（4）TCCの新人賞で好きなコピーがあれば教えてください。 | 若いコピーライターが、糸井重里になんでも質問する90分。

糸井重里が1975年からいまも所属している
コピーライターやCMプランナーの団体、
「東京コピーライターズクラブ（TCC）」。
その60周年を記念したトークイベントの
ゲストとして招待いただきました。
TCC会長の谷山雅計さんが進行役で、
2022年に新人賞を受賞した
若手コピーライターのみなさんから
糸井重里に聞いてみたいことをぶつけ、
なんでも答えるという90分間でした。
広告の世界からは離れている糸井ですが、
根本には、広告で培った考え方をもとに
アイデアを考え続けています。
若いつくり手のみなさんに届けたい、
エールのような読みものです。

谷山: 次の質問は、会場にはいないのですが、
Tinderの広告で新人賞を受賞した、
石山寛樹さんというかたの質問ですね。
「今年の新人賞のコピーの中で
糸井さんの好きなコピーがあれば教えてください。
ただし、無理にどれかを選ぶ必要はなく、
ないならないで、それも回答かと思います」。
ということで、糸井さんには
新人賞のコピーを事前にご覧いただきました。
ただ、先ほど控室でもおっしゃっていましたが。

糸井: 申し訳ないんですが、なかったんです。
テレビで見ていなかったのもちょうどよくて、
わりとクールな目でひとつずつ見られました。
で、さっきもちょっと言ったように、
「新人賞だから今までになかった大胆さがある」
みたいな考えは、今はもう無理だなと思ったんです。
新人ほど上役がチェックしているんで、
そのチェックを通るような
作り方をやんなきゃならないからね。
新人が大胆なアイデアを出す、
その理由もきっかけも
なくなっているんじゃないかな。

谷山: これがなかなか、ものすごい正解で、
新人のみんながうなずいています。
さきほどおっしゃっていた、
「今の広告の世界は説明上手ばかりだ」
という話につながりますよね。

糸井: 頭のいい子たちが広告業界に入ってくるから、
調整はできるんだと思うんですよ。
でもさ、その調整ができちゃうと
「これじゃ物足りない」っていう残念さより、
「企画が通った！」とか「うまくいった！」という
気持ちのほうでおいしいものを食べられるんで、
調整が重視されがちなんですよね。; 新人賞を受賞した仕事を見ていっても、
「何かの様式を借りて広告をしている」
という形が揃っていたように感じました。
つまり、何かのパロディーですよね。
もともと広告のアイデアには、
そんなにオリジナリティがあるわけじゃないですが、
もうちょっと爆薬の量の多いものを見たいよね。
反社会的なことをやれとは思わないけどさ、
たとえばお笑いのコントには、
家族そろって見られるものもあれば、
なんだか危なっかしいものもありますよね。
お笑いの人たちのコントとか漫才の中には
「うわーっ！」とか「負けた！」と
思うようなものが入っていると思うんです。

谷山: 賞レースのレベルも高くなってますよね。

糸井: もう、ものすごいですよね。
でも賞レースに出ている彼らは、
逆に言うと、調整も少しできているんですよ。
どのネタで賞を獲るか決めて出ているわけだから。
ああいう子たちがお笑いじゃなくて、
広告業界に入るようになるくらいじゃないと。; ぼくがテレビCMとかに関わっていたときには、
ちょっとした大きなプロダクションでは、
コピーライターのほかにも
放送作家の人にも企画に入ってもらって、
CMのコンテとかを頼んでましたよ。
「こんなこと考えたんだけど、どうです？」
「相変わらず変なこと考えるなぁ。でも、いいね」
みたいなことをやっていたんです。
今はその変なことをやろうにも、
「変なこと＋ちゃんとしたこと」みたいになって、
理屈の枠組みの上に、
お面だけ変なものをつけているんじゃないかな。; 変なお面だけを作りたい人は、
「今の広告はつまんないよね」と言っていて、
枠組みだけを作っている人は、
「そんなお面だけ作ってもしょうがない」と言う。
そういうセコい論争がある気がするんだけど、
それはどっちも違うと思うんだ。
そこに、問いと答えがあるかどうか。
なんていうんだろうな、
全員のご機嫌を窺わなきゃならない時代だから、
広告の打ち出し方も難しくなってるよね。

都竹: そこがめちゃめちゃ悩ましくて、
TCCの新人賞ってすごくレベルが高いんです。
コピーライティングのちゃんとした技術もほしいですが、
新人らしく個人の持っている良さが
もっとダーンッと出るべきだと思うんです。
でも、コピーライティングの技術を磨いたほうが、
言い方は悪いですけど、
賞の計算ができるみたいなところもあって。
今年は新人賞が獲れたので、
来年からはもう少し冒険の幅を増やしたいなと。

糸井: いちばんいいのはさ、
クライアントなり代理店なりの仲間たちと、
「うおーっ！」っていう共感が得られるコピーが
作れるかどうかなんですよね。
「お前、どうしてそんないいこと言うの？」
みたいなことをお互いが言いあえてさ、
そこに営業も乗っかって通したいとなって、
クライアントからも「おれはダメでもいいと思う」
ぐらいのことを言われたいよね。; 最初のクライアントは、じぶんの周りにいる
もうひとりの他人だと思うんです。
「これやりたいねえっ！」って
言われるかどうかが必要だと思うなあ。
ほら、谷山くんのいた博報堂でも、
「としまえん」なんかのチームはそうだったでしょ？

谷山: はい、その時代に自分がいた
グループを少し思い出していました。

糸井: あの頃は応援しあえたじゃん。
「プール冷えてます」とかさ。

谷山: 「おおっ、今回のはすごいっすね！」
「これが世の中に出たらどうなるのかねぇ！」
みたいなことを毎日チームで言っていました。

糸井: そうなんだよ。
だからいまは、辛抱だよね。

谷山: TCCの新人賞ってここ数年の
平均レベルがとても高くなっていまして、
新人賞に届かなかった仕事の中にも、
「えっ、なんでこれが落ちちゃったんだ？」と
後で審査員が言いあうようなことがあるんです。
ただ、その一方で、われわれ審査員にとっては
レベルが高いと思いつつも、
糸井さんの目でご覧になったときに、
調整上手を競っているように感じられるのは、
なるほどなあと思ってしまいました。

糸井: でも、おれは谷山くんみたいな
会長の役をやるのは
あんまり得じゃないんで嫌なんだけどね。

谷山: でも昔は糸井さんもTCCの審査委員長になって、
「バザールでござーる」に
審査委員長賞をあげていましたよね。

糸井: ああ、そういう役はやってたのか。
「みんなはこれを落としちゃうんだ」っていうのを
拾うのがぼく、ものすごく好きなの。
そうやって拾ったものはやっぱりすごいんだ。
朝日広告賞でまだクリエイティブに入る前の
佐藤雅彦くんがグランプリを獲って、
カルピスの「ペチカ」っていう広告なんだけど、
審査の途中まで、みんなは落としてたの。

谷山: あれが落ちそうだったんですね。
その後の佐藤雅彦さんを考えると、
ちょっと信じられないですけど。

糸井: 「関西電気保安協会」のCMとかも
審査会じゃ見逃されるし、落とすんだ。
「ひとまわり回って、いいよね」
みたいなところにある広告は見逃されがちなの。
あのさ、茶道をやっている人たちの考え方で、
お客を迎えるときには、
いろんなことをして全体を表現して
自分だけの世界に招待しますよね。
ヘタすると「やりやがったな」と思われて、
粋じゃないとかダサいって思われるんだけど、
ちょうどよくやるとカッコいいんです。; 大権力者が金の茶室だって作れる時代に、
茶室の金をもっと厚塗りにしても、
なんの価値も持たないわけです。
銀だプラチナだと言ってもしょうがなくて、
あえて欠けた茶碗みたいなもので出すと、
「それがいいのか！」と価値観がまた広がります。
金の豪華さに対して、割れた茶碗を継いだほうが
侘び寂びがあっていい、というね。
そういうことは、日本の文化に何度もあった
問いかけのひとつだと思います。; そういう問いかけって、
価値観が決まっちゃっている世界ほど
求められていると思うんですよね。
いまの広告の世界だってさ、
マーケティングやら、効果測定やら、テストやら、
クライアントへのプレゼンやらで、
みんながほとんど同じ条件で見てますよね。
でも、そんな世界を追い抜いて、
「小っちゃい仔馬が優勝しちゃいました」
みたいなレースがあり得ると思うんです。
競馬をやってるのにカブトムシ見つけた（笑）、
みたいなことがあったっていいよね。
だからさ、めげるなよ。

谷山: 石山さんからの問いには、
好きなコピーはなかったけれど
「めげるな」と。

糸井: うん。めげるな。

谷山: 新人のみなさん、そういうことでした。
では次に行きましょう。

（つづきます）

2023-02-06-MON