今年はじめに、尾瀬の山小屋、
長蔵小屋さんでデットストックになっていた
ポストカードを販売する
「2026年おめでとう企画! 尾瀬のポストカード福袋」を行なったところ、
34万5,936円(経費をのぞく売上)を
尾瀬の自然を守る活動を続ける「尾瀬保護財団」へ
寄付することができました。
ご賛同いただいた皆さま、ありがとうございました。

そこで、今回の寄付をどのように使ってくださるか、
そもそも尾瀬にはどんな課題があるかなど、
お話を伺うべく、
尾瀬保護財団のオフィスを訪ねてきました。
対応してくださったのは、
宇野翔太郎さんと大槻純平さんです。

ほぼ日GO!

 

トップ写真撮影:加戸昭太郎

  • ──
    まず、オフィスからの景色がすばらしくて、
    びっくりしました。
    宇野
    そうなんです、
    群馬県庁の20階の一部を間借りしているんです。

    ▲窓の外には、赤城山・榛名山・妙義山の上毛三山を見渡せる

    ▲窓の外には、赤城山・榛名山・妙義山の上毛三山を見渡せる

    ──
    尾瀬保護財団さんには、
    昨年度から始めた、ほぼ日の尾瀬での活動で、
    さまざまなかたちでお世話になっております。
    「はたらくかもしれないツアー」では
    尾瀬沼をご案内いただいたり、
    プロジェクトの方向性にアドバイスをいただいたり‥‥
    そんななかで、私たちは
    尾瀬保護財団さんが尾瀬で果たす役割を改めて知り、
    ポストカード販売の寄付先にぜひ、と考えました。
    そこで今回は、読者の方々にも、皆さんの活動や、
    向き合ってらっしゃる課題を
    お伝えできればと思っています。
    宇野
    ほぼ日さんの尾瀬でのプロジェクトが始まったり、
    星野リゾートさんが鳩待峠で宿泊施設の運営を
    始められたり、この一年ほどで、
    従来、山に関心がなかった方にも、
    尾瀬に興味をもっていただく機会が増えたように感じ、
    とてもうれしく思っています。
    今日はここ最近、尾瀬を知ってくださった方向けに、
    尾瀬が抱える課題がどんなもので、
    どんなふうに変わってきたかをお話していきますね。
    尾瀬はもともと「夏の思い出」という歌や、
    原生的な大自然が素晴らしい場所ということで
    注目を集めてきました。
    さらに、長蔵小屋さんをはじめ、
    山小屋を中心に始まった、
    自然保護運動の歴史にも関心が寄せられて、
    ‘60〜70年代には夜行列車が日々走るほど
    多くの方が来られた時期があったんです。
    いまの若い方たちは、
    想像もつかないかもしれないですね。
    ですが、その一方で、自然は大きなダメージを受け、
    このままだと存続がむずかしくなるという状況でした。
    たとえば、山小屋やトイレの排水が湿原にそのまま流され
    水芭蕉が巨大化するといった課題が出てきたんです。
    そこで、まずはハード面から整備が始まりました。
    ですがそれでも、お客さんの抑制やマナーの啓発など
    ソフト面の対策が必要だという
    合意形成ができてきたんです。
    そこで、行政的な枠組みを超えて
    一元的に活動できる団体があるといいよねということで、
    環境省、福島・群馬・新潟の三県などで
    検討が始まりました。当時の県知事さんたちの
    働きかけもあり、トントンと動いて、
    県や東京電力、地元の市町村にご協力いただいて
    できたのが尾瀬保護財団です。

    ──
    設立は、1995年ですね。
    ちなみに、お二人は、
    どんな経緯で財団に入られたのですか?
    宇野
    財団の組織は少し複雑で、
    財団のいわゆる正規の職員はじつは3人しかいません。
    そのうちのひとりが僕です。
    僕は大学時代に鎌倉でアライグマの研究をしていて、
    夜な夜なアライグマの行動を追いかける生活でした。
    たまたま研究室に募集が出ていて、
    その前年に初めて尾瀬に行ったばかりだったので、
    「あの尾瀬か」という感じで
    採用試験を受けたのがきっかけです。
    自然が好きでしたし、
    尾瀬は自然保護運動の歴史が深いので、
    恵まれた場所だなと思っていました。

    ▲昨年、ほぼ日で開催した「はたらくかもしれないツアー」では、尾瀬沼ビジターセンターを拠点に、自然や利用環境をガイドしていただいた

    大槻
    私は群馬県の職員として、
    外部団体への派遣という形で
    尾瀬保護財団に来ています。
    事務局には群馬県のほか、
    福島県からも職員が来ていますし、
    山の鼻ビジターセンターの責任者は
    東京電力グループから来ています。

    ▲尾瀬保護財団はビジターセンターの運営も担っている。写真は、環境省尾瀬沼ビジターセンター

     
    理事長は群馬県知事で、
    副理事長は福島県知事と新潟県知事。
    出資いただいた団体のお金と人で成り立つ組織に、
    プロパー職員や季節雇用の管理員が加わっている、
    バラエティ豊かな人間が集まった組織なんです。
    そんななかで、私は今年度1年目のペーペーです。(笑)

    ──
    え、2年目とは思えないご活躍ですね!
    宇野さんは12年目だとか。
    月日が流れるなかで
    活動の重点は変わってきていますか?
    宇野
    僕が働き始めた2014年ごろは、
    「利用分散」とよく言っていました。
    鳩待峠(群馬県側の登山口)に集中するお客さんを、
    福島側などにどう分散させるかという議論です。
    でも、ここ数年はそもそも登山者全体が
    少なくなっているよね、という話が増えています。
    一方、最近でも「尾瀬はまだ混んでいる」
    と感じる方もいれば、
    入山者が減っていることに驚く方もいます。
    人によって感じ方は違うと思いますが、
    尾瀬のためには「もうちょっと来ていただけると
    うれしいよね」という方向に少し変わった気がします。
    ──
    たしかに、来訪者が減って、
    尾瀬国立公園をはじめ、地域の経済規模が小さくなり、
    自然を保護する活動にお金がまわらなくなっている、
    という話をよく耳にするようになりました。
    そして、シカの話題も増えましたよね。
    尾瀬を訪れると、高山植物を守るために
    湿原が植生保護柵で囲われているのを目にします。
    昔の写真と比較すると、
    ニッコウキスゲなどのお花が
    シカにずいぶん食べられてしまったのだなと感じます。

    ▲大江湿原に咲き乱れるニッコウキスゲ

    ▲大江湿原に咲き乱れるニッコウキスゲ

    ▲シカに先端をかじられてしまったつぼみ

    宇野
    そうですよね。
    シカの問題は、向き合わないわけにはいかないけれど、
    なかなか終わりが見えないところがあります。

    ▲大江湿原でシカ柵を設置しているところ

    ▲大江湿原でシカ柵を設置しているところ

     
    そして「人」の問題も大きいです。
    自然を守ることも、楽しむコンテンツを作ることも、
    人がいないとできません。
    人材やノウハウをどう確保するかが今の大きな課題です。
    守る人も受け入れる人も減ってきてしまっていて、
    このままだとどうなるのかなという危機感があります。
    ──
    今回の寄付は、
    そういった尾瀬が向き合う課題の
    助けになるのでしょうか?
    宇野
    もちろんです。
    今回いただいたお金は、
    行政(環境省や県)からの受託業務ではなく、
    財団の自主事業に使わせていただきます。
    具体的には、利用者のマナー啓発や
    ビジターセンターでの独自の自然解説、
    そして外来植物の除去などを考えています。
    外来植物の除去については、
    国立公園の区域外であるふもとの道路沿いで行います。
    尾瀬ヶ原の内部は特別天然記念物に指定されていたり、
    不用意に除去作業を行うと、
    周囲の土壌流出など思いがけない影響が出る可能性もあり、
    慎重な判断が求められます。
    そのため、まずは中に入らないことを優先して、
    入り口エリアで食い止める活動をしています。
    ──
    来訪者が見えないところで、
    地道な活動を続けてくださっているんですね。
    つい美しい原風景的な自然を見ると
    「手つかずの自然は美しい」と思いがちですが、
    日本の自然の美しさは、人が作り出してるなとよく思います。
    宇野
    そうなんですよね。あとは、ここ数年で
    よくニュースに取り上げられるようになった
    ツキノワグマ対策です。
    財団は対策協議会の事務局を務めていますが、
    実際の現場対応においては、
    費用を持ち出して実施している活動が多いのが実情です。
    たとえば、安全確保のための
    クマ鐘(かね)設置や刈り払いなどです。
    そういった柔軟な活動を支える貴重な資金に
    活用させていただきます。

    ▲ツキノワグマの安全対策を、関係者の方々と実施したときの一枚

    ▲ツキノワグマの安全対策を、関係者の方々と実施したときの一枚

    ──
    具体的なお話をうかがえて、うれしいです。
    これからも寄付につながることを考えていけたらと
    思いますが、それ以外にも、
    私たちにできることはあるのでしょうか?
    宇野
    はい、たくさんあります。
    たとえば、尾瀬ボランティア
    (尾瀬の保護と適正利用を進め、
    尾瀬の自然を将来に引き継ぐために、
    自発的に社会貢献活動を行う団体。
    尾瀬保護財団のHPから応募できる)や、
    群馬県や福島県が募集している
    登山道整備のボランティアツアーに
    参加をご検討いただけたらありがたいです。

    ▲尾瀬ボランティアと尾瀬保護財団で、「ありがとう尾瀬清掃活動」を実施した

    ▲尾瀬ボランティアと尾瀬保護財団で、「ありがとう尾瀬清掃活動」を実施した

    大槻
    あとは、シンプルですが、
    実際に尾瀬を訪れ、楽しんでいただく
    ということも、
    尾瀬に貢献いただける方法のひとつです。
    山小屋で宿泊したり、食事をとったり、
    ビジターセンターでオリジナルバッジや
    解説冊子をお求めいただくと、
    地域に経済の循環が生まれて、
    国立公園の維持管理の大きな支えになります。
    それに、SNSなどで魅力を発信していただいたり、
    身近な方をもう一人連れてきていただくということも、
    大きな力になります。

    ──
    ほぼ日も昨年からご縁ができて、
    乗組員(社員)が入れ替わりで
    尾瀬を幾度となく訪れていますが、
    皆それぞれに、思い出を持ち帰り、誰かに話し、
    また行こう、次はなにか役に立てることがあればうれしい、
    と感じているような気がします。
    そういった思いをもつ人が増えていくことは、
    これからの尾瀬にますます必要なことになりそうですね。
    最後に、ひとつ質問です。
    「ほぼ日」へのリクエストはありますか?
    宇野
    尾瀬は発信が弱いと思うので、
    知ってもらうチャンスを増やしたいです。
    2027年は国立公園20周年なので、
    記念にほぼ日さんの手帳カバーとかがあったらいいなとか
    日常で尾瀬を感じられるものがあったらいいなとか。
    あとは、尾瀬の歴史を知るレジェンドたちの話を
    記録して残すこともお願いしたいですね。
    彼らのリアルな声を聞ける時間は限られていますから。
    じつは多くの人が関わって守られている
    尾瀬の背景を知ることで、
    愛着をもってくださる方が増えたらうれしいです。

    おふたりの好きな尾瀬

    宇野翔太郎さん

    尾瀬ヶ原・見晴地区は、
    どの入山口からも一番遠い尾瀬の最深部。
    個性豊かな山小屋が集まっていることも、
    楽しみの一つです。
    ミズバショウの盛りが過ぎた6月中旬ごろに、
    新緑の季節を迎えます。
    いきいきとした尾瀬の生命力を静かに感じられる
    オススメの季節です。

    大槻純平さん

    沼尻休憩所から少し、
    燧ヶ岳(ひうちがたけ)方面に歩くと、
    尾瀬沼と池溏を両方楽しめるビュースポットがあります。
    訪れたら、ぜひご覧ください。

    (おしまいです)

    尾瀬とほぼ日