ときの流れるのが速い昨今ですが、
さぁさぁ、思い出していただきましょう。
昨年末の「M-1グランプリ2024」が
いかに面白い、ワクワクする大会だったか。
そのとき審査員席の中央に白いスーツ姿で
座っていたのが、NON STYLEの石田明さん。
NSC（吉本総合芸能学院）の講師などもされ、
年間1200人以上を相手に授業を行う
石田さんのコメントの数々に
「たしかに！」など頷かれた方も多いと思います。
また、自他ともに認める「漫才オタク」である
石田さんは、2024年10月末に
『答え合わせ』という本を出されたばかり。
そんな石田さんが、M-1決勝戦から４日後の12月末、
「ほぼ日の學校」に来て、糸井重里を相手に
たっぷり話をしてくださいました。
お笑い文化への、愛と敬意あふれる全14回。
どうぞおたのしみください。
石田明（いしだ・あきら）
お笑いコンビ「NON STYLE」のボケ、ネタ作り担当。
1980年2月20日生まれ。大阪府大阪市出身。
中学時代に出会った井上裕介と
2000年５月にコンビ結成。
神戸・三宮でのストリート漫才で人気を博し、
baseよしもとのオーディションに合格してプロデビュー。
2006年「第35回上方お笑い大賞」最優秀新人賞受賞、
「第21回NHK新人演芸大賞」演芸部門大賞受賞、
2007年 NHK「爆笑オンエアバトル」
９代目チャンピオン、
2008年「Ｍ-１グランプリ2008」優勝など、
数々のタイトルを獲得。
2012年、2013年、２年連続で
「THE MANZAI」決勝進出。
「Ｍ-１グランプリ」では2015年と
2024年に決勝の審査員を、
「Ｍ-１グランプリ2023」では
敗者復活戦の審査員を務めた。
2021年から、NSC（吉本総合芸能学院）の講師を務め、
年間1200人以上に授業を行っている。
ゲストの芸人とともにお酒を飲みながら
漫才論や芸人論などを語るYouTubeチャンネル
「NON STYLE石田明のよい～んチャンネル」も人気。
2024年10月末に出したばかりの最新刊が、
『答え合わせ』（マガジンハウス新書）。
- 糸井
- だけど、お笑い全体のなかに
「伝統を守るのも壊すのも、どっちの方向もありだ」
みたいなことは当然あると思いますけど、
漫才はそこで、基本に見えるものがあって、
よかったですよね。 - そういうものがなかったら、
おそらくもっと格闘技界みたいになってて、
「M-1でみんなで競い合う」みたいな
いまの状況はなかったんじゃないですか。
- 石田
- まぁ、そうですよね。
格闘技界だとほんとにいろんなジャンルがあって、
大会もこまごまわかれてますからね。
- 糸井
- そして石田さんはきっと、その漫才の
「基本に見えるもの」と「そうじゃないもの」と
両方がわかるからこそ、
こういう本（『答え合わせ』）を
書きたくなったのもあるんじゃないかなって。
- 石田
- それで言うと、この本については、
古典を大事にしてた頃の
僕の意見が詰まっているんです。
- 糸井
- はい、詰まってますね（笑）。
- 石田
- そして僕はこれを出したことで、
「これからはもっと新しいお笑いに
目を向けていこう」って、
一歩目を踏み出した感じもあるんです。
- 糸井
- 楽になりましたか？
- 石田
- 楽になりましたねぇ。
- やっぱり若い子たちに
なめられたくない気持ちはあるんで、
もともと、古いことを大切にしながらも、
新しいお笑いはやり続けていたんです。 - だから近年も
「自分たちがM-1出るなら今年はこの２本かな」
っていうのを毎年決めて、
ネタを作るようにしてたんですよ。
- 糸井
- 出ないのに、２本を用意する。
- 石田
- はい。「今年はこれでいこう」みたいなのを
ずっと考えながら生きてたんです。
- 糸井
- はぁー。すごい。
- 石田
- それで、（腕組みしつつ）
「ああ、今年は優勝はできへんかったかあ‥‥」とか、
「今年やったら優勝できたかな」とか。
ねぇ？ 想像だけなら自由じゃないですか。
- 糸井
- （笑）そうですね。
- 石田
- でもこの本を書いたことで、いまはもっと
ハメを外せるようになったといいますか。 - これを書きはじめてから作ったネタとかは、
自分のハンドルにすごく遊びがきいてるというか、
「あ、ここまでいけんねんや」みたいに
作れてるなあと思いますね。
- 糸井
- つまり「ここさえ守ってれば、
あとはどうやってもいいんでしょ」みたいに
やわらかさが出るわけですね。
- 石田
- はい、そうですね。
- 糸井
- なんだか僕が若いときに思ってたことも、
すごくそういう感じでした。
- 石田
- あ、そうですか。
- 糸井
- 「あいつ何もできないんだよ」って
思われるのは、困るんです。
それだとやっぱり仕事にならないから。 - だけど
「あいつ、腕はあるけど、そういうこともできるんだ」
みたいなことだと、
どっちにとっても息抜けるんですよ。 - 腕を見せ合うような場面でも
「ほんとは俺、これ以外にもいろいろできるよ」
という気持ちでできるし。 - はずしたことをやるときにも、
「実はちゃんとできる人として見られてるな」
と思いながらできるから、
ずいぶんお得になるんですよ。
- 石田
- ほんまそうですねえ。
- いや僕、このあいだ『THE MANZAI』で、
想像でテーブルマジックをするという、
エアマジックのネタを作ったんですけど。
- 糸井
- あれ面白かったぁ‥‥！
- 石田
- だけどあれ、ボケてないんですよ。
ボケというボケが１回もないんですよ。
- 糸井
- あ、そうか。はぁーー。
- 石田
- NON STYLEなんて、ボケ数が多いネタの
代名詞やったんで。
そういうのも全部裏切って、
「ボケがない」という漫才をやって。
- 糸井
- なのにもう、ずっと笑ってました。
- 石田
- はい。お客さんの想像力だけにゆだねて、
ネタを作って。 - いま、そういうことをテレビでやれるのは、
この本を書いたからなんですよね。
もし書いてなかったら、たぶんできてないです。
まだ「なめられたくない」気持ちが強すぎて。
- 糸井
- 「なめられたくない」って気持ちは、
やっぱり厄介ですね。
- 石田
- ほんまにそうですね。
- 僕らはやっぱ、
「芸人が好む芸人ではなかった」
っていうのがあるんで。
この本にも嫌なぐらい書いてますけど（笑）、
ずっと芸人界に愛されてこなかったんで。
- 糸井
- 書いてましたね（笑）。
- 石田
- だからいまでもそこが、
コンプレックスとしてすごいあるんですよ。 - なので、なめられたくない気持ちが
昔からずっとあって。
こんなに体も弱いのに、若手の頃なんて、
いちばん喧嘩っ早かったんですよ。
- 糸井
- ああ。なめられたくないからね。
- 石田
- そうなんです。
で、いまもやっぱそれがすごく強くて。 - でも、そういう気持ちがあったからこそ、
新しいことをやりたい気持ちもずっと続いてて、
いまテレビでたけしさんが見てる前で、
こんなネタをできてるのもあって。
それはいまになって
「得したな」って思いますね。
- 糸井
- そうか。なるほどなあ。
▲ NON STYLEのエアマジックのネタ「テーブルマジック」
（つづきます）
2025-02-09-SUN
-
『答え合わせ』
石田明 著
（マガジンハウス新書、2024）漫才に対する分析が鋭すぎて、
「石田教授」とも呼ばれる石田明さんが
漫才について語り尽くした一冊。
「漫才か漫才じゃないかの違いは何か？」
といった【漫才論】から、
「なぜM-1ではネタ選びを
間違えてしまうのか？」
といった【M-1論】まで、
漫才やM-1にまつわる疑問に
答えを出していきます。
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