（9）応援のクリエイティブ | 夢を笑う人なんか友達じゃないよ。 | 鈴木おさむ

鈴木おさむさんの仕事ってなんだろう。
テレビ、ラジオ、映画、舞台、小説、マンガ‥‥、
「放送作家」という職業が
どんな仕事かわからなくなっちゃうぐらい、
いろんな企画を考えてきた鈴木おさむさん。
糸井重里を相手に「ほぼ日の學校」で
ご自身の半生をたっぷり語ってくださいました。
夢を掲げた青年が放送作家になるまでの道。
大人に認められたくて続けたこと。
圧倒的なスター SMAPとのめぐり合わせ。
いつもいつもお題を与えられては、
研究とアイデアで乗り越えてきたおさむさんの、
なんだか勇気がもらえるお話です。

＞鈴木おさむさんプロフィール

鈴木おさむプロフィール画像

鈴木おさむ（すずき・おさむ）

1972年生まれ。放送作家。
千葉県千倉町（現・南房総市）生まれ。
19歳の大学在学中に放送作家となり、
初期はラジオ、20代中盤からは
テレビの構成をメインに数々のヒット作を手掛ける。
30歳の時に森三中の大島美幸さんと結婚。
その結婚生活をエッセイにした
『ブスの瞳に恋してる』はシリーズ累計60万部。
小説では
『芸人交換日記～イエローハーツの物語～』（太田出版）
『美幸』（KADOKAWA）
『名刺ゲーム』（扶桑社）など。
映画脚本では「ハンサム★スーツ」
69億円のヒットを記録した「ONE PIECE FILM Z」
「新宿スワン」なども担当。
ドラマや映画の脚本、舞台の作・演出、
ラジオパーソナリティなど様々な方面で活躍。

糸井: ネットのスピード感を見ていると、
テレビはちょっと
所帯が大きくなりすぎちゃったのかな。

鈴木: テレビは視聴率っていう指標を
信用しすぎていたのかもしれませんね。
YouTubeが出てきて、
わかりやすく再生数とかが実数で出てくる中で、
難しくなったんじゃないかなと思います。
若い人がテレビを見なくなったら、
世帯視聴率を上げるために
高齢者の番組を増やして
分母を上げるしかないじゃないですか。

糸井: 「助けてください」ってことだよね。

鈴木: テレビの視聴率を上げるために、
2000年代中盤ぐらいから高齢化に向かっています。
2005年くらいからの10年間で
医療ドラマと刑事ドラマが
たくさん作られましたよね。

糸井: ホントですね。

鈴木: 60代、70代以上の人に観てもらって、
世帯視聴率を上げていく作戦に
出てしまったからなんですよ。
番組を作るぼくらも、それに合わせていて
健康番組もめちゃくちゃつくりました。

糸井: ああ、そうか。
鈴木おさむも健康番組をつくるんだ。

鈴木: M3層、F3層（50歳以上の男女）の
視聴率を上げないと、
世帯視聴率が上がらないので。
でも、その世代に向けた番組づくりで
番組の内容がCMと合っているのか、
スポンサーが望んでいるのかは、
制作側も気になっていたところです。
いまは評価対象がいくつもありますけどね。

糸井: 評価対象が増えたけれど、
テレビ画面のほうを向いてくれてる人は
全体として少なくなってますよね。

鈴木: そうなんです。
でも、気づいた時には時すでに遅しで。
ただ、ぼくがあるとき気づいたことがあって、
テレビの斜陽感とか弱体化について
取材を受けることがありますが、
ぼくは「地上波ですか？テレビですか？」
と聞くんですよね。
モニターに向かっている人であれば、
ぼくは増えていると思うんです。
うちの息子もYouTubeやNetflixはテレビで見ます。
「テレビはもうテレビじゃなくて、モニターである」
と、ある時期からずっと言っているんですが、
同調してくれる制作者が意外と少なかったんです。
たぶんモニターの中で、
地上波も選択される時代がくると言っていたら、
ほんとにそういう時代になっちゃった。

糸井: 事実そうなってますよね。

鈴木: テレビがモニターとなって
地上波も選択肢のひとつとして
選ばれる時代になることに気づくのが
遅かったのかなって思いますね。

糸井: モニターと対面するのが何時なのか、
どのくらいの時間なのかとか、
時間軸が与える影響も大きくなっていると思います。
視聴者が「３分なら見てやるよ」
みたいなことを言ったとしても、
ドラマは３分じゃつくれるわけがないんです。

鈴木: つくれないですね。

糸井: 山場をいっぱいつくれとか、
みんな無責任に言いますよね。
あわてた焼き畑農業みたいになって、
どんどんつまんなくなっていくんです。
ぼくは、自分がいま本当におもしろいものは
なんだろうって考えてみると、
やっぱり人に会っている時間なんですよね。

鈴木: そう思います。
ぼくも人に会うのが大好きですもん。
振り返ってみると、
ぼくはずっと20代の人と
お酒を飲むのが好きなんだなって思いますね。
自分が20代の時には、同世代や年上の20代。
30代になって舞台をやりはじめた時は、
若手の芸人さんが20代です。
40歳ぐらいになってくると、
付き合う芸人さんも年を取ってきて、
そこからお相撲さんと仲良くなりまして（笑）。
白鵬さんとか。

糸井: 急に？

鈴木: 芸人さんの中に
知り合いがいたのが大きいんですけど、
お相撲さんと知り合ってみると、
国技の中で生きている人たちがすごくおもしろくて。
なおかつ、ぼくが出会った頃は、
角界のイメージが悪かったんですよね。
白鵬関はそこを変えたかったみたいで
その頃、お相撲さんは
テレビにあまり出ていなかったんですが、
「おさむさん、俺ね、なんでもやるから」
と言ってくれたんですよ。
で、ぼくが担当しているバラエティー番組にも
お相撲さんがすごく出てくれるようになったりして、
そうすると、イメージが変わっていくですよね。
白鵬関もその時のことを感謝してくれて、
お相撲さんの友達もめちゃくちゃ増えました。
土俵の上の熱いドラマとか、
あの世界においての抗えないものとか、
辞めていく人もいましたし。
芸人さんと会って見てきたものを、
お相撲さんの世界で見るようになるんです。
すると今度、また違う視点で見れるんですよね。

糸井: ああー。

鈴木: あとは、SMAPの解散で心が折れて、
テレビに対する諦めも一個ついたあとで、
ひょんなことから
LDHと出会うことになるんですよ。
SMAPの仕事をやっていた頃は、
他のメンズグループとは仕事をしていませんでした。
アイドルなら、基本SMAPだけ。

糸井: そうだろうね。

鈴木: サイバーエージェントの番組の絡みで
LDHと仕事をするようになったら、
不思議なもので相性がよかったんですよね。
彼らは上下関係がしっかりしていて、
そこがすごく肌に合っていたのかな。

糸井: 体系がしっかりしているんですよね。

鈴木: 芸人、お相撲、LDHというのは、
ちょっと似ているんです。

糸井: ですよね。そうそう。

鈴木: 彼らとよく会うになって、
みんなが聴いている音楽を教えてもらうんです。
ぼくが20代の頃に先輩から教えてもらった
映画の話とまったく逆で、
若い彼らに聞いているし、
彼らもぼくに聞いてくるし。
しかも、教えた音楽はちゃんと聴いてくれるし。

糸井: いいねえ。

鈴木: さらには、若い友達ができると、
またその友達を紹介してくれるんですよね。
この２～３年間で、
シェアオフィスをはじめたんですよ。
サイバーエージェント出身の人が紹介してくれた
若い起業家にお金を取らずに
オフィスを貸しているんです。
ぼくと合うメンバーが20人くらい集まっていて、
話すとけっこうおもしろくって。
彼らはみんな20代ですけど、
昔のテレビマンみたいにモチベーションが高くて、
飲みに行くようになったりすると
友達を紹介しあったりなんかして、
それがいまにつながっているんですよね。
同じ空間にいても、
大事な部分では絶対に入らないようにしますが、
いっしょに飲んだり、話したり、
必要なことがあれば話を聞くよって伝えています。

糸井: 若い人たちに遊んでもらえるとおもしろいよね。

鈴木: ぼくが今やっていることって、
糸井さんが昔やっていたことにも近いと思うんです。
『踊る大捜査線』の本広克行さんから
何年か前に
「これからの俺らに大事なことって何かわかります？」
と言われたんですよ。
なんですか？と聞き返したら「応援だよ」って。

糸井: ああ、よくわかる。

鈴木: 自分のものをつくるのも大事なんだけど、
それには限界があるし、
ある程度やってきたこともありますよね。
「大事なのは応援だから」って言われた時に、
その言葉がめちゃくちゃしっくりきたんです。
そう思った時に、糸井さんがぼくの書いた本を
すすめてくれたのも応援なんですね。

糸井: ああ、はいはい。

鈴木: たぶん糸井さんは、若い人を応援することを
早くからたくさんやっていますよね。
自分が若い頃にやってきてもらったように、
応援してあげることが大人の役目だと思うんです。
でもこの応援が、
とてつもなくクリエイティブな作業であるということに、
ホントに最近、気づきました。

（つづきます）

2022-10-29-SAT