こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。

前へ目次ページへ次へ

第12回 妙に静かな毎日の中で、人生は「繰り返し」だと知る。[池田学さん(画家)]

──
池田さんにはじめてお会いしたのは、
3年くらい前でした。
池田
金沢でしたね。
──
はい、金沢21世紀美術館です。
大作『誕生』を拝見しました。
あのときもそうだったと思いますけど、
今回も、アメリカのマディソンで、
新しい作品に向かわれてらっしゃると。

誕生 2013-2016 紙にペン、インク、透明水彩 300×400cm 佐賀県立美術館蔵 デジタルアーカイブ:凸版印刷株式会社 ©️IKEDA Manabu, Courtesy Mizuma Art Gallery, Tokyo / Singapore 誕生 2013-2016 紙にペン、インク、透明水彩 300×400cm 佐賀県立美術館蔵 デジタルアーカイブ:凸版印刷株式会社 ©️IKEDA Manabu, Courtesy Mizuma Art Gallery, Tokyo / Singapore

池田
ええ、前回はチェゼンミュージアムで、
滞在制作していましたが、
今回は、同じマディソン市内の
超巨大なIT企業の一室をお借りして、
絵を描かせていただいています。
──
また、制作風景を公開していたり?
池田
そうですね、週に一度。
前回より大きな作品を描いています。
──
わあ、『誕生』より大きいんですか!
具体的には、どれくらい‥‥。
池田
3メートルかける6メートルかな。
──
ひゃあ。それをまた細いペン一本で。
前回は3年3ヶ月もの歳月をかけて
完成させたわけですが、
今回は、じゃあ、どれくらいですか。
池田
そうですね、まあ‥‥
前回以上にかかるのは確実ですよね。
できるだけ早めに終わらせたいとは、
もちろん、思ってますけど。
──
いまから数年あとを見据えながら、
一日に「拳ひとつ分」くらいの面積しか
進まない仕事を続けるって、
その時間感覚が、すごいと思います。
何かテーマは、決まっているんですか。
描こうと思っているもの、とか。
池田
もともと海を描いてみたいなあとは、
思っていたので、それで。
ただし、海をどう描くかについては、
まだ、わかりません。
描きながら変化していくでしょうし。
──
いま、どれぐらいの「面積」が
埋まってるんですか、画面のうちで。
池田
「3メートルかける6メートル」の
キャンバスは、
ぜんぶで6枚のパネルでできていて、
そのうち、
1枚めと2枚めの下「4分の1」が、
つながりはじめた感じですね。
──
なるほど‥‥っていうか、
そもそも、
いま制作現場へは行けてるんですか。
池田
それが、ぜんぜん通えてないんです。
外出禁止なんで。
もう1カ月以上、ストップしてます。
──
そうか‥‥そうですよね。それは。
池田
しかも、このコロナの騒動の直前に、
家族全員で日本に帰っていて、
ぼくだけ、
ひと足先に戻ってきていたんですね。
で、そのタイミングで、
こんな状況になってしまったんです。
──
つまり‥‥。
池田
家族全員、日本に残っているんです。
──
じゃ、奥さまとお子さんと離れ離れ。
池田
はい。ひとり暮らしなんです。いま。
家族とは毎日skypeしてるんですが、
家族以外の人としゃべるのは、
だから、
めちゃくちゃ久々なんですよ(笑)。
──
なんと、そうだったんですか。
出勤停止になっている人も
「リモートワーク」というかたちで
家で仕事している昨今ですが、
池田さんは、家にはずっといるけど、
お仕事もできない、ご家族もいない。
池田
ええ。
──
この間、どうされていたんですか。
ご自宅に、ひとりでこもりながら。
池田
世界が止まっちゃっているわけだし、
自分だけあせっても仕方ないので、
起きて活動している時間の
「3分の1」くらいを使って、
ちいさな作品を描いたりですとか、
実験みたいな気持ちで、
新しい技法をためしたりしています。
──
美術のことに、取り組まれていると。
池田
で、のこりの「3分の2」の時間で、
自宅の壁を塗ったり、
地下室に
クライミングウォールを設置したり、
子どものベンチをつくったり、
子どもの遊び場を整えたり、
畑を広げたり、新しい苗を植えたり。
──
おお。DIY的な。
池田
そう。いずれ家族が帰ってきたとき、
それまでよりも、
快適な家にしておきたいなと思って。
──
楽しそうですね、そういう作業って。
ご家族と離れて寂しいということは、
あると思いますけど。
池田
DIYは、めっちゃ楽しいですよね。
アメリカの人たちって、
とにかく、
何でも「自分でやる」という考えが
根付いているんです。
──
ええ、そんな感じしますね。
池田
ホームセンターへ行っても、
木材や工具などが、
安い値段で種類豊富に充実してるし、
車だって、自分で修理するんです。
みんな何かつくってるんです、常に。
──
池田さんにピッタリな環境ですね。
池田
で、やっぱり子どものベンチとかでも、
自分でつくったものって、
ものすごく「愛着」が湧くんですよ。
──
いまは、何でもネットで売っていて、
こういう時期はとくに、
便利でありがたいですけど、
愛着という意味では、そうですよね。
ポチッとクリックで買ったものより、
自分でつくったもののほうが、断然。
池田
そういう喜びに目覚めつつあります。
いまはけっこう特殊な日々ですけど、
なんであれ、
つくる時間がたっぷりあることって、
幸せだなあと思ってます。
──
でも、そうやって、
メインの制作から半ば強引に離れて、
しかも、ひとりで暮らしていると、
頭の中では、
どんなことを考えていたりしますか。
池田
そうですね‥‥
1か月こういう生活をして思うのは。
──
ええ。
池田
毎日とか、人生というものは、
同じことの繰り返しなんだなあって。
──
なるほど。
池田
朝、起きたらごはんをつくって食べ、
3時間くらい動いたら、
お腹がすいてきて、
お昼ごはんをつくって食べ、
で、また3、4時間くらい動いたら、
またお腹がすいてくるんで、
夕ごはんをつくって、食べ。
──
はい。
池田
で、しばらくしたら眠くなってきて、
寝て、数時間後にまた起きて、
朝ごはんをつくって食べ、
3時間くらい動いたら、
昼ごはんを食べ、またしばらく動き、
お腹がすいて、夕ごはんを食べ‥‥。
──
ええ、ええ。
池田
食べて動いて、また食べて動いたら、
また食べて、眠くなって寝る。
人生というものは、
その繰り返しだったんだってことが、
よくわかったというか。
──
いやあ、本当にそうだと思います。
こうやって家での生活をしていると、
「食べる」と「寝る」とに
いかに、
自分たちの人生の時間を使ってるか、
よくわかりました。ぼくも。
池田
1日という便宜的な区切りの境界が、
あいまいになっていく感じ。
太陽がのぼったら、
新しい1日がはじまるなんてことは、
人間の都合でしかないんだ、って。
──
たしかに。
池田
そうじゃなくて、
人生ってもっともっと単純なことで、
何時間か動いたら充電が切れて、
食事や睡眠でチャージして、
また動き出す‥‥
そういうことだったんだと思います。
──
うん、うん。
池田
それを繰り返していくのが人生だと
思ったし、
しかもそれは人間だけじゃなく、
動物も、植物も、
そこらへんの「物体」でさえも、
基本的に同じなんだなあという感覚。
そして、与えられた時間が終われば、
消えていくんだ‥‥という。
──
この「繰り返し」の先に、
「終わり」が横たわってるんだなと、
その感覚、とてもわかります。
池田
いままで、そんなこと、
あんまり思ったことはなかったけど。
──
それというのは、池田さんとしては、
ポジティブな感覚ですか。
それとも、ネガティブな感覚ですか。
池田
どっちでもないです。
感情などは入り込む余地のない、
ただの「宿命」みたいな感覚ですね。
──
ただの、単なる事実。
池田
この地球上に存在しているものなら、
人間だろうが、動物だろうが、
木だろうが、花だろうが、
機械だろうが、みんな同じように、
しばらくモゾモゾ動いたら、
そのうちに
壊れて消滅するんだろうなっていう、
「そりゃそうだよな」
みたいな、そういう感じに近いです。
──
うれしいだとか、悲しいだとかとは、
まったく別のこととして。
池田
はい。
──
この、妙に静かな毎日で深まった
池田さんのその感覚って、
何だか、どこか、
池田さんの作品にも通じるような。
池田
あ、そうですか。
──
いや、すみません。何となくですが。
でも、ぼくたちは、
その繰り返しの「すき間」というか、
寝ると食べる以外の余力を使って、
泣いたり、よろこんだり、怒ったり、
遊んだり、仕事したり、
サボったりしていたんだなあ‥‥と。
池田
ええ。
──
食べると寝るの間で、
何かえらいノーベル賞を獲ったり、
世界記録を出したり、
宇宙へ巨大ロケットを飛ばしたり、
こういう
ビデオ通話の仕組みを発明したり。
池田
うん、いつか消えてなくなるまで。
──
絵を描くのも、同じでしょうか。
池田
そうなんでしょうね、きっと。

2020年4月24日 東京都世田谷区←ZOOM→米国ウィスコンシン州 2020年4月24日 東京都世田谷区←ZOOM→米国ウィスコンシン州

(つづきます)

2020-05-15-FRI

前へ目次ページへ次へ