Miknitsのオリジナル毛糸は、
良質な素材を使い、国内で丁寧に作られています。
その中で、
ブランドの代名詞とも言える糸「Miknitsアラン」と
ロングセラーの「カシミヤシルクウール」の紡績を担うのが
大阪府泉大津市にある
泉州羊毛工業株式会社(以下、泉州羊毛)さん。
Miknitsのカラーバリエーションも増え、
リピーターの方も増えてきたタイミングで
あらためてじっくりと、
毛糸のこと、羊のこと、あれこれお話を
5代目社長・今井康隆さんにうかがってきました。

聞き手は、Miknits担当のシブヤです。
チームには途中参加のため、
ようやく工場に伺うことができました。
日々毛糸に触れ、理解していたつもりでしたが
オリジナルの糸が生まれた経緯や、糸作りの工夫など
新鮮で心に響くお話ばかりでした。

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前編:いいとこどりの糸。

 
泉州羊毛さんの社屋に入ると、まず目に入るのが
一面に並んだ、羊の毛のサンプルです。
羊、と一口にいっても、
世界には約3000種もの羊が生息しているのだそう。
こちらは、取り扱いをされている原料の一部です。

 
「うちは、お洋服用の糸はもちろん、
カーペット、毛布、産業用資材の糸まで作っています。
2〜300種くらい作っているんじゃないかなあ。
その分、扱う原料も幅広くて、
種類の多さでは日本一だと思います」
と今井さん。

 
そんな泉州羊毛さんの歴史は古く、創業は1890年。
毛織物の製造からスタートされ、
現在まで永く広く、羊毛に携わられてきました。
今井さんは社長として会社を率いると同時に、
「ウールマイスター」としてセミナーも行なっている、
いわば、獣毛の目利きです。
Miknitsとのお付き合いは、2012年から。
京都の糸の専門店『AVRIL』さんを通じて出会い、
10年もお世話になっています。

 
Miknitsで初めてのオリジナル糸としてお目見えしたのが
2013年デビューの「カシミヤシルクウール」でした。
当時、三國万里子さんはこんな風に語っています。
「せっかくオリジナルの毛糸がつくれるのなら、
すごくいいものにしたいねって、話し合ったんです。
カシミヤとかシルクを使った高級な毛糸。
そういう素材は、やわらかいからちくちくしない。
ちくちくしないのは、首に巻くのにちょうどいい。
と、そういう順番で、
ストールやマフラーのキットにすることが決まりました」

 
やわらかさも美しさも兼ね備えたものを。
三國さんやほぼ日の理想を形にしてくださった今井さん。
「何度も試作を繰り返しました」と当時の苦労を語りつつ
異素材の絶妙な配合について、教えてくれました。
「カシミヤだけじゃない柔らかさがほしい、
そして光沢感もほしい、ということでシルクを混ぜました。
ウールは繊維の表面が
人間の髪の毛のキューティクルみたいに
うろこ状になっているので、
光が乱反射して、マットに見えるんですよ。
反対に、シルクは天然繊維のなかでも、
表面がつるんとしていて、光沢がある。
さらに細い繊維なので、肌触りもいい。
シルクを混ぜて紡績するのは大変なんですけど(笑)
カシミヤとウールだけでは出せないツヤです。」

 
次に、「Miknitsアラン」についてお聞きしてみると
一見ベーシックなこの糸が、
特殊な作られ方をしていることがわかりました。
「ちょっと専門的な話になりますが
『梳毛(そもう)』『紡毛(ぼうもう)』
ってわかりますか?
梳毛は、中に入っている繊維がながーい毛。
羊の脇腹から背中に生える毛です。
スーツに使われるような、つるっとした糸になります。
 
一方で紡毛は、
首や頭、足などに生えている、繊維の短い毛です。
こちらは繊維の端が糸から飛び出すので、
もこもこ、ふわふわの感触になります。
こっちはニット向きですね。」

 
「Miknitsアランもニット用の糸なので
紡毛を使うのが一般的なのですが、
実は、梳毛を使っています。
イギリス・アラン諸島由来の糸を目指す、ということで
「英国羊毛を使う」というのは決まっていたのですが、
英国羊毛は太く、硬い繊維なのが特徴なんです。
摩擦に強く、毛玉になりにくいという利点はあるのですが
ゴワゴワした肌触りは避けられない。
そこで、英国羊毛の中でもしなやかな
梳毛の部分を使うことにしました。
細かくカットし、紡毛のようなふわふわ感を出しています。
手間はかかりますが、
梳毛と紡毛、いいとこどりの糸なんです。」

 
太さのわりに肌触りがよく、編みやすい糸に。
なおかつ、紡毛のような風合いや保温性もありつつ、
さらには英国羊毛ならではの、丈夫さもキープ。
うれしいポイントがいっぱいのMiknitsアランに
そんな製法の秘密があったとは。
こういった柔軟な発想ができるのも、
数多くの原料を見てきた今井さんだからこそ、と感じます。

(後編では、今井さんの語るウールの魅力、
そして品質を保つ工夫について伺います)

Photo:川村恵理、白川青史(バルキーマフラー)

2023-01-11-WED

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