『MOTHER』と『MOTHER2』には、
発売当時に雑誌や攻略本などで使われていた
キャラクターたちの粘土フィギュアが存在します。
ドット絵で描かれたゲームのキャラクターたちを
粘土や針金をつかって立体物として表現したもので、
それぞれのゲームの取扱説明書に記載され、
『MOTHER』シリーズの世界を象徴するものとして
多くのファンの記憶に残っています。

この粘土フィギュアの作者・トットリさんは、
攻略本で紹介されていたり、
以前から糸井が「作者はトットリくんでね‥‥」と
言っているのを耳にしてきましたが、
本名も連絡先もわからず、
長い間、謎の人でした。

2025年7月、
『MOTHERのかたち。』展を催すにあたり、
なんとかしてお話をうかがいたいと思い、
当時、交流されていた
みうらじゅんさんにお尋ねしたところ、
すぐにトットリさんにつないでくださって、
いっしょに遊びに来てくれました。
『MOTHER』開発当時のおふたりのお話は、
知らないことがいっぱいで、
混乱するほどおもしろいです。

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04. プーのポーズはリー・リンチェイの鷹爪翻子拳。

みうら
そういや、30年くらい前に
「トットリのバカ粘土展」っていうのを企画してね、
銀座の画廊を借りてやったことがありました。
設営に、トットリの弟も参加してくれたよね。
確か弟は後にアニメーションの仕事をするんだよね。
トットリ
アニメーションの監督っていうか、
演出をやっていて。
みうら
トットリには兄貴もいて、確か、
キャンディーズとガンダムの
オタクだったんじゃなかった?
──
まだ、「オタク」という
言葉もなかった時代ですね。
みうら
だから、トットリ3兄弟はその元祖というか(笑)。
で、トットリはトットリで、
ブルース・リーのマニアでもあるから、
いつしか「トット・リー」っていう名前で
呼ばれるようになったんだよね。
トットリ
じゅんちゃんが、付けた(笑)。

みうら
だったっけ?
洋泉社っていう出版社にいた町山(智浩)くんが、
トット・リーのカンフー映画に関する
コレクションを見て感動して、
『101匹ドラゴン大行進!』というムック本に、
そのグッズの写真を載せたんだ。

△『映画秘宝 ブルース・リーと101匹ドラゴン大行進!』(洋泉社・1996年発行) △『映画秘宝 ブルース・リーと101匹ドラゴン大行進!』(洋泉社・1996年発行)

みうら
町山くんも、その高円寺のアパートには
よく出入りしていたのでね、
トットリの存在を知ったんだよ。
フィギュアもスゴイけど、
トットリのドラゴンマニアぶりは、
本当、スゴくて。
だからと言うのも何だけど、
TVゲームにはあまりくわしくなくってね、
本当は(笑)。
──
ふふふっ。
トットリ
友だちが、ゲームをやり終わると、
最後にスタッフのテロップが流れる、
そこに「トットリ」って出るよって教えてくれて。
それを見たくて、
ゲーム機を買ってゲームをやり始めたんですけど、
もう、何回やっても、すぐ死んじゃうから‥‥。
これはもう、ダメだって。
みうら
でも、作り手として、
このカンフーをやっているキャラは
思い入れがあったんじゃないの?
──
プーですね、
『MOTHER2』に出てくる王子様です。

△『MOTHER2』で主人公といっしょに旅をする、ランマの王子・プー。 △『MOTHER2』で主人公といっしょに旅をする、ランマの王子・プー。

みうら
そうでしたか。
よく知らなくて言ってしまいました。
すみませんねえ。
でも、トットリ、
これはカンフーのイメージだよね?
トットリ
それは、もう、リー・リンチェイです。
みうら
ほら、やっぱりそうだ。
映画『少林寺』のリー・リンチェイだよね(笑)。
──
少林寺拳法の型として、正しいかたちなのですね。
トットリ
おそらく、もう、それは。
みうら
トットリは、ブルース・リー好きが高じて、
武蔵美の少林寺拳法部に入ったんだからね(笑)。
──
武蔵美には、少林寺拳法があったんですか。
トットリ
あったんですよ。
みうら
ほとんどの部員が、
ブルース・リーの物真似をしてる部でね。

トットリ
全員じゃないよ(笑)。
──
ちょっと躍動感がありますものね。
トットリ
うーん、プーを作っているときは、
気持ちの入れ方がやっぱり違うんだ、
作ってるとき、楽しかったですから。
──
じゃ、もう、足の置き方とかも、
その技、そのもので。
ああ、そういう目で見たことがなかったので、
すごく新鮮です。
プーのポーズに名前はあるんですか?
トットリ
鷹爪翻子拳(ようそうほんしけん)。
でも、もとの絵も、
このポーズになっていたと思う。

──
もとの絵は『MOTHER2』は大山功一さんですね。
『MOTHER』なら、南伸坊さん。
みうら
トットリは、今も、元の絵は持ってないの?
トットリ
元の絵を見ながら作ってるんで、もう、
紙が粘土だらけになっちゃうんですね。
みうら
だったら、その原画はほぼ日にあるんじゃないの?
──
それが、南伸坊さんの原画はないんです。
トットリ
そうなんだ。
みうら
じゃ、トットリの他に、
その絵を見た人は少ないってことですか?
――
そうですねえ。
よほど詳しい方じゃないと、南伸坊さんが
『MOTHER』のキャラクターを考えたって
知らないと思います。
みうら
それもすごいよね。
ね、南さんもトットリと同じように
いきなり頼まれたのかなあ?
──
ゲームのキャラクターなんだけどって言われて。
みうら
「そんなことを言われても、
よくわからないけど」って、
言ったんじゃないかなあ、南さん(笑)。
いやあ、100体もキャラを考えるのって、
マジ大変だよね。
──
たしかに!
あ、このあたりの粘土フィギュアは、
トットリさんがお作りになったものです。
トットリ
いや、すっかり忘れてるなあ。
みうら
それって、忘れたいほど、
しんどかったってことかねえ(笑)。
──
そんなにたいへんだったのに、
急いで作った印象があるものはないですねえ。
みうら
仕事じゃなかったから、出来たのかもね。
ひとつひとつちゃんと
ていねいに作ってるっているのは
トットリが本気だった証拠で。

(つづきます)

2025-07-28-MON

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