冗談だと思って見はじめたら、すっかり染み入っていた。
そういえば、みうらじゅんさんは
実際にずっとベンチャービジネスをやってきた人だ。
笑わせられているうちに、
とても本質的なみうら流「冒険と仕事」の話が届いてきます。
動画で配信中の「ほぼ日の學校」の授業
一部を読みものでご覧ください。

>みうらじゅんさんプロフィール

みうらじゅん(みうらじゅん)

1958年、京都生まれ。
武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。
以後、作家、ミュージシャンなど多方面で活躍。
1997年にはみうらさんの言葉「マイブーム」が
新語・流行語大賞のトップテンに選出。
「ゆるキャラ」の名づけ親でもある。
2018年、仏教伝道文化賞沼田奨励賞受賞。
著書に『マイ仏教』、『「ない仕事」の作り方』
(2021年本屋大賞「超発掘本!」に選出)、
『マイ遺品セレクション』、『ひみつのダイアリー』、
『メランコリック・サマー』など。

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著書「「ない仕事」の作り方」
著書「マイ仏教」

  • みうら
    ここ、ちょっと寝にくいビルですね。

    ──
    あのぅ、みうらさん。
    そろそろほぼ日の學校の
    収録をはじめたいんですが、
    起きていただけますか?
    みうら
    はい、わかりました。
    これ、説明をしないとね。
    ──
    このワニはいったい何ですか?
    みうら
    ぼくが‥‥というか、
    世間的にいま、
    ワニブームがきてるじゃないですか。
    ──
    え、そうなんですか。
    みうら
    すごくきてるでしょ?
    去年は熱川バナナワニ園が
    みうらじゅん賞を受賞したんですけど、
    そのくらい、すごくワニブームがきてる。
    このことは、もうご存じだと思うんですけど。
    ──
    あっ‥‥はい。もう、はいっ。
    みうら
    当然そうなると、
    ワニにまつわるグッズは
    見つけ次第買って行かないといけない。
    街で目に付いたワニグッズは、
    目を瞑るような気持ちで買ってるんですよ。
    ──
    流行り物は手に入れないといけない、と。
    みうら
    ところで、
    ペット布団はご存じですよね、もちろん。
    ──
    すいません、ちょっと‥‥。
    みうら
    知りませんか?
    ぼくがデビューしたてのころ、
    原宿に事務所をかまえたんですが、
    その部屋には押し入れがなかったんですよ。
    ワンルームマンションのハシリの
    おしゃれなところだったので。

    仕事して寝泊まりすることもありましたので、
    布団を買わなきゃいけないんだけど、
    布団むき出しだと、おしゃれに反するでしょ。
    だから、なにかいいものないかなと。
    そのとき生まれて初めて
    「通販」というものに出会いました。
    ぼくの初めての通販生活は、
    「ペット布団おやすみ犬ちゃん」
    というやつだったんですよ。
    ──
    (笑)
    みうら
    カタログによると、
    ペット布団には2種類ありました。
    犬ちゃんと熊ちゃんです。
    これはワニの布団ですけども、
    犬ちゃんと熊ちゃんは、
    頭の部分が犬か熊なんですよ。
    ──
    はい‥‥。
    みうら
    これ、なんの話でしたっけ?
    ペット布団の話ですよね。
    ──
    あ、はい、ペット布団の話です。
    (でも本当は、ほぼ日の學校の授業‥‥)
    みうら
    そうですよね、説明しとかないと、
    意味が分かんないから。
    これぼくが買ったペット布団の二代目なんですよ。
    ──
    犬ちゃん以来のペット布団が、ワニ。
    みうら
    ペット布団とワニブームが合体したという話でした。
    ──
    なるほど。
    はからずも今日はみうらさん、
    原点に帰られたわけですね。
    みうら
    そうですね。
    ──
    通販で買った最初の品がペット布団で。
    みうら
    でもね、やっぱりビルの床は冷たい。
    これはダメだ。
    ここには向いてないなと思いました。
    ──
    じゃあここでワニさんを‥‥脱げますか?
    みうら
    ぜんぜん大丈夫です。
    ペット布団には、慣れてますから。

    ベンチャービジネスの起源

    ──
    改めまして、今日は、ほぼ日の學校の
    「みうらじゅんに訊け!」スペシャルということで、
    ベンチャービジネスについて、
    お伺いしたいと思います。
    みうら
    ぼくがベンチャービジネスについてしゃべれば、
    誰かのためになるということですか?
    ──
    もちろんです。
    みうら
    当然そうですよね。
    學校ですもんね。
    ためになりたいですもんね。
    せっかくだったらね。
    ──
    はい、ぜひバシバシ、よろしくお願いします。
    ベンチャービジネスについて。
    みうら
    ぼくそれ‥‥何回か耳にしたことはあるけども、
    言ったことはないです。
    ──
    ベンチャービジネスと。
    みうら
    「ベンチャービジネス」っていう言葉を
    人生で一度も語ってないという意味で、
    ぼくはナンバーワンかもしれない。
    ──
    そうなんですか。
    ベンチャービジネス‥‥。
    みうら
    ベンチャービジネスでしょ?
    もうだいたいは分かった。
    ──
    はい、お願いします。
    みうらじゅんさんといえば、
    漫画家、イラストレーターとしてご活躍ですが、
    作家、ミュージシャンなど、
    多方面で活動なさっています。
    1997年には「マイブーム」が、
    新語・流行語大賞のトップ10に選出。
    「ゆるキャラ」の名付け親でもあります。

    みうら
    ‥‥あれ、いったい何でしょうか、
    いま、結婚式みたいな感じなの?
    新郎紹介の感じなんですか?
    ──
    ベンチャービジネスの機運を高めるための
    ご紹介です。
    みうら
    あ、「この人は起業家だ!」
    という感じにしたいんだ。
    ──
    そうです、そうです。
    みうら
    ああー、わかった、OK。
    ──
    文庫化された著作『ない仕事の作り方』
    のタイトルからもわかるように、
    ベンチャービジネス界の旗手と言っても
    過言ではありません。
    みうら
    なるほど、そうきたか。
    ──
    みうらさんにとっては、
    釈迦に説法かと思いますが、
    ベンチャービジネスの意味を辞書で引くと‥‥
    みうら
    いや、もうだいたい分かるから、
    それはいいですよ。
    ──
    えっ、ベンチャービジネスとは何かを、
    ここで言わなくていいですか。
    みうら
    俺が知ってるベンチャーは、あれだったんだよ。
    ──
    なんでしょうか?
    みうら
    ぼくらのころは、複数形だったんだよ。
    ──
    ‥‥???
    みうら
    「ベンチャーズ」って言われててさ。
    複数形で、いっぱいいたんだよ。
    ──
    えっ(笑)。
    みうら
    そこ、重要な点なんですよ。
    グループでやってたベンチャーズという人たちです。
    外国からやってきたみなさんで、
    日本の曲調がやたらうまいんですよ。
    ぼくが最初に買ったシングルレコードは
    渚ゆう子の『京都慕情』という曲でした。
    いまだに口ずさむぐらい、好きなんです。
    京都についてはじつはそんなに馴染みがなくて、
    あんまり知らないんですけど、
    逆に、ベンチャーズを通じて、
    ぼくは京都を知ってるんですよ。
    いまでも京都って、
    外国のみなさんが持つ京都のイメージを
    受け継いでると思うんです。
    それがのちのベンチャー企業になっていくんです。
    ──
    ‥‥な、なるほど。
    みうら
    ベンチャーズは、
    日本人よりも日本のメロディーに詳しいんですよ。
    京都と言えば、もうベンチャーズなんですよ。

    ベンチャービジネスの本質

    みうら
    本来、ベンチャー企業は、
    「企業」と付いてるから、
    「仕事」を目指してるんだろうけど、
    ほんとは「仕事」ではいけないんです。
    ベンチャーというのは。
    ──
    はい‥‥。
    みうら
    「アドベンチャー」
    という言葉があるじゃないですか。
    そこから何が抜けているかということですよ。
    ──
    ‥‥ああ、「アド」が抜けてますね。
    みうら
    「アド」は広告という意味でしょう。
    広告を入れないベンチャーということで、
    「冒険もほどほどにしたほうがいい」
    ということなんですよ。
    ──
    (笑)ああー、なるほど。
    みうら
    起業を考えて冒険をしようなんて言っても、
    「アド」が取れてるわけですからね。
    起業するときには、
    あんまり偉そうにしてはいけないと思ってます。
    「アド」が取れてるから、
    もっと低姿勢にやるべきだと思います。
    ──
    「アド」が取れていることに、
    その人たちは気づいてないんですね。
    みうら
    ええ、気づいてないです。
    自分らに広告がついてるんだと思って、
    すごく堂々としてしまうんです。

    ──
    もっと自覚したほうがいいですね。
    みうら
    「ほどほどに」です。
    「冒険はほどほどに」がベンチャーの意味である。
    このことだけは分かってほしい。
    ──
    けっこうためになって、
    いま驚きました。
    みうら
    そうでしょうか。
    ──
    ベンチャーズから、
    ベンチャービジネスが来てることを、
    まったく知らなかったです。
    みうら
    あ、ご存じなかったですか?
    ぼくは、その言葉を聞いたとき、
    「古いな」とすら思ったもん。
    ぼくが小学校のときからありましたよ。
    ずーっと日本にいるんじゃないかな
    と思うぐらいいた、ベンチャーズは。
    ──
    あの三味線サウンドのギターが、
    そういう意味だったんですね。
    みうら
    そうです。
    ──
    「特化したもの」を、
    どんどんやっていくビジネスを、
    ベンチャーズさんたちがはじめられた。
    みうら
    そう、腰低くね。
    腰は低くないとベンチャーはできない。
    ──
    ベンチャーズのそもそもの由来が
    すごく知りたくなってきましたけども‥‥。

    これまで手がけたベンチャービジネス

    ──
    みうらさんがこれまで手がけた、
    「アド」が取れたベンチャービジネスの中で、
    最も印象に残った大きな事業は何ですか?
    みうら
    自分がしたことですか‥‥。
    まずぼくのやってることは、
    全部「アド」取れてますので、
    そういう意味では大丈夫なんです。
    先ほど「ベンチャービジネス界の旗手」
    と紹介してくださったから、
    照れくさいですけど、言わせてもらいますと、
    ぼくの場合、やっぱり「依頼がない」
    というところが強いんですよね。
    ぼくね、「依頼がない」とか、
    「金にならない」とかが、よほど好きみたいで、
    このコロナ禍でステイホームして家にいると、
    金にならないことが
    やりたくてしょうがなくなってくるんです。
    家にずっといると、
    頼まれもしないのに無意識のうちに、
    世界堂にキャンバスを買いに行ってるんですよ。
    自転車で新宿まで行って、
    10号ぐらいの大きさの絵を
    はじめに1枚描きました。
    それいま、78枚に広がってんですよ。
    全部つながってて、もう大パノラマなんです。
    ──
    ええー(笑)!
    みうら
    極楽と地獄があって、
    その中に飛び出し坊やとかが描いてあります。
    その絵には、自分がいままで影響を受けたものが
    すべて詰まってるんですよ。

    依頼がないのをいいことに思いの丈を描いてたら、
    それがどんどん広がって、
    部屋に置けないほどになりました。
    それが、昨今のベンチャービジネスですかね、俺の。
    ──
    いわゆる曼荼羅みたいなことですか?
    みうら
    概念として仏像も描いてありますから、
    曼荼羅だとも思いましたが、
    どんどんそこから外れて行くんですよ。
    なぜなら依頼がないから。
    もし依頼があって、
    「曼荼羅描いてください」と言われれば、
    曼荼羅に近づけようとするんだけど、
    依頼がないってすごくて、
    どんどん逸れていくんです。
    仏像の横に海女が立ってたり、
    「それ、意味ねぇだろう」ということが、
    どんどんいっぱい入ってきて、
    もうビッチビチに絵が細かいんです。
    それねぇ‥‥
    たぶん依頼があったら断ってたと思うんです。
    ──
    (笑)
    みうら
    それをいま、まだ描いてますから。
    下の絵を消すように、上から描いてるんですよ。
    それ、スクラップのやり方なんですけど、
    せっかく描いたものが、
    半分しか見えなかったりもするんです。
    なんで、そういうことができるかというと、
    何度も言いますが、依頼がないからなんですよ。
    誰にも叱られない。
    そこにベンチャーの秘密があるんじゃないかと。

    ブロンソンズとベンチャービジネス

    みうら
    ぼくは中学生のとき、
    俳優のチャールズ・ブロンソンのことが、
    すごく好きでした。
    田口トモロヲさんと初めて会ったとき、
    飲み屋でブロンソンの話になりました。
    その日、飲み屋で田口さんと
    「ブロンソンズ結成だ!」と言い合ったんだけど、
    ブロンソンズというものが何なのか、
    何にもピンと来てないのに結成しちゃったんですよ。
    それはたぶん、軽いノイローゼってやつなんですよ。
    ──
    (笑)
    みうら
    ベンチャーが起業するときって、
    軽いノイローゼが起こって、
    「ない」ものが「ある」ように
    思っちゃうんですよね。
    「ブロンソンズだ!」って決めたときに、
    「そうだ結成だ!」とか言ってるんだけど、
    やる内容は決めてない。
    それで、なんか安心して帰ったんですよ。
    それでいいんですよね。
    ──
    言っただけで、それでいい。
    みうら
    それでよかったんです。
    だけど、その後、
    結成したんだから、
    CD出した方がいいんじゃないかとか、
    のちにいろんなとこ売り込んだりして。
    「ぼくらブロンソンズなんですけど、
    連載させてもらえませんか」
    と電話したり。
    ──
    こっちから依頼に?
    みうら
    こっちから言いに行くしか‥‥。
    あっちから来ることはまずないです、
    そもそも、ぼくの考えたことは。
    「ブロンソンズなんですけど」って言われても、
    あっちも困るわけで、まあ、
    なかば脅しですよね。
    「ブロンソンズなんですけど、
    2ページ欲しいんですが」とか言ってました。
    当然、受けてくれないとこも多かったですけど、
    やってくれてるところもあって。
    それでなんとなく形になったので、
    途中から「これは仕事だ」と
    自分たちで思ったのかもしれません。
    その後になんでか知らないけど、
    ブロンソンズに、
    ある車のメーカーから広告の出演依頼がありました。
    新聞広告だったんですけどね。
    つけヒゲしたぼくらの写真に、コピーが
    「う〜ん、満足!」って書いてあるんですよ。
    ──
    わはははは。
    みうら
    「それ違うだろ」と思ったけど、
    そういう新聞広告でした。
    そのとき、ちょっと
    お金もらっちゃったんですよ、俺ら。
    広告ですから。
    それまでぼくら「ブロンソンズだ!」
    「ブロンソンズは
    とりあえず飲まなきゃいけないんだ!」
    なんて、よくわからないルールを作って、
    新宿の歌舞伎町でよく飲んでて、
    ずいぶんお金落としてきたんですけど、
    それは活動費用ですからね。
    まぁ、いいわけなんですけど。
    のちに広告が来て大枚が入ったので、
    チャラになったとふたりは思ったんでしょう、
    「もと取った」みたいなことになり、
    活動が急に停止しちゃったんですよ。
    ──
    なんででしょう(笑)。
    みうら
    冒険はほどほどにしなきゃいけないところ、
    アドがついて、しなくなっちゃった、
    ということが、よくないことですよね。
    ──
    そこにベンチャービジネスの落とし穴がある
    ってことですね。
    みうら
    でも、そのグループはね、
    まぁ、仮想のグループなんですけど、
    まだやってるんですよ。
    そこが重要な点で、
    ぼくのいままでやってきた「ない仕事」って、
    出だしから「ない」から、
    「なくすことも、ない」んですよ。
    「ないのに解散」ってヘンじゃないですか。
    「あるから解散」なのに。
    だから、
    「ない」ほうが解散しないんですよ、すべての事は。
    ──
    はい、なるほど。
    みうら
    ワニブームだって、
    当然そろそろ飽きるんですけど、
    解散はないんですよ。
    「まだやってんのかよ」って言われるまで、
    ずっと続いていきますから。
    ──
    そうですね。
    みうら
    一つの事を、そもそもないのに、
    もうやめただろうなと思ってたら、
    どっこい、まだやってる。
    そういうフリをしたりすることも、
    ベンチャー企業にとっては重要じゃないかな、
    と思います。
    流行り物だけをやってるわけじゃない
    ということですよね。

     

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