はじまった経緯はおいおい説明いたしますけれど、
ぜひ表現したいこのコンテンツのテーマは、
「ニットデザイナー三國万里子が
どのようにものを生み出していくのか」ということです。
いまはまだなにも決まっていない「ひとつのミトン」が、
三國万里子さんのなかで構想され、デザインされ、
実際に編まれ、ミトンとしてできあがるまでを、
編む人と編まれる人の往復メールの形で追いかけます。
編んでもらう幸運な役が、ほぼ日の永田ですみません。

>三國万里子さんプロフィール

三國万里子(みくに・まりこ)

ニットデザイナー。1971年、新潟生まれ。
3歳の時、祖母から教わったのが編みものとの出会い。
早稲田大学第一文学部仏文専修に通う頃には、洋書を紐解き、
ニットに関する技術とデザインの研究を深め、創作に没頭。
大学卒業後、古着屋につとめヴィンテージアイテムにも魅了される。
いくつかの職業を経た後に、ニットデザイナーを本職とし、
2009年、『編みものこもの』(文化出版局)を出版。
以降、書籍や雑誌等で作品発表を続ける。
2012年より「気仙沼ニッティング」のデザイナーを務める。
2013年よりほぼ日で「Miknits」をスタート。
近著に『ミクニッツ 大物編 ザ・ベスト・オブ Miknits 2012-2018』
『ミクニッツ 小物編 ザ・ベスト・オブ Miknits 2012-2018』、
『またたびニット』(文化出版局)など。
また、2022年には初のエッセイ本
『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』(新潮社)を出版。

illustration|aki kobayashi

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#26 二十六通目のメール

 
永田泰大さま
 
明けましておめでとうございます。
 
といっても、もう1月も半ばで、
この間手紙をもらってから
2ヶ月近くが経とうとしています。
そしてこれがわたしからの
「最後の1通」になるのですね。
手袋を作り、渡してホッとしたのも束の間、
年末年始のドタバタの期間に突入して、
なんだか手紙が「書けなかった」のです。
このやり取りのいいところは
なんにも急かされないところでもあるし、
できればのんびりとした時間の中で
締めくくりたかった。
 
今日はその意味で申し分なさそうです。
3連休の中日の日曜の午後で、
これを書いているダイニングキッチンの片隅では
豚の塊肉が大鍋の中、
角煮となるべく煮込まれています。
下茹でだけで3時間かかるんですよ。
白ごはん.COMというサイトで
教わったレシピで、作るのは2回目。
前回は結構美味しくできたけど、
今日はどうかな。
 
昨日は神保町に本を探しに出かけました。
土曜日の神保町ってとてもいいんです。
永田さんは日々あの街に通っているけれど、
週末に古書店街を通ることは、
あまりないでしょう?
日曜は多くの店がお休みになるから、
本好きで、週日はそれぞれの仕事に忙しい人たちが
土曜日めがけてやってきて、
そぞろ歩きしてはワゴンの前で立ち止まる。
店の中をちょっと覗き込んで、
入ったり、入らなかったりする。
昼時にはラーメンかカレーかなんかを食べる。
自分の満足を知ってるって顔で。
 
わたしが目指したのは中国書籍を扱う新刊書店でした。
すずらん通りに老舗の良い店が2軒あって、
中国文化に俄かに興味を持ち始めた
わたしにとっては、かなりワクワクする場所です。
最近は中国発のゲームやアニメが日本でも人気らしく、
それらしいおしゃれをした若い女性客が、
棚の前で店員さんに熱心に話しかけていました。
彼女の言葉は「質問」の形をとっているけれど、
きっとそれは彼女が用意した糸口で、
そのテーマについてわかる人と、
ちょっと話がしたかったんでしょうね。
背中で彼らの会話を聞きながら、
こういうのいいなーと思いました。
このところの日中関係の「冷え込み」なんて、嘘みたい。
 
ほんと言うと、今年は北京や他の中国の都市にも
一人で旅したい気持ちがあるのですが、
それは少し様子を見ることにします。
来年か、再来年か、もしかしたらもっと先でも、
国同士の関係が改善された頃に、ぜひ行ってみたい。
 
永田さんにまだ、この話していなかったですよね。
わたしが中国に興味を持ち始めたのは1年くらい前で、
それまではあまりピンときていませんでした。
大きすぎるでしょ?
どこから齧ればいいのか見当がつかないというか。
で、美術館で水墨画とか観ても、
「ははぁ」というくらいの感想しか出てこなかった。
それが変わるきっかけをくれたのは「閻魔さま」でした。
実は今、ひっそりちまちまと「お話」を書いているのだけど、
その中に閻魔さまが登場するんです。
でも、「あれ、閻魔さまのことあんまり知らないけれど、
たしか彼は中国人じゃなかった?」と。
そこから中国の説話や歴史の本を探して読んで
(我々がイメージする閻魔さまは、
お召し物は中国のだけど、
彼自身にはもっと長いヒストリーがあった)、
そうこうしているうちにも興味はわわっと膨らんで、
中でもわたしは視覚的なものへの嗜好が強いから、
中国美術のあれこれに惹かれるようになった、というわけです。
水墨画は正直言ってまだよくわからない
(理解するためには「ことば」と「方法」が必要で、
これからそれも学ぶことになると思う)。
でもそれ以外で率直に、ああいいな、好きだ、
と思える古いものが結構たくさんあることが
だんだんわかってきました。
中国八千年の歴史っていうでしょう?
そのほとんどを、まだわたしは
何も知らないんだな、ってことにムラムラしている。
生来なのか好き嫌いがはっきりしていて、
なかなか興味の世界が広がっていかないんだけど、
その分、好きになったものにはのめり込んでしまう。
だから、こんな大きな塊が目の前に現れたのだから、
長く大事に勉強していこうと思っている次第です。
その間にパンダたちも何度か
大陸とこっちを行ったり来たりするかもね。
いっそ彼らも旅行と思って楽しんでくれるといいけど、
それは都合が良すぎるね。
 
近況報告でした。
報告ついでに言うと、
今のわたしはたくさんの「卵」を托卵された、
やや大型の鳥みたいな感じです。
今年予定している仕事がその卵たち。
それぞれ色も大きさも違って、
なんだか雑多な感じです。
手編みキットと機械編みプロジェクト(ほぼ日)、
文章の仕事各種(ほぼ日以外)。
どの卵も冷やさないように、
鳥は美味しいもの食べて、
体温を上げて、時間をかけて一つずつ、
しっかりと孵していきます。
 
そういえば去年最後に孵した卵が、
永田さんに渡したあのミトンでした。
 
あれらは役立っていますか?
もし失くしたら、すぐに言ってくださいね。
次はどんなのがいいとか、ここは改良して欲しいとか。
「ふたつめのミトンができるまで。」も
そしたら、始まるかもしれない。
 
ではまたいつか。
 
尾瀬の土間ガエルが暗がりでぐっすり眠り、
春にはポカンと目覚めますように。
 
三國万里子

(次回、最終回です)

2026-01-16-FRI

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  • 三國さんの本が文庫化されました

    祖母が畑で作っていた苺のやわらかさ、
    何に触れても心がヒリヒリとした中学生のころ、
    アルバイト先で出会った夫との恋、
    インフルエンザで入院した8歳の息子の体温。
    息苦しさを抱えていた少女は大人になり、
    毛糸と編み針を手に最初はおそるおそる、
    そして次第に胸を張って、人生を編みだしてゆく——。
    誰のなかにもきっといる「あのころの少女」が顔を出す、
    珠玉のようにきらめくエッセイ集。

    文庫化にともなって新たに「おわりに」が追記され、
    小説家の津村記久子さんの解説も収録されています。

    『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』
    三國万里子
    頁数:256ページ
    ISBN:978-4-10-106081-1
    定価:781円
    発売日:2025年5月28日
    Amazonでのお求めはこちらです。

     

    三國万里子が人形を慈しみながら編んだ、
    ちいさな服とことば

    12月に刊行される三國万里子さんの新刊は、
    三國さんが心を寄せている「アンティーク人形」です。

    三國さんにとって、
    はるか昔に作られたアンティーク人形を海外からお迎えし、
    休みの日やちょっとした合間に、
    人形たちのために洋服を編んだり縫ったりする時間は
    かけがえのないものとなっているそう。
    『三國寮の人形たち』では、
    三國さんの手による人形たちの洋服や、
    その洋服を身に着けたアンティーク人形を撮りおろし、
    物語を添えて収録します。

    『三國寮の人形たち』(トゥーヴァージンズ)
    三國万里子
    発売日|12月23日(月)発売
    定価|2,640円(税込)
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