──

先ほど話に出た原一男監督が、
ドキュメンタリーとフィクションとは
同じであると‥‥
より正確に言うと、
ドキュメンタリーもフィクションだと、
おっしゃっているんですね。

アリス

わたしも、そう思います。

──

ああ、そうですか。

今回のこの映画は、
ドキュメンタリーとしてつくることも
できたと思うんです。
アリス監督は、
もともとドキュメンタリーをたくさん
撮ってきた方でもあるし。

アリス

ええ。

──

同じ題材、同じテーマを
フィクションとしてつくったときと、
ドキュメンタリーとしてつくったとき、
その観客への「伝わり方」には、
どこかに、
何らかの「違い」があると思いますか。

アリス

まず、伝わり方そのものは、
わたしは、変わらないと思っています。

ただし、社会への受け止められ方には、
違いがありますね。

──

と、おっしゃいますと？

アリス

資本主義社会における映画産業の中で、
フィクションと
ドキュメンタリーとでは、
ポジショニングがまったく違うんです。

ようするに、フィクションの場合は
受け入れられやすいし、
メディアにも取り上げられやすいです。
わたしは20年間、
ドキュメンタリーをつくってきました。
その間、作品の公開で
こうして日本に来日するなんてことは、
考えも及ばないことでした。

──

ああ‥‥そうですか。

アリス

今回、はじめて撮ったフィクションで
注目され、そのおかげで、
こうして世界の国々をまわって
プロモーションすることができている。

わたしの作品が、
これだけ世界の国で公開されることは、
じつに例外的な出来事です。
これは、
「フィクションだから」という理由も、
大きいと思っています。

──

観客への伝わり方は同じだけど、
受容のされ方に、違いがあるんですね。

フィクションとドキュメンタリーでは。

アリス

日本を含めて、世界各国で
映画を買ってくれた配給会社の人には、
とても感謝しています。

これほど作家主義的な作品‥‥
つまり、
映画に込められた「政治的な含意」を
きちんと理解して、
自分の国にも、
こういう映画を愛する人がいるんだと
信じてくれたからこそ、
映画の購入を決めてくれたわけなので。

──

そうですね、ええ。

アリス

とりわけ、何か自分が伝えたいことに
政治的な含意がある場合には、
ドキュメンタリーではなく、
フィクションを選ぶと、
より多くの人に届く可能性がある‥‥
ということが、今回よくわかりました。

──

自分がつくったものを世に出すときは
「不安」だと思うんです。
言いたいことが受け入れられるかとか、
どれだけの人が観てくれるかとか。

今回の『サントメール』の場合、
公開の前には、どう思っていましたか。
単純に、こんなに世界中の人が、
作品を観てくれると思っていましたか。

アリス

はい、今回の作品の誕生秘話を話すと、
非常に感慨深いものがあります。
試写会では、
多くの関係者が心を動かしてくれて、
少なくない人が涙を流してくれました。

しかし、当初の配給会社が、
こんな作品は絶対に当たらないと言い、
降りてしまったんですよ。
脚本の段階では、
「配給する」って言ってくれてたのに。

──

えええ‥‥！

アリス

そんなわけで、この作品は、
何ていうんでしょう、
「ふらふらとさまよっていた期間」が、
何ヶ月もあったんです。

カンヌ映画祭にも、選ばれなかったし。

──

そうだったんですか。

アリス

他方で、ヴェネツィア国際映画祭では、
セレクションに関わる何名かの人が、
わたしの作品を、
とっても気に入ってくれたんですね。

──

実際、審査員賞にあたる銀獅子賞と、
新人監督賞を受賞してますね。

アリス

ただ、そのヴェネツィアに入る前にも、
映画への評価には
非常に極端なギャップがあったんです。

とても感動してくれる人がいる一方で、
こんなの当たらないという人もいる。
両者の間に大きな分断があったので、
わたし自身は、
ヴェネツィア国際映画祭に入ったとき、
どっちに転ぶか‥‥と、
非常にナーバスになっていたんですね。

──

ドキドキしちゃいますね、それは。

アリス

ヴェネツィアの会場で上映される前日、
プレス試写会がありました。

そうしたら‥‥その試写会では、
多くの人たちが、
映画を観て泣いてくれたんです。

──

おお。

アリス

そのようすを観て、
ひょっとしたらいけるんじゃないかと
思ったんですが‥‥
はたして結果は、
わたしの予想を、はるかに超えました。

たいへん高い評価と反響をいただいて、
わたしのなかでは、
この映画は、本当に大ヒットなんです。

──

俳優さんなど映画関係をはじめとして、
たくさんの著名人が、
称賛のメッセージを寄せていますよね。

アリス

はい、ありがたいことに。
そしてこの作品のおかげで、わたしは、
こうして足かけ１年もの間、
映画のプロモーションのために
世界中を駆けめぐることになりました。

さまざまな映画祭に出品されて、
各地で、いろんな賞をもらっています。
でも、そんなことは、
事前には、
まったく想像もできなかったことです。

──

ご自身でも、びっくりって感じ？

アリス

はい。なので、ご質問の答えとしては、
世界中の人が、こんなにも、
わたしの作品を観てくれるってことは、
まったく考えていませんでした。

今回の日本への訪問が、
映画のプロモーションのツアーの
最後なんですけれども、
ここまでの「世界をめぐる旅」は、
わたしにとっては、
まったくもって信じられないです。

──

作品が、連れていってくれた旅。

アリス

じつにクレイジーなアドベンチャー、
だったと思います。思い返すに。

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