怖いけど、ちょっと気になる。
そしてなぜこんなに嫌われているのかを知りたい。
ゴキブリについてぼんやり考えていたある日、
“ゴキブリスト”と
名乗っている人がいることを知りました。

そこでゴキブリに興味がある人を募って、
ゴキブリスト・柳澤静磨さんに
ゴキブリのこと、
あれこれ聞いてみました。
担当はほぼ日かごしまです。
(ほぼ日の學校の収録を読みものにしました)

この授業の動画は、ほぼ日の學校でご覧いただけます。

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お好みに合わせてお読みください。

>柳澤静磨さんプロフィール

柳澤 静磨 プロフィール画像

柳澤 静磨(やなぎさわ・しずま)

静岡県磐田市にある竜洋昆虫自然観察公園副館長。
東京都八王子市生まれ。
新潟での学生生活を経て、
静岡県にある磐田市竜洋昆虫自然観察公園の職員となる。
石垣島・西表島での昆虫採集をきっかけにゴキブリ沼にハマり、
ゴキブリの魅力を伝えるべく「ゴキブリスト」を名乗って
普及啓発・研究活動を始める。
現在、100種以上のゴキブリを飼育し、
ゴキブリを求めて世界を旅している。
著書に『ゴキブリ嫌いだったけどゴキブリ研究はじめました』(イースト・プレス)
『愛しのゴキブリ探訪記 ゴキブリ求めて10万キロ』(ペレ出版)、
『ずかん ゴキブリ』 (技術評論社)などがある。

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第1回ゴキブリが嫌いだった。

──
こんにちは。
今日はゴキブリストという珍しい肩書きを持つ
柳澤静磨さんにほぼ日にお越しいただきました。
柳澤
どうも柳澤です。
──
早速ですが、
肩書きがゴキブリストということなんですけど。
ユニークな肩書ですね。
驚く人もいるかも知れませんね。
柳澤
そうですね。
ぼくの他になかなかいないと思います(笑)。
──
虫好きな子どもには喜ばれそうです。
名乗り始めたきっかけはあるんですか?
柳澤
ぼくは静岡の竜洋昆虫自然観察公園という
昆虫館と公園が一体になったような施設の
職員をしています。
ゴキブリという生き物の魅力を広めたいなと思い、
勤務している公園でゴキブリ展をやりました。
そのときに案内人のような位置づけで、
勝手に名乗り始めたのがゴキブリスト。
勝手につけた“称号”というか名前です。
──
称号(笑)。
たしかにゴキブリについて詳しい人でないと
名乗れない感じがします。
名札にもゴキブリストと書いているんですか?
柳澤
そうなんです。

後日メールで送っていただいたゴキブリストの名札。 後日メールで送っていただいたゴキブリストの名札。

 
カタツムリ展やっていたときは、
「マイマイマイスター」と名乗っていました。
カタツムリの名人ということで。
カタツムリのことを別名でマイマイって言うんです。
だから、前はマイマイマイスターと名乗っていて、
その後にゴキブリストを名乗り始めたんです。
──
お客さんからのたちからの反応はありますか?
柳澤
子どもたちは名札の名前はあまり読まないようで
あまり反応がないんですけど、
大人からは反応があります。
「ゴキブリストって何ですか?」って
聞かれることが多いので、
その度にゴキブリの研究者ですと言っています。
──
ゴキブリの研究者よりも、
ゴキブリストのほうがインパクトがありますね。
今日は、標本を持ってきていたんですよね。
ゴキブリは苦手な人が多いので、
今日はゴキブリのイメージをくつがえすような
うつくしい標本を選りすぐって
見せてほしいとお願いしたんですよね。
柳澤
そうなんです。
こちらです。

──
おぉ。きれい!
柳澤
これは全部、 ゴキブリの仲間です。
それぞれグループが違うので見た目も形も違うんです。
ぼくが研究対象にしているのはここのグループですね。
この6つがルリゴキブリ属っていう
アジアに分布をしている種類、日本にも4種類います。
このグループが一番好きで
研究の対象にしているゴキブリです。

ルリゴキブリの仲間。 ルリゴキブリの仲間。

柳澤
下に行くとテントウムシみたいな見た目のゴキブリが
テントウゴキブリというもので、
そのままの名前がついています。
テントウムシって捕まえると
黄色い汁を出されたことを
覚えている人がいるかもしれませんが、
その汁が、苦いんですよ。
鳥からするとおいしくないんですね。
そのテントウムシに擬態することで、
食べられづらくなっている種類です。
フィリピンとかに生息しています。

テントウゴキブリ。 テントウゴキブリ。

柳澤
これはオスとメスで形が違うゴキブリで
ニジイロゴキブリっていう名前がついています。
ダンゴムシみたいなのがメスで、
左にいるのがオスです。
緑色の光沢をしているんですが
日本ではニジイロゴキブリという名前がついています。
海外だと“エメラルドジュエルローチ”という
すごいきれいな名前がついています。

ニジイロゴキブリのオス(左)とメス(右)。 ニジイロゴキブリのオス(左)とメス(右)。

──
エメラルド・ジュエル。
ゴージャスな名前ですね。
柳澤
そうなんですよ。
これは中国とかベトナムに生息をしているゴキブリです。
こちらは4種類で、
ドミノゴキブリの仲間です。
この手前の子がドミノゴキブリなんですけど
ドミノの模様に見えませんか?
──
たしかに‥‥。
柳澤
なんとなく見えるので
ドミノゴキブリっていう名前がついています。
上のほうの右にいるのがドミノゴキブリ。
上のほうの左にいるオレンジ色のものが
オレンジスポットドミノゴキブリ、
下のほうの左にいるのがベルンハルトドミノゴキブリ、
下のほうの右にいるのがハテナゴキブリといいます。
ハテナゴキブリはちょっと斜めにすると、
模様がはてな(?)に見えるかなと。
こちらインドに生息しているゴキブリたちです。

ドミノゴキブリの仲間。 ドミノゴキブリの仲間。

 
こんな感じで、ゴキブリって言っても色も形も
さまざま種類がいるのがわかると思います。
──
すっごい、キレイですね。
ベルベットのような質感だと思わなかったです。
柳澤
毛がたくさん生えていたり。
あとは光沢があるものはツルツルしています。
細かいシワがあったりすると
こうやってマットの仕上がりになったり。
──
ニジイロゴキブリは本当にきれいな色ですね〜。
柳澤
そうですね。
この仲間はなぜかこのニジロゴキブリだけが
きれいなんです。
他は真っ黒の種類が多いんですけど 、
この子たちは
こういうキレイなキラキラした色をしています。
──
今日は、生きているゴキブリさんも
持ってきていただいたんですよね。
柳澤
はい。そうです。
これは家でも飼育している種類で、
ヨロイモグラゴキブリというゴキブリですね。

──
おぉ。
え、自宅で飼っている?
柳澤
自宅と昆虫館で同じ種類を飼っているんです。
この子は昆虫館から連れてきました。
ヨロイモグラゴキブリは
オーストラリアに住んでいるゴキブリで
世界で一番重たいゴキブリと言われています。
大きさがわかりますか?
──
見た目はダンゴムシのようですね。
柳澤
ハネがないので節が見えるんですね。
だからちょっとダンゴムシ感があるというか。
ハネがあると節が隠れて見えにくくなるんですけど、
この子はハネがない。
地中に生活をしているので、ハネがないです。
──
世界一大きいではなく重い?
柳澤
はい、重いです。
世界大きいだとハネが長いやつがいて、
そっちのほうがハネを含めた大きさの世界最大になります。
寿命が10年くらいあるんですけど、
この子は5歳です。
──
生まれたときは何cmくらいなんですか?
柳澤
生まれたときは小さくて、
だいたい1cmとか 1. 5cmとか。
そんなもんだと思います。
──
愛情は湧いてきますか?
柳澤
そうですね。だいぶ湧いてきます。
名前をつけたりはしてないんですけど、
この種類をたくさん飼っているので、
個体の識別はできるようになってきました。
この子はこの前イベントに連れて行った子だとか、
そういうのはわかるようになってきます。
ゆっくり歩くので、
素速く動くゴキブリのイメージとは
ちょっと違うかなと思います。
──
のんびり屋さんなんですね。
柳澤
ゴキブリが予測不能な動きをする点は
嫌われる原因の一つなんですけど。
この種類の動きはゆっくりです。
カブトムシのメスみたいな動きなので
嫌悪感を持つ人は少ないかなとは思います。
一回、ケースに閉まっちゃいますね。
──
さきほど見せていただいたような
うつくしいゴキブリはごく一部ですか?
柳澤
そうですね。かなり一部です。
ゴキブリ自体がだいたい世界に4600種以上いると
言われていて、
その中に一部きれいな種類がいます。
家に出てくるような普通の見た目のゴキブリのほうが
たくさんいます。
茶色とか黒っぽいゴキブリが多いです。
──
わたしたちが普段よく見るゴキブリは
何というゴキブリなんでしょうか?
柳澤
日本の家によく出てくるのは
おそらくクロゴキブリだと思います。
あとは 飲食店とか熱帯魚のお店で
見られるものはチャバネゴキブリ。
東北の方ではヤマトゴキブリ、
沖縄の方ではワモンゴキブリと、
地域やその場所によって出るゴキブリが違います。
だいたいこの パターンかなと思います。
──
柳澤さんは
ゴキブリがもともと苦手だったんですよね。
そこから、一転、研究者となり、
今日のように愛情を持って接するまでなったんですね。
嫌いだったときの話を聞かせてもらえませんか?
柳澤
ゴキブリ嫌いだったのは、
多くの人と一緒で、
気持ち悪いとか汚いというイメージが
非常に強くあったんです。
親の影響もあります。
親が生きもの好きだったんですけど、
ゴキブリが家に出たときに
父親がパニックになっていたんですね。
その様子を見て、
「ゴキブリって本当に怖いものだ」と
印象に残ったんですよね。
1匹退治した後も、
まだ部屋にいるんじゃないかって思って、
眠れないくらい恐怖だったんです。
それが心にずっと残っていて
ゴキブリ自体がかなり苦手でした。
虫は好きだったので、昆虫館に就職したんですけど、
就職してからもゴキブリだけは嫌いで。
ゴキブリはどこにでも出没するので、
昆虫館にもゴキブリが出たことがあったんです。
そのときは館長を呼ぶくらいでした(笑)。
──
上司を呼ぶってことですよね。
それはかなり嫌いですね(笑)。
柳澤
ですよね。
そして嫌いな人こそ、見つけるんですよね。
ぼくばかりゴキブリ見つけちゃう。
それが悩みでもありました。
あと「昆虫好きなのに、ゴキブリ嫌いなんだね」と
言われるんですよ。
それも悔しい気持ちになるんですよね。

ヨロイモグラゴキブリ。

(つづきます)

2025-05-22-THU

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  • 柳澤静磨さんの著書
    『愛しのゴキブリ探訪記
    ゴキブリ求めて10万キロ』
    (ペレ出版、2024)

    4600種類もいるという
    多様なゴキブリとの出会いをもとめて
    国内だけでなく、海外を旅するようになった柳澤さんの
    サイエンスエッセイ。
    実践的なゴキブリの採集方法をはじめ
    研究者としてどんなことを考えているのか
    柳澤さんの日常が書かれています。

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