みんなだいすき祖父江慎さんと、
伝説のプリンティングディレクター
佐野正幸さん、
図書印刷の製本コンシェルジュ・
岩瀬学さんに、
じっくり語っていただきました。
印刷について、製本について、
紙について、色について‥‥そして
3人でつくった
junaidaさんの絵本『の』について。
たいへん、おもしろい内容です。
福音館書店の編集者・岡田さんも、
ときどき混ざってくださいます。
担当はほぼ日奥野です。どうぞ〜!

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第1回 困ったリクエストが来る。

祖父江
あ、きた! ヤッホー。
──
祖父江さん、ご無沙汰しております。
こうして、きちんとお会いするのは、
小説家の乙一さんと、
対談をしていただいて以来です。
祖父江
えーっと、それはいつのこと?
──
2006年です。
祖父江
ええーっ、それは、すっごい昔!
それじゃあらためて、どうもどうも。
──
はい、よろしくお願いいたします。
(と、名刺交換させていただく)
祖父江
でね、ぼくたち、仲良しチームなの。

──
仲良しチームでありつつ、
「プロ中のプロ」のお三方ですよね。
祖父江
ま、「困った本」は、
この3人が関わっていることが、
多いかもしれません。
──
困った本!
佐野
ははは(笑)。
──
最初にご紹介させていただきますと、
まずは、みんなご存知、
みんなだいすき、祖父江慎さんです。
祖父江
はーい。
──
そして、伝説の「PD」つまり
「プリンティングディレクター」である
佐野正幸さん。
「印刷は佐野さんで!」と指名が来たり、
美術関連の本の奥付に、
「PD」つまり「印刷監督」と
クレジットされている、ものすごいお方。
佐野
いえいえ。
──
いま「伝説の」と申し上げたのは、
これまで、いろんな場所で、
佐野さんの噂をお聞きしていたからです。
佐野
よろしくお願いいたします。
──
そして最後に、
図書印刷さんの製本コンシェルジュ、
岩瀬学さん。
岩瀬
はい。
──
祖父江さんをはじめ、
一筋縄ではいかないクリエイターさんの
「困ったリクエスト」を受け止め、
カタチにされてきたプロフェッショナル。
岩瀬
ぼく、お誕生日席でいいんですか?
祖父江
いいんです、いいんです。
おめでとうございまーす。
──
そして、福音館書店の岡田さんが‥‥。
岡田
こんにちは。
──
あっ、そんなに遠くの方から。

岡田
最近、ちょっと
動画がおもしろくなっちゃって。
──
それで、そんな立派なカメラを抱えて。
岡田
今日も、座談会のようすを
撮らせてもらえたらと思います。
──
本日はそのスタイルでのご参加ですね。
承知しました。
では、さっそくはじめましょう。
今日は印刷や製本について、
そして、みなさんがおつくりになった
junaidaさんの絵本『の』について、
じっくりたっぷり、お話いただこうと。
佐野
最初に、ひとつだけいいでしょうか。
──
はい、もちろんです。
佐野
本来、裏方であるわたしが、
このような場に出るようになったのは、
祖父江さんのせいなんです。
──
と、おっしゃいますと。
佐野
20年以上も前、まだ現場だったころ、
こちらの祖父江さんと、
はじめて仕事をさせていただきました。
岡田
水森亜土さんの本ですよね、たしか。
祖父江
あれは、いつだったっけー。
探してこよう!
(と、言い残してどこかへ)
──
行っちゃった。
岩瀬
進めましょう。
佐野
印刷の過程で色をたしかめるための
「色校」をお出ししたとき、
祖父江さんが気に入ってくださって、
そのときのやり取りが、
ある媒体に記事として載ったんです。
──
おお。
佐野
当時は、まだ「PD」としては
それほどの経験もなかったんですが、
それ以来、
PDとしての依頼をいただくように。
──
つまり「印刷は、佐野さんで」って、
指名で仕事が来るようになった。
祖父江
ま、簡単に言うと‥‥
簡単に言うわけではないんだけども、
印刷に関して、
なんか「異常な人」がいると思って。

──
異常な人。
(いつの間にか帰ってきてる!)
祖父江
それでね、楽しくなっちゃったの。
あのときは、色校を
いろんなパターンで出してくれて。
──
いろんなパターン。
祖父江
水森亜土ちゃんの本をね、
いまの時代に新しく出すってときに、
「なつかしさ」じゃヤですって。
そんなふうに、お伝えしたんですよ。
製版のちからで、
すごーく色がビビッドな亜土ちゃん、
現代的な亜土ちゃんにしてほしいと。
──
おお。
佐野
蛍光色で描いた原画があったんです。
祖父江
つまり、佐野さんは、
蛍光イエローを軸に製版したやつ、
蛍光ピンクを軸に製版したやつ、
というふうに、使う蛍光色に応じて、
CMYKの製版も変えてくれたんです。
同じイラストでも
見え方がそれぞれにちがって、
「わぁ、楽しい!」って。
──
そういう方はあまりいないんですか。
祖父江
こっちからお願いしてないのに、
自主的にやる人って、まあ、いない。
佐野
相手が「祖父江慎さん」だったので。
とにかく、あのお仕事があったから、
今の自分があると思ってます。
祖父江
そんな、ぼくがいなくたって。
佐野
祖父江さんのせいです(笑)。
──
ちなみに、PDというのは、
指名で来るようなお仕事なんですか。
佐野
最近は、そうかもしれません。
岡田
印刷は佐野さんにおまかせしたいと、
もう、いろんなところで。
祖父江
はじめは写真集からだと思いますよ。
写真って写真家の色がありますから。
森山大道さんだったら
光の陰影と生命力がすごく強くて、
逆にホンマタカシさんは
調子の差をていねいに追って、
むしろ立体感よりも
フラットを大切にするとか、
大雑把に言うんでよくないんだけど。
──
ええ、ええ。
祖父江
川島小鳥さんは、
バックが「空間の奥行き」ではなく、
被写体を愛でる色になるとか。
写真家によって、
こだわりって明確にちがうし、
色相や明度についての取り組みも
ちがってくるね。
──
そこで、
プリンティングディレクターさんの
腕前が物を言う‥‥と。
祖父江
ただ、イラストの場合は、
昔は、そうでもなかったと思います。
佐野
原画ありきの世界ですから、基本は。

──
オリジナルに忠実に‥‥というやつ。
祖父江
でもね、佐野さんと一緒に、
酒井駒子さんの本をつくったんです。
岡田
『金曜日の砂糖ちゃん』でしたっけ。
──
おお。
祖父江
あの方の場合はねえ、難しいんです。
酒井さん、まず下に「黒」を塗って、
そこに白で描いたりするから。
──
へえ‥‥。
祖父江
そうするとね、どうしてもね、
スキャナーくんってば目が良すぎでね、
人間には見えないような、
肌色の下にある黒までしっかりひろっちゃう。
岡田
出したくないところが出ちゃったり、
出したいところが出なかったり。
祖父江
そういうちょっとむずかしい仕事も、
佐野さんにお願いして、
ほどよい感じにしてもらってます。
──
佐野さんは、そのようにして、
祖父江さんはじめ、
クリエイターの信頼を得てこられた。
佐野
いえいえ。
祖父江
ここで、先ほどの亜土ちゃんの本を、
正確に申しあげておきましょう。
これを見れば、だいたい出てるから。
──
おお、製作期間10年以上、
「幻」とまで言われた全仕事図鑑
「祖父江慎+コズフィッシュ」!
この本を実用として使っておられる。
当のご本人が。
祖父江
マ・ミ・ム・メ・モのミ‥‥あった。
ピンポーン、水森亜土ちゃんの本は、
2002年『甘い恋のジャム』です。
ブルースインターアクションズです。

──
はい、なるほど。
祖父江
それでー、酒井駒子さんの本はーー、
その翌年の2003年!
ああそうだ、しかも、この本ではね、
とっても、ひどいことしてるの。
カバーを印刷したあと、
絵の上から高い温度で空押ししてるんです!
──
それは‥‥。
岡田
アイロンみたいなイメージですか?
祖父江
そうそう。
「ムギューーーーー!」って。
あれ、インキや紙が
変色する可能性もあるよねー。
岡田
おそろしい‥‥(笑)。
──
でも、どうしてそのようなことを?
祖父江
別のテカテカの紙に印刷された
酒井駒子さんの絵が、
表紙のふんわりした紙に
ぺたっと貼られているふうに、
貼らずに表現できないかなって思って。
──
それは、どうなるかもわからずに?
祖父江
うん。だーれも、やってなかったから。
熱を加えると変質する紙というのは、
まあ、いろいろあるんだけど、
このときは、
ヴァンヌーボVスノーホワイトって、
そんなことをする紙じゃなかったし。
──
ははあ。
祖父江
すてきになったらいいなーと思って、
ためしにやってもらったら、
すごく、いい感じになったんです!
熱と紙とインキの関係については、
なんにも考えずにやったんだけど。
──
つまり‥‥今みたいな
「困ったリクエスト」が次から次に、
佐野さんと岩瀬さんのところへ‥‥。
祖父江
ついついお願いしちゃうんですよ~。

(つづきます)

2019-12-02-MON

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  • 祖父江さん+佐野さん+岩瀬さんが集結!
    junaidaさんの絵本『の』が売れている。

    まだ発売してそんなに経っていないのに、
    すでに重版がかかっているという
    junaidaさんの最新絵本が、『の』です。
    の‥‥という言葉が連れていってくれる、
    王様のシルクのふとんの大海原、
    銀河のはての美術館、
    女の子の赤いコートのポケットの中‥‥。
    この絵本をつくったのが、
    本連載で語り合う3人のプロたち。
    南青山のTOBICHI2では
    『の』の原画展&
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