ある日、糸井重里のところに送られてきた2冊の本。
それはイラストレーターの大橋歩さんによる
『ともだち』そして『ありがとう』という、
犬をテーマにした自主製作の絵本でした。
80歳を超えてはじめた「あたらしい挑戦」について
お話をうかがいます。

前へ目次ページへ次へ

<前編>80歳からの挑戦と、絵本『ともだち』

自分でお話を書いて、絵を描いて、
自分で出版して、という絵本をつくったのは
はじめてのことでした。
どうしてつくらなかったのかと言えば、
ひとえに「自分ひとりでつくるのは
自信がなかったから」です。
これまで、出版社から依頼をいただいて
長田弘さんや谷川俊太郎さん作の物語に
絵を描かせていただくことはあったんですけれど、
自分ひとりではとてもできないって思っていました。

でも、昨年、80歳になり、
これからの自分の仕事のありかたや、
チームでやってきた会社での仕事のすすめかたを
考えなおすなかで、
たとえば洋服づくりなどの仕事は
センスのいい若い人に引き継いで、
まかせて行こう、と決めたんですね。
そうしてあらためて考えたのは、
「わたしが、自分ひとりで
できることは何だろう」ということでした。

それはやっぱり、「絵を描くこと」でした。
それで、ずっとやってこなかった自作の絵本づくりを
やってみようって決めたんです。
それも、編集者のかたにアドバイスをいただきながら
つくるのではなく、
個人制作で、自分の考えで、つくりたいものをつくる。
そんな気持ちで走りはじめました。

どうして絵本だったのかと言うと──。

80歳になる前に、
全くお話を考えず、発表するあてもなく、
紙いっぱいに描いた犬の絵があったんです。
それは“ただ描いていた”もので、サイズも大きくて、
本にしようっていう考えはありませんでした。
家にいる時間が長かったでしょう?
だから大きな紙を拡げて、
鉛筆でずっと描いていたんです。
そういうことが好きなんですよ。
最初に犬全体の形をつくり、
ずうっと、中を鉛筆で塗っていくんです。
大きな絵って、ちょっと遠めに見ないと、
バランスが分からなかったりしますから、
ときどき離れて眺めてバランスをとりますが、
基本的にはずっと塗りつぶしていくという、
うんとシンプルな作業です。
「たいへんですよね」なんて言われますけれど、
そんなでもないんですよ(笑)。
まるで子供みたいなものですよ、
描くのが楽しいんです。

その絵を、雑誌『アルネ』からのおつきあいのある
デザイナーの細山田光宣さんのところに
持っていきました。
「お話になるかどうか分からないけれど、
こんなの、描いてるんです」って。
わたしは、ほら、自信がないから、
「大丈夫でしょうか」「これでいいの?」
「犬だかなんだか分からないんじゃないかしら」
って言っていたんですけれど、
今回『ともだち』として1冊になったほうの絵を
細山田さんがすごく気に入って下さって。

私は、この絵を本にするためには、
まず描いたものをデータ化しなくちゃいけないから、
デジタルカメラで撮影したものを使えばいいのかな、
って考えていたんですが、細山田さんは、
「それじゃ印刷にならないからダメですよ」と。
ちゃんと鉛筆のタッチであるとか、
そういうニュアンスを生かしたいということですね。

そもそも、8Bや7Bの鉛筆で描いたわたしの絵は
サイズのこともあって、
一般的な大きさのスキャナーで取り込むのが難しいんです。
それで、それができる専用の機械で取り込んだデータを、
そこから最初に出来たのが『ともだち』、
そのあとでもう1冊の『ありがとう』ができました。
じつは、3冊分のアイデアがあったんですけれど、
もう1冊は、今回は見送ることにしました。
というのも、それは物語をつけるなら
子ども向けかな、というものだったんです。
絵本って、赤ちゃんが楽しむものもあれば、
もうちょっと上の子が読むもの、
そして大人が読めるもの、っていうふうに、
いろんな年齢向けのものがありますよね。
それをどこに絞るかが難しかったので、
私は「自分」が読むものとして考え、
大人向けの絵本をつくろうと思ったんです。

 

さて、『ともだち』ですが、
細山田さんのところから、家に帰って考えました。
なんとかこの絵を「絵本」にするには文字が必要です。
そこで絵を全部並べてみたら、
「あ、この子とこの子でお話をしてるみたい!」
という感じがあったんです。
その頃は私も表に出るのが怖くて、
友達も外に出ないっていう人が多かったので、
「会えないのっていやだな」と思う気持ちが強く、
それが「ともだち」というテーマに
つながっていったのだと思います。

だから、ひとつづきのお話にするというよりは、
それぞれの犬が、それぞれの場所で、
それぞれの暮らしをしているという設定になりました。
そういうことは、誰にも相談せず、自分で決めました。


 

『ともだち』
大橋歩さんが描く犬の「ともだち」が
1ページに1枚、
大橋さんのことばとともに
描かれています。
色んな表情やポーズの犬の「ともだち」が
いろんなことを伝えてくれる本。
自分のともだちのあのひとや、このひとを
思い出させてくれるかもしれません。
ちいさなお子さんから、大人まで
たくさんの方にたのしんでいただけます。


(つづきます)

2021-08-02-MON

前へ目次ページへ次へ