不思議な魅力の物体でギュウギュウで、
同じくらい魅力的な店主がいて、
ダンジョンみたいにワクワクするお店。
おもしろいもの好きな人たちの間では、
すでにすっかり有名な、
大阪のEssential Storeを訪問しました。
英語がしゃべれないのに、
たったひとりでアメリカへ乗り込んで、
個人のお家で買い付けをしてきたり、
国内外の倉庫に眠る古い生地を集めて、
アパレルブランドに紹介したり。
人生を自由自在に躍動している
店主の田上拓哉さんに話を聞きました。
担当は、ほぼ日の奥野です。
- ──
- 何はともあれ、
久しぶりの買いつけ、楽しみですね。 - ハードおかきになるべく頼らず、
よく寝て安全に
がんばってきてください(笑)。
- 田上
- めっちゃワクワクしてます。
- ──
- でも、言ってみれば
行き当たりばったり‥‥というのか、
偶然の出会いに
導かれていくような一人旅ですよね。 - 危ない目にあったりしないんですか。
- 田上
- あれは7、8年くらい前かなあ、
ターバン巻いて、
黄色いトラックを運転してたんです。
ちょっと治安のよくない界隈を。 - そしたらうしろからパトカーが来て、
停まれって言われたんですけど、
めっちゃ細い道やったんで、
停まろうにも停まれなかったんです。
- ──
- ええ。
- 田上
- そうこうしているうちに、
応援のパトカーが次々集まってきて
強制に停車させられた。
ごめーんみたいに降りていったら、
ポリス全員から、
チャッと一斉に銃を向けられました。
- ──
- 映画の主役みたいじゃないですか。
- 田上
- 停められたら車の中で待機なんです。
その常識を知らなかった。 - で「おまえ、何だか怪しいな」
「うしろ何入っとんねん?」「開けろ」
みたいに言われて、
仕方なくガシャーンと開けたら、
ガラクタがグワーッ積んであるでしょ。
英語しゃべれないし、
入ってるものはガラクタだらけ‥‥で、
ポリス全員に失笑されて(笑)。
- ──
- 助かったんですか。
- 田上
- 助かりました(笑)。
- 他にも銃を突きつけられたこともあるし、
おたがいトラック同士の
正面衝突の交通事故にも遭いました。
あのときは、これ、さすがに死んだなと。
走馬灯、ぐるんぐるん回ってたし。
- ──
- えええ。本当に見えるんだ。それ。
- 田上
- 見えたんですよ。
- でも不思議なことに、お互い無傷(笑)。
両方とも前がぐっちゃぐちゃなんだけど。
- ──
- 不死身ですね(笑)。
- 田上
- だから、
走馬灯からこっち側へ戻ってきたときに、
ああ、生きてるうちに
楽しまへんかったらあかんなあって思ったんです。 - そのときから、
人生おもいっきり楽しむことにした。
- ──
- 自分は、探検家や冒険家に憧れがあって、
いろいろインタビューしてるんです。 - で、さっきも言ったけど、田上さんって
その人たちと同じ匂いがします(笑)。
- 田上
- あ、ほんとですか。
- ぼく、最近のテーマがあるんですけどね、
それが「実験」と「突然変異」。
2年前に親父が死んだとき、
仏壇から田上家代々の名前を書いた紙が
出てきたんですよ。
親父、おじいちゃん、ひいじいちゃん、
ひいひいじいちゃん‥‥
先祖代々の名前をずらーっと見ていたら、
田上家の人間として「突然変異」したい、
と思ったんです(笑)。
- ──
- 突然変異‥‥しそう(笑)。
- 田上
- 日々、実験をしながら生きてるんです(笑)。
- だから「冒険家」って言われたら、
何だか腑に落ちる部分があります。
- ──
- たしかに田上さんのやってることって、
実験と呼んだら、しっくりきます。 - 冒険家や探検家のみなさんも、
人と同じことをやってたら冒険家じゃない、
誰も見たことないものを
持ち帰ってくるから探検家なんだ‥‥って、
そんなふうに行動してるんです。
- 田上
- 同じです。
- ──
- だから、みんな、いつでも手探りなんです。
- ルートのないところへわけ入っていく。
自分で道を切り拓いていかなきゃなんない。
たどりつけるかどうかも、わからないのに。
そういう意味で、
生命をかけた実験をしているとも言えます。
- 田上
- そこ、意識して生きてます。
- ──
- 田上さんにも、そんな雰囲気ありますよね。
Essential Store自体が冒険みたいだし。 - 生物の突然変異でいうと、
カバとクジラって祖先が共通なんですよね。
だから両方とも「鯨偶蹄目」で、
そのうち陸に残ったものがカバとなり、
海に入っていったものが、クジラとなった。
- 田上
- えー、おもしろい。
- ──
- つまり、それまで陸上で生活していたのに、
魚と同じように、
海で生きていける能力を獲得しちゃうほど、
ガラッと生き様を変えてしまう個体が
現れちゃう。それが「突然変異」なら、
可能性あるんじゃないですか、人の場合も。
とくに田上さんとか、突然変異しそうだし。
- 田上
- 絶対可能ですね!(笑)
- ──
- 楽しみにしてます(笑)。
- 田上
- でも、
突然変異したいと思いながら生きてるのと、
何も考えずに生きてるのでは、
たぶん、行き着く先がぜんぜん違うと思う。
- ──
- そうですよね。そう思います。
- ちなみにさっきから疑問だったんですけど、
yuge fabric farmの「yuge」って、
どういう意味なんですか。
妙に、意識にひっかかる響きなんですけど。
- 田上
- 湯気、です。湯気が立つの湯気。
- 湯気の立ってるものはすぐ売れるみたいな、
ことわざのような言い方があるんです。
- ──
- おもしろーい。湯気の「yuge」だった。
- 田上
- 実際、朝から骨董市へ買い付けに行って、
買ってきたものをきれいに掃除して、
磨いて、値段をつけて、
午後2時オープンの店に並べておくと、
これだけ商品があるなかで、
不思議なことに、
それから売れていったりするんですよね。
- ──
- つまり「湯気が立ってる」から。
- 田上
- そう。そういう「鮮度」みたいなものが、
伝わるみたいです。
本能的に惹かれて選んじゃうんですよね。 - その言葉を17のときに知って以来、
「湯気が立ってるか、どうか」は、
ぼくの重要な判断基準のひとつになっています。
- ──
- それって、ものから発している
雰囲気みたいなもの‥‥なんでしょうか。
- 田上
- 言葉で表現するのは難しいですが、
オーラとか電波、磁力とか、
そういうものだと思います。 - yuge fabric farmで当てはめていえば、
振動レベルの高い生地って感じですかね(笑)。
- ──
- ふるえてるんだ。いい生地って。
- 田上
- yuge fabric farmって
コロナ禍がはじまってすぐのころに
立ち上げたんですけど
あかんかったら農家やろうと思って、
和歌山の山奥の自宅で
畑をはじめる準備をしてたんですね。 - それで「ファーム」をくっつけたんです。
「yuge fabric farm」って
何かちょっとヘンな組み合わせだな、
でも「ファブリックの農場」って、
その違和感も、けっこう好きだなあって。
- ──
- 湯気が立つものを、いつも探してる。
- 田上
- そうですね。
生地だけじゃなく、ものでも、人でも。 - ちなみに、Essential Storeのほうは、
いろんな空き物件で
期間限定サーカス方式の店をやるとき、
名前を決めなあかんってことで、
覚えてもらいやすい、
リズム感のある名前にしたいなあって。
- ──
- ええ。リズム感。
- 田上
- そうです。でね、小学校のころ、
缶蹴りしながら登下校してたんですよ。 - そのとき頭のなかでリピートしていた
フレーズがあって、
それが当時テレビCМでやってた
「エッセンシャルダメージケアー」
という独特なフレーズで。(笑)
- ──
- やってた(笑)。おぼえてます。
- 田上
- だからもう、30年くらい前なのかなぁ。
- それが、なぜだかめっちゃ耳に残ってて、
エッセンシャルダメージケアー、
エッセンシャルダメージケアー‥‥って、
ずっと頭のなかでリピートしながら
缶を蹴っとばして学校へ行ってたんです。
- ──
- おもしろい子ども(笑)。
- 田上
- そんな思い出があったんで、
ぼくの中で「リズム感」って言ったら
「エッセンシャルダメージケアー」が
すぐに浮かんだんです。 - そこで
「Essential Damage Care Store」か、
でも「ダメージケアー」は要らんか、
と思って取ったら「Essential Store」。
あ、なんかいい感じ。
- ──
- そんな由来‥‥意外すぎる(笑)。
- 田上
- ただし、その時点で、
Essentialの意味はわかってなかったんで
辞書で調べてみたら、
「本質」というふうに書いてあった。
え、めっちゃいいやんと思って、
「Essential Store」にしたんですよ(笑)。 - 偶然のようにうまれた店の名前の意味が、
ぼくのやりたいことに、
ピッタリと、奇跡的にはまったんです。
- ──
- 店名の由来が、まさか
「エッセンシャルダメージケアー」から
きていたとは思いませんでした。
- 田上
- いい名前をつけたねえ、とかって
言ってもらえるんですが、
いやいや、ごめん、
エッセンシャルダメージケアーやねんと。 - すいません、最後がこんな話で(笑)。
(終わります)
2024-08-15-THU
-
インタビューの中でも語られますが、
田上さん率いる
ENIMA DESIGNのプロジェクト
「yuge fabric farm」では、
国内外の倉庫に眠る生地を発掘し、
活用することで、
あたらしい価値を生み出しています。
2025年版の「ほぼ日手帳」でも、
写真のように
何ともきらびやかな金襴の生地を
使わせていただきました。
広島の工場から出てきた貴重な素材。
詳細は、こちらのページで。