全日本テルミンフェス、開催!


    <出演者>
    落合陽一(映像出演)/小山田壮平/フレネシ/吉田悠軌/
    KokeShina(こけしな)/レ・ロマネスク/Toshihiro Yoshioka/
    MURABANKU。/re-in.Carnation/東京テルミンオーケストラ/
    クリテツ(あらかじめ決められた恋人たちへ)/大西ようこ/
    居留守かりん/空中カメラ/新種のImmigrationsB/
    フェザード・シジュ/Gregoire Blanc(リモート出演)/
    街角マチコ/MACHIKADO

    https://theremin-fes.com/

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