俳人の夏井いつきさんと糸井重里が
前橋ブックフェスの一日目に、
糸井の母校である前橋高校で
高校生90人に特別授業をおこないました。
前回の対談からずっと俳句に惹かれているものの、
ちっともつくれないと嘆く糸井に、
「俳句は才能じゃない、筋トレです」
「自分のために俳句を作ってみるんです」
とあらためて俳句のおもしろさを話してくださいました。
俳句を通して毎日を見てみたくなる、
全８回をどうぞおたのしみください。
夏井いつき（なつい いつき）
俳人。1957年生まれ、愛媛県松山市在住。８年間の中学校教師を経て、俳人へ転身。
1994年、俳句会での新人登竜門「俳壇賞」を受賞。創作活動のほか、俳句の授業「句会ライブ」の開催ほか、バラエティ番組『プレバト!!』など多くのテレビ番組、講演会などで活躍。
全国高校俳句選手権大会「俳句甲子園」の創設にもたずさわり、俳句を広める活動を積極的に行っている。
- 糸井
- 正岡子規の
- 鶏頭の十四五本もありぬべし
- を僕らがいいと思えちゃうことが、
不思議でしょうがないです。
- 夏井
- それですね。
- 糸井
- なんでいいのって思うんですけど、
いいんですよね。
- 夏井
- これもね、鶏頭という季語を知らない人にとっては、
なんのこっちゃになるんですけど、
一度鶏頭をしっかり見てみてください。
あの不思議な植物には、
いろんな形があります。
ひだひだみたいなのから、
つんつん槍みたいなのまで。 - それで、この句を読みながら鶏頭を見つめてみると、
他の植物じゃ違うんだよねえ、とか思うわけです。
- 糸井
- 違いますね。
- 夏井
- 例えば、コスモスの場合だと、
かわいい花だと思われているけど、
図太くて、倒れても咲いてくる花なんですよ。
金木犀が十四五本も‥‥では、
臭くってしょうがない。
なぜ鶏頭ならば心を打つのか、
それは鶏頭という生きもののあり様が、
まさに十四五本くらい寄り添って
咲いている生き方をしているからだと思うんです。
- 糸井
- 「十四五本」っていう数え方も
本当はでたらめだと思うんですけど。
数学の十四五本じゃなくて、
ふわっととらえてるのがいいんですよね。
- 夏井
- そうなんですよ。
俳句をやりだしたら、
鶏頭を見つけただけで
得したような気分になれるんです。 - 夏休みの終わりくらいに子ども大会というのを
「プレバト!!」でやりまして、
小学校２年生から中３までだったかな。
５人くらい来てもらったんですけど、
その子たちも特別教育された子たちじゃなくて。
でも、俳句と出会って彼らの何が変わったかといったら、
キョロキョロと「おもしろいもの探しを楽しむ」という
スタンスだけが大きく変わってるんです。
- 糸井
- 視野が変わったんですね。
- 夏井
- 「おもしろいもの探しを楽しむ」ようになると、
他の人ならボーッと歩いているような道でも、
ずっとキョロキョロして
道中でおもしろいものをアンテナに止めて
寄り道しながら歩くようになるんです。
まっすぐ歩かないかもしれないけれど、
そういう目を子どもの頃から養っておくと
大人になって損することはないと思います。
- 糸井
- 企業がよく「雑談が大事だ」っていうことを、
いまごろ言い出したんです。
- 夏井
- ああー、なるほど。
- 糸井
- 雑談をできない会社っていうのは、
心理的安全性が低いと。
役に立つことや効率性ばかり求めてきたことに
限界を感じはじめて、
それ以外のところに出会いや発見があるから
どうしたらいいのか考えた結果、
雑談に行き着いたと思うんです。
雑談っていうのが、
俳句の発見の話とちょっと近いと思っていて。
- 夏井
- そうですね。
- 糸井
- 僕と夏井先生がしゃべっていることも雑談に近くて、
論争ではないじゃないですか。
どちらかが正しいなんて言ってない。
なんだろう。最近僕がいいなと思ったのは、
高校生くらいの男女が見つめ合っているのを
電車の中でみて「いいな」と思ったんです。
- 夏井
- そっちですか（笑）
- 糸井
- たとえばですよ。
うらやましいじゃなくて、
さっきの鶏頭みたいに見えたんです。
邪魔もしないし、うらやましいわけでもないんだけど、
「いいな」「がんばれよ」って思ったんです。
仮に、その話を雑談するとしたら、
嫌だという人もいますよね。
雑談で、どこが良いの良くないの、と
やり取りしている行為そのものが、
俳句を作っている時の頭の中とそっくりだと思うんです。
そこに五七五の様式と季語が入れば、
きっと重なるんだろうなぁと。
- 夏井
- もう、まさにそれですよ。
電車の中でちょっと不思議な人がいたら、
もう私ずーっと横目で見てますから。
- 糸井
- まるで、見ていないようなフリをして（笑）。
- 夏井
- 意識だけは全集中して。
電車の中に乗ってるだけでも好奇心の塊として、
このおばあさんが座ってるわけですよ。
でっかい物を抱えてきた人がいたら
何が入ってんだろうとか。
私の頭の中では大きなバッグの中身を
あれかも、これかもと想像するだけで
退屈することがないです。
- 糸井
- それを五七五の方に持っていくのが俳人で、
鶴瓶噺にするのが鶴瓶さんですね。
- 夏井
- はいはい、そうですね。
- 糸井
- 鶴瓶さんが「こないだ見たんやけどね」って、
話してるのが、
彼の俳句なんですね。
- 夏井
- そういえばそうですね。
あなたはどうするの？
- 糸井
- 俳句からの流れなんですけど、
僕はいま雑草に興味があるんです。
雑草っていう概念をみんな季語のように持っているんで、
抜かなきゃ、強い、と思ってますよね。
最近出会った方で、
雑草の研究をしている稲垣栄洋さんという方がいて、
その人の本が全部おもしろくて、
まさに俳句なんですよ。
- 夏井
- へぇー。
- 糸井
- よく見ると違うんだよっていう話しだらけなんです。
たとえば雑草魂という言葉がありますけど、
踏まれても立ち上がるって意味なんですね。 - でも、実は雑草は踏まれても立ち上がらないんです。
なぜかっていうと、
立ち上がるのに使うエネルギーを、
雑草には使う余裕がないから。
種を蒔くのが目的ですから、
のびなくてもいいし、立ち上がらなくてもいい。
- 夏井
- 横たわったまんま種を作ればいいんだ。
- 糸井
- そうなんです。
植物は、日当たりが欲しいからのびるわけですけど、
木は、より高く伸びることで太陽に近くなって、
他が日陰になってもいいからと
わがままで、高くのびてるんです。
でも、雑草がとんでもないところにいるのは、
エリートの木がいないところで、
賢く日光を独り占めしているんです。
俺しかいないところで、ナンバーワンになろうと。
- 夏井
- 人生の秘訣ですね。
- 糸井
- とんでもないところにある雑草を
前から感心してたんですけど、
良いなって思うようになって。
今は、雑草を作るっていうのを真剣に考えていて。
- 夏井
- あなたが雑草を作るの？
- 糸井
- はい。
育てられないんです、雑草って。
雑草は、育ちやすいところに育ってるだけだから、
条件が変わると育たない。
栄養ありすぎると腐っちゃう。
だから、飛んできそうな場所を罠のように作って、
雑草を待とうと思っているんです。
- 夏井
- あははは（笑）。
こういうことを真剣に真っ当に考える大人、
というのがおもしろいよね。
- 糸井
- これが、僕の俳句なわけですよ。
雑草をつかまえようと思って、
ベランダに土を仕掛けてあるんですけど、
いつ生えるか分からないんで、
毎日見ているんですけど、
それは夏井先生の好奇心の話と同じですよね。
- 夏井
- 俳人も、人と同じところを見たら凡人だから、
絶対人が見ないところや、
変なところばかり見ようとしますから、
精神構造はすごく似てますね。
- 糸井
- 僕は五七五に行かないっていう戸口で、
ずっとじたばたしてますが。
- 夏井
- でも、しばらくは雑草づくりに邁進してください。
- 糸井
- それも俳句ですね、思えば。
- 夏井
- もう行動で俳句をやってるようなもんですよ。
- 糸井
- そうですかね。
- 夏井
- とりとめもない雑草の話なんですけど、
「草の花」っていう秋の季語があるんです。
秋の雑草に咲くお花のことを、
総称して「草の花」と言ってて。
素敵な季語なんですけど、
「草の花」というと一括りになっちゃうけど、
雑草の中にも、
おもしろいお名前がいっぱいあるんですよね。
- 糸井
- ありますね。
- 夏井
- 「ひめむかしよもぎ」とかね、
「ままこのしりぬぐい」とか。
- 糸井
- すごいですね（笑）。
- 夏井
- すごい名前でしょ？
ままこ（継子）って、義理の子どもですよ。
義理の子どものお尻を拭く
っていう名前をつけられてる蓼（たで）なんですけど。
葉っぱにトゲがあるので、
連れ子で来た血の通わない子どもの尻は、
このトゲトゲの葉っぱで拭いてやるという。
- 糸井
- 人間の意地悪なところが出てますね。
- 夏井
- それが植物の名前として生き残っているって、
おもしろくないですか？
- 糸井
- おもしろいです。
雑草×俳句っていうのにも、
１ジャンルありそうですね。
- 夏井
- むしろ、ここに雑草を映しながら、
お酒を飲んで一晩中話せますね。
（つづきます。）
2025-02-02-SUN
-
夏井いつき先生とほぼ日による、
俳句を募集する企画「丼宙杯」の
開催が決まりました！
テーマは、なんと、「ラーメン」です。
糸井が一句詠んでみたかった、
というあこがれの題材、ラーメン。
「おいしそうでたのしそうなラーメンから、
そんなもん食えへんでという
おもしろいラーメンまで集まるといいですね」
と夏井先生から素敵なヒントも。
募集要項などをまとめた動画は、
こちらからご覧いただけます。ラーメンはあくまでもテーマなので、
単語が入っていなくても大丈夫です。
丼のなかにラーメンを感じられる句を
作っていただけたらと思います。
句は、何句投稿していただいてもOK。
はじめての方からベテランの方まで、
一句詠んでみるチャンスです!
募集期間は、
1月26日から2月24日12:00までになります。
こちらより応募ください。
また、大賞に選ばれた方には、
丼宙杯らしいプレゼントをご用意しています。
一句、お待ちしています！