不思議な魅力の物体でギュウギュウで、
同じくらい魅力的な店主がいて、
ダンジョンみたいにワクワクするお店。
おもしろいもの好きな人たちの間では、
すでにすっかり有名な、
大阪のEssential Storeを訪問しました。
英語がしゃべれないのに、
たったひとりでアメリカへ乗り込んで、
個人のお家で買い付けをしてきたり、
国内外の倉庫に眠る古い生地を集めて、
アパレルブランドに紹介したり。
人生を自由自在に躍動している
店主の田上拓哉さんに話を聞きました。
担当は、ほぼ日の奥野です。
- ──
- それでは、
宝物のつまったラビリンスみたいな
Essential Storeを、
ぐるーっと、ご案内いただけますか。
- 田上
- わかりました。まず、隣の部屋では、
オリジナルの服を売ってます。 - ぼくら「yuge fabric farm」という、
生地屋さんの倉庫で眠っている
ヴィンテージファブリック、
古い生地を買い取って、
アパレルさんにおろすプロジェクトも
やってるんです。
- ──
- ええ。生地を循環させてるんですね。
- 田上
- そのプロジェクトで集めてきた生地で、
自分らでも服をつくってるんです。 - ぼくらの事業としては、大きくわけて
「アパレル」と「生地」と、
「Essential Store」の3つですけど、
どれにも共通しているのは
「古いものをあつかう」というところ。
- ──
- このシャツとか、カッコいいです。
- 田上
- ありがとうございます。
過去の素材と現代デザインの融合です。
古い生地でつくると
ちょっと見たことのないようなものが
できる気がしてます。 - この部屋から一階下のスペースは、
ギャラリーになってます。
いまちょうど石が大量に入ってきてる。
- ──
- 石?
- 田上
- はい。石、売ってます(笑)。
- ぼくがこのギャラリーをつくったとき、
巨石を置きたいなあと思って
探しはじめたら、
「巨石を掘ってるおじさんの情報」を
つかみまして‥‥。
- ──
- すごい情報をつかむなあ(笑)。
- 田上
- そのおじさんのとこへ訪ねていったら、
この石をくれたんです。
阿蘇山の噴火したときの溶岩石とかで、
軽いんです、案外。
- ──
- え、こんな大きな石を、
こんなにもらってきたんですか(笑)。
- 田上
- はい、ありがたく頂戴しました。
1週間かけて自分らで並べたんです。 - 男ふたりで持ち上げられるんですよ。
いちばん大きいのでも4人とか。
大家さんもびっくりしてたんですが、
最後は「かっこいいな」って、
めちゃくちゃ気に入ってくれました。
- ──
- すごい。巨石を自力で(笑)。
- 田上
- 次の部屋は、みんなの共有スペース。
ここでは
アイスコーヒーやお菓子をお出して、
クールダウンしてもらおうと。 - この店、とにかく情報量が多いんで、
休憩できる場所を要るなと思って。
- ──
- どれが売りものか、わかんないです。
- 田上
- ここには売りものは置いてないです。
ぼくらは「公園」と呼んでいて、
お客さんの憩いの場所にしています。 - これはアイスコーヒーを落とす器具。
- ──
- へぇー、これで。水出し?
- 田上
- そうです、戦前からある
京都の純喫茶で使われてたものです。 - ここに豆、ここに水を入れて、
7時間くらいかけて
ゆっくり3リットル落とす器具です。
めっちゃおいしく淹れられるんです。
- ──
- はじめて見ました。
水まわりも、オーダーメイドですか。
- 田上
- はい、このシンクは、
アメリカのアーミッシュのご家庭で
使われていたものですね。 - 120年くらい前のシンクだったと
聞いてます。
- ──
- それにしても、相当おもしろいです。
このお店の迷路感。‥‥この絵は?
- 田上
- アーミッシュの教会で見つけました。
- ──
- 何だか、すごく「来る」‥‥。
- 田上
- ね。エネルギー感じますよね。
1950年代のものだったと思います。 - ここもギャラリーの空間なんですが、
まだ準備中ですね。
日本人の作家の絵が入ってきたんで、
そのうち展示しようと思ってます。
- ──
- えーと、この写真の人が、
この絵の作家さん‥‥なんですか?
- 田上
- いや、ぜんぜん関係ない人です。
適当にネットで拾ってきた写真です。 - 架空のフリーマーケットをやろうと
昨日の夜、思いついて。
どこの誰だかわからないけど、
この人のブース、
あの人のブース‥‥みたいな感じで。
- ──
- 店の「あるじ」が全員、架空の人物。
- 田上
- そう。この人が集めそうなものを、
いろいろ並べようと思っています。 - あくまでイメージで(笑)。
- ──
- おもしろいなあ(笑)。
こっちのこれもすごいです。何だか。
- 田上
- シカゴのアーティストの作品ですね。
- ワイヤーをニット状にして、
いろんなガラクタを留めてるんです。
風で揺れると、キラキラって
光が乱反射しておもしろいんですよ。
- ──
- ほんとだ。うわー‥‥。
念のような濃いエネルギーを感じる。
- 田上
- 97歳で亡くなった女性なんですけど、
奇跡的な出会いだったんです。 - アメリカで買いつけするときは、
フリマのアプリをチェックしながら
州から州へ移動するんです。
デトロイトからシカゴに行くときに、
何かおもしろいところないかなあ、
と思ってチェックしてたら、
ある出品物の背景に、
この作品がチラっと写ってたんです。
- ──
- 背景のほうが気になった?
- 田上
- そう。出品されていたものではなく、
背景にボンヤリ写っていた
この作品を見て、「うわー!」って。 - そのものが置いてあった部屋自体が
めちゃくちゃ気になって、
ここへ行けば絶対何かあるな‥‥と。
そこで、興味があります、
ものを現場で確認したいんですって
メールでやり取りして、
とにかく、そこの空間へ行くために、
急遽予定を変更したんですね。
- ──
- ええ、ええ。
- 田上
- で、到着してみると、
そこはすでに亡くなった女性作家の
アトリエで、
ものすごい数の作品が残されていた。 - 60代くらいの息子さんと2日間、
一緒に過ごして、
仲良くなって、気に入ってもらって、
その女性作家さんの作品を、
ほぼぜんぶ、引き継ぐことになって。
- ──
- えええ。ほぼぜんぶ?
- 田上
- はい。ほぼぜんぶ。
- ──
- それを、日本に持って帰ってきた。
- 田上
- アメリカで売ったものもあります。
これは
持ち帰ってきたもののひとつです。
- ──
- はあ‥‥でも、目を引きます。実際。
- 田上
- ぼく、それまではそんなふうにして、
ひとりの作家の作品を、
ほぼすべて引き継いだことはなくて。 - はじめて「ピーン!」と来るものが
あったんでしょうね。
でね、それが4年前なんですけどね。
- ──
- ええ。
- 田上
- 不思議なことにそれからというもの、
「遺品整理」の話が、
めちゃくちゃ多くなったんですよ。 - 何かもう、あの世で
ぼくの噂が回ってるんじゃないかなと
思うくらい(笑)。
- ──
- ああ、現世に残してきた作品、
引き継いでくれる日本人がいるぞと。
- 田上
- そうそう(笑)。
やつに託したら大事に扱ってくれる、
みたいな噂が。 - だってもう、毎月のように、
うわ、こんなに‥‥っていうくらい、
遺品整理の話が来るようになって。
- ──
- 専門の人でもないのに。
- 田上
- そうなんです。
- レスキュー理論と呼んでるんですが、
何か眠っているものを取り上げると、
「引き寄せの法則」が発動して、
他からもどんどん集まってくる。
古い生地のレスキューも、
いったんはじめたら、
あっちこっちから
声がかかるようになってきたんです。
(つづきます)
2024-08-11-SUN
-
インタビューの中でも語られますが、
田上さん率いる
ENIMA DESIGNのプロジェクト
「yuge fabric farm」では、
国内外の倉庫に眠る生地を発掘し、
活用することで、
あたらしい価値を生み出しています。
2025年版の「ほぼ日手帳」でも、
写真のように
何ともきらびやかな金襴の生地を
使わせていただきました。
広島の工場から出てきた貴重な素材。
詳細は、こちらのページで。