人生の冴えないワンシーンを絵に描いて、
日々、Twitterに
アップしている人がいます。
イラストレーターの大伴亮介さんです。
いくつかの作品に共感し、
インタビューしにうかがいました。
桜の季節の井の頭公園という
居心地最高のシチュエーションもあって、
インタビューというより、
ただのおしゃべりになってしまいました。
春の陽気と、初対面の大伴さんと、
その日の自分の波長が、
なんだか妙に合ってしまったんですよね。
どうぞのんびり、お付き合いください。
担当は「ほぼ日」奥野です。

>大伴亮介さんのプロフィール

大伴亮介 プロフィール画像

大伴亮介(おおともりょうすけ)

フリーのデザイナー・イラストレーター。
日常のワンシーンを描いた
#ワンシーン画 というのをやってます。

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第2回 ぼくには「自分の線」がない。

──
大伴さんのワンシーン画にとって、
大伴さんの「画風」が、
かなり重要な気がしておりまして。
以前から、このようなタッチで?
大伴
昔は手描きの線も使ってましたが、
ワンシーン画って、
ネタが人間くさいじゃないですか。
──
ええ。ハムがちぎれて悲しいとか。

「別れの挨拶をした相手が向かいホームの正面にしばらくいるシーン」 「別れの挨拶をした相手が向かいホームの正面にしばらくいるシーン」

大伴
その「人間くささ」と
ギャップがあったほうがいいかなと、
なるべく冷たく、
機械が描いたような絵にしています。
──
図形的で記号的、幾何学的です。
大伴
手描きの線の持つ、
ちょっとした温もりみたいなのが、
ワンシーン画には邪魔なんです。
だから、直線とか円弧を多用して。
──
ふだんのイラストレーターとしての
お仕事も、
同じようなテイストなんですか。
大伴
参考までに、持ってきました。
プロになって今年で15年目になるので、
漫才コンビでいえば、
そろそろ
新人賞レースに出られなくなるころです。

──
なるほど。‥‥って。
大伴
自分自身、折合いのついている部分では
あるんですけれど、
絵の仕事って、
その人の持っている線だとか、
その人にしか出せない色、
そういうのがあったほうがいいですよね。
──
そうなんでしょうね。
大伴
でも、そういうものが自分にはないなと、
はっきりわかった瞬間があって。
──
それは‥‥いつごろですか。
大伴
30歳くらいのときです。もう7、8年前。
そのときに「開き直り」に近い気持ちで、
直線や円弧など、
誰にでも使える図形で描くという方向に、
シフトしたんです。
──
へええ‥‥。
大伴
これは数年前の仕事ですが、
六本木ヒルズのクリスマスのイラストです。
──
あ、そんな大きな仕事もされてるんですか。
すごいじゃないですか。

大伴
これ、三角形の集合なんです。
──
‥‥ほんとだ。
大伴
気合いさえあれば誰でも描けるんです。
──
いやいや。
大伴
いやいや。
──
つまりドット絵のようなものですかね。
あるいは、クロスステッチ的な。
大伴
ええ。はい。まさにそうです。
──
つまり、こういうイラストのお仕事をやりつつ、

ワンシーン画のほうは、
とくに仕事としてではなくやってるわけですね。
大伴
自分がやりたいから、やってます。
自分がやりたくなければやってないと思います。
──
大伴さんのこのタッチは、
イラストに自分の色や線が出せない‥‥と感じ、
苦心の末、編み出したアプローチだった。
大伴
大げさすぎます。
──
あ、はい。
大伴
ただ‥‥イラストレーターという職業って、
絵を見ただけで
「ああ、あの人ね」ってわかるような特徴‥‥
つまり「武器」がないと、
やっぱり、通用しないと思うんですよ。
それが自分には、どうしても見つからなかった。
ひたすら自分の色や線を探していても、
他人の土俵に、
ひたすら上がり続けているような生きにくさを、
つねに感じていたんです。

──
それは大変だ。
大伴
そのときに「自分にしかできない表現方法」を
追及していくことは、諦めました。
──
そうだったんですね。
大伴
思い返せば「こういう絵が描きたい!」という
強い意志も、あんまりなかったんです。
──
なんと、絵のお仕事なのに。
大伴
何の目的もないのに絵だけを描くっていうのが、
ニガテ‥‥といいますか。

「つり革の輪が微妙な角度で静止しているシーン」 「つり革の輪が微妙な角度で静止しているシーン」

──
近年、若くしてお亡くなりになった
画家の中園孔二さんは
「絵を描いているのがふつうの状態、
心が落ち着く」みたいなことを、
おっしゃっていました。
大伴
ぼくは、そういうことができなくて。
ただ絵を描くということが致命的にできなくて。
──
大伴さんは、そもそもですが、
なぜ、絵を描く仕事に就こうと思ったんですか。
大伴
たまたま、人並み以上にできたからです。
──
絵が、得意だった。
大伴
ただ、別に絵じゃなくても‥‥
根本的には「誰かを楽しい気分にさせたい」
という欲求のほうが先でした。
おもしろいものへのあこがれがとても強く、
その反動としての、
自分のなかのつまらなさをやっつけたくて、
必死で表現しようとしたとき、
何がいちばん効果的なのかを考えたら‥‥。
──
「絵」だったと。
大伴
いちばんチヤホヤしてもらえたんです。
──
最初から、お上手だったんですか。
大伴
そうですね、小学生のころからそれなりに。
もし文章を書くのがうまかったら、
そっちの道に進んでいたかもしれませんし、
演技に興味があったら、
今ごろお芝居をやっていたかもしれません。

──
つまり「絵は手段」であると。
大伴
小学校5年生だか6年生のときに、
夏休みの宿題の自由制作で、
めちゃめちゃ巨大な、
10メートルくらいの歴史年表をつくって、
提出したんです。
──
10メートル。それはデカい。
大伴
何年に何がありましたという年表の合間に、
大仏の顔や、平安貴族の顔や、
源頼朝の顔をイラストにしたものを描いて。
──
ウケましたか。
大伴
ウケました。
それだけデカイと、まずは、それだけで。
──
大きいだけで「コンテンツ」ですもんね。
ダイオウイカしかり。
大伴
先生が、教室に貼り出してくれたんです。
ぼくの巨大年表の前に集まって、
クラスのみんなが、
ああだこうだ言ってるのが、快感でした。
全身がシビれたことを幼心に憶えてます。
──
原体験。
大伴
それ以来、ひたすら目立とうとしました。
新聞紙と袋でぬいぐるみをつくるという
図工の授業で、クラスのみんなが、
クマとかゾウとかライオンをつくるなか、
目立とう、ウケようとして、
細部まで精巧なクワガタをつくったりね。
──
ははあ。
大伴
そういう、イヤな子どもでした。

「三角コーンの黒い板がズレているシーン」 「三角コーンの黒い板がズレているシーン」

──
ウケたいと思っていたとのことですけど、
ワンシーン画には、
説明しすぎない、
おしつけがましくないところがあります。
大伴
寸止め‥‥0.9くらいで止めてます。
──
それってある意味、
見てくれる人を信用することですよね。
グッとこらえて説明しすぎず、
途中で止めて、差し出すのって。
大伴
なんでもかんでも言っちゃうと、
ただの「説明図」になっちゃうんです。
──
あー、画風も相まって。
大伴
見てくださる人の「想像する余地」を、
残しておきたいと思っています。
──
でも、「わかんないなあ」って作品は、
ひとつもなかったですよ。
大伴
あ、ほんとですか。よかった。
──
共感する、共感しないの差はあっても
「意味がわからない」
というのは、ひとつもなかったと思う。
大伴
それは、うれしい感想です。

ど れ く ら い、身 に 覚 え あ り ま す ?
日替わり!ワンシーン画 SLIDE SHOW
002

 

ガムテープが油性ペンをはじくシーン
バターがトーストにめりこむシーン
ブラインドが一枚だけ逆になるシーン
ミシン目からコースアウトしていくシーン
メニューが不安定なシーン
レシートが長いシーン
洗った茶碗の底に水がたまっているシーン
値札パーツの切った先っぽを見失うシーン
棒が邪魔でカギをかけられないシーン
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(つづきます)

2019-08-06-TUE

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