ある日、糸井重里のところに送られてきた2冊の本。
それはイラストレーターの大橋歩さんによる
『ともだち』そして『ありがとう』という、
犬をテーマにした自主製作の絵本でした。
80歳を超えてはじめた「あたらしい挑戦」について
お話をうかがいます。

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<後編>犬と暮らす毎日と、絵本『ありがとう』


 

『ありがとう』
あるお家で暮らす、犬のララ。
ところが、そんなララの生活が一変することに。
ガラリと変わった6日間のことを描いた本です。
大橋歩さんの絵と、手描きの文字が、
ララの心の内側を、ふわっと伝えてくれます。

「これは、泣いちゃうけど、
とてもハッピーな絵本。大橋歩さん、サイコー!」
(糸井重里のドコノコの投稿より)


 

『ありがとう』が
なぜこのお話になったの? って訊かれると、
どうやって説明したらいいんでしょう‥‥。

一緒に住んでいた犬や猫に赤ちゃんができると、
育てられないからといって
平気で捨てちゃう人がいる、
そんな時代をわたしは見てきました。
でも、どうぶつは──とくに犬は──、
一緒に住んでいた人間のことを
自分にとっていちばん偉い人だと思い、
その人と一緒にいることで生きていけると、
そんな気持ちがあるんじゃないかなと思うんです。

それを、突然、捨てる人がいる。
私は、そういう子をお友だちのところで
実際に見たことがあって。

そのお家にはラブラドールが2匹と、
ハスキーが1匹、ほかにも2匹がいたんですが、
そのうちの1匹だけが
ちょっと違う雰囲気だったんです。
「あら、どうしたんだろ、おとなしいな」
って思ってたら、
「このコね、近所でお引越しがあって、
置いてけぼりにされてたのよ」って。
「もうしょうがないから、引き取ったの」。
それで、その子を見たら、
またその話をしてる‥‥、
みたいな感じの顔をするんです。
それがすごくかわいそうで、胸が痛くて、
いまも、ずっと忘れられずにいます。

『アンジュール』という絵本があるでしょう?
旅先で車から投げ捨てられた犬が、さまようお話。

 


 

『アンジュール ある犬の物語』
ベルギー出身のガブリエル・バンサンによる
鉛筆画の絵本。
主人公の犬は、
じぶんを捨てた車を追いかけるが、
車は見えなくなる。
それでもひたすらに歩き続け、
トラブルに遭いながら、ある街に辿り着き‥‥。

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ああいうことが現実に起こってるいっぽうで、
フランスやイタリアに行くと、
犬をすごくかわいがっているのを見ますよね。
パリではタクシーの助手席に犬が乗っていたし、
ニースでは、お家のない人が、
立派なシェパードと一緒に道路で寝ていた。
これはひょっとして捨てられた犬と
一緒にいるのかもしれないな、って思いました。

でもね、やっぱり捨てないでほしい。
そういう飼い主が減ってくれないと。
そんな思いもあって、『ありがとう』の話ができました。

画材は、『ともだち』は鉛筆でしたが、
『ありがとう』が水彩です。
私は、あんまり絵の具の色を混ぜないので、
水彩絵の具そのままの色が出ています。

『ともだち』は自由な大きさで描いた犬の絵を
細山田さんが本のかたちにしてくれましたが、
こちらは、本にすることを考えて
じぶんで絵を描き、物語をつくって、
本のかたちになるよう編集をしていきました。
絵を並べて、手で綴じてダミーをつくり、
じっさいにめくってみて考えたんです。

「本が好き」っていうことがあるんでしょうね。
たぶん、絵を描いてる人も、文章を書いてる人も、
「本にしたい」気持ちって、あるんじゃないかな。
本になるって、ちょっと特別なことですから。
特に私は、大学を出てすぐ
週刊誌(『平凡パンチ』の表紙)の
仕事をはじめたこともあって、
雑誌や本って、「夢」みたいな存在なんです。
編集部にしょっちゅう行って
本をつくってるのをずっと見ていると、
みんなすごく楽しそうでした。
もし私が最初の仕事として
たとえば映像にかかわっていたら、
もしかしたら今もそういうことを
やっていたかもしれない。
そういうはじめの頃の気持ちって、
全然変わらないものなんですよ。

ほんとうにこの絵でいいのかな、
という迷いはありましたが、
じぶんがやりたいことを、楽しんでやるのがいちばん、
と、すすめていきました。

そうして、実際に2冊の本ができあがって、
「80歳になっても元気でやってますよ」
というつもりで糸井さんにお送りしたら、
すぐに『ドコノコ』で紹介してくださった。
それを『ドコノコ』が大好きな
お友だちが連絡をくれたんです。
「大変だよ。ほら、見てごらん」
「え! 本当に?」って。
すごく、うれしかった。
そうやって思ってもらえるとは、
これっぽっちも思ってなかったですから。

本当は、人に見せるのが、すごく心配でした。
でも本当に良かったです。
そういう体験が、またできるって、
すごく幸せなことだと思っています。

(おわり)

大橋さん、ありがとうございました。

これから、 毎年絵本づくりに挑戦していくそうです。

次の絵本ができたら またお話をうかがいに行きたいですね。

たのしみにしています!

(ドコノコチーム)

2021-08-03-TUE

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