
元気な男の子ふたりを育てる
シングルマザーのなおぽんさん。
ふだんは都内ではたらく会社員ですが、
はじめてnoteに書いた文章が話題になり、
SNSでもじわじわとファンを増やしています。
このたび月1回ほどのペースで、
子どものことや日々の生活のことなど、
なおぽんさんがいま書きたいことを、
ちいさな読みものにして
ほぼ日に届けてくれることになりました。
東京で暮らす親子3人の物語。
どうぞ、あたたかく見守ってください。
石野奈央(いしの・なお)
1980年東京生まれ。
都内ではたらく会社員。
かっこつけでやさしい長男(13歳)と、
自由で食いしん坊な次男(9歳)と暮らす。
noteに投稿した初めての記事が人気になり、
SNSを中心に執筆活動をスタート。
好きなものは、お酒とフォートナイト。
元アスリートという肩書を持つ。
2026年2月、犬の千代子が家族になる。
note:なおぽん(https://note.com/nao_p_on)
Twitter:@nao_p_on(https://twitter.com/nao_p_on)
最近、毎朝4時に起きている。
起き抜けに近所のジムへ行き、
ひとしきり筋トレをしてから仕事の支度をする日もあれば、
そのまま始発に乗って仕事へ向かう日もある。
かといって、夜が早いわけではない。
寝る前になって、気になる残務に
手を出してしまうこともある。
話題のショートスリーパーというわけではないが、
平均睡眠時間は4時間を切っている気がする。
不思議なもので、
習慣になってしまえば、
眠いくせに朝4時には苦もなく目が覚める。
休日くらいゆっくり寝ようと思っても、
今度は眠れない。
どうやらわたしは、
寝ないことに慣れた代わりに、
寝る力を失いつつあるらしい。
それは、
脂っこいものを食べられなくなったことにも、
ちょっと似ている。
年齢とともに消費カロリーは落ちるし、
胸やけや胃もたれも気になる。
焼肉では意識的にカルビを避けていた。
そうしてしばらく経って、
たまにはいいだろうと脂の多い肉を食べてみたら、
たちまち消化不良でダウンした。
食べないようにしていたら、
食べられなくなった。
寝ないようにしていたら、
寝られなくなった。
人間というものは、案外簡単に順応する。
健康のため。仕事のため。
時間を有効に使うため。
暮らしを整えているつもりで、
「楽しむ力」や「休む力」まで、
一緒に弱らせてしまったのではないか。
そんなことを最近、考えていた。
「母さん、家で笑うことが減ったよ」。
長男にいわれ、はっとした。
あるとき、次男に向かって、
「母さんがやさしく言っているうちに、
ちゃんとやりなさいよ!」と咎めると、
「ボクがやさしく聞いてるうちに、
ちゃんと話を終わらせてよね!」と、
強めに言い返された。
よもやの反撃。
しかし、よくよく考えれば、
不機嫌な母に気をつかわせていたのかもしれない。
どうにも最近のわたしは、いろいろと整っていない。
整えたい。
そう思ったとき、真っ先に浮かぶものがある。
サウナだ。
わたしは大のサウナ愛好家である。
わたしのスタイルはこうだ。
頭に濡れたタオルをくるっと巻いて、
口まですっぽり覆う。
ドライサウナで、これでもかと汗を絞り出したら、
水風呂へ身体を投じる。
冷水に身体が馴染んだころ、
喉の奥がすーっと冷たくなる。
そこまでじっと耐えて、ざばっと上がる。
ケロリンの風呂椅子を壁ぎわに置き、
背をもたれる。
ぼんやりと一点を見つめる。
すると、
1分もしないうちに、
世界がぐにゃりと湾曲する。
大理石風の風呂枠が、
伸びたり縮んだりしながら、
量子力学の世界をわたしに見せてくれる。
ありとあらゆるものが、どうでもよくなる。
この贅沢な虚無の時間は最大のご褒美だが、
2時間ほど家を空けることになるので、
最近はなかなか行けていない。
つまり、
ちっとも整っていない。
せめて住環境くらいは整えようと、
先日、断捨離をした。
今の家に引っ越して、一年が経つ。
実はこの一年間、一度も開けていない段ボール箱があった。
もちろん、中に入れたものなど覚えていない。
おそるおそる、パンドラの箱を開けた。
一年のうちにサイズアウトした子ども服。
くたびれたタオルケット。
買ったことさえ忘れた本。
ダンベル。
一年間行方不明でも、
まったく困らなかった代物たちだ。
ついでに家のあちこちを整理すると、
次々に埋蔵ゴミが発掘される。
クローゼットにかけてあっただけの服。
使っていなかった日用品。
出しっぱなしの腹筋ローラー。
何の役目も果たさず、
ただ家の景色に溶け込んでいる。
いざ処分するとなると、なぜかすこし後ろ髪を引かれる。
とくに本の整理は難航した。
『週刊プロレス』のような雑誌から、文庫本、漫画本、
辞書のような本まで、とにかく場所を取る。
いつかまた読むかもしれない。
息子が読むかもしれない。
いつか必要になるかもしれない。
そんな煮え切らない思いのなか、
「自炊代行」という言葉を知った。
自炊を代行?
それを自炊と呼ぶのか?
家政婦サービスでは?
違った。
本を裁断し、スキャンして、電子データにすることを
「自炊」というらしい。
この歳になっても、
ふいに新しい言葉に出くわすことはあるものだ。
そんなこんなで、
わが家から出たゴミは、45リットルの袋5つ分。
単純計算で225リットル。
もはや、かくれゴミ屋敷レベルだった。
まだまだ何か潜んでいそうな家で、
ふっと息をついた。
「整えること」を考え始めたのは、
すこし前の出張も影響しているのかもしれない。
仕事で新島へ行った。
調布飛行場から、
小さなプロペラ機に乗った。
その日は天候が悪く、
機体はこれまで経験したことがないほど揺れた。
とはいえ、大丈夫なのだろう。
そう簡単に、何かが起きるものでもない。
頭ではそう思いながら、大きく揺れる小さな機内で、
「もしかしたら」という考えが、
一瞬、頭をよぎった。
前の晩、
わたしは長男とケンカをしていた。
何が原因だったのか、もうよく覚えていないくらい、
くだらないことだった。
腹が立って、向こうも腹を立てて、
なんとなくそのまま、一日が終わろうとしていた。
けれど寝る前になって、なぜか長男に声をかけた。
わたしらしくもなく。
「母さんね、君が大好きだよ。
生まれてきてくれて、ありがとうね」
長男は、くるりと背中を向けていた。
翌日。
揺れるプロペラ機のなかで、そのことを思い出した。
言っておいて、よかった。
大袈裟かもしれない。
けれど。
もし戻れなかったとしても、
言葉は、ちゃんと置いてきた。
そう思った。
「いつか」というのは、ずいぶん便利な言葉だ。
いつか使う。いつか読む。
いつかやる。いつか言おう。
でも、
その「いつか」が来る保証なんて、どこにもない。
そう気づいたところで、
立派な人間に生まれ変わるわけではない。
相変わらず、寝る前になっても仕事が気になる。
長男とは、またくだらないことで言い争う。
次男にも、怒ってばかり。
断捨離を終えたばかりなのに、また何か買おうとしている。
「終活」という言葉がある。
死ぬ準備をするには、まだすこし気が早い。
でも、いつか死ぬ日のためではなく、
今日をちゃんと生きるための終活なら、
そろそろ始めてもいいのかもしれない。
今朝も、4時に目が覚めた。
もう一度眠ろうと、布団のなかで目を閉じた。
眠れない。仕方なく起き上がる。
リビングでは、犬の千代子もまだ寝ている。
窓の外は、雨模様で暗い。
たまにはのんびりコーヒーでも淹れようと、
キッチンへ行く。
炊飯器を開けると、なかは空っぽだった。
わたしは、あわてて米を研いだ。
イラスト:まりげ
2026-09-29-TUE
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祝、連載4周年記念
シン・なおぽんラジオ
10月29日(木)20時から生配信今年もこの季節がやってきました。
なおぽんさんの連載が、
今年の10月で4周年を迎えます。
いつもあたたかく見守ってくださり、
ありがとうございます。となれば、今年もやっちゃいます!
一年に一度のスペシャル企画
「なおぽんラジオ」がまたまた復活!なおぽんさんをラジオブースにお呼びして、
10月29日(木)20時から
YoutubeLIVEで生配信をおこないます。
この一年をのんびり振り返りながら、
気ままにおしゃべりするだけの恒例企画。
出入り自由。ながら聞き大歓迎です。4周年を迎えたなおぽんさんへの、
お祝いメッセージも募集中です。
エッセイの感想や聞いてみたいこと、
とりとめもないことでかまいませんので、
当日までにお送りくださいね。なお、いただいたメールは、
配信の中でご紹介することもありますので、
念のためペンネームもお忘れなく。
(一部、内容を編集する場合もございます)
メールの宛先は「postman@1101.com」まで。なおぽんラジオも今年で4回目。
もしご都合つくようでしたら、
リアルタイムでいっしょにたのしみましょうー。
それでは、どうぞよろしくお願いします!