こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。

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第28回 とくに何も、変わっていません。家でマンガのことを考えてます。 [和田ラヂヲさん(漫画家)]

──
先生、ご無沙汰しております。
そんな気は、あんまりしませんが。
和田
初ZOOMなんですよ。
──
あ、そうでしたか。
でも、お元気そうで、何よりです。
和田
元気そうに見えます?
──
お召し物のお色が、お元気そうです。
ターコイズブルーですかね。
和田
正解ですね。
──
すがすがしい空色が、さわやかです。
さっそく本題で恐縮ですが、
ズバリいかがですか先生、ここ最近。
新型コロナで、大変でしたけれども。
和田
それがね、ぼく自身の毎日の生活って、
ほぼ変わってないんですよ。
漫画家って家で描いてるでしょ、基本。
だから、生活自体は変わってなくて。
──
なるほど。じゃあ、これまでどおりに、
淡々と、黙々と、
おもしろいことを考えてらっしゃった。
和田
そう言われると、まあ、そうですかね。
それに「リモート疲れ」とか言うけど、
デビューしたころから、
こっちにいるじゃないですか、松山に。
──
ええ。あっ。
和田
もともとリモートだったんですよ。
──
ああー‥‥人生がリモートだった。
和田
ただ「メールとZOOM」じゃなくて、
「電話とFAX」だけど。
──
1991年の『イキナリどうだ』で
デビューしてから30年もの間、
電話とFAXで、
リモートワークを貫いてらっしゃる。
和田
やっと時代が追いついてきました。
──
先取りしすぎてますね、30年って。
ほとんど「預言者」です。
外出も、あまりされてないんですか。
和田
ああー、外出ね。してないですねえ。
松山市内の方へも行ってませんしね。
近所のスーパーで買い物するのと、
たまにケンタッキーに行くくらいで。
──
先生は、ご趣味とかって‥‥。
和田
趣味ね。ないですね、趣味。
──
やっぱり、そうでしたか。
先生の趣味って聞いたことないなと。
和田
昔はあったんですけど、
子どももみんな独立しちゃったんで、
いまはやってないです。
──
何をやられてたんですか、昔。趣味。
和田
釣りとかね。
──
あ、へぇ。釣り。何だか意外だなあ。
和田
あとは、山に登ったり下りたり。
──
下りたり(笑)。
和田
うん。
──
登ったら下りないと。
和田
登山と下山はワンセットです。
──
じつはアクティブ派だったんですね。
和田
まあ、昔はね。でも、もうサッパリ。
だから、奥野さんたちのほうが、
変化が大きかったんじゃないですか。
──
そうですね、会社もリモートだし、
取材のスタイルもこれになりましたし。
3月の末くらいからでしょうか、
こういう取材、
かれこれ30回くらいやってるんです。
最初、大丈夫かなと思いましたけど。
和田
そんなに。
──
でも、やっているうちに、
コミュニケーションが大切、
コミュニケーションが大切というけれども、
100%、
一字一句もれなく伝わらなくたって、
「ま、いっか」と
思うようになった感はありますかね。
和田
ああ、そうですか。
途中で電波が途切れたりするもんね。
──
そうなんですよ。
和田
そういう場合、どうしてるんですか。
──
電波が切れた場合ですか?
和田
あとから「いま電波が」とか言うの、
面倒くさくないですか。
──
大事そうな部分の場合は聞き返して、
そうでもなさそうな場合は、
なるほど的な顔をしたりしています。
和田
ああ、こんなもんでいいか、って。
でも、人と話すのがかなり久しぶりで、
懐かしい感じさえあるなあ。
こんなに人と話さないのは、
人生で、はじめての経験かもしれない。
──
2ヶ月、とかですもんね。
和田
ここ最近、奥さんとしか、話してない。
もともと社交的なほうじゃないけど、
週に1回、
ラジオ番組の収録をしてたんですけど、
いま、それも一時中断なんで。
──
ラジオですから「口数」としては、
けっこうな数、あったわけですもんね。
一週間にいちどでも、まとめて一気に。
和田
だから、あれがないだけで、
かなり生活リズムは変わってますよね。
そう思うと、人としゃべるのって、
やっぱり大事だったのかなあ、とかね。
──
うん、うん。それは実感しますね。
そう言えば、先生の最新刊であり、
漫画の神様・手塚治虫さん原作の
『和田ラヂヲの火の鳥』、
めちゃくちゃおもしろかったです。
和田
あれは「火の鳥」の力ですよ。
──
いつにもまして、
物語世界がブッ飛んでいるなあと。
先生の思考回路としては、
まずは「火の鳥」という鳥がいて、
それにたいして、
あのように、
さまざまな物語を発想されている。
和田
えぇと、まあ、そうですね。
火の鳥が先にくるときもありますし、
「ペット編」みたいに、
キャットフードの
「CIAOちゅ~る」みたいなのを、
火の鳥が
ガツガツ食べてたらおもしろいなあ、
みたいなところから
広げていったパターンもありますし。
──
はああ‥‥なるほど。
和田
でも、自分の本をあらためて読むと、
あっという間に読めてビックリする。
──
1時間あれば、という感じですよね。
今回の「火の鳥」にしても。
和田
あれ、1年半の連載だったんですよ。
それを、読者の人に
「あっという間に読み終わりました」
とか言われると、
「そりゃあ、そうだよな」と思って、
悲しくなったりするんですよ。
──
いやいや、でも、満足度高いですよ。
和田
そう?
──
本って、最後まで読みとおすことで、
満足感が高まることもあるし。
和田
ああ、なるほど。読んだぞ、と。
──
もちろん、読みとおせるってことは、
内容がおもしろいわけですけど、
そういう意味で、先生の本って、
すぐに読めるし、いつでも読めるし、
スキマ時間でも読めるし、
いつまででも読めるし、
すぐ読み終わるし、
何度でも読めるし、
いろんな意味で満足感が高いですよ。
和田
でも、なんだろう、
「感想を言え」とか言われた場合は、
言いにくいでしょ。
──
あぁ、感想‥‥まあ、
たしかに小難しい感想はないですね。
和田
ほら。
考えさせるものが特に何もないから、
感想が残らないんですよ。
──
読んでよかった気持ちが残りますよ。
そして、その気持ちは忘れないです。
小難しい感想はないけど。
和田
休憩時間みたいなものなのかなあ。
──
ああ、そうかもしれません。休憩。
でも先生、
人生には休憩時間が必要ですよね。
和田
まあ、もともと「ギャグ漫画」って、
そういうものなんでしょうけど。
お弁当のオカズでいえば、
はしやすめのタクアンみたいな感じ。
──
いやいや、さすがにそれはないです。
先生の作品は、
どんなにひかえめに言っても、
ナゲット感はありますよ。
和田
ナゲット感て(笑)。
──
いわば、おたのしみのオカズです。
弁当の中のメインキャラの一角です。
和田
でも、漫画雑誌の編集者からすると、
あくまで「メイン」は、
ストーリーものの作品なんだよね。
──
そうなんですか。
和田
アカデミー賞なんか見てても、
作品賞は、重厚な映画が獲るもんね。
──
なんか、なんなんでしょうね、それ。
ミスター・ビーンの映画とか‥‥。
和田
獲らないでしょビーンは。
間違ってもアカデミー賞は。ビーンは。
──
ビーンが獲らない代わりに、
深遠なテーマの巨編が獲りますよね。
和田
SF映画で言ったら、
『2001年宇宙の旅』と言っとけば、
間違いないみたいな。
──
そういう風潮ありますね。
和田
やっぱり、われわれ人間というのは、
できることなら、
自分を賢く見せたいというところが、
あるんじゃないかなあ。
──
ギャグ漫画って、
そういう価値観からは遠いところで
ただ笑ってるみたいな。
そんなところが素敵だなと思います。
和田
なんかペットに近いのかもね。
──
なるほど。猫ちゃんみたいな。
和田
ペットに深遠さって求めないでしょ。
──
求めないです。
和田
それよりも、なんか
おもしろいことしてくれてるほうが、
うれしいし、
みんな幸せになれるじゃないですか。
ただ寝てるだけ、とかでも。
──
ずっと見てられますもんね。猫って。
とくに意味なく、見てられる。
和田
やっぱり猫に近いのかもしれないな。
ギャグ漫画って、ホントに。
──
逆に「2001年宇宙の旅」みたいな
猫がいても、
ちょっとどうかと思いますもんね。
和田
扱いづらいわ(笑)。
──
ハハハ。はぁ~‥‥あ、こんな時間。
先生、今日は、おもしろかったです。
ありがとうございました。
和田
えっ、こんなんでいいの?
おしゃべりしかしてないじゃないか。
──
大丈夫です。
和田
ほんとですか。
──
はい、大丈夫です。
先生、最後にひとつお願いですけど、
みなさんにキメで、
パソコンの画面越しに、
お写真を撮らしてもらってるんです。
和田
いいですよ。そこはアナログなんだ。
──
そうですね、ハイ、撮りまーーーす。
(シャッター音)

和田
こんな顔で大丈夫かな。
──
もちろん大丈夫です(シャッター音)。
ちなみに先生は、
毎日のごはんはどうされてるんですか。
お料理とか、やられるんですか。
和田
いや、あんまりしないですね。
お手伝いするくらいです、奥さんの。
パスタのゆでかげんを見たりとか。
──
そろそろアルデンテかな、みたいな。
(シャッター音)

和田
家庭では
アルデンテの和田と呼ばれています。
──
ご家庭なのに「和田」ですか(笑)。
スペシャリスト感あるなあ。
(シャッター音)

和田
だって、ホラ、パスタっていうのは、
そこがいちばん大事ですから。
スペシャリストがチェックしないと。
──
ああ‥‥そうですね、そうですよね。
アルデンテかどうかを見極めるのは、
ダルマに目を入れる人の役目ですね。
(シャッター音)

和田
そうです。
──
わかりました。ありがとうございます。
(シャッター音)
じゃ、本日のこれまでのお話、
原稿にまとめてお送りしますので。
和田
中身ないですよ、やっぱり(笑)。
──
あります、ありますよ。ありましたよ。
なかでもあった回だと思いますよ。
和田
うそ(笑)。何にも言ってないと思う。
──
ないようであるのが、中身ですよ。
和田
そうかなぁ(笑)。
また何も残らないって言われそうだよ。
俺のマンガといっしょで。
──
いや、案外これ、文字にしたときには、
残ったりすると思いますよ。
なんか、文字の「影」みたいなものが。
和田
そうなの?
──
はい、今日という日の先生の「気配」、
みたいなものが、きっと。
和田
それなら、いいんですけどね。

2020年5月20日 東京都世田谷区←ZOOM→愛媛県松山市 2020年5月20日 東京都世田谷区←ZOOM→愛媛県松山市

(つづきます)

2020-05-31-SUN

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