群馬県、赤城山のふもとに、
白川小学校という学校があります。
卒業を控えた6年生のみなさんはいま、
「楽しく働くには」をテーマに、
生き方を考えるスタートラインに立っています。
そんな6年生を受け持つ先生が、糸井を
「楽しく働いている大人のモデル」として、
授業に招いてくださりました。
そこで、赤城山の頂上にある「ほぼの駅 AKAGI」で
ストーブを囲み、12名の6年生と糸井が話すことに。
たくさんの未来のいつかに思い出してほしい、
一歩目を一緒に踏み出しました。

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【第1回】思いやってることは、バレちゃう。

糸井
ここね、天井が高くて、音がひびくので、
お互いに声がちょっと聞こえにくいけど、
気をつけて、なるべく大きい声でしゃべりましょう。
生徒さんたち
はい! 
糸井
おおっ、いい返事ですねえ! 
いい子ばっかりですね。
先生
本当にいい子ばっかりなんです。
(生徒さんのほうを向いて)
みなさん、お話を聞いて
メモしたくなるかもしれないから、
メモ用のボード持ってくる? 
それとも、心のなかに収める? 
生徒さん
持ってきてもいいですか。
先生
いいよ、いまのうち。
糸井
心でも、いいよ。
先生
心で(笑)。
持ってきたい人は、持ってきてください。
(みなさんが席について)
先生
では、Hさん、
まず糸井さんにあいさつをしましょう。
いつも通りで大丈夫です。
Hさん
お願いします。礼。
生徒のみなさん
お願いします。
糸井
お願いします。

ストーブを囲んだ、約10名の白川小学校6年生のみなさんと糸井重里が、頭を下げている。

先生
いま、「総合的な学習の時間」の授業で、
「楽しく働くには」「楽しく生きるには」
というテーマで学習を進めています。
子どもたちに「楽しく働いている大人って、
みんなのまわりにいる?」と聞いたら、
「あまりいないかもしれない」という答えで。
「楽しく働いている大人のモデルって誰だろう」と、
私なりに考えて、浮かんだのが糸井さんでした。
糸井
はい(笑)。
先生
自分がなりたい職業について
深堀りしている子もいれば、
「どんな職業に就こうか」と
迷っている最中の子もいます。
「どう生きていこうかな」というところに
悩んでいる子もいます。
「自分の生き方や働き方のヒントが
見つかるようなことを聞いてみて」と、
子どもたちには言っていますので、
糸井さんにどんどん質問をさせていただければと
思います。
糸井
はい、よろしくお願いします。
先生
ということで、じゃあ、先陣を切ってくれる人。
おっ、いた! 

白川小学校のAさんが手を挙げている。

糸井
おっ。いいね、先陣。どうぞ。
Aさん
私は、将来なりたい夢などが
決まっていないので、これから決めるために、
「いろいろな職業で共通して大事な力」を
知っておくとよいのかなと思いました。
糸井さんは、大事な力って、なんだと思いますか。
糸井
「どういう職業になるかにかかわらず、
大事な力って、なんだろう」ということですね。
ああ、もうさっそく、
すべての答えみたいな質問が。
いろんな職業に共通して
大事なものがあるということは、ぼくも思います。
どの職業に就いても、
力を発揮する人はするんですよ、やっぱりね。
どういう人が楽しく、
みんなに喜ばれる仕事ができるのか。
あるいは、仕事以外でも、
毎日を明るく楽しく過ごせるのか。
っていうことの根っこにあるのは、
やっぱりひとつの、同じものだと思うんです。
ぼくも、小学6年生のときには、
その「根っこにある大事なもの」がなにかなんて
全然わかんなかった。
だけど、長く生きていくと、だんだんと
「昔の人が言ってることと同じだな」
っていうことに気づいてきたんですね。

糸井重里が生徒のみなさんに向けて笑顔で話している。

糸井
自分をよく活かして、
みんなに喜ばれる力っていうのはなんだろう、
ということは、大昔の人も
ずっと考えてきたんですよ。
大昔の人は、いまよりももっと、
自分の職業を自由に選べなかった。
奴隷(どれい)の子どもは奴隷だったし、
王さまの子は王さまで、
職人さんは職人さんの跡を継ぐに決まってる、
という時代では、「この仕事は向いてない」
ってやめるわけにいかないから、
「どんな仕事でも大事なこと」は、
すごく難しくて重要なテーマだったんです。
なかでも、紀元前500年くらいのころに、
中国に孔子(こうし)さんっていう人がいて‥‥
孔子さんって、気安く呼んでますけど、
すごい人なんですよ。
その孔子っていう人が、
「朋(とも)有り遠方より来たる、
亦(また)楽しからずや」
と言ったんです。みんなも学校で習ったかな。
これは「友だちが遠くから来てくれたよ。
楽しいなあ」という意味なんです。
当時の世のなかは戦争だらけだったので、
あっちの国とこっちの国が戦ったりもしていた。
もしかしたら、もとは友だちだったのに、
敵同士になってしまった人たちもいたかもしれない。
そういう時代だったので、「遠くから来る」だけでも
大変だったんですよ。
だから、友だちが来てくれてそこにいるだけで、
「楽しいなあ」と思う。
「人と会って一緒の場所にいて、
『よかったね』って言うっていうのは、
いいもんだなあ」って‥‥
ただそれだけの話なんだけど(笑)。
みんな、ちょっとわかるでしょ、その気持ち。
紀元前の人たちが、そんなことを考えてたんだよ。

Yさんが真剣な表情で糸井の話を聞いている。

糸井
大昔、孔子に、
「一番大切なことはなんですか」って、
あなたみたいに聞いた人がいました。
そうしたら、孔子は
「『恕(じょ)』である」と答えたそうです。
「恕」っていうのはちょっと難しい字なんだけど、
いまの言葉に直すと、
「思いやり」という意味です。
目の前にいる相手とか、まわりのほかの人たち、
もっと遠くにいる人たち、いろんな人たちに対して、
「『この人はどういう心で生きてるのかな?』
と想像するのが大事なんだ」って、
孔子は言ったんですね。
「なんだ、それだけかよ」って思うけど、
ちょっとわかるような気がしませんか。
みんなで「なんかやろうぜ」っていうときに、
つらそうにしてる人がいたら、
なにか事情があるかもしれないと想像する。
その人が病気だったら、
一回休むのか、違う形で参加するのかを考えたり。
合唱の練習なんかで、
「声が出ないんだ」という人がいたら、
そのぶんみんなで大きな声を出したり。
それぞれの人のできることとできないことを察して、
みんなでできる方法でやっていくっていうのは、
思いやりです。
あるいは、豚汁をみんなで分けるときに、
「みんなが食べられるようにするには、
どうしたらいいかな」「私は遠慮しようかな」
「でも、みんなが遠慮してたら、
豚汁をつくった人が『あれ?誰も食べないの?』と
悲しくなっちゃうかも」とか‥‥
そんなふうに考えて行動をするのは、
全部、思いやりです。
みなさんも、この話を聞いていて、
「そりゃ、思いやりは大事だよな」って、
普通に思うじゃないですか。
普通に思うってことは、
もう心のなかにあるんですよ。
つまり、紀元前500年に生きていた
孔子さんが言ったことが、
人の心のなかの「いいこととはなにか」を決める
根っこのところに、ずっとあり続けているんです。
孔子の時代には
コンクリートのビルなんかなかったし、
インターネットだってなかったよね。
そんな時代の人が考えたことと、
いま、ぼくたちが「それはそうだな」と思うことは、
つながってるんです。

糸井が両手を合わせて「つながっている」ことを示すジェスチャーをしている。

糸井
会社によっては、「社員どうしが競争すると
みんなが成績をあげようとするから、
仕事がうまくいく」と考えているところもあります。
そんななかで「思いやりが一番大事なんだ」
と思いながら仕事をするのは、とても難しいです。
でも「競争している相手に自分が手を貸して、
相手の成績が上がったら、
会社全体にいいことがあるかもしれない」
と考えて手伝うことができれば、
自分の成績は上がらなくても、
全体の仕事はうまくいきます。
あるいは、手伝った相手が覚えててくれて、
別のときに「おかえし」として
自分を手伝ってくれるかもしれない。
最初からおかえしを期待してるわけじゃないけどね。
こんなふうに、
「ほかの人のことを思いやって生きてるな」
っていうことは、どこかのところでみんなに
バレちゃうんですよ、いい意味で。
で、「この人、ほかの人を思いやってるな」
とバレちゃうと、その人が言うことややることを、
みんながちょっとずつ手伝ってくれるようになるの。
ということは、いちばん仲間に信頼されて、
自分の力を発揮できる立場になるのは、
他人を思いやる人なんです。
そう考えると、どの仕事でも、
思いやりがいちばん大事なんじゃないかな‥‥
っていうと、まあ、まるで
学校の先生が言うようなことを
言ってますけど(笑)。
みなさんの先生も「思いやりが大事」と
言うでしょうし、親御さんも言うでしょうけど、
「なかなか、思いやりなんて
できるもんじゃないんだよね」
っていう、外の声に打ち消されちゃうんですよね。
でも、本当の本当は
「思いやりなんかではうまくいかない」より
「思いやりが大事」のほうが、
長いあいだたもってきた考え方なんだから、
「思いやり」が勝ってるんだよ。

糸井が生徒のみなさんに向けて話している。

糸井
「悪い人が勝った」っていう物語も
いっぱいあるけど、
自分勝手で、暴力ばっかり強い人が
「この指とまれ」って言っても、
みんな嫌々行くしかないよね。
信頼されてる人だったら、みんなが本心から
「この人の言うことなら手伝いたい」
「おもしろそうだから一緒にやりたい」
と思って集まるはずです。
人が集まってくれたら、
チームの仕事ができるようになるから、
自分が得意じゃないことも、
得意な人が手伝ってくれます。
そうやって補い合っていけるから、
苦手なことがあっても、どこに行っても、
思いやりがあって信頼されてる人は
きっとうまくいく。
チームでは、ときには、
リーダーじゃない役割を引き受けることも
たくさんあります。
リーダーじゃないときに
「いま、自分はなにをしたらいいんだろうか」
って考えられる人ほど、
いい縁の下の力持ちになれるし、
リーダーになったときにも
みんなの信用が得られます。
それは、どの仕事でも同じじゃないかな。
一見、どこも勝ち負けの世界のようだけど、
案外、大事なことは根っこのところに
思いやりがあるかどうかだと、ぼくは思います。
‥‥長かった? 大丈夫だった(笑)? 

Yさんがまっすぐに糸井のほうを向いて話を聞いている。

(明日に続きます)

2026-01-21-WED

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