昨年12月に「ほぼ日曜日」で行われた
皆川明さんと糸井重里の公開対談です。
ふたりっきりの対談は約4年ぶり。
その4年間での変化や気づきを、
おたがいに伝え合うような場になりました。
洋服をつくりつづける皆川さん。
アイデアを考えつづける糸井。
かろやかに進むふたりの会話には、
ものを生み出すためのヒントが
たくさん散りばめられていました。

>皆川明さんのプロフィール

皆川明(みながわ・あきら)

1967年東京生まれ。デザイナー。
1995年に自身のファッションブランド
「minä(2003年よりminä perhonen)」を設立。
時の経過により色あせることのないデザインを目指し、
想像を込めたオリジナルデザインの
生地による服作りを進めながら、
インテリアファブリックや家具、陶磁器など
暮らしに寄り添うデザインへと活動を広げている。
また、デンマークKvadrat、
スウェーデンKLIPPANなどの
テキスタイルブランドへのデザイン提供や、
朝日新聞の挿画なども手掛ける。

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第1回 競争のない国、フィンランド。

糸井
きょうは公開対談なのですが、
皆川さんに会うのが久しぶりで、
先に裏で話しはじめてしまいました(笑)。
皆川
はい(笑)。

糸井
皆川さんはフィンランドから
帰ってきたばかりだそうで、
どのくらいいたんでしたっけ?
皆川
向こうで2泊しました。
糸井
寒かったですか?
皆川
気温は0℃くらいなので、
思ったより寒くありませんでした。
通常はマイナス4℃とかなので。
やっぱり想像より寒くないと、
気温が0℃でも寒く感じないんだなって。
糸井
寒いのは嫌じゃないんですね。
皆川
嫌じゃないんです。
むしろ好きですね。
糸井
(会場を向いて)突然ですが、
ここで会場のみなさんに質問します。
さっき裏で話してたんですが、
皆川さんがフィンランドにいるとき、
向こうではある歴史的なことがありました。
それが何か、わかる人はいますか?
皆川
どうだろう。知ってるかなあ。
糸井
フィンランドであった歴史的なこと。
‥‥はい、じゃあ、そこのあなた。
女性
たしか、世界最年少の女性首相が誕生した‥‥?
皆川
はい、正解です。
会場
おぉー!(拍手)
女性
ありがとうございます(笑)。
皆川
先日、フィンランドでは世界最年少、
34歳の女性首相が誕生しました。
選んだほうも、選ばれたほうもすばらしい。
これが自分たちの国でも
起こりうるだろうかって思ったら‥‥。
糸井
「それはダメだ」という理屈なら、
山ほど考えられますからね。
皆川
そうですよね。

糸井
前にフィンランドの教育に興味をもって、
映像や本で少しかじったんですけど、
フィンランドはまったく違う発想で
こどもたちを育てようと、
ある時期から国をあげて取り組んでますよね。
皆川
はい。
糸井
そういう教育を受けたこどもたちが、
ようやく選挙権をもつようになった。
それは「34歳の首相」を選べるだけの
価値観が育っていたということで、
それってすごいことですよね。
皆川
すごいことだと思います。
フィンランド教育の根っこには、
「競争は全体の能力を下げる」
という考えがあるそうです。
つまり、競争に勝った一部は意欲をますけど、
そうではなかった人はやる気をなくします。
だったら競争はないほうが
全体としてはいいよねっていう考え方が、
教育のベースにあるんです。
もちろん大学までの学費もすべて無料です。
糸井
はーー、すごいなー。
皆川
フィンランドの人口は550万人ほどで、
首都のヘルシンキは60万人ちょっとです。
だからフットワークが軽いのかはわかりませんが、
とにかく行くたびに新鮮なきもちになります。
糸井
東京の半分ほどの人口で、
ひとつの国の仕組みをつくってるんだ。
皆川
はい。
糸井
少し前までフィンランドの経済は、
ノキアという携帯電話の会社が引っ張っていました。
だけど、世界に「スマホ」が登場したあたりから、
ノキアは急激に失速してしまいます。
それで、皆川さんに
「ノキア以降のフィンランドって、
何か産業はあるんですか?」って聞いたら、
皆川さんはやっぱりフィンランドと
お付き合いがあるから知っていて、
その答えがまたおもしろい。
もう一度、教えていただけますか。
皆川
それが何かというと、まさに「デザイン」です。
フィンランドは「デザインキャピタル」というのを
早くから掲げていて、
デザインの中心都市になることを宣言しました。
それ以来、デザインイベントをひらいたり、
すばらしい建築や図書館をつくったりして、
それを見事に体現しています。
もともとフィンランドの社会には
おもしろい仕組みがあって、
デザイナー個人は「ソフト」として社会にいて、
フィンランドのいろんな会社が
各デザイナーに発注するという構図があります。
ひとりのデザイナーに対して、
A社からは建築、B社からはインテリア、
C社からは家具を頼まれたりする。
そういうことが自然な状態としてあります。
糸井
それは、ものすごく鍛えられますね。
皆川
そうなんです。
あらゆるジャンルのデザインに関わることで、
デザイナーの経験値も広がっていくので、
すごく鍛えられる。
それはとてもいい仕組みだと思います。
糸井
さっき、フィンランドの教育には、
「競争は全体の力を弱める」
みたいな考えがあるとおっしゃっていたけど、
ぼくはそれと同じように、
「分業は全体の力を弱める」
と思うことがあるんです。
皆川
ええ。
糸井
あらゆることを分業にして、
どんなに専門技術を磨き込んだとしても、
他者の理解といっしょにやらないと、
結局は自分ひとりでしかやれなくなります。
そういう分業じゃなくて、
「ここを丸ごとお前に頼みたい」
みたいな仕事をやってると、
他の分野の発想もどんどん混ざってきます。
ぼくはそのほうが自分がもってるものを、
より活かせるような気がするんです。
皆川
ぼくも北欧の会社から、
照明やらブランケットやら、
ファッションとぜんぜん違うことを
依頼されることがあります。
そのたびにぼくはいろんな経験ができるので、
すごくありがたいんですよね。
たぶん、フィンランドが自然とそうなってるのは、
もともとの人口が少ないからだと思います。
人口と比例してクリエイターの数も少ないだろうから、
できることはみんなで共有したほうがいいよね、
っていう発想になるんだと思います。

糸井
井戸の水をご近所でわけあうみたいにね。
皆川
そうですね。
糸井
日本やアメリカって、競争して勝った人は
おいしい木の実が食べられるけど、
負けた人は食べられないから
もっとがんばりましょうという発想です。
だから大勢で競争すればするほど、
トップはより優れるという考え方なんだけど、
どうもそれ、ぼくは違うような気がする。
皆川
ぼくも違うと思います。
糸井
100メートル走らせて何秒とか、
そういう話は別としてあるんだけど、
人をよろこばせるものに関しては、
競争がいいとは限らないです。
だって、劇団も大きいものから
小さいものまでいっぱいあるけど、
どの劇団もそれぞれいいじゃないですか。
そうやって考えていくと、
全体の幸福総量を増やすには、
「俺、はじめてなんだけど、やり方教えてくれない?」
って言ってやるようなことが、
もっと大事になってくるんじゃないかなあ。
皆川
たしかに、フィンランドの人たちって、
他人に何かを教えたり、与えたりすることを
当たり前に思ってるようなところがあります。
秘密にしたり、隠しておきたいのは、
おいしいキノコとベリーの採れる場所ぐらい。
糸井
ああ、なるほど(笑)。
代々、家に伝わる場所があるんだ。
皆川
それは「教えない」って言われます(笑)。
でも、ホント、それくらいです。
糸井
いいなあ、それ(笑)。
どうもね、フィンランドの話をしてると、
なんかマネしたいなっていうことが
どんどん出てくるんですよね。

(つづきます)

2020-01-23-THU

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  • 東京都現代美術館での展覧会
    「ミナ ペルホネン/皆川明   つづく」は、
    2月16日(日)まで開催中!

    ミナ ペルホネンと皆川明さんの創作に迫る
    大規模な展覧会が開催中です。
    生地や衣服、インテリア、
    食器などのプロダクトはもちろん、
    デザインの原画、映像、印刷物や皆川さんの挿画など、
    創作の背景を浮き彫りにする作品や資料も
    たくさん展示されています。
    このチャンスをぜひお見逃しなく。
    展覧会の特設サイトはこちらからどうぞ。


    ミナ ペルホネン/皆川明 つづく
    会期|2019年11月16日(土)〜2020年2月16日(日)
    会場|東京都現代美術館 企画展示室3F
    時間|10:00〜18:00※展示室入場は閉館の30分前まで
    休館日|月曜日