『MOTHER』と『MOTHER2』には、
発売当時に雑誌や攻略本などで使われていた
キャラクターたちの粘土フィギュアが存在します。
ドット絵で描かれたゲームのキャラクターたちを
粘土や針金をつかって立体物として表現したもので、
それぞれのゲームの取扱説明書に記載され、
『MOTHER』シリーズの世界を象徴するものとして
多くのファンの記憶に残っています。

この粘土フィギュアの作者・トットリさんは、
攻略本で紹介されていたり、
以前から糸井が「作者はトットリくんでね‥‥」と
言っているのを耳にしてきましたが、
本名も連絡先もわからず、
長い間、謎の人でした。

2025年7月、
『MOTHERのかたち。』展を催すにあたり、
なんとかしてお話をうかがいたいと思い、
当時、交流されていた
みうらじゅんさんにお尋ねしたところ、
すぐにトットリさんにつないでくださって、
いっしょに遊びに来てくれました。
『MOTHER』開発当時のおふたりのお話は、
知らないことがいっぱいで、
混乱するほどおもしろいです。

前へ目次ページへ次へ

02. 仏像で言えば、秘仏だったんだね。

みうら
トットリは、南伸坊さんの絵を
元に作ったんだよね。
トットリ
『MOTHER』のキャラクターデザインを、
南伸坊さんがやられてて、
その絵をいただいて、
それを見ながら、
こう、立体にしていったっていう。
みうら
平面の南さんの絵を立体にしたって、
これまたすごくないですか?

──
しかも、ドット絵。
トットリ
えっと、イラストとドット絵、
両方、いただいていた、うん。
ドット絵だと、多少、後ろとか横とかの‥‥。
みうら
イメージがわくの?
トットリ
でも、ドットだから、よくわかんないんだけども、
それを参考にしながら立体にしていったような
気がするんですよね。
みうら
だから、あくまで想像なんだよね。
やっぱ、すごいよ。
──
『MOTHER』のキャラクターのイメージは
この粘土フィギュアです。
そんなゲーム、ほかにはないです。
トットリ
いちばん最初に話をいただいたときに、
ドット絵を見せていただいて、
「キャラクターの絵に起こせる?」って聞かれて、
1回、主人公の絵を描いてお見せしたんだけども、
どうも気に入らなくて、ダメだっていうことで。
みうら
それは、だれが言ったの?
トットリ
糸井さんだったと思う。
それで「ああ、やっぱり南さんにお願いしよう」
って感じだった気がするんだけども。
なにせ、30年以上前の話なので、ええ。
──
そんなことがあったんですねえ。
粘土フィギュアをつくりはじめてからは、
糸井が確認を?
トットリ
僕、素人じゃん、その時は。
それで飯を食ってるわけでもないし。
だから、大抜擢だったと思う(笑)。
で、その頃、たぶんね、
じゅんちゃんの牛のキャラクターの人形を、
作っていたんだと思うんだよ。
みうら
牛の貯金箱の原型とか、
有名なところでは
ツッコミ如来もね(笑)。

△ツッコミ如来が表紙の特製ノート。 △ツッコミ如来が表紙の特製ノート。

トットリ
たぶん、糸井さんはそういうのも見てた。
みうら
後に、僕の漫画『アイデン&ティティ』の文庫本、
その表紙のキャラクターも人形で作ってくれたしね。

△『アイデン&ティティ』(角川文庫) △『アイデン&ティティ』(角川文庫)

トットリ
だから、この人、いなかったら、
たぶん、僕に、『MOTHER』の話は
ぜんぜん来なかったと思うんですよ。
で、いちばん最初に主人公を作ったんですよ。
その時は、もう、ドキドキなわけですよ、
「これでいいのか?」って。
みうら
ああ、許可が出るかどうかと?
トットリ
そうそう。で、持って行った時に
よろこんでいただいて、
それで、ほっとしたっていうか。

△『MOTHER』の主人公・ニンテン。 △『MOTHER』の主人公・ニンテン。

──
でも、すごい。
自分だったら辛いです。
あまり知らないのにいきなり頼まれて、
「これでいいんだろうか」って思いながら作るって、
大変なことでしたね。
トットリ
そうですね、ドキドキでしたね。
──
しかも、100体近く。
トットリ
あのね、でもね、簡単なやつもあって、
目玉だけっていう(笑)。

△『MOTHER』のキャラ「ビューン」。 △『MOTHER』のキャラ「ビューン」。

みうら
それはご褒美みたいなもんだったね(笑)。
トットリ
そういう依頼が来ると、ほっとして(笑)。
みうら
毎日、毎日ね、
サンドペーパーで表面をつるつるにしてね。
トットリ
部屋中、粉だらけになって(笑)。
みうら
粉だらけだったねえ(笑)。
──
粘土フィギュアを撮影をしてる時に、
中に針金が入っていることに
気がついたんですけど、
針金で骨組みを作ってから、
紙粘土を盛って形を作って、
乾かしてから削るという流れですか?
トットリ
あ、そうです、そうです。
──
こんなに細かいところまで‥‥。
トットリ
整えていく、はい。
──
当時、キャラクターを立体で
表現するのは画期的でしたよね。
トットリ
今だったら、CGで表現するほうに行く
と思うんですよね。
当時は、こういう立体っぽいものを載せるには、
本当に作るしかなかった。
みうら
そうだよねえ。
よく、このキャラクターの髪が、
「後ろまで禿げてる」ってわかったよね(笑)。
どうやってわかったの?

△『MOTHER』のキャラ「だっそうはん」の後ろ姿。 △『MOTHER』のキャラ「だっそうはん」の後ろ姿。

トットリ
たぶん、そうじゃないかなと(笑)。
みうら
それでいて、イメージは損なってないし、
ちゃんとかわいいんだよね。
そこが、本当すごい。
──
どせいさんを作ったのは、
トットリさんですか?
トットリ
はい、どせいさんは、僕が作りました。

△『MOTHER2』のどせいさん。 △『MOTHER2』のどせいさん。

──
リアルなどせいさんのイメージを作ったのは、
トットリさんなんですね。
スターマンも、トットリさんですか。
トットリ
これ、1作目のやつだから、
1作目だったら、僕です。

△『MOTHER』のスターマン。 △『MOTHER』のスターマン。

──
実はこのスターマンをベースにして、
等身大を作りました。
トットリ
ええっ!
──
高さが2メートルぐらいあります。
トットリ
すっげえ!
──
トットリさんがつくってくれた
スターマンがあったからできたことで。
もう、スターマンと言えば、このかたちですよね。
素晴らしいなあ。
そういえば、『MOTHER』のゲームは
お持ちなんですか。
トットリ
『MOTHER』は攻略本とゲームはいただいたと思います。
──
そうなんですね。ゲームの中の説明書に、
このフィギュアの写真が使われていまして‥‥。

△『MOTHER』の取説の一部。主人公たち。 △『MOTHER』の取説の一部。主人公たち。

△『MOTHER』の取説の一部。敵たち。 △『MOTHER』の取説の一部。敵たち。

△『MOTHER2』の取説の一部。主人公たち。 △『MOTHER2』の取説の一部。主人公たち。

△『MOTHER2』の取説の一部。敵たち △『MOTHER2』の取説の一部。敵たち

△『MOTHER』と『MOTHER2』のパッケージの裏面にも粘土フィギュアが。 △『MOTHER』と『MOTHER2』のパッケージの裏面にも粘土フィギュアが。

みうら
そもそもフィギュアの写真を使うということが、
当時、新しかったよね。
それを考えた糸井さんもやっぱ、すごいよ。
──
はい。
『MOTHER』のキャラクターと言えば、
このイメージです。
ゴリラとかも、自立してるんですね、
すごいですね。
歩いている、臨場感があります。
みうら
いいよねえ、バランスも良くて。
後ろ姿まで抜群にいいね。
──
初めて見たとき、感激しました。
『MOTHER』の粘土フィギュアは、
実物を見ていない人が
たくさんいらっしゃるんですよねえ。
『MOTHER2』のメインキャラたちは、
去年、「MOTHER2のひみつ。」展で
展示しましたが。
みうら
じゃ、ここら辺の脇役キャラも‥‥。
──
もうぜんぜん、ぜんぜん出てないです。
『MOTHER』のキャラも
いっさい出ていないです。
みうら
仏像で言えば、秘仏だったんだね(笑)。
──
秘仏‥‥たしかに、そうですね!
──
「MOTHERのかたち。展」では、
「国宝 阿修羅展」(※)のように、
360度から全部見えるようにしたい
って思っておりまして。
(※)興福寺創建1300年記念 「国宝 阿修羅展」。
2009年に東京国立博物館と九州国立博物館で
開催された特別展。
──
ファンの方は、取説や攻略本の写真で
粘土フィギュアを知っているんですけど、
あの写真の角度でしか見ていないので、
他の角度から見ていただければなあって。
みうら
ちょっと自慢させてもらっていいですか。
阿修羅展の展示を360度にしたのは、
阿修羅ファンクラブの会長でもある
僕ですから。
──
ええっ!
みうら
エッヘン(笑)。
──
本当に感動しました。
みうら
そりゃ『MOTHER』キャラクターは
360(サンロクマル)で見せなきゃねえ。

(つづきます)

2025-07-26-SAT

前へ目次ページへ次へ
  •  

     

     

    ©SHIGESATO ITOI / Nintendo