「レンタルなんもしない人」を知ってますか?
ひとりの男性がTwitterを使ってはじめた活動で、
ごく簡単なうけこたえ以外
「なんもしない」自分を貸し出すサービスです。
なんもしないのに依頼が舞い込み、
一躍、話題の人になりました。
書籍になり、ドキュメンタリー番組になり、
増田貴久さん主演のドラマにまでなっています。
社会のルールや会社での評価に嫌気が差して、
逃げるようにして辿りついた道のりを、
「レンタルさん」こと森本祥司さんが語ります。
お話を訊いたのは「ほぼ日」の平野です。

>レンタルなんもしない人のプロフィール

レンタルなんもしない人

1983年生まれ。既婚、一男あり。
理系大学院卒業後、数学の教材執筆や編集などの
仕事をしつつ、コピーライターを目指すも
方向性の違いに気づき、いずれからも撤退。
「働くことが向いていない」と判明した現在は
「レンタルなんもしない人」のサービスに専従。
著書に『レンタルなんもしない人の
なんもしなかった話』
『レンタルなんもしない人の
“もっと”なんもしなかった話』(晶文社)、
『〈レンタルなんもしない人〉という
サービスをはじめます。
スペックゼロでお金と仕事と人間関係を
めぐって考えたこと』(河出書房新社)、
企画原案に『レンタルなんもしない人』
(第1巻、講談社・モーニングコミックス、
作画:プクプク)など多数。

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第1回 なんもしないで、ただそこにいる。

ーー
おもしろいことする人がいるんだなって
ずっと気になっていたんです。
「レンタルなんもしない人」を
はじめた時のことって覚えていますか。
レンタル
直接のきっかけは、テレビで見かけた
「プロ奢ラレヤー」というかたが
おもしろい活動をしていたのを見て、
活動の形式を真似したことですね。
僕はもともと、何もしたくない気持ちが
人一倍強かったんです。
何かをしようとしては続かなくてやめる、
そういうくり返しの人生でした。
会社で働いてもすぐに辞めて、
ライター活動をしようとしても、
ブログを書いてみても続かない。
いろいろやってみたけど無理だったんです。
ーー
もうなんもしたくない、と。
レンタル
なんもしたくない気持ちが強くなっていた時に、
誰かに奢ってもらうだけで生きている
「プロ奢ラレヤー」さんを見て、
生き方の幅が広がった感じがしたんです。
僕もTwitterなら
日頃から使っていて慣れていたし、
自分にも合っていると思いました。
もしも「なんもしない」で逃げきれるなら、
なんもしないで堂々と逃げてみようかなと。

ーー
レンタルさんが活動をはじめる前の
「逃げたい」「不安だな」という気持ちと
近い状況にある人から、
頼りにされているんでしょうかね。
レンタル
僕に依頼してくれる人は、
自分の感覚に近い人が多いと思います。
共感というよりかは、似ているのかな。
僕みたいな人だったら、
茶々を入れずに話を聞いてくれそうだなと思って
依頼してくれる人が多い印象です。
ーー
「レンタルなんもしない人」を
はじめた時の反応は覚えていますか。
レンタル
無反応の期間はそんなにありませんでした。
もともとの知り合いで
フォロワー数の多い人が
リツイートしてくれたおかげで、
告知をしたその日の夜から
翌朝にかけて一気に拡散して、
すぐに反応がありましたね。
ーー
活動をはじめてみて、
ものすごく単純な依頼だったりすると、
「俺、こんなことやるの?」
みたいなことは思わなかったんですか。
それこそ行列に並ぶだとか、
お花見の場所取りをするだとか。
レンタル
あ、見ている側からしたら、
そう思われていたかもしれませんね。
僕自身は「なんもしない人をレンタルする」
という活動で走りだしたところなので、
どんなに地味な依頼でも全然オッケーでした。
SNSで発信して、そのつながりから
リアルにサービスをこなしていく形式自体の
おもしろさを感じていたので。
依頼内容がものすごく地味なものでも、
パシリのようなものだとしても、
たのしんでいました。
ただ、同じような依頼内容を
くり返しているうちに飽きてきたので、
もうちょっとおもしろい依頼がいいな、
というのはあったんですけど、
最初の頃は喜んで引き受けていましたね。
ーー
依頼される方って、
会ったことのない人が大半ですよね。
「はじめまして」は緊張しないんですか。
レンタル
スタートしたばかりの頃は、
あまり誰もやってこなかった
「レンタルなんもしない人」という活動自体に
自分自身が入りきれていない部分があったので、
ちょっと緊張があったと思うんですけど、
すぐに慣れて緊張しなくなりました。
「なんもしない」とわかってくれている人を
前にしても緊張しないんですよね。
僕は緊張しないんですけど、
依頼者のほうが緊張していることはあります。
ーー
依頼者は「なんかしなきゃいけない人」ですしね。
レンタル
自分が話したいことをちゃんとしゃべれるか、
「なんもしない」人を相手に
本当になんもさせないでいられるか、
そういう緊張をされるみたいです。
僕からすれば、
お会いする人によって仕事内容が違うおかげで、
ずっとおもしろいんです。
世の中にあるような職業に就いていたら、
カチッと決まった仕事内容があって、
それに対するやりがいがあるかもしれないですけど、
僕の場合、ちょっとだらーっとしてるんです。
依頼をこなすと言ってもカチッとしていなくて、
全部が地続きで曖昧なんですよ。
依頼をおもしろく感じていますし、
依頼と依頼の間の移動もおもしろいです。
ーー
「レンタルなんもしない人」という、
サービスの名前がいいなと思ったんです。
「何もしない人」ではなく、
「なんもしない人」にしたおかげで
「なんもしない感」がより伝わってきました。
レンタル
「レンタルなんもしない人」というネーミングは
悩んだ末に思いついたものでした。
こういうサービスがあります、
という告知文を先に作ったんですけど、
ツイートする2分ぐらい前に
降ってきた名前だったんです。
で、その前に考えていた名前というのが、
「動く置物」なんです。
ーー
「動く置物」ではじめていたら、
受け取られ方も違ったでしょうね。
レンタル
全然違ったでしょうね。
カタいし、言いにくいなあとは思いつつ、
あんまり考え過ぎずに
はじめようと思っていた活動なので、
適当にやったろと思ってました。
とはいっても「動く置物」じゃあ
なんか違うよなあと思い続けていたら、
「レンタルなんもしない人」に行き着いて。
ーー
活動をはじめる前からそもそも、
「なんもしない人」だったんですか。
レンタル
僕、まわりから浮いていたと思うんですよね。
いま僕がやっている活動って、
他人といっしょに行動して
僕はぼーっとして指示どおり動くとか、
ただただ後ろをついていくだけなんです。
実際、結婚する前からそんな感じでした。
自発的に「ここに行きたい」というのはなくて、
妻の用事に付き合い、買い物にもただ付いていく。
「好きなもの見てきていいよ」と言われるけれど、
自分で見たいものもないから、また戻ってくる。
妻といる時間にも「なんもしない人」を
やってたんだなって思います。

ーー
あ、それはたしかに
なんもしてないですね。
レンタル
もともとがそういう人間だったので、
いまやっている「レンタルなんもしない人」の活動は、
仕事みたいにサービスを提供すると言いつつも、
無理して頑張っているわけじゃなくて、
生活の一部をただただ貸し出している感覚です。
ーー
自発的にやりたいことはないけれど、
いつも誰かといっしょには
いたいということですか。
レンタル
ひとりが好きじゃないこともないですけど、
やっぱりさみしい時もあります。
ひとりで入りづらいお店ってありませんか?
会計のシステムがわからずに、
お店に入って挙動不審になりそうで怖いんです。
そういう経験をしたこともあったから、
誰かに付いていくっていうサービスは、
自分にも需要があったんです。
ーー
連れられて行くんだったら、
だいぶ行きやすくなりますね。

(つづきます)

2020-05-07-THU

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    約1年間に起こった出来事を時系列で紹介。
    「においをかいでほしい」
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    「アンドロイドの練習に付き合ってほしい」
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