こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。

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第14回 延期ですが、待つのには慣れてる。目の前のことに、集中してます。[石川仁さん(葦舟冒険家)]

──
昨年の12月、長崎の海岸で
インタビューさせていただいたときは、
この3月から5月にかけて、
本番の半分の
9メートルの大きさの船をつくって
テスト航海する‥‥と、
ジンさん、おっしゃってましたよね。
ジン
ええ、そのための準備を進めていて、
組み立てる場所も確保したし、
ボランティアの人たちも、
集まってきてくれていたんですけど。
──
はい。
ジン
さあ、葦を束ねようという段階で、
「3日後、サンフランシスコが閉鎖」
というニュースが流れてきまして。
そこで、計画をいったん中断して、
葦をコンテナに保管して、
大急ぎで日本へ帰ってきたんです。
──
それが、3月半ばくらい?
ジン
ええ。
──
それは、残念でしたね‥‥。
ジン
ただ、もし、つくりはじめていたら、
もっと困ったことになってました。
つくりかけの葦船を、
途中で放り出さなきゃならないから。
──
つまり「不幸中の幸いだった」と?
ジン
そうですね。
滞りなく日本に帰ってこれましたし。
絶好のタイミングで、
待機の状態に入れたかなと思います。
──
絶好のタイミング。
ジン
うん。
──
あの、スケール感はちがうんですけど、
ぼくたちも、いくつか
準備していたイベントがなくなったり。
ジン
ああ、そうですか。
──
そういう人って、
世界中にたくさんいると思うんですが、
やっぱり、ガクッとくるんです。
ジン
そうですよね。
──
ジンさん、そのあたりは、どうでしたか。
今回のプロジェクトって、
だってもう、20年くらい構想してきて、
ようやく今年、
テスト航海までこぎつけたわけですよね。
ジン
いやあ、はい、もうね‥‥。
──
率直なお気持ちとしては。
ジン
みなさんが、ガクッとくるって気持ちは、
すごく理解できるんですけど、
葦船の場合は、
自然まかせ、風まかせ、潮まかせなので。
──
ああーーー‥‥‥‥‥‥そうかあ(笑)。
ジン
うん。待つってことに関しては、
おかげさまで、慣れっこなんです(笑)。
──
そうか、そうか‥‥そうでした。
待つどころか、風の具合で、
200キロくらい押し戻されたりとかも、
ありましたよね、たしか。
ジン
ありましたねえ(笑)。
実際に、何年も待った計画もありますし、
今回の延期についても、
「ああ、また、風向きが変わったんだな」
というくらいの感覚ですね。
──
この場合は「世の中の風向き」が。
ジン
そう。ですから、
「うん、いまじゃないんだな」というか、
「その時期が来るのを待とう」
というふうに、いまは受け止めています。

──
はー‥‥‥ジンさん、すごいなあ。
あの、「待つ」ときの「コツ」というか、
心がまえというか、
どんな気持ちでいるといいみたいなこと、
何か、あったりしますか。
ジン
くらべない‥‥ということは、
ひとつ、すごく大事だと思っていますね。
──
くらべない。何と、くらべない?
ジン
平時とくらべない。
過去とくらべない。
未来とくらべない。
とにかく「現在」と何かを、くらべない。
目の前の「現在」を、見つめる。
──
その日の風を帆に受けて進める距離がある、
みたいなことですかね。
ジン
そうそう、そんな感じです。
とくに、いまの生活って、
船の上にいる状態と似てると思うんです。
──
隔離された空間にいる‥‥という点で。
そうか、なるほど。
ジン
ぼくらは、いったん航海へ出てしまったら、
陸のことを「忘れる」というか、
あんまり気にしないようにしているんです。
陸上ではできること‥‥つまり、
肉が食べたいとか、友だちと遊びたいとか、
彼女に会いたいとか、映画を観たいとか、
船の上ではできないんですよ。ことごとく。
──
ええ、そうですよね。
ジン
そういった状況で、
陸上と同じ欲望を満たしたいと望んでも、
ストレスにしかならない。
──
なるほど。
ジン
ですから、過去とか未来とか平時とか
陸の生活とかと「くらべず」に、
「いま、自分の目の前にある生活」に、
フォーカスすることだと思います。
毎日毎日に「集中する」というのかな。
──
毎日毎日に、集中する。なるほど‥‥。
あんまり外出しない生活を送ってると、
ぼくらは、生きるために、どれだけ
「食べる」と「寝る」に
時間を割いているかがわかったんです。
ジン
うん、うん。そうですよね。
──
その合間の時間で、余った力を使って、
仕事をしたり、喧嘩したり、笑ったり、
本を読んだり、遊んだりしてるけど、
ほっとくと、
だいたい同じ日が過ぎていくんですね。
ジン
うん。船の上でもそうですよ。
──
でも「集中する」という意識があれば、
変わり映えしない日々も、
前向きに過ごしていける気がしました。
ジン
そうなんですよね。
目の前の現実や暮らしに集中すれば、
気持ちも積極的になるし、
そうすると、
変わり映えしない日々にも、
「楽しみ」が必ず見い出せると思う。
──
ああ、なるほど。船上のご経験からも。
ジン
うん。いま、目のまえにあるものでも、
それをじっと見つめ直せば、
人間は、じゅうぶんに楽しめると思う。
それだけの想像力とか創造力が、
ぼくらには、備わっていると思います。
──
閉鎖空間のスペシャリストが
プラのスプーンの裏っ側を黒く塗って、
オセロの石をつくって
遊んでいるようすを見たんですけど。
ジン
うん、うん。
──
生活の工夫、暮らしの知恵というのは、
なんとか、どうにかして、
楽しみを見出すってことですもんね。
ジン
そう、とくにいまは、
世界が同時に「この状態」なわけだし、
いまだからできること、
いましかできないこと、
それは絶対に、あると思うんですよ。
──
ああ‥‥ネット上で演劇をやるなんて、
たぶんきっと、
こういう状況ならではの試みですよね。
ジン
そうそう。
コロナを、ある意味、逆手に取ってね。
──
はい。さーて今日はどうしてやろうか、
くらいの気持ちで。
不安とか恐怖みたいなものについては、
ジンさんは、どう思ってますか。
ジン
まず第一に、
自分だけは大丈夫だと、思わないこと。
──
おお。希望的観測を捨てる。
根拠のないポジティブ思考に陥らない。
ジン
やれることはすべてやったうえで、
冒険の旅に出るのが、
ぼくたちの「常」なんですけどね。
──
ええ。
ジン
いまで言えば、ウィルスにうつらない、
ウィルスをうつさない、
そのためには、
人には、なるべく会わないようにする。
マスクをする、混雑を避ける、
こまめに手を洗う、忘れずに消毒する。
──
いま、ぼくたちに「できること」って、
そういうことですものね。
ジン
と、同時に、相反する言い方ですけど、
怖がりすぎないことも重要。
なぜなら、動けなくなってしまうから。
──
なるほど。
ジン
船の上でもそうですけど、
両者の間の「バランス」を意識して、
「適切な恐怖感」を身につけることが、
大事だと思っています。
──
感染を広げないために、
一人一人がやるべきことをやりながら、
怖がりすぎないこと。
ジン
ええ。
──
それが、「適切な恐怖感を持つ」こと。
以前、同じようなことを、
チリにいる天文学者の阪本成一先生も、
おっしゃっていました。
ジン
ああ、そうですか。
──
小惑星探査機「はやぶさ」をはじめ、
宇宙の装置を開発する際は、
「希望的観測」をすべて捨てて、
不具合の可能性を、
熱くならず、冷徹に見極めるんだと。
ジン
うん、うん。わかります。
──
でも、やっぱり、
危険や恐怖のにおいを嗅ぎつける力は、
ジンさん、
きっと、ほかの人より優れてますよね。
だって世界の海や砂漠で冒険しながら、
危機を乗り切ってきたわけだし。
ジン
いやぁ、そうかなぁ。
能力的には変わらないと思いますよ。
──
え、そうなんでしょうかね。
ジン
うん、そう思います。
危険を目の前にした回数が多いぶん、
自分のことや、
自分のまわりのことを、
よく見つめるクセがついてるだけで。
──
なるほど。やっぱり大事なのは
「自分自身」や「目の前のこと」に、
集中するってことなんですね。
ジン
そうじゃないかな。平常心でね。
──
じゃ、そうやって、ジンさんはいま、
言ってみれば、
いい風が吹いてくるのを待っている。
ジン
そうですね。待ってます。
待つ間にも、
新しいアイデアを取り入れた
設計図のような、
太平洋航海の1/20サイズの模型を
つくったり。
──
なるほど。
ジン
考古学や人類学のレポートを書いて、
研究機関の人たちと
共同研究できないかと考えていたり。
そういうことを、しています。
──
いつかはじまる冒険を、
より豊かにしてくれるような活動を。
ジン
はい、そのことに集中しています。

2020年5月2日 東京都世田谷区←ZOOM→長崎県長崎市 2020年5月2日 東京都世田谷区←ZOOM→長崎県長崎市

2020-05-17-SUN

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