ひとつの教室に、昆虫博士がいて、
魚釣り名人がいて、
鷹匠までいる高校があるんです。
群馬県立尾瀬高校、
自然環境科3年生のクラスです。
みんながみんな、それぞれに、
好きなことをやっていて、
たがいのことを尊敬している。
偏差値とかとはちがうところで、
じつにのびのびと
才能を発揮している高校生たちに、
あこがれさえ感じました。
大きな自然を前にして、
先生と生徒が一緒に学ぶ関係性に、
あこがれたのかもしれません。
みんなこの3月に卒業、
それぞれの道を歩きだすその前に、
ギリギリ間に合いました。
担当は「ほぼ日」の奥野です。

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第5回 人に「伝える」ことを学んだ。

──
この自然環境科には、
他に、どういう人がいるんですか。
谷島
まずここに虫、魚、鷹でしょ、
他にも、
植物、コケ、野鳥、あと水質とか。
──
本当に大学生のゼミみたいですね。
谷島
動物をやってる人もいますし、
ひととおり、
ジャンルはそろってると思います。
──
そういう人ばっかりなの?
谷島
いや、実はそんなことないんです。
最近、小川とかがテレビに出て
勘違いされてるんですが、
マニアックな人ばっかりじゃない。
廣田
たまたま、ぼくらの年代に、
そういう人が多かっただけですね。
谷島
ふつうに自然が興味あるだけでも、
ここに入ってから、
好きな対象を見つける人もいます。
──
みんな進路は決まってるんですか。
もうすぐ、卒業ですけど。
小川
だいたい決まってるよね。

──
昆虫を学びに大学へ行く人がいて、
鷹匠になる人がいて、
じゃあ、魚が大好きな廣田くんは。
廣田
ぼくは建設関係の大学に行きます。
魚は魚で、趣味として。
──
それも、ひとつの道だし、
いつか建設と魚が繋がったりして。
谷島
魚目線の水族館をつくるとか。
──
バラエティゆたかな人たちだなあ。
谷島
俺と同じ下宿にいるやつは、
北海道から来て
水質の研究をしているんですけど、
九州大学に合格して、
卒業後は九州に行っちゃうんです。
──
わあ、すごいね。
谷島
頭がいいんですよ、そいつ。
もう、ムカつくほどに頭がよくて。
──
自然環境科っていうのは、
ふつうの国語数学理科社会の他に、
何をやってるんですか。
谷島
いろいろあるんですが、
1か月に1回、野外実習に行きます。
──
ああ、自然の中での授業みたいな。
今日も、別の人たちが、
雪上訓練みたいなことしてたよね。
谷島
はい、野外実習へ行くに際しては
何の調査をするのか、
そのためには
どういう知識が必要なのか考えて、
授業で学んだり、
調査器具の使い方を学び直したり。
──
いわゆる中間・期末テスト的な、
そういうのもあるんですよね。
谷島
ガンガンあります。
なんなら今日テストだったんで。
──
あ、今日は期末テストの日。
谷島
はい(笑)。
──
できた?
廣田
‥‥‥‥。
小川
ヤバいな。
谷島
みごとにヤマが外れちゃいまして。

──
やっていることはそれぞれだけど、
今ふりかえって、
自然環境科の3年間で、
みんなは何を学んだと思いますか。
谷島
そうですね‥‥何だろう。
あ、でも、自然環境科ってとこは、
えんえん何かを発表するんです。
自分なら虫のことですけど、
研究発表会というものがあるので。
──
ほお。
谷島
そこで「伝える」ということを、
ずっと、やってきた気がします。
やっぱり自分の考えていることを、
まわりに「伝える」のが、
そこではすごく重要なことなので。
──
それは貴重なトレーニングですね。
たぶん、この先の将来にとって。
谷島
あ、そうですか。
──
おもしろかったですか、3年間。
谷島
ぼくは、すごい満足、大満足でした
徹底的に虫に没頭できたし‥‥。
──
そう言い切れる高校生活、いいなあ。
谷島
でも、まだまだです。
虫の世界は課題が山ほどありますし、
自分は生態学、
その虫が
どういう生活史を送っているのかに
興味があるので、
4月からは場所を変えて、
ひとつひとつ解明していきたいです。

──
たとえばでいいんですけど、
昂くんは、ここで、
虫関係でどういう発見をしましたか。
谷島
ある糞虫は、基本的に腐敗物‥‥
魚類の死体、
鳥類の死体を食べるんですけれど、
それだけじゃあまり卵を産まない。
そこへ犬の糞を食わせてあげると、
産卵のスイッチが入る‥‥とか。
──
それって、いままで、
知られてなかった生態なんですか。
谷島
たぶん。
──
じゃあ、何か発表したりとか?
谷島
いずれは。でも、まだまだ、
本質を掴めてない気がするんです。
──
本質。
谷島
もっと何年も「累代飼育」をして、
もう少し
生態に関する知見を得たら‥‥と
思っています。
──
本質をつかめてないっていうのは、
どういう感覚ですか。
谷島
いや‥‥まだ、何かが
隠れてそうな気がするんですよね。
卵を産むときの産卵行動だったり、
幼虫の期間が短い種類で、
卵から一月半で成虫になっちゃう。
そのわりに
成虫になってから数年は生きるし。
──
めずらしいんですか、そういうの。
谷島
いや、めずらしくはないんですが、
なんかちょっと、
腑に落ちないところがあるんです。
──
腑に落ちない‥‥っていうのって、
「勘」みたいなものですよね。
経験に裏打ちされた。
谷島
ええ、昆虫の生態についての勘は
この学校で、
けっこう、身についたと思います。

(つづきます)

2020-03-16-MON

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