不思議な魅力の物体でギュウギュウで、
同じくらい魅力的な店主がいて、
ダンジョンみたいにワクワクするお店。
おもしろいもの好きな人たちの間では、
すでにすっかり有名な、
大阪のEssential Storeを訪問しました。
英語がしゃべれないのに、
たったひとりでアメリカへ乗り込んで、
個人のお家で買い付けをしてきたり、
国内外の倉庫に眠る古い生地を集めて、
アパレルブランドに紹介したり。
人生を自由自在に躍動している
店主の田上拓哉さんに話を聞きました。
担当は、ほぼ日の奥野です。

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第6回 寝るのが惜しい。

田上
ちょっと変わり種ですけど、
これなんかも、おもしろいですよ。
アーミッシュの人が描いた絵です。
──
動物。
田上
この紙は何らかの伝票なんですが、
1820年代から1850年代のもの。
で、1920年代以前に、
これらの動物が描かれたそうです。
アーミッシュの人たちの教会から
出てきたんです。
ハンディキャップのある人が
文字の上から描いたらしいとも聞きました。
──
つまり‥‥この文字と絵の間には、
70年の時間が流れてる。
田上
でも、完全に共鳴してますよね。
不思議なことに。
──
はい。こういう作品かのようです。
この上のほうに置いてある作品も、
いわゆる
アウトサイダーアートっぽいです。

田上
Z.B.アームストロングさんといって、
アウトサイダーアートの巨匠。
これは「カレンダー」なんですよね。
61歳のころから、
エンジェルメッセージが
聞こえるようになった方です。
Doomsday Calendarという
決断日を計算するカレンダーを、
身のまわりのものに
赤いマジックでバーッと書き出した作品、
というか。
──
へええ‥‥。
田上
こうやって赤いマジックで書かれた
カレンダーが、
部屋いっぱいに溢れていたそうです。
2000年代初頭に
アウトサイダーアートのフェアに
出品したら人気が出たと。
いまでは
スイス、フランス、アメリカの
ミュージアムに入っているんですよ。
──
おお、有名な方なんですね。
田上
以前、本で見かけてから、
どうにか手に入れたいなあと思って、
ずっと探してたんです。
そしたら、ジョージア州で
アームストロングさんが亡くなった家を
買った不動産屋さんと出会いまして。
ニューヨークから
20時間くらい車を走らせて行ったら、
この人の作品が、
ガレージにパンパンになってたんですよ。
──
宝の山じゃないですか。
田上
その中から、
いいものをいくつか買わせてもらって、
半分はアメリカで売りました。
半分は日本で紹介したいなあと思って、
持って帰ってきたんです。
ちょっと奇跡的な出逢いでしたね。
──
偶然なのか、引き寄せてるのか‥‥。
田上
古いものには「引き寄せる力」が
宿っていると思うことがよくあります。
──
そっちの壁に貼ってあるのは?
田上
はい、武井武雄さんといって、
大正時代のイラストレーターの作品で、
表側のカタカナに関係するイラストが
裏側に描かれてるんです。
つまり「ロ」なら、ロバ・6・蝋燭。

──
おおー、なるほど。
田上
ちっちゃく「RRR」と書いてるのは、
武井武雄さんがやっていた
子ども向けのおもちゃのブランド名。
絵本やかるた、塗り絵なんかがあって。
なかでも、この「カタカナかるた」は、
めずらしいものだと思います。
武井さんの美術館でしか見たことない。
これも、おもしろかったですよ。
──
ノート?
田上
関西大学の法学部の学生のノートです。
目ばーっかり描いてる。らくがきで。
こういうのって、
ふつうは捨てちゃうかもしれないけど、
まわりの人も、
取っておきたくなったんでしょうね。
ぼくも、「これは持って帰ろう」って。

──
何かを感じますよね。不思議な魅力。
おいそれと捨てられなかった気持ちが、
何だかわかる気がする。そっちは?
田上
1940年代くらいのテーブルゲーム。
モンタージュ写真で
犯人を当てるゲームみたいなんですよ。
ルールブックを読み解きながら、
犯人はどういう人物なんだろう‥‥と、
顔のパーツを合わせていく。
たとえば、
「目は10番、鼻は23番、口は37番」
みたいな感じで。

──
で、犯人はこいつだ‥‥と?
何だかデュシャンみたいな感じです。
田上
あー、こっちもめずらしいかなぁ。
大阪に、江戸時代から続いている
お茶の教室があって、
そこの蔵が解体されるって聞いて。
行ったら出てきたのが、これ。

──
指ぬきが、たくさん。
田上
お茶の学生が手芸も勉強していて、
めっちゃきれいですよね。
こんなにいっぱい見つけたのは
はじめてでした。
芯の部分は紙でできていて、
その上に着物のちりめんを巻いて
指輪状にしてるんです。
ゴミ箱から発見したんですけど。
──
危なかった!
田上
間一髪でした。
でね、これ見てくださいよ。これ。

──
えっ? ひー! 指!
田上
これは、ぼくがまた別のところで
見つけてきたものを、
ここに置いといたんです。
木製の義指なんですけどね。
──
田上さんの表現ってことか(笑)。
実用品ですかね、つまり。
田上
そうですね。戦前のものです。
──
ここ、田上さんの好きなもので満ちた、
そういう空間ですよね。
富山県美術館で見た瀧口修造の部屋と、
どことなく似てる気がします。
田上
あ、ほんとですか。
──
ミロやダリ、オノ・ヨーコさんや
赤瀬川原平さんの作品、
ジャスパー・ジョーンズから贈られた
オブジェなんかと同列に、
何かそこらへんで拾ったビー玉‥‥
みたいな、
瀧口さんがいいなあと思ったものが、
有名無名わけへだてなく
コレクションされている部屋なんです。
田上
へえー。おもしろそう。
──
その部屋に置いてあるものも、どこか
瀧口さんのもとへ
集まってきちゃった感があるんですよ。
デュシャンからもらった、
「Rose Sélavy」という
デュシャンの偽名のプレート、とか。
瀧口さんって「美術評論家」ですけど、
コレクションしたもの全体が、
瀧口さん独自の表現になってるような、
そういうアーティストみたいだな、
と感じたんです。
その部屋と、この部屋が、
どことなーく、似ている気がしました。
田上
そうなんですか。行ってみたいなあ。
──
田上さんも、
こういうものを見つけに行く旅とかって、
さぞかし楽しいでしょう。
田上
もうね、最高に楽しいです。
寝るのが惜しくなるんです。
あー、なんで眠たくなんねーんって、
泣きながら運転してます。
睡眠時間がもったいなくて仕方ない。
──
そうなんですか(笑)。
田上
眠いー眠たいー、でも寝たくないー、
クッソーみたいな感じ。
──
そういうときって、寝るんですよね。
いくら田上さんといえども。
田上
めっちゃくちゃ硬い「おかき」を
いつも持ってて、
眠くなったら、
それをバキバキバキバキー食べて、
脳を強制的に起こしてる。
──
めっちゃ硬いおかき‥‥?
田上
そう。そのおかきを食ったら、
バリバリバキバキっていう衝撃が
脳に直撃して、
けっこうグワッと目が覚めるんで。
──
そこまで硬いおかきを、
食べたことないんですけど(笑)。
田上
効きますよ(笑)。

(つづきます)

2024-08-14-WED

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  • 2025年版のほぼ日手帳で yuge fabric farmと 黄金のコラボレーション!

    インタビューの中でも語られますが、
    田上さん率いる
    ENIMA DESIGNのプロジェクト
    「yuge fabric farm」では、
    国内外の倉庫に眠る生地を発掘し、
    活用することで、
    あたらしい価値を生み出しています。
    2025年版の「ほぼ日手帳」でも、
    写真のように
    何ともきらびやかな金襴の生地を
    使わせていただきました。
    広島の工場から出てきた貴重な素材。
    詳細は、こちらのページで。