ロゴで大事なコンセプトを伝えたり、
色で心をつかんだり、
字詰めや書体で何かを予感させたり。
デザイナーさんの仕事って、
じつに「ふしぎ」で、おもしろい。
でもみなさん、どんなことを考えて、
デザインしているんだろう‥‥?
職業柄、デザイナーさんとは
しょっちゅうおつきあいしてますが、
そこのところを、
これまで聞いたことなかったんです。
そこでたっぷり、聞いてきました。
担当は編集者の「ほぼ日」奥野です。

>名久井直子さんプロフィール

名久井直子(なくい・なおこ)

ブックデザイナー。1976年岩手県生まれ。
武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業後、
広告代理店に入社。2005年に独立し、
ブックデザインをはじめ、紙まわりの仕事に携わる。

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第9回 名久井さんを育てたもの。

──
さらに、そもそもの話なんですけど、
名久井さんって、
昔から「本が好き」だったんですか。
つまり、ちっちゃいころから。
名久井
それが、家に、ほとんど本がなくて。
──
えっ、そうなんですか!
逆に‥‥っていうか。意外すぎます。
名久井
ぜんぜんなかったんですよ。本当に。
電話帳と冠婚葬祭マナーブックしかなくって、
そのふたつを熟読してました。
──
電話帳と冠婚葬祭マナーブックを交互に熟読。
つまり本好きではあったけれど、
手の届く範囲になかった、子ども時代。
名久井
だから図書館とかで借りてきて読んでいました。
絵本とか。
でも、あるときに、
絵本を、おさがりでもらったんですね。
──
おお! うれしかったでしょう。
名久井
はい、福音館書店さんから出ていた
名作絵本のシリーズで、
もう、とってもうれしかったんです。
でも、ページをめくってみたら‥‥
いろいろ「いたずら描き」されていて。
──
つまり、その絵本をくださった人の?
名久井
そうです。
小学校にも入ってなかったんだけど、
憤りを感じました(笑)。
絵本をくれた親戚の人とは、
それきり口をきいていません。
──
なんと!(笑)
本にいたずら描きするなんて‥‥と。
それほど本が大事だったんですね。
名久井
そうなんです。
こんなに素敵な絵が描いてあるのに、
その上から落書きするだなんて、
「どういうこと!? ふとどきもの!」
みたいな(笑)。
──
わはは、いいなあ。
本をくださったご恩はさて置き(笑)。
ちなみにですけど、
電話帳を読んでておもしろいんですか。
名久井
まあ、自分でいろんな遊びを発明して
ひとりで遊んでいたんですよ。
目をつぶって指をさした電話番号の
「次の番号の人」を探したり。
──
へええ。
名久井
岩手県の盛岡市に住んでたんですが、
市内でいちばん多い名前は‥‥
って、同姓同名の人を探したりとか。
冠婚葬祭マナーブックも読み込んでいたので、
子どもなのに
結婚式に招待されて往復葉書を返送するときは、
文字を「寿」で消すとか、
当時からそんなことを知ってました。
──
大人も顔負けの、礼節をわきまえた
子どもだったんですね(笑)。
ぼくの家にも漫画とかなかったので
『これは便利だ!』という
生活の知恵集みたいな本ばっかり
繰り返し読んでいたことを、
いま、稲妻のように思い出しました。
名久井
座布団をすすめられたときは、
いったんよけてから、ご挨拶をして、
それから座るみたいな‥‥。
わたしもすごい読んでました(笑)。
家にあった「文字」は、
片っ端から読んでいた記憶があって。

──
本に、活字に、飢えていた。
名久井
そうかもしれないです。
そういえば「計算機」も好きでした。
電卓の液晶の窓って、
うっすら「8」が見えていますよね。
──
8‥‥はい‥‥宮島達男さん的な。
8のどこを光らすかで、
0になったり6になったりします。
名久井
でね、電卓って、数字の他にも、
Mとかの記号が光ったりするんです。
それを、どうやったら、
ぜんぶ光らせることができるかって、
ずーっとトライしてました。
──
そんなこと、できるんですか?
名久井
できました。
──
できたんだ(笑)。
名久井
押す順番をいろいろ試行錯誤して。
いまできるかはわからないですが、
そのときはできたんです。
暗い遊びばかりしてました(笑)。
──
ぼく、名久井さんと同い年で、
田舎の過疎地の生まれなんですね。
近所に友だちが誰も住んでなくて、
牛しかいなくて(笑)、
親ははたらいてるし、
自ら遊びを発明する必要があって。
名久井
わかります。完全にそうです。
──
秘密基地をつくったり。
木の上に隠し金庫をつくったり。
名久井
わたしは、庭に咲く花をちぎって、
色水遊びをしてました。
プッチンプリンの容器のなかで
花を潰して色を抽出して、
ガーゼのハンカチなんかを染めてたんですが、
次の日になると、
あんなにきれいだったのに、
色褪せして茶色くなっちゃうのが、
残念で残念で仕方なくて。
──
ええ。
名久井
図書館でいろいろ調べて、
酸で色を抑えればいいってことを
つきとめて、
レモン汁で「色留め」したりとか。
何かを解決する‥‥
みたいなことが好きな子でしたね。
──
いまにつながってますね。
名久井
そうかもしれないです。
──
何かの記事で、名久井さんが
小学校低学年でつくったっていう
ミニチュアの鞄を見たんです。
お化粧セットとか裁縫セットとか、
ちっちゃいつくりものが
いろいろ入っていて驚愕しました。
名久井
いまも持っている唯一の工作です。
──
ぼくも、あそこまですごくないけど、
『小学1年生』かなあ、
そういう雑誌で見た筆箱がほしくて、
でも、田舎じゃ売ってなかったんで、
段ボールで自作してました。
そうやって、手元にあるもので
試行錯誤しなきゃならない経験って、
いまの編集という仕事に、
どこか生きてるような気がしていて。
名久井
それは、わたしもあるかも。
──
どうにかしなきゃなんない、これで。
楽しまなきゃなんない、自分がって。
そういうふうに、ちっちゃいころに
「与えられすぎてない」ことが、
その後の創意工夫に繋がるようなことが、
もしかしたら、
あるのかもしれないなあと思うんです。
名久井
たしかに。
わたしは、毎日毎日家に届く新聞に、
たまーに
裏側の白いチラシが入ってることが
あったんですね。
で、 それが、本当にうれしくて‥‥。
チラシって両面印刷が多かったので。
──
わかります! 
裏の白いチラシ、輝いて見えました。
宝物を見つけたくらいな感じで。
ぼくですらそう思ってたってことは、
名久井さんなんか、
めちゃくちゃうれしかったでしょう。
名久井
はい、もう。スケッチブックなんか
持ってませんでしたから。
いつかの誕生日プレゼントで
オモテも裏もまっ白なコピー用紙を
買ってもらったときは、
本当に、うれしかったですね。
──
「両方白い! 両方描ける!」
名久井
そうそう(笑)。
それにチラシそのものも好きでした。
──
たしかに! ワクワクしましたよね。
名久井
いまでもよく覚えているのが、
指輪の写真がいっぱい並んだチラシ。
子ども心に、いいなあって。
あと、クリスマスの前に届く、
おもちゃのたくさん載ってるチラシ。
そういうチラシに載っている
指輪やおもちゃの写真を
ひたすら鋏で切り抜いて、
お店屋さんをつくったりしてました。
──
その体験が育てたんじゃないですか。
名久井さんという人を。
名久井
そうなんでしょうか。
たしかに、
あのころの延長みたいな感じだって
思うこともあります。
わたしの会社、
「鋏と糊株式会社」っていうんです。
──
うわー、すごいいい名前!
名久井
積極的に表に出してるわけじゃなく、
経理上とかで必要なので、
つけている名前ではあるんですけど。
──
いやあ、素敵です。
だって、新聞の折込チラシを
ハサミで切ってノリで貼ってた子が、
こうして、
すばらしい装丁家になってつくった、
その会社が、鋏と糊株式会社。
名久井
はい。
──
最高です。
名久井
うれしいです。
ありがとうございます。

(おわります)

2024-09-10-TUE

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  • 名久井直子さんの装丁による最新刊は、 プレゼントブック、贈る本。 万城目学さんの「ちいさな物語」です。

    名久井直子さんの装丁による最新刊は、 プレゼントブック、贈る本。 万城目学さんの「ちいさな物語」です。

    直木賞作家・万城目学さんの小説で、
    誰かの誕生日を寿ぐような、素敵な物語です。
    題名は『魔女のカレンダー』。
    ちっちゃな本で、特製の箱に入ってます。
    ふだんから
    名久井さんとおつきあいのある製本屋さんで
    つくっていただいたそうです。
    コンセプトは「プレゼントブック」なので、
    この本そのものをプレゼントにしても、
    別のプレゼントに添える
    うれしい物語の贈り物にしてもいいですねと、
    名久井さん。
    ちっちゃいから本棚ではなく、机の上だとか、
    身近なところに置いておけたり、
    身につけておけそうなのもいいなと思います。
    もちろん、名久井さんのことですから、
    ただかわいいだけじゃなく、
    装丁にも、何らかの「意味」が‥‥?
    本屋さんには流通せず、ネットのみでの販売。
    詳しくは、公式サイトでチェックを。

     

    デザインという摩訶不思議。大島依提亜さんに聞きました編