
おもしろいゲームには、
たくさんのアイデアと多くの技術、
さまざまなテクノロジーが取り入れられています。
『MOTHER2 ギーグの逆襲』のなかにも、
多くの人たちのアイデアや努力がたくさん詰まってます。
そのゲーム開発の現場の中心人物のひとりが、
ゲームデザインを担当した
「三浦兄」こと、三浦明彦さんです。
『MOTHER2』はどのようにして生まれたのか。
これまで知られていなかった『MOTHER2』の
開発エピソードをたっぷりと語っていただきました。
三浦明彦(みうら・あきひこ)
ゲームデザイナー。明治学院大学非常勤講師。
宇都宮大学入学と同時にゲームソフト輸入、販売、開発会社に入社。
黎明期の北米ビデオゲームを学ぶ。
セディック、エイプでゲームソフト、テレビ番組、書籍を制作。
クリーチャーズ、ポケモンで『ポケモンカードゲーム』などを手掛ける。
ジニアス・ソノリティの設立に加わり、
2011年よりミウラアニ・アンド・アソシエイツとして、
『Pokémon Trading Card Game Pocket』など
さまざまなゲーム開発に関わっている。
『MOTHER』シリーズ関係者からは
「三浦兄(みうらあに)」と呼ばれる。
- ──
- より具体的な仕様についてうかがいますが、
一作目の『MOTHER』から
大きく変わった仕様のひとつとして、
バトルのシステムがありますよね。
『MOTHER2』ではフィールド上に敵が表示される
シンボルエンカウントに変更されました。
そういったことも、仕様書で決めていった。
- 三浦
- そうです、そうです。
なにもないところでバトルが起こるのが
どうしても納得いかなくて。
バトル中、キャラクターのHPを
アナログ的なドラムリールで示すのも
自分が仕様をつくりました。
ちなみにあのドラムリールのシステムができたのは、
『MOTHER2』を開発していた場所の近くに
パチンコ屋さんができたからなんですよ。
- ──
- えええ?
- 三浦
- 開発の初期、ぼくらの仕事場は
六本木のWAVEビルにあったんですけど、
その向かいに大きなパチンコ屋が開店したんです。
当時のぼくらは基本プログラムが進まなくて
時間があったこともあって、
ちょっとしたパチンコブームが起きたんです。
それで、みんなで、
「パチンコはなぜおもしろいのか」
っていう話をするようになって、
じゃらじゃらと玉が物理的に落ちてくる感じ、
それが増えたり減ったりする感じがいいよね、と。
その感じを『MOTHER2』の
バトルのHPの表現にできないか、
ということで話してたら、
ドラムリールというアイデアにまとまったんです。
だから、当時の六本木にパチンコ屋ができなければ
たどり着かなかったゲームデザインですね。
- ──
- あのシステムはとてもインパクトがありましたし、
いまでもおもしろいと思います。
- 三浦
- よくできた仕様ですよね。
個人的にも、気に入ってます。
とくに、自分が大ダメージを受けて、
リールが回ってHPが減っているときに、
回復するとリールが逆に回って助かるという仕様。
ほんとうに致命的なダメージのときは、
ボタンを連打して急いで回復しないと
「きぜつ」してしまう。
- ──
- はい。あの焦る感じがいいですよね。
- 三浦
- じつは、自分は本来、
ああいう仕様は好きじゃないんです。
RPGのターン制バトルは、誰がやっても
公平な結果になるところがよいところで、
反射神経のいい人が有利になる仕様は
あまりいいとは思えない。
でも、やってみると、ドラムリールのほうが
やっぱりおもしろいんですよね。
お客さんが「おもしろい」と思うなら
「RPGはこうあるべき」みたいなものはいらない。
そんなふうに考えるようになったのは、
糸井さんの影響でもあったと思います。
このバトルの仕様書を書きながら、
こういう仕様をいいと判断するなんて
自分でも意外だなと思っていたことは、
いまでもよく覚えています。
- ──
- バトルで印象的だったのは、
自分がレベルを上げて強くなって
弱い敵との差が大きくなると、
エンカウントしてもバトルモードに移行せず、
接触した瞬間にズバッと倒せる仕様です。
- 三浦
- 弱い敵モンスターを一発で倒せるようにする
ワンターンキルは、任天堂の宮本茂さんに
テストプレイをしていただいたときに、
「弱い敵とのバトルはスキップできないか」と
ご提案いただいて実装しました。
ちなみにあれはインチキしているわけじゃなくて、
モンスターと接触した瞬間に
ちゃんとバトルの内部計算を行っているんです。
バトルの計算をしてワンターンキルが成立すると、
接触した瞬間にモンスターが倒せる。
ワンターンキルが成立しないときは、
接触してもモンスターを倒せない。
- ──
- あれ、そのたびにいちいち計算してるんですか!
- 三浦
- そうなんです。だから、
正面から接触してワンターンキルできないのに、
背後から触るとすぐ倒せたりする。
- ──
- たしかに、いわれてみると、
敵と重なった瞬間に倒せるんじゃなくて、
そこに凝縮された手応えがある気がします。
だからこそ「ズバッ!」と終わったときに、
開放感があるというか。
あの感覚は、その瞬間に計算していたからなんですね。
スーパーファミコンの時代にそんなことを‥‥。
- 三浦
- ふつうそんな面倒な実装はしてもらえないです。
でも、仕様書をつくる時間がたっぷりあったので、
プログラムしやすい状態に
なっていたんじゃないでしょうか。
- ──
- 敵の背後をつくと先制攻撃ができ、
敵に背後をつかれると敵に先制攻撃を受けるという
「バックアタック」も
まさに仕様としてのおもしろさですね。
- 三浦
- あの仕様も自分が書いたんですが、
敵にバックをとられていたとしても、
接触した瞬間に自分のキャラクターを
振り向かせる猶予がたしか2フレームだけあるんです。
- ──
- あ、わかります。
- 三浦
- 「後ろをとられた」って思った瞬間に
コントローラをピッと入れると、
振り返ることができるんです。
あれも宮本さんが考えた仕様なんですよ。
- ──
- ああ、そうなんですか。
- 三浦
- はい。それも、マスターアップが2週間後、
みたいなタイミングで、ぼくの席に
宮本さんから直接電話がかかってきたんです。
自分宛てに電話がかかってくるなんて
滅多にないので誰だろうと思ったら
「任天堂の宮本です」と。
- ──
- うわあ(笑)。
- 三浦
- 「三浦君、接触したときに
バトルがはじまるやつあるやろ。
後ろからモンスターに当たられると、
バックアタックになるでしょ?
あれ、接触した瞬間に振り向けば、
バックアタックじゃなくて
普通のバトルになるというアイデアを
思いついたんだけど、どうかな?」って。
宮本さん‥‥マスターアップ2週間後‥‥
いまそんな仕様を入れたら
ぜんぶデバッグやり直しですよ‥‥。
- ──
- そ、そうですよね。
- 三浦
- しかも『MOTHER2』の仕様はすごく複雑で、
スーパーファミコンでは
本来はできないような要素がてんこ盛りなんです。
だから、デバッグやり直しはちょっと‥‥。
「次回作にしませんか?」と
のどから出かかったんですけど、
宮本さん、粘り強くて、折れない。
- ──
- さすが世界のちゃぶ台がえし。
- 三浦
- 自分も、宮本さんからそのアイデアを聞いたときに
「絶対おもしろい、絶対に入れたほうがいい」
と思ってしまっていたんですよね。
でも「入れましょう」と自分からは言えない。
そんな状況だったんだけど‥‥
プログラムを担当してくださっていた
岩田(聡)さんが、いつも企画に対して、
「なんでも言ってください」と
おっしゃっていたのを思いだして(笑)。
- ──
- 「プログラマーはノーと言ってはいけないんです」だ。
- 三浦
- そうそうそう。それで、けっきょく、
マスターアップの日程を変更したような気がします。
このあたりの記憶は曖昧なんだけど。
- ──
- 結果、敵とのバックアタックの駆け引きは
『MOTHER2』のおもしろさのひとつになりました。
- 三浦
- やっぱり、宮本さんは天才です。
接触した瞬間だけ振り返られるようにしたら、
めちゃくちゃおもしろいんです。
でも、なぜあんなギリギリで‥‥。
もうひと月前だったららくに対応できたのに‥‥。
- ──
- ははは。
- 三浦
- のちにおっしゃっていたのが、
「弱い敵とのバトルをスキップするのは
自分で言い出したことだから、
最後まで粘りたかった」ということでした。
たぶん、そのぎりぎりのタイミングで
思いついちゃったんでしょうね。
思いついちゃったら言わずにはいられない。
自分も「無理です」と断らなくて
ほんとうによかったなと、いまは思いますね。
(つづきます)
2026-08-28-FRI
