──

ほぼ日というウェブサイトの奥野です。
はじめまして。

今日は、よろしくお願いいたします。

アリス

こちらこそ。
ホボニチって、どういう意味？

──

はい、「ほぼ日刊イトイ新聞」の略です。

創刊以来25年間、
毎日欠かさず更新してきているんですが、
うちのボスが、
「ホボニチ」を立ち上げたときに、
毎日の更新が続かなかったときのために、
「ほぼ日刊」としたんです。
でも結局、25年間毎日更新しています。

アリス

すばらしい。

──

あ、これ、どら焼きです。甘いもの。
栗がはさまってるみたいです。
もしよければ、あとで、みなさんで。

アリス

いま、味見していい？

──

もちろんです、どうぞ。

アリス

うれしい。ありがとう。

今回、はじめて日本へ来て、
いろんな和菓子があることを発見して、
しかも、
生クリームやバターを使ってなくて、
ごまとか豆乳とか、
健康的で、どれもおいしかったんです。

──

そうですか。それはよかった。

アリス

これ、アンコ入ってる？

──

あ、わかんないです。すいません。

そこで、おいしそうだなと思って、
つい買ってきちゃったんで‥‥。

アリス

大好き。

──

よかったです（笑）。安心しました。

アリス

こんな話で終わっちゃいそう（笑）。

──

それは、まずいですね（笑）。

では、さっそく映画のインタビュー、
よろしくお願いいたします。

アリス

おいしい。

──

ありがとうございます（笑）。

自分は編集者をやっているのですが、
自分でも本を出しています。
何冊かあるんですが、
それらが
ぜんぶインタビューの本なんですね。

アリス

映画監督についての本？

──

いいえ、映画監督も含まれますけど、
映画監督だけの本はありません。
有名無名かかわらず、
いろんなジャンルの人の話の本です。

かっこいいなとか、すてきだなとか、
すばらしい作品をつくるなあと
憧れている人たちのところへ行って、
お話を聞いてまわってるんです。

アリス

はい。

──

どうしてそんなことしてるのかなあって、
ふと考えたとき、
自分は、
この人たちの話を「残したい」と思って
やってるんだってことに、
最近になって、ようやく気づいたんです。

アリス

わたしの前作はドキュメンタリーですが、
『私たち』といって‥‥。

──

拝見しました。

アリス

ありがとう。

あの映画も、
いろんな人との出会いを残しておきたい、
刻みつけておきたい、
そう思ってつくった作品なんです。
それをできるメディアが、
文学だとか映画だと思っているんですよ。

──

まさにそのことを
はじめにお聞きしたかったんですけど、
どうして「残したい」と思うのか、
自分にも問いかけているんですが、
監督は、どんなふうに考えていますか。

アリス

わたしの場合は、
文化だとか出自の問題が大きいですね。
自分自身、セネガルがルーツで、
フランス社会では、
長い間、沈黙を強いられてきたという、
マイノリティの存在です。

フランス社会は、
移民たちが入ってくることによって、
改革され、
変化していったにもかかわらず、
そういった移民の歴史、
フランス社会における移民の足跡って、
これまでの映画では、
あまり語られてこなかったんですね。

──

ええ。なるほど。

アリス

現代文学の領域でも、事情は同じです。

わたしたちの両親世代の移民たちの、
フランス社会への同化の足跡は、
ほとんど語られてはきませんでした。
わたしには、そうやって
可視化されないできた移民の人たちを
目に見えるようにしたい。
そういう思いで、映画を撮っています。

──

監督の『私たち』を観て惹かれたのは、
本当に「何気ない場面」でした。

たとえば、道ばたで３人の若い女性が
カードゲームをやりながら、
他愛のないおしゃべりをしてますよね。

アリス

ええ。

──

スマホを持った若い女の子が集まって、
UNOか何かを、
それも真剣にやっているわけでもない。

その場で話されている内容については
とくに説明がないので、
何が話されているのか、
ぼくらには本当にはわかりようがない。
ああいった場面をわざわざ撮って、
しかも「採用」していることの意図を、
お聞きしてもいいでしょうか。

アリス

まだ10代の、どちらかといえば
低所得者用の団地に住んでいるような
若い女の子たちが、
何もない空き地のようなところで、
カードゲームをやりながら、
しゃべっている、ただそれだけの場面。

わたしは、そこに、
かつての「わたし」を見たんです。
過去の「わたし」の、現代の姿を見た。

──

ああ‥‥なるほど。
だから、撮りたい、残したいと思った？

アリス

そうかもしれません。
たしかに「ごく平凡な現実」ですよね。

でも、わたしは
現代のフランス社会の若い世代たちの
生き方の痕跡を‥‥、
たしかに「平凡」かもしれないけれど、
現代の若者たちの生き方の痕跡を
「残したい」と、
そう思って、あの場面を撮ったんです。

アリス・ディオップ監督『私たち』より　©Sylvain Verdet