俳優の言葉は編集しにくい。扱いづらい。
きれいに整えられてしまうのを、
拒むようなところがある。語尾でさえも。
こちらの思惑どおりにならないし、
力ずくで曲げれば、
顔が、たちどころに、消え失せる。
ごつごつしていて、赤く熱を帯びている。
それが矛盾をおそれず、誤解もおそれず、
失速もせずに、心にとどいてくる。
声や、目や、身振りや、沈黙を使って、
小説家とは違う方法で、
物語を紡いできたプロフェッショナル。
そんな俳優たちの「言葉」を、
少しずつ、お届けしていこうと思います。
不定期連載、担当は「ほぼ日」奥野です。

>岡山天音さんのプロフィール

岡山天音(おかやま あまね)

1994年、東京都出身。「中学生日記」(09/NHK)で俳優デビュー。『ポエトリー・エンジェル』(17/飯塚俊光監督)で第32回高崎映画祭最優秀新進男優賞、『愛の病』(18/吉田浩太監督)でASIAN FILM FESTIVAL最優秀男優賞を受賞。主な出演作に『王様になれ』(19/オクイシュージ監督)、『FUNNY BUNNY』(21/飯塚健監督)、『キングダム2 遥かなる大地へ』(22/佐藤信介監督)、『さかなのこ』(22/沖田修一監督)、『あの娘は知らない』(22/井樫彩監督)、『BLUE GIANT』(23/立川譲監督)、『キングダム 運命の炎』(23/佐藤信介監督)など。2024年は、主演映画『笑いのカイブツ』(滝本憲吾監督)、『ある閉ざされた雪の山荘で』(飯塚健監督)と公開作が続く。

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第5回 演じるとは、いったい何か。

──
以前、窪塚洋介さんに取材したときに、
うかがったんですけど、
『GO』で共演した山﨑努さんに、
いろんなことを教わったそうなんです。
岡山
ええ。
──
たとえば、絶頂だった窪塚さんに
「おまえ、いますぐ俳優やめろ」って。
岡山
へえ、何でだろう。
──
俺、そんなにダメですかって聞いたら、
いや、いい。おまえはいいから、
このあたりで1回、休んどけ‥‥って。
岡山
ああ、やさしいですね。
好きだったんですね、窪塚さんのこと。
──
その言葉を、窪塚さんは
「自分を見つめろ」という意味だなと
解釈したんだそうです。
お話を聞いてると、岡山さんにとって
「楽しまなきゃ」って言葉は、
同じように、
折に触れて自分を助けてくれる、
大切な言葉なんだろうなと思いました。
岡山
はい。自分を変えてくれた言葉ですね。
ただ、その先生も、ことさらに
パンチライン吐いたって感じじゃなく、
会話の途中にふと出てきた、
「楽しんでる? 楽しまなきゃダメだよ」
くらいの何気なさだったんです。
でもぼくには、その言葉が大きかった。
いまは芝居以外の場面でも、
「いや、楽しいかどうかでしょ」だし。
──
つくづく、言葉というものは、
受け取る側が主役なんだと思いますね。
ベタすぎる質問ですが、
好きな俳優さんとかって誰かいますか。
岡山
ブラッド・ピットっすね。はい。
──
おおー、即答。
岡山
好きですねえ。
──
どうして? どのように?
岡山
出てきた瞬間、めっちゃワクワクする。
そんな俳優、何人もいません。
ブラッド・ピットのどの作品も、
初登場の場面がめっちゃ好きなんです。
『ワンス・アポン・ア・タイム・
イン・ハリウッド』で、ハマって以来。
──
ああ、あの映画のブラッド・ピットは
とりわけカッコいいですもんね。
不死身のスーパーヒーローって感じで。
岡山
スターってああいう人なんだろうなと。
圧倒的に華があると思います。
何だろう‥‥座りかたひとつにしても、
ここまで魅せてくれるんだ‥‥って。
もうね、見ていて「快感」なんですよ。
──
大ファンですね(笑)。
岡山
そうですね。ブラッド・ピットさんが
何かを食べてるシーンとかも、
もうめちゃくちゃカッコいいんですよ。
YouTubeで
食べているシーンだけ集めた動画とか、
ずーっと見てたりします。
──
え、そんな動画があるんですか(笑)。
何の映画か忘れましたけど
ハンバーガーを食べているシーンとか、
いまパッと思い浮かびました。
そういわれてみれば
たしかにブラピの食べてるシーンって
けっこう印象に残ってるかも。
岡山
食いっぷりが気持ちいいんですよ。
脳内で何かが分泌されてると思う。
──
わはは、ブラピ汁的な物質が(笑)。
そんなに誰かを好きって、素敵だなあ。
ちなみに岡山さんって、
もうすぐ30歳になるじゃないですか。
岡山
はい。
──
現時点で、ひとまずの「俳優とは何か」
「演じるってどういうことか」
についての考えってあったりしますか。
岡山
「俳優」とは、「演じる」とは。
──
はい。
岡山
うーん‥‥そうですね‥‥。
──
これから変遷していくとも思いますが、
30代を目の前にした
現時点の、「暫定的な哲学」というか。
岡山
ニセ物を本物にすること‥‥ですかね。
そこに、ふるえるというか。
──
おお、詳しく聞きたいです。
岡山
つまり、ぼくら役者が「演じる」とき、
すべて台本があるわけで、
言ってみれば「ウソ」なわけですよね。
さっき世界に入り込んじゃうって話が
あったと思うんですけど、
あれも、他人からすれば
心配する必要のない不安なんだけど、
当の本人にとっては、
根拠のある、揺るぎない現実なんです。
──
ええ。
岡山
あるいは誰かに片想いをしているとき、
「あの子も俺のこと好きなのかも?」
みたいな、
シアワセ過ぎる勘違いもありますよね。
お芝居も、
そういうことに似ていると思うんです。
実際には殺されるわけないんだけど、
その瞬間は、
うわあ、こいつに殺される‥‥って、
本気で思いながらお芝居しているので。
そういう意味では、
現実を生きることと何が違うんだって
考えたりもするし。
──
この世は舞台、人はみな役者‥‥。
岡山
だから、実際には殴られていないのに、
自分の意識としても、
見ている人の目にも、
本気で殴られているように映ることが、
「お芝居」ということなのかな。
──
ニセモノを、本物にすること。
岡山
ウソを本当にすること‥‥っていうか。
それが、お芝居というものの、
えげつなくカッコいい部分っていうか、
美しさなんじゃないかと思います。
舞台なんかを観ていても、
ぜんぶウソっぱちなわけですよね。
あんな大勢の観客の前で。
でも、「本当のことに見える」んです。
──
ウソなのに涙が出てきたりとか。
それってもう「本当のこと」ですよね。
その「泣いた自分」にとっては。
岡山
そう、そうなんですよ。
そういうところが
芝居というものの神がかったところで。
恋人同士の役だって、
実際に付き合ってるわけじゃないのに、
「これ、絶対好きだろ!?」
みたいに見えてしまうようなとき、
何かもう、うわあって思っちゃいます。
──
それが、
現時点の岡山さんの「演技」への考え。
これは余談なんですが、ずいぶん前に、
柄本明さんに
「理想の俳優」について聞いたんです。
そしたら柄本さん、
テーブルの上のミルクポットを指して
「こいつとか、いい役者だよ」
「こんなふうに、なれたらいい」って。
岡山
へええ‥‥。
──
つまり、うまいとかヘタとかじゃなく、
こいつらは
ミルクポットとして間違ってない、と。
その人そのものとして、そこにいる。
そういう役者になれたらいいのにって。
岡山
その言葉は‥‥すごいです。
──
はい。わけもわからず感動しました。
岡山
でも、同じくらい「怖い」気もします。
──
怖い?
岡山
だって、
柄本さんがミルクポットになったら、
元柄本明だったことを忘れるくらい、
ミルクポットになっちゃいそうだし。
──
ウソが本当になっちゃって!
岡山
戻ってこれないような気がする(笑)。

(おわります)

写真:石川直樹

2024-01-15-MON

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  • 岡山さん主演最新作
    『笑いのカイブツ』公開中です。

    ©︎2023「笑いのカイブツ」製作委員会

    伝説の「ハガキ職人」として知られる
    実在人物の同名私小説を映画化。
    岡山さん演じる「ツチヤタカユキ」は
    「笑い」に取り憑かれた、
    「人間関係不得意」の主人公です。
    せっかく構成作家の見習いになれたのに、
    親切に接してくれる先輩にも
    食ってかかったりして、
    観ているこっちも
    「ツチヤ、おまえ何やってんだよ!」と
    思わされてしまいます。
    これほど共感できない主人公も珍しいと
    思いながら観ているんだけど、
    なぜだか、ツチヤから目が離せない‥‥。
    ツチヤがどうなっていってしまうのか、
    どうしても気になってしまう。
    それほど、
    岡山さんの「人間関係不得意」演技には
    惹きつけられてしまうものがありました。
    でも、最後には「わかりあえるかも」
    と思わせてしまうところも、すごかった。
    全国の映画館で公開中です。ぜひ。

     

    『笑いのカイブツ』
    2024年1月5日(金)
    テアトル新宿ほか全国ロードショー

    岡山天音 片岡礼子 松本穂香 /菅田将暉 仲野太賀

    監督:滝本憲吾
    原作:ツチヤタカユキ『笑いのカイブツ』(文春文庫)
    脚本:滝本憲吾、足立紳、山口智之、成宏基
    企画・制作・プロデュース:アニモプロデュース 
    配給:ショウゲート、アニモプロデュース 
    宣伝協力:SUNDAE

    >公式サイト
    >X(Twitter):@warai_kaibutsu