
みんなの記憶に残る夏でした。
2006年、夏の甲子園決勝。
引き分け再試合を制した早稲田実業で、
マウンドに立ち続けた斎藤佑樹さん。
その夏から「ハンカチ王子」と呼ばれ、
つねに注目を浴び続ける人生を歩みました。
思い描いていた成績は残せなかったものの
「今度こそは!」と期待させる魅力があって、
糸井重里も、関心を寄せていたひとり。
「株式会社 斎藤佑樹」を立ち上げ、
自身の可能性を模索中の斎藤さんのもとを
糸井が訪ねて対談をしました。
斎藤さんの人生にはいつも、
野球とハンカチが交わっているんです。
斎藤佑樹(さいとう・ゆうき)
- 糸井
- 斎藤さんは高校で注目されてから、
人からは言われ放題だし、
自分からは何を言っても角が立つという環境に
ずっといたんですもんね。
それって、何千人分くらい学んじゃってますね。
- 斎藤
- たしかにそうですね。
やっぱり苦労したことでもあって、
一つひとつの言葉の揚げ足を取られたり、
切り取られたりしていたこともありました。
それも踏まえて、いろいろと勉強できたな、
成長できたなって思います。
- 糸井
- 18歳の男の子や、大学生になってからでも、
なかなかない経験だと思うんですよ。
ちょっと不調だっていうだけで
いろいろ言われ放題だったじゃないですか。
で、褒めてくれるのも褒め放題だし。
だんだんとそれを薄くしていかないと、
ダメになっちゃいますよね。
それはどうしてたんですか。
- 斎藤
- 褒められたらうれしかったし、
けなされたら、やっぱりムカつきました。
でも、褒められているから、
誰かが悪口を言ってくるわけです。
それはすごく比例していて、
この両方に一喜一憂しちゃうと、
心が本当にダメになってしまうなって
当時も感じていたんですよね。 - だから、褒められても淡々と、
けなされても、悪口を言われても淡々と。
この両方を抑えることで、
自分の気持ちを保とうとしていた時期はありました。
- 糸井
- 自分ひとりでそれをやるわけだけど、
実はすごいストレスがかかりますよね。
その、むしゃくしゃするのはどうしてたんですか。
- 斎藤
- うーん、我慢するしかなかったです。
先輩たちは「もっとハジけたらいいじゃん」とか
無責任に言うんですけど、
本当にそんなことしたら、
とんでもないことになるんですよ。
だから、すごく慎重に、
人生を一歩ずつ踏み出していく感覚でした。
- 糸井
- 他人って、人の人生に「一生」っていう
長い道があるんだっていうことを
あんまり忖度してくれないですよね。
だから「怒れよ」とか平気で言ってくるの。
そこで、怒ってもいいんですよ。
いつでも怒りたいんですけど、
その後はどうなるんだって訊きたくなる。
- 斎藤
- 本当ですよね。
- 糸井
- それを何年もやったでしょ、斎藤さん。
それだけで偉いと思う。
- 斎藤
- ありがとうございます。
でも、きっと糸井さんにも
そういうことはありましたよね。
- 糸井
- 「ハンカチ王子」に比べたら、
ぼくはゆるいですよ。
でも、言われるようなことはありますし、
こういうことを言ったら、
必ずそういうふうに攻撃されるんだなって
もうわかってるんですよ。
- 斎藤
- それ、いつ頃に気づかれました?
- 糸井
- 30歳を過ぎたくらいかな。
その、意味もなく褒められてからですよ。
もう笑っちゃうんだけど、
女性雑誌とかで特集されたりすると、
王子じゃないけど、関係ないじゃないですか。
ポーズを取ってニヤッとして、
おっかしいんですよね、どう考えても。
- 斎藤
- カッコいいですよ。
- 糸井
- それをやると人は怒るんですよね、やっぱり。
ぼくの仕事は大本が黒子ですから
「お前は何様だよ」って怒られるんです。
- 斎藤
- そうか、そうか。
応援してる人がいる反面、
そうやって言う人もいるんですね。
- 糸井
- だから、ぼくの話は
斎藤さんに比べたらゆるいんですよ。
プロ野球選手は、ワーッて言われるのが目的で
やっているわけですから。
「抑えた! 三振! ガッツポーズ! ワーッ!」
それがやりたくて野球をやってるのに、
その段階が上がれば上がるほど、
「あれはだめだよ」みたいになっていく。
そんなこと言ったら、何やったってだめですよね。
- 斎藤
- そうですね。
温度感のさじ加減ってすごく難しいですね。
小さいころは「メジャーリーグに行く」と言っても、
「ああ、いい夢だね。頑張れよ」って
言われるじゃないですか。
これが25歳くらいになってから言うと、
「何を調子乗ってんだ。生意気だ」となる。
ぼくはそう言われますけど、
言われない選手も当然いるわけです。
それは、能力の問題とかじゃなくて、
自分で押し引きをしていかないといけない。
- 糸井
- うん。
- 斎藤
- ぼくがプロに入ってから
葛藤を感じていたことがあって、
常に謙虚でというか、
「いや、そんなの無理ですよ」とか言うのは
簡単だと思うんですよ。
でも、やっぱり野球界のためにといいますか、
大学に進学した人間が成功していく過程を
発信したかったっていう思いもあって。
- 糸井
- ああ、ああ。
- 斎藤
- 「野球って、おもしろくないよね」
と言われることが、すごく嫌だったんですよ。
野球に興味がない方たちに対して、
どうやって話題を提供していくかは、
勝手に使命感だと思っていたんです。 - そう考えたら、ちょっと尖った発言とか、
ちょっと攻めてみようかなとか、
ちょっとおもしろいこと言ってみようかなって、
野球じゃないところでの、
自分なりの挑戦みたいなものはありました。
そこに反省もありますが、
多くの方たちに見てもらえる機会にはなりました。
いいか、悪いかはさて置き、
それが自分の役割でもあったのかなと。
- 糸井
- あらかじめ注目があるっていう場所でやることだから、
失敗が難しくなるなっていうのがあって、
思いきったことはやりにくくなりますよね。
そこで、壊れちゃってもいいやっていうことで、
取り返しがつくんだったらおもしろいけど。
- 斎藤
- ああ。
- 糸井
- たとえば、有名人が人気絶頂のタイミングで
問題を起こして人気が下がることがあっても、
またバンと上がってきますよね。
長持ちしているように見える人って、
必ずやらかしてるんですよね。
だから、何を勝ちで何を負けとするかは、
負けてから、また決め直したっていいんです。
っていうか、ルール設定から
もう一回変えてもいいみたいなところがあって。
- 斎藤
- おもしろいです。
- 糸井
- 斎藤さんを見ていると、
何が勝ちで何が負けかを
初めから「俺が決める」って
言っているふうに見えるんです。
- 斎藤
- ああ‥‥。
(つづきます)
2024-02-03-SAT
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2006年の夏に「ハンカチ王子」と呼ばれ、
ハンカチフィーバー、ハンカチ世代と、
大きな注目を集めた、斎藤佑樹さん。
甲子園の優勝投手であることよりも、
ひとり歩きしていったハンカチと、
いま、改めて向き合ったのだそうです。
斎藤ハンカチ店の店主、
斎藤佑樹さんプロデュースのハンカチ。
うっすらと文字が見えてくるハンカチは
贈りものとしてはもちろん、
じぶんに向けたメッセージとしてもどうぞ。