いまなお、世界中で多くのファンに
愛されている『MOTHER』シリーズ。
全3作品のことばをすべて収録した本、
「MOTHERのことば。」も発売されました。
本の発売をきっかけに、ファンの人たちに
『MOTHER』のなかで思い出に残っている
ことばはなんですか? とうかがったところ、
たくさんの方が回答してくださいました。
そのなかから印象深い7つのことばについて、
『MOTHER』の作者、糸井重里に取材しました。
最初は「ちゃんと憶えてるかなぁ?」と
言っていた糸井重里でしたが‥‥。
『MOTHER』ファンの代表として
聞き手を務めるのは、ほぼ日の永田です。

写真:東 京祐

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第6回 ことばだけど、ことばだけじゃない

──
『MOTHER』シリーズのことばを集めた
「MOTHERのことば。」という本について、
あらためて、どんなふうに感じてますか?
糸井
いやぁー、なんで出すんだろうね、
っていうのは、
やっぱりいまでも思うんだけど(笑)。
──
(笑)
糸井
まあ、でも、こういうものがあると、
料理人が出汁を取るときに前例を見て、
「昆布でさっと出すんだよね」とか、
そういう話ができるんだなぁと思うと、
このあと、いろんなことをする人の
参考になるかもしれないですよね。
──
ああ、そうですね。
糸井
『MOTHER』をわかってる人にとっては、
ものすごくおもしろいものだと思う。
でも、あいかわらず思うのは、
どのくらいの人がおもしろがるのかな、と。
たとえばさっきのどせいさんの
「むつかしいことかんがえよう」なんていうのは、
訊かなきゃおもしろくない、というか、
通り過ぎちゃう人がふつうなんじゃないの?
──
そうかも‥‥いや、違いますね(笑)、
『MOTHER』のファンは、
そこを通り過ぎない人が多いですよ。
糸井
ああ、そうですか(笑)。
それは、すばらしい遺産を残したというか、
まるで子育てをしてるかのようだよね。
──
はい、若い人のなかには、
『MOTHER』が好きで、『MOTHER』に影響を受けて、
『MOTHER』が下敷きになってる人が、
思った以上にたくさんいるように思います。
糸井
そうなんだねぇ(笑)。
しかし、『MOTHER』のことばについて質問されて、
じぶんがこんなに答えられるほど、
憶えてるとは思わなかったなぁ。
ほら、ぼくは、ふだん、
じぶんが書いたもの憶えてないじゃない?
──
はい。
‥‥って即答しちゃいましたけど(笑)。
まあ、糸井さんは、憶えてないですね。
糸井
なんだろうね?
──
なんなんですかね?
糸井
ただ、おもしろいなと思うのは、
ことばだけど、ことばだけじゃないんだよね。
たとえば「いちごとうふ」なんていうのは、
ことばなのか、概念なのかわかんないけど、
みんなが憶えてたり。
──
実際につくったりしてる人もいましたよ。
糸井
ねぇ(笑)。
で、どういう食べものなんですか?
って言われても困るよね。
それは「いちごとうふ」を
発明したってことなんだと思う。
──
そうですね。
糸井
そういうのの最たるものとしては、
「なんで『MOTHER』ってタイトルなんだよ」
っていう問題があってさ。
──
ははははは、いまそれを言いますか。
糸井
その都度、なにか答えてはきたんだけどね。
さっきの松尾和子の『再会』みたいなことで、
こころの奥に沈殿してるものが、
いっぱいあるんだろうね。
──
『MOTHER』というタイトルは、
どの段階でつけたか、憶えてますか?
糸井
‥‥うーん。
最初の企画書の仮題は『ESP1』だったからね。
──
はい、超能力の「ESP」。
糸井
イントロダクションで、
円盤が下りてくるシーンがあって、
それが母船で、マザーシップという意味があるし、
母というのがテーマになるし、っていうので、
ストーリーのあらましができてないときに、
もうすでに、あったかもしれないね。
あとはやっぱり、ジョン・レノンの影響だよね。
──
『MOTHER』ですね。
ジョンの最初のソロアルバムの1曲目。
ゲームの中でもキャラが言いますね。
「マザーってタイトルにきまったらしいんだけど、
 ジョン・レノンのまねだよな」って。
つまり、糸井さんがわざわざ言わせている。
糸井
言っといたほうがいいよね。
ジョンという人は、ときどき、それまでのことを
引き裂くようにじぶんの歌をつくるときがあって、
『MOTHER』っていう曲もそうだったんじゃないかな。
だから、そういうものが、
ゲームをつくるぼくのなかにも
たくさん溜まっていて、
それが『MOTHER』のことばや概念に
なっていったんだと思うなぁ。
だから、「もうつくらないんですか?」って、
何度否定しても質問されるけど、
いや、「もうできないよ」っていうのが、
ほんとによくわかるね。

──
ああーーー。
糸井
つまり、じぶんの中のデコボコが
写真を撮れば写るぐらいにデコボコしてるときは、
そこを埋めたり、寄せたりというのができるけど、
じぶんを平らにする練習をしちゃってからは、
ゲームを真剣につくるなんていうことは
やっぱり難しいですよね。
赤ん坊がえりするか、
平らなものを「いまはこれが好きだ」って言うか、
どっちかだろうね。
──
はい。
糸井
まぁ、人って、長く生きるからなぁ(笑)。
そういうことだよね。変化もするし。
あの、子どものときに、
「なんであんなことしたんだろう」
っていうのを、じぶんでもわからずに、
何十年も憶えてることってない?
──
‥‥ああ、あります。
糸井
それね、いまぐらいになって、
正体に気づくときがあるんだよ。
──
へぇーーー。
糸井
たとえば、兄弟につらくあたったとかさ、
「なんであんなに」ってじぶんで思うんだけど、
それがどっかで、
「ああー、だからか」って思うことあるんだよ。
若いときにはわからないんだけど、
そういうの、ぼくはいまも
この歳になって発見してるよ。
──
それは、歳をとると、じぶんのなかで、
ずっとわからなかったことの
辻褄みたいなものが合うってことですか。
糸井
合う。
──
わあ。合うんだ。
糸井
無意識でやってたことが
じつは理由があって、と、
あとになってわかることが、けっこうある。
──
受け入れたり、肯定したりというわけじゃなく、
理由がわかる。
糸井
わかる。気づく。たとえば、
「なんだか腹が立つんだよ、あいつ」ってのは、
因果関係ってほどじゃないけど、
なんか理由があるんだよ。
やっぱり、そのときのじぶんの
「こころのありよう」と関係があるからね。
で、そういうじぶんの要素は、
たとえばムーンサイドをつくることで、
作品の中に入れられるんだよ。
──
あああ、なるほど、なるほど。
糸井
そういうのを、みんなにばらまけたのが、
『MOTHER』をつくってよかったというか、
ぼくは、すごく得をした気がするなぁ。
だって、それがいままでこうして
つながってるわけだからね。
──
まだまだ広がってる感じがします。
二世代、三世代と。
糸井
ほんとはどんなことも
そうならなきゃダメだよね。
で、そういうときに重要なのは、
『MOTHER』って、まったく
マーケティングでつくってないんだよね。
──
ああー、そうですね。
糸井
こういうのをつくると
ウケるぞとか、売れるぞとか‥‥
まあ、売れることは、
おまけとしてはあるさ。
売れないほうがいいなんて思ってないから。
でも、そこからつくったら、
こうはなってないと思うよ。
──
はい。
糸井
だから、どこかのところで、
大袈裟に言えば、全身全霊‥‥ふぁ‥‥
全身全霊を‥‥ふぁゎわあぁ~
かたむけないとね‥‥って、
あくびしながら言うことじゃない(笑)。
──
ははははは、
激しい説得力のなさ(笑)!
糸井
全身全霊をかたむける話をしてるのに
あくびが出ちゃったな‥‥あはははは。
──
いま、糸井さん、
『MOTHER』のキャラみたいでしたよ(笑)。
糸井
そういうもんなんだよなぁ(笑)。
でも、今日は、
『MOTHER』のことばの話をして、
この本ができてよかったんじゃないかと
はじめて思えたなぁ。
──
ああ、よかったです!
また、『MOTHER』のことばの話の
つづきをしてもらっていいですか?
糸井
いいよー。

(糸井重里の話はこれで終わりです。またつづきをやるかも?)

2021-02-02-TUE

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  • MOTHERのことば。

    糸井重里がつくった名作RPG
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