
あの佐藤卓さんは、
論理的でシャープな売れっ子デザイナー?
と思っていたら、根本のところには、
まるでその真逆みたいな
「おもしろがりやの只の少年」がいた!
そんな卓さんが「好き」の感覚を育てていた頃とは。
動画で配信中の「ほぼ日の學校」の授業の
一部を読みものでご覧ください。
佐藤卓(さとうたく)
グラフィックデザイナー、株式会社TSDO代表。
東京都生まれ。
東京藝術大学デザイン科卒業、同大学院修了。
「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」の
パッケージデザインをはじめ、
ポスターなどのグラフィック、
商品や施設のブランディング、企業のCIを中心に活動。
NHK Eテレ 「にほんごであそぼ」アートディレクター、
「デザインあ」総合指導、
21_21 DESIGN SIGHT館長を務め、
展覧会も多数企画・開催。
-
自然にデザインの道へ
- 糸井
- 佐藤卓さんのことを知らない人は、
「あの人は誰だろう」と思っていると思うので、
少し聞いていきたいんですけど。
- 佐藤
- はい。
- 糸井
- なんでこういう道にたどり着いちゃったんだろう
というのを思い出しながら、
ちょっとしゃべってもらえますか?
- 佐藤
- はい。まずね、
父親がグラフィックデザイナーだったんです。
- 佐藤
- もともとグラフィックデザイナーって、
何をするのかもぜんぜんわからなかったんです。
小学生のときに、
「お父さんのお仕事は何ですか?」
っていうのを書かされる場があって、
でも、わかんなくて。 - そういえばうちは何でご飯食べてんのかな?
と思って、家に帰って聞いたら、
「グラフィックデザイナーって書きなさい」と。
で、カタカナだと教えてもらって、
「グラフィックデザイナー」って書いて、
へえー‥‥と思って。 - その辺から、なんかうちは
デザインでご飯を食べてるんだなぁ、と知りました。
そういえば、いろいろ図面引いたりしてるなあ、と。
当時、コンピューターはなかったですからね。 - 当時、父親はグラフィックデザイナーといいながら、
石油の容器のプロダクトもやったり、
駅前のあのお店のマークは
うちのパパがやったんだよ、なんて
母親が教えてくれましたけど、
そんなこともやってたりしました。 - だから、
「あ、こんなこともやるんだ」みたいな感じで、
デザインというものが、
なんだかこんなようなこと、というのは、
小学生のころになんとなく知ったので、
普通のご家庭の子どもよりは、
少し早かったかもしれないですね。 - やっぱり美術は、なぜか好きで。
一般科目は苦手というか、
ほんとに好きじゃなくて、
体育と美術だけ成績がよかったんです。 - それで、中学生くらいから、
だんだん音楽を聴くようになって、
LPレコードを初めてお小遣いで買ったのが、
中学3年のとき、ビートルズでした。 - その後、ロックの世界へ一気に行って、
髪の毛は伸び‥‥
- 糸井
- (笑)
- 佐藤
- ヘッドホンでガンガンに音楽聴いて、
「かっこいいー!」と思いながら、
LPレコードのジャケットを見てるわけですよ。
そして、いろいろ想像するわけです。 - そのジャケットには、
ミュージシャンだったり、
いろんなインテリアだったり、
カッコイイ文字だったりがデザインされていて。
そういうのを
「タイポグラフィ」と言うなんて
そのときはまだ、わかんないですから。 - あらゆるイラストレーションがかっこよくて、
LPレコードというのは、なんと魅力的なものかと。
それで、こういう仕事ってなんだろうと調べたら、
「あ、グラフィックデザインなんだ」と知ったんです。 - 高校では学科科目が本当にできなかったんで、
逃げるように美術の方へ。
美術大学にデザイン科があるので、
それを受けることにしました。
美大を受けるためにはデッサンが必要だから、
予備校に行って、デッサンして、
そんな流れでデザインの方へ。
- 糸井
- なんというか、行くべくして行ったんですね。
- 佐藤
- いや、全然、なんていうんですかね。
親に相談したこともないですしね。
- 糸井
- 会社勤めをするイメージはなかったんですか?
- 佐藤
- あ、それはないですね。
- 家に机があって、親が図面描いていたり、
小さいころから、そういう現場というか、
環境が生活の中にあったので。 - こういうことやったらどうかとは
一切言われなかったんだけど、
自然に環境が導いたと言いますか。 - 高校のときに、
なんとなくデザインっておもしろそうだなって思って、
やっぱりデザイナーかなって思ったときは、
どこかの会社員のデザイナーではなくて、
「いちデザイナー」。 - 純粋に「画家になりたい」と思うのと同じように、
「いちデザイナーになりたい」と思ったので、
どこかの会社に入ろうというイメージは、
まったくなかったですね。
レコードジャケットから受けた刺激
- 佐藤
- LPレコードを見て、
ジャケットデザインをしてみたい
って思っていたころは、
今のような仕事をしてるイメージは、
微塵もなかったですね。
もう、微塵も。 - パッケージをやりたいとも思ったことないですし、
ブランディングとかそんなことも、
本当に微塵も!
イメージにないですね。
なんにもないです。
- 糸井
- レコードジャケットで、これは好きだ!
っていうのはありましたか、当時。
- 佐藤
- あ、それはありますよ。
- 糸井
- これを見て刺激されたみたいな。
- 佐藤
- それは、けっこういっぱいありますね。
- 例えば、
リトル・フィートっていうロックバンド。
- 糸井
- リトル・フィートは、みんないいねぇ。
- 佐藤
- (笑)
リトル・フィートのアルバムジャケットの
イラストレーションが、けっこうおもしろくて。 - 私は大学時代、ロックバンドで
パーカッションやってたんですけど、
リトル・フィートの大きなシールをそこに貼ってました。
そのぐらい好きで。
- 糸井
- どうしてこの絵とこのバンドは
知り合ったんだろう
ということを想像しますよね。
- 佐藤
- そう。
音を聞きながらそのジャケットを見ていると、
もともとまったく違う世界観みたいなものが、
視覚と聴覚で混ざることによって、
なんともいえない感覚、
不思議な感じになるっていうか。
それも本当におもしろかったですよね。 - 昔「ジャケ買い」って言って、
レコード屋さん行って、
ジャケットをバタバタって
軽い手さばきで見ながら選ぶんですよね。
だんだん慣れてくると、
バタバタ、サッ、
バタバタ、サッ、
じーっとジャケット見て、
これはなんかありそうだなって、
聞いたこともないやつを買ってきたりね。
- 糸井
- このジャケットをつくるバンドは
いいに決まってるっていうか。
- 佐藤
- うん、なんか気配でわかる。
- 糸井
- すごい好きなバンドやソングライターが
変なジャケットを出したときには
なんでだろう‥‥と。
- 佐藤
- はい、ありますね。
- 糸井
- 例えば、ボブ・ディランとかね、
その都度、「そうきたか!」みたいな。
- 佐藤
- はいはい、ありますね、裏切り。
いい意味での裏切り。
- 糸井
- そういうときの、
「まず好きになろうとしながら見る」
みたいな感覚ってありますよね。
あれはいいクセがついたような気がします。
わかろうとするっていうか。
- 佐藤
- そうですね。
あそこでやっぱりイマジネーションを
すごく膨らませましたね。 - 音楽は流れてるんだけども、
ジャケットの絵は止まってる。
その止まってるものを見ていろいろ想像するから、
脳の中ではすごい動いてるというか。
- 糸井
- レコードの値段がある程度高かったから、
それをみんなで聴けるよっていう喫茶店とか
バーとかがあって。ロック喫茶とか。
- 佐藤
- ああ、行きましたねぇ。
- 糸井
- ジャズ喫茶とか、
今かかってる音楽はこれだよ、
っていうジャケットを飾ってあった。
- 佐藤
- そうです。
- 糸井
- このジャケットの曲が
今流れてるんだよっていう、
あんなすごい宣伝媒体、ないですね。
- 佐藤
- 私は吉祥寺の「赤毛とソバカス」っていう
ロック喫茶へ行ってました。
あそこはリクエストできるので、
自分のリクエストの順番が回ってくると、
アルバムを置いてくれて、
喫茶店全体にガンガン流れるわけですよね。
それが置かれると、
「どうだ俺が選んだんだぞ、いいだろう」
みたいな顔して。
- 糸井
- (笑)
- 佐藤
- 誰も知らないのに、
誰もそんなの気がつかないんだけど、
なんだかすごくうれしくて。
- 糸井
- わかる。
- 佐藤
- このセンス見て欲しいな、みたいな(笑)。
- 糸井
- ぼくはいま言われて、
もう何十年ぶりに思い出したんだけど、
その曲、知ってるに決まってるような顔をして、
聞いてるわけですよ。
- 佐藤
- そうそう(笑)
- 糸井
- 知らないんだよ、実は。
聞いたことあるような気はするけど、
なんだっけ‥‥
これ系だよなぁ、誰だっけなぁ、
みたいなときに、
トイレに行くふりして、
ジャケット飾ってあるところ通って、
ちょっと見て、
ああ、リトル・フィートの新しいやつか
みたいな(笑)
- 佐藤
- じーっと見ると知らないことがバレるんで、
さりげなく、ふーん‥‥って。 - 記憶にスキャンするぐらいの気持ちで
思いっきりそこで集中して、ふーん‥‥。
で、レコード屋行って、これだー!みたいな(笑)
- 糸井
- そう、あの見栄っ張り。
- 佐藤
- いやいやいや、本当に鍛えられました。
どうしようもなく惹かれるもの
- 糸井
- そのころに、デザインを学んでいるんじゃないけど、
何を好きかとか、
何がいいんだろうとか、
尊敬してる人が何をいいと思ってるんだろうとか、
好き嫌いをものすごく学んでいたんですね。
- 佐藤
- はい、自然と。
- どうしようもなく惹かれるもの、
理屈を超えて、どうしようもなく惹かれるもの。
でも、そういうものを
ちゃんと感じるセンサーみたいなものが
常に産毛立ってるっていうか。
- 糸井
- 産毛立ってる。
うんうん。
- 佐藤
- そんな感覚っていうか。
そういうことを自然と鍛えられたっていうのか、
体の中に非常に大切なものとして、
刷り込まれたような感じはあるかもしれないですね。 - いろんなものが簡単には手に入らないですから、
あそこの小さなレコード屋に行くと
いつも何かに出会えるぞ、
というふうなことをわかっていて、
時間があるとそこを狙って、
足を運んで、体を使って探して、
フルに感覚を総動員するっていうか。
- 糸井
- そうですね。
- 佐藤
- すべての感覚を総動員して1曲に出会う
みたいな感じ、そのよろこび。
- 糸井
- 昔はベストテンの順番に聴くなんてことは
絶対なかった。
- 佐藤
- ありえないですね。
そもそも、ベストテンが発表されてなかったんで。
ある時期から、テレビで歌謡曲のベストテン
みたいな番組はじまりましたけど、
それ以前は、そんなこと関係なくて。
- 糸井
- 何位でも構わない。
- 佐藤
- 構わない。
まだ誰も気がついてないものに出会いたい、
というか。
- 糸井
- うん、わかる(笑)。
- 佐藤
- おお、これけっこうきてるぞと思ったら、
あれ、すっごくいいよ、って友達に伝える。 - 自分が見つけて、
自分の感覚で感動したことを人に伝えたい。
そういうことでしたもんね。
- 糸井
- だから、あのときの不自由さだと思ってたものが、
すごい栄養だったというか。 - 1個のりんごの栄養分を全部取り出して、
錠剤にして全部飲んだら、
りんご1個よりも、よっぽど価値があるんだよ
っていわれても、
それよりは、自分でかじってみて、
「あ、ここ虫がいた」でもなんでも自分で感じる。 - あれをやってるときの方が、
受け手が成長する可能性があるんだな
っていうのは、いま改めて思いますね。
- 佐藤
- そうですねぇ、ほんとに。
そういうところで思いがけない物事に
いっぱい出会いますもんね。 - 目的だけではなくて、
いろんな体験や、そのほかのことが、
その途中やその後に付随してますから、
そこでまたおもしろいものに
自然と出会えますもんね。
佐藤卓さんの授業のすべては、
「ほぼ日の學校」で映像でご覧いただけます。
「ほぼ日の學校」では、ふだんの生活では出会えないような
あの人この人の、飾らない本音のお話を聞いていただけます。
授業(動画)の視聴はスマートフォンアプリ
もしくはWEBサイトから。
月額680円、はじめの1ヶ月は無料体験いただけます。
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2023-01-13-FRI
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2022-12-26-MON
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