>谷川俊太郎さんについて

谷川俊太郎さん(たにかわ しゅんたろう)

1931年生まれ。詩人。
「朝のリレー」「二十億光年の孤独」
「いるか」「みみをすます」「生きる」など、
数千篇におよぶ詩作品や、レオ・レオニ作『スイミー』、
スヌーピーでおなじみ「ピーナツブックス」シリーズ、
『マザー・グースのうた』などの翻訳、
そして、テレビアニメの「鉄腕アトム」主題歌や
「月火水木金土日のうた」などの作詞も手がける。
詩の朗読を中心とした
ライヴ活動も精力的に行なっている。
現代を代表する詩人のひとり。

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第4回 なんでも真似からはじまる。

糸井
もし谷川さんが、
英語にする前提で詩を書けと
言われたらどうします?
谷川
わけわかんないから、断る以外ないよ(笑)。
糸井
断るか。
谷川
英語になることを前提に、
詩なんて書けないもん。
糸井
英語で思考してないですもんね。
谷川
もし3、4年ほどアメリカで過ごしていたら
語感が身についているだろうから、
書いてもいいと思うかもしれないけど、
ぜんぜんダメです。
書こうという気も起こらない。
糸井
「国際化」とみんな言うけど、
それは英語の話だからなぁ。
谷川
いまのところそうですよね。
糸井
でも、言語同士が平等なら、
ぼくらの表現は日本語でいいはずですよね。
ほぼ日
しかも、日本語でしか書けないことって
ありますよね。
谷川
詩の場合には、少なくとも、あります。
糸井
2歳になったばかりの娘の娘が、
最近絵本を取り出してくるんです。
彼女は字は教わってもいないし、
読めないわけですよ。
けれども、めくって、声に出して読むんです。
谷川
それなに、ほんとに読んでんの?
糸井
いや、字を知らないから、
ほんとに読むってことはありえないです。
ほぼ日
でも、セリフは合ってるんですか。
糸井
合ってるんです。
歌のように覚えてるんですよ。
谷川
ああ、誰かが読んでるのを聞いて、
覚えてんだ。
そうかそうか、それはおおいにありえますね。
糸井
言葉って歌みたいに覚えていくものなんだなと
改めて思いました。
谷川
基本的に我々はそうやって
言葉を覚えてきましたものね。
抑揚やリズムで音を
覚えていくわけだから。
糸井
ページをめくると絵が出てきて
「ここではこの言葉です」という
サインがあるから、
聞いてるほうには読めたのと同じように
見えるんです。
歌のような真似で、
いろんなことがはじまっていくんだなぁ。
谷川
だって「学ぶ」が「まねぶ」だもんね。
すべては真似からはじまりますよ。
糸井
ほんとにそうですね。

谷川
ある時期から美術が教育になって、
「真似はダメだ」
みたいになっちゃった時期がありましたよね。
糸井
「オリジナルであること」や「個性」が
重要視されはじめましたね。
あれは、イデオロギー的な影響があったんでしょうか。
谷川
そうですね、
占領軍の影響や、
さまざまなことがあって。
糸井
芸術論争もたくさんありましたし。
谷川
だけど、たとえば
日本の芸ごとなんて、
ぜんぶが真似といってもいいでしょう? 
糸井
そうですね。
じつは「ほぼ日の學校」という
あたらしいことを
今年じゅうにはじめることにしたんです。
「漁師さんの話」とか「お菓子屋さんの話」とか、
聞いてておもしろくて、
真似したくなるようなものを
授業としてやりたいと思ってまして。
谷川
へぇー、いいね。
糸井
総体で「學校」という名をつけてはいるんですが、
枠にとらわれずに、
会って話ができただけでもおもしろい、と
思えるようにしたいのです。
谷川
ぼくはとにかく学校ぎらいで、
教わるのがどうも苦手。教えるのはもっとダメ。
でも糸井さんは、そんな大仕事、しちゃうんですか。
糸井
自分でいうのも何なんですが、
それがあると死ねないという、
そんな仕事です。
谷川
そういう仕事はあったほうがいいね。
オンラインでやるの?
糸井
オンラインです。アプリでね。
教室はあるんですが、集めても50人くらい。
スマートフォンで、
もっとたくさんの人に見てもらいます。
谷川俊太郎さんの詩は、たしかに
小学校で習ってとてもたのしく読みましたけど、
「ためになる」とか思わなかったです。
そういう學校にしていきたいです。
谷川
ぼくの詩を読んだ子どもたちは、
ためになるとは思わなかったと思う。
でも、教えるほうは、
ためになると思ってるでしょう。
糸井
ためになる、ならないなんて考えもせずに、
『ことばあそびうた』の
「かっぱかっぱらった」をよろこんで読みました。
それはおそらく、頭より口が遊んでたわけです。
谷川
だとうれしいな。
糸井
ほぼ日の學校でも、
先生の役をする人がいないような状態で、
「かっぱかっぱらった」と口が言うのがおもしろいね、
お前も何かつくってみれば、という、
そういう授業があっていいと思います。
谷川
それはすごく新しい教育の形態だね。
むしろ「教育」と、
ぜんぜん言わなくてもいいような教育。
おもしろいですね。
糸井
自分の根本で身についていることって、
学校じゃ教わらないことばかりです。
そういうことに広げていかないと、
つまらなくなるような気がして。
谷川
なるほどね。
そうとうの野心ですねぇ。
糸井
くたっくたです(笑)。
谷川
そりゃそうでしょう。
それだけ大きな計画、しかも、あたらしい、
いままで誰もやってないことをやるんだからね。
たいへんだと思うよ。
糸井
新雪の中を歩いてる感じです。
景色はいいんですよ。
誰もいないし。
でも、雪が深くて、足が重いんです。

(つづきます)

2021-03-21-SUN

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  • 谷川俊太郎さんへの質問を募集します。

    今年アプリで開校する予定の
    「ほぼ日の學校」で、
    谷川俊太郎さんが授業を
    してくださることになりました。

    谷川さんは
    「できればみなさんからの質問に
    答えてみたい」
    とのこと。
    谷川さんへの質問をぜひお送りください。

    <質問のテーマ>
    ・学ぶことについて、教育について
    ・言葉について
    ・詩について

    言葉について悩んでいること、
    日頃から疑問に思っていたこと、
    この連載を読んで思った質問、など
    あるていどテーマに沿っていればOKです。

    メールの件名を
    「谷川さんに學校の質問」にして
    postman@1101.comあて
    メールでお送りください。
    〆切は2021年3月31日です。