ホストクラブ、キャバクラ、シャンパンタワー‥‥
現実から一歩離れたような場所、新宿歌舞伎町を、
ライターの佐々木チワワさんは
「社会学」の視点で研究しています。
自身も歌舞伎町の住人でありながら、
冷静に夜の街を見つめる佐々木さん。
お金でつながり、演技し合う歌舞伎町の人間関係の裏には、
「現代の誰もが持っている本心」が隠れているといいます。
知らなかった歌舞伎町が見えてくるお話、
ほぼ日の玉木がうかがいました。

>佐々木チワワさんプロフィール

佐々木チワワ(ささき・ちわわ)

文筆家。2000年生まれ。
慶應義塾大学総合政策学部卒業、
立命館大学院社会学研究科在学中。
高校生の頃から歌舞伎町に足を運び、
トー横キッズやホストクラブの現場を取材し、
「歌舞伎町の社会学」を研究。
自身もホスト通いを重ね、
消費者としても参与観察を続ける。
著書に『「ぴえん」という病』(扶桑社新書)、
『歌舞伎町モラトリアム』(KADOKAWA)、
『ホスト!立ちんぼ!トー横!
オーバードーズな人たち』(講談社)
『歌舞伎町に沼る若者たち 搾取と依存の構造』
(PHP新書)がある。

前へ目次ページへ次へ

第1回 ホストを「労働者」として見たら

──
佐々木さんは、現役で、
大学院で学んでらっしゃるんですね。
佐々木
はい。修士課程の1年生です。
新宿歌舞伎町を研究のフィールドにしながら、
京都の立命館大学社会学研究科に通っているので、
東京と京都の往復生活です。

──
現在は、歌舞伎町にはフィールドワークのために
行っていらっしゃるとお聞きしました。
いろんな人が集まる歌舞伎町のなかでも、
かなり珍しい関わり方だという気がします。
佐々木
普通にホストが好きなただの女の子が、
あとから言い訳として研究をしたら、
ここまで来ちゃったというのが、
たぶん正しいです(笑)。
いまは、歌舞伎町を研究してはいるけれど、
自分も現在進行系で歌舞伎町の当事者である、
「参与観察者」として関わり続けています。
──
普通のお客さんとして、
ホストクラブに通ってらっしゃった
時期があるんですね。
佐々木
最初は、15歳のころに
歌舞伎町に足を踏み入れました。
ホストクラブに入れるのは18歳からなので、
当時はもちろんお店に行ってはいなかったですが、
夜の街を歩くだけでも、非現実的な感じがして
楽しかったんです。
私は、ずっと内部進学で国立の女子校に通っていて、
ある意味、「いい学校の生徒」として見られることが
多かったんです。
でも、歌舞伎町に行くと、
ここでは「ただの女の子」であればいい、
という気分になれて。
肩書きから解放されて、
ラクになった感覚がありました。
それから、歌舞伎町でいろんな人を見て、
「大学進学がすべてじゃないな」
と思えたのも収穫でした。
そんなふうに、中高では
「歌舞伎町の大人の世界を知ってる」
とイキった学生時代を過ごしていたんですが、
晴れて18歳になってホストクラブに行ってみたら、
全然良さがわからなかったんですよ。
「なんでお金払って
会いに行かなきゃいけないんだろう」
「ホストは私のことを好きって言ってくるのに、
なんで普段は会えないんだろう」と思って。
そんなとき、歌舞伎町で偶然
自殺未遂の現場に立ち会ったことがありました。
たまたま、深夜2時くらいに、友人と
「歌舞伎町に飛び降りで有名なビルがあるんだって」
という話になって、行ってみたんです。
そうしたら、ビルの屋上にホストの方がいて、
「僕の姫(ホストクラブのお客さん)が、
いまここから飛び降りようとしてるんです。
止めるのを手伝ってくれませんか」って言われて。
飛び降りようとしていた女の子をなんとか止めて、
「どうしてこんなことに」と話を聞いたんです。
そのとき、たぶんホストに使えるお金が
捻出できなくなってしまった女の子に
「だって、お金を使わないと、
私って生きてる価値ないじゃないですか」と
言われたことが、すごく頭に残りました。
ちょうど当時、私は
大学で社会学の授業やオーラル・ヒストリーの授業を
とっていました。
なかでも、当時受けに行った他大の授業で、
武岡暢(たけおかとおる)先生が
「歌舞伎町を社会学的に捉える」という研究を
なさっているのを知りました。
そのことが、「自分が面白いと思っている町や、
そのなかの気になるできごとを、
社会学のような学問の視点から
見ることができるんだ」と、
歌舞伎町での経験と社会学をつないでくれました。
同じころに、それまで理解できなかった
ホストクラブの楽しみ方がわかってきて。
大学の飲み会って、3千円ぐらい払って
先輩に気を遣う場じゃないですか。

──
たしかに、往々にして。
佐々木
私はそこで、1万円を払って
イケメンに気を遣われたくなってきたんです。
──
はぁー。
佐々木
そうして、ホストクラブでお金を使うことに
抵抗がなくなっていって。
でも、通ううちに、
ホストクラブは過酷な労働をホストに強いている
ことに気づき始めました。
私は客として、どれだけグロテスクなことを
ホストに要求してきたんだろう、
といったことから
目をそむけられなくなってきたんです。
ホストには、女の子からお金を巻き上げるような
印象がありますし、
いろいろな問題があると言われます。
だけど、実際にホストという職業の人たちが、
お金を動かすために、
接客以外にどんな労働をしているのかが
知りたいと思い、卒業論文にまとめました。
その研究を書籍化していただいたのがきっかけで、
いまも「歌舞伎町の社会学をやっています」と
言っています。
──
ホストに対して大きなお金が動くことを、
世間は「ホストが女の子をだましてるんだ」と
捉えがちですが、
価値が動いているからには「だます」以外の
なんらかの労働がおこなわれているのではないか、
という気づきから研究が始まったのですね。

(明日に続きます)

2026-04-30-THU

前へ目次ページへ次へ