
みうらじゅんさんと糸井重里は、
40年以上のつきあいで、10歳違い。
なんだかんだでタイプのちがうふたりですが、
いろんな世界に飛び込んでは大きく口を開き、
何ごとも飲み込むようにつとめたことは、
共通項なのかもしれません。
いつもの思い出話からはじまり、
変わり目をともに振り返るおしゃべりは、
「ええかげんにしなさい!」
という漫才の最後の声がかかるまで、
終わることはありません。
みうらじゅん
1958年、京都生まれ。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。
以後、作家、ミュージシャンなど多方面で活躍。
1997年にはみうらさんの言葉「マイブーム」が
新語・流行語大賞のトップテンに選出。
「ゆるキャラ」の名づけ親でもある。
2018年、仏教伝道文化賞沼田奨励賞受賞。
著書に『マイ仏教』、『「ない仕事」の作り方』
(2021年本屋大賞「超発掘本!」に選出)、
『アウト老のすすめ』、『ブツゾー・キッド』、
『老いるショック大賞』など
- みうら
- 糸井さん、僕のアパートに
よく遊びにこられてました。
特に約束もしてないのに、バイクでね。
- 糸井
- そこでご実家のお母さんから届いたという、
手づくりのクッキーを僕に出してくれました。
見ると、クッキーが入ったビニールの袋が
油で曇ってるんですよ。
「これおいしいんですよ、
おかんが送ってきたんですけど」
そう言って出してくださってね、
ほんとうにおいしくいただきました‥‥。
- みうら
- いや‥‥(笑)、あの、
京都のおかんのクッキーですから、
僕も百歩譲って、
ばつぐんにうまいとは思ってないですよ。
勝手に送ってくるクッキーが
大量に残ってたので、
急に来られたお客さんに出しただけのことで。
- 糸井
- ご自分も召しあがってないものを?
- みうら
- いや、たまに食べてましたよ。
食べてたからこそ、
袋にクッキーの鋭角な部分があたって、
曇ってたんですよ。
- 糸井
- どうかお気遣いなく、
特に何も出してくださらなくて
よかったんですよ。
- みうら
- というようなことを、
糸井さんはいつもおっしゃるじゃないですか。
でも一応、うちのおかんがつくったクッキーですよ。
そこは当時もちゃんと説明して
出したと思うんですよ。
- 糸井
- もちろんうかがってます。
- みうら
- ふつうの人なら、ストーリー的には
「ええ? お母さんが作ったんだ!」
「うーん、上手だね」
とか、言うもんじゃないですか(笑)。
- 糸井
- ああ、そうなんだ。
- みうら
- 一般的な劇団ではそうですよ。
「お母さん、クッキーうまいね」
「これ、ステラおばさんに勝ってるね!」
ぐらい言うと思います。
糸井さんは、当時から
ものごとをはっきりおっしゃる方でした。
それはもう、ずっと変わらないです。
しかしこっちも、クッキーとなると、当然‥‥
- 糸井
- 紅茶ですね。
- みうら
- 紅茶です、当然、
いっしょに出しますよね。
糸井さんが来られるのは、
何度も言いますけれどもつねに突然でしたから、
お店側のこっちも、
急に来たお客さんに対して慌てて。
- 糸井
- 「お構いなく、お構いなく」
- みうら
- リプトンのティーバッグで
3杯目以上の紅茶を出そうとしていたところ、
「これは1杯用なんだぞ」と
ありがたい説教をくださるわけです。
- 糸井
- あきらかにすでに3杯淹れたとわかる
ティーバッグをコップに置いて
「紅茶飲まはりますか」と聞かれても‥‥。
- みうら
- ま、風味は紅茶だったと思います。
- 会場
- (笑)
- みうら
- そんなクッキーと紅茶を
「もういいわ」と脇に置かれ、
次におっしゃった言葉はこうです。
「部屋の中でいちばんフカッとしているとこ、どこ?」
- 糸井
- あの部屋、何畳ぐらいだったでしょうか。
- みうら
- 4畳もなかったです。
大学の友達とふたりで住んでた、
いまでいう「シェアハウス」ですので。
- 糸井
- ああ、そうでしたね。
ぼくはそのお友達‥‥鳥取県出身のトットリさん
‥‥の部屋を通り抜けて、
みうらさんのお宅にお邪魔してたんです。
地面に直のような、かたい畳でね。
- みうら
- 紅茶とクッキーを畳に直に座って召しあがったあと、
やっぱり多少フカッとしたいと思われたんでしょう、
「フカッと座りやすいとこ、ないの?」
と問われました。
そうなると当然、畳まれた布団が積んである、
刑務所の牢名主みたいなところに
座ってもらうしかないわけです。
- 糸井
- 部屋の隅に布団が
積みあげられていましたので、そちらへ。
- みうら
- 笑点でも、座布団が何枚か
積みあがった人のほうが偉いでしょう。
- 糸井
- 世の中ではそうなってますよね。
- みうら
- だから糸井さんにそこに座っていただいて。
- 糸井
- 案内していただきました。
- みうら
- 糸井さんが布団に乗られて、
上空で話してるのを僕が下で聞く。
そんな夜が、よくありました。
- 糸井
- しかし‥‥なんであんなによく新高円寺まで、
俺は行ってたんだろう。暇だったのか。
やっぱり、みうらに会いたいという
気持ちがあったのかな。
- みうら
- そんなもの、あるわけないですよ(笑)。
きっと夜中に目覚めるんですよ、
11時ぐらいに。
「ああー、みうらに会いたい」
そんなこと、ありますか!
- 会場
- (笑)
- 糸井
- 「なんだか‥‥会いたい‥‥会いたい‥‥
これは誰に会いたいんだろう?
みうらだなぁ、やっぱり。
みうらに会いたい! どこにいるんだっけな?
新高円寺か、ちょっと行ってみよう!」
- みうら
- 距離がけっこうあるんですよね、
糸井さんは青山でしたから。
- 糸井
- 遠いですよ。
でも「みうらに会いたい」と思ってね、
夜道でバイクを走らせました。
(明日につづきます。明日はバルタン星人の話です)
文中写真:池ノ谷侑花(ゆかい)
2026-09-11-FRI