前回の連載のなかで、
「ご実家などに眠っている
ファンシーなグッズはありませんか?」
と、呼びかけたところ、
メールやツイッターで
たくさんの投稿をいただきました。
どうもありがとうございます!
なんとメロさん、ほぼ全ての方の
投稿写真を鑑定してくださったんです。
ぱっと見ただけで、「あ、これはですね~」と
あらゆる方向に話が進んだ鑑定の様子を、
そのまま、こってりとお伝えします。
レアで貴重な「ファンシー絵みやげ」の数々、
その当時の時事ネタもおたのしみください。
担当はほぼ日のフジタです。

>山下メロさんのプロフィール

山下メロ(やましためろ)

ファンシー絵みやげ研究家。
1980年代・90年代の庶民風俗を研究。
特に観光地のファンシーイラストが描かれた
お土産雑貨=「ファンシー絵みやげ」を
収集・研究しており、
各種メディアで保護を訴えている。
所有するファンシー絵みやげは17000種を超える。

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第7回 裁縫箱のトラウマ。

ーー
次の方も、たくさんのお写真を
送ってくださいました。
メロ
「YOKOHAMA’89」が2つありますが、
これは平成元年に「YES89」と略される
横浜博覧会が行われたときのものですね。
メインのマスコットは、
手塚治虫が手がけたブルアちゃんというキャラクターで、
裸の男の子が地球を持っている絵でした。
でも、「YES98」という名称や
ブルアちゃんを使うと使用料が発生するので、
オリジナルキャラを作って、
「YES98」とは言わない手法をとっています。
横浜といえば港ですので、
水兵さんみたいなセーラーカップルを使ってますね。

(けいこ)

ーー
なるほど。
メロ
このキャラクター、右側を向いてますよね。
これ、前(※第4回)にお伝えした、
右側を見ているキャラクターの
フォーマットを流用したか、
他社が勝手に似せて来たか、どちらかだと思います。
あとこの方の投稿でおもしろいのは‥‥
(たくさんの写真のなかから選んで)
あ、奥多摩のキツネちゃん、
これ、書いてないけど、
「星に願いを」のシリーズだと思うんです。

(けいこ)

ーー
星に願いを。絵もかわいいですね。
メロ
星が流れているので、
これはお星さまにお願いごとをしているんですね。
奥多摩エリアには、
湖やダムや立派な鍾乳洞があって、
観光客が多い場所なので、
いろいろな商品がつくられているんですけど、
特にこれといったキャラクターはいないんです。
基本的にキツネやクマやリスといった
野生動物ばかりです。
ーー
「ジョイフルランド・奥多摩」というのも
いいですね。
メロ
あと、レアだなと思ったのは、
「陽明門」のキーホルダーです。
見ざる言わざる聞かざるの「三猿」が
描かれています。
これのおもしろいところは、
聞かざるだけ耳栓をしているところなんです。

(けいこ)

メロ
普通こういうものには、
見ざるはサングラス、
言わざるはマスク、
聞かざるはウォークマン、
というイラストが基本なんですけど、
この絵は、見ざると言わざるだけ
手で押さえているのに、
聞かざるだけ耳栓。
しかも、「三ザルDAYO」の、三が漢数字で
ザルがカタカナ、
DAYOをローマ字って、この表記法もめずらしい。
ーー
(笑)たしかに。
メロ
日光のお土産は、「日光」としか書かないし、
「東照宮」とすら書かないのがほとんどなんです。
だから、陽明門という特定の場所を書くというのは、
かなりめずらしい。
ーー
へえ〜。
あと、この赤い紐状の何かも
気になります。
メロ
ああ、説明不足でした。
これはよくあるフォーマットで、
下駄を模しているんです。
裏側には下駄の歯みたいなものが
ふたつ出ています。赤い部分は鼻緒です。
ーー
ああ、下駄!
メロ
ただ、このフォーマットだと、
せっかくの絵が見づらいんですよね。
普通に平面でいいんじゃないかと、
いろんなところで見かけるたびに毎回思ってます。
わざわざ穴開けて、そこに紐通して、
すごく凝ってますけど。
でも、こういう過剰さがおもしろいと思ってます。
陽明門、欲しいですね。
ーー
「欲しい」がでました。
さて、次もお願いします!

こんなの出てきた。回転させて、
窓に表示される文字を変えられるやつ。
下にベルがついてたけど、なくなっちゃった。
(1073)

メロ
これはドアプレートかな。
「なくなっちゃった」というベル、
たぶん入室する人が鳴らせたんでしょうか。
これ地名はないみたいですけど、
飯ごう炊さんとテントが描かれているから、
キャンプ地とか、その周辺の観光地で
おそらく売られてたんでしょうね。
ファンシー絵みやげよりも
ちょっと前の時代だと思います。
ーー
(笑)
メロ
でもこれ、いいイラストですよ。
私は好きです。
しかしメインのキャラは何なのか、
イマイチよくわかりません。
ほっかむりみたいなものをかぶって、窓を開けていて。
こういう出窓みたいな半円の窓は
昔のファンシー建築に見られますが、
リアルにこういう、上が丸くなった窓、
なかなかないですね。

去年保護したものです!
(寿司山寿司子)

メロ
なんかすごいの来ましたよ。
「去年保護したもの」ということは、
これ、去年まで残ってたんですか。
黒部峡谷、私も行きましたが、
これは見つけられなかったです。
黒部峡谷のトロッコ列車ですね。
立山黒部アルペンルートというのがあって、
富山の立山から長野に抜けるには、
トロッコに乗って、トロリーバスに乗って、
ケーブルカーに乗って‥‥
といろいろ乗り換えながら行くしかない。
途中、トロッコで赤い鉄橋を渡る。
一番特徴的なのは、
この赤い鉄橋を渡っているところで、
よくみやげもののモチーフになってます。
だいたいカップルが乗っているか、
動物が乗っているかですけど、
これは、先頭、トロッコそのものを
キャラクター化してますね。
ーー
(笑)
しかも張り切ってますね、
「行くぞ!」みたいに。
メロ
かわいい。おもしろいです。
ただこれ、「ファンシー絵みやげ」の
くくりに入れるかどうか難しい点があって、
よく見るとシールなんです。
ーー
シール? あ、ほんとですね。
メロ
ちょっと色数が多いでしょう。
ファンシー絵みやげの時代は、
ここまでの色数は使わないです。
たとえば赤い鉄橋の麓にある緑も2色あります。
こういう表現はほぼないんです。
1色でベタッと塗って終わりで、
影もあまり描かないんですよ。
ちょっと印刷方式が新しいような印象です。
ーー
なるほど。
レトロ感もあるけれど、
少し新し目のお土産ではないか、と。
メロ
まさに過渡期の、90年代最初の方に出たのかも。
そういう意味でめずらしい気がします。

小学生の頃、お誕生日会やお土産で貰ったものです。
(m)

メロ
このモザイクみたいなものは何でしょう?
ーー
投稿いただいた画像がこうなっていましたので、
おそらく背景を加工されているのだと思います。
メロ
これは京都の新選組ですね。
六芒星みたいなパーツの下に、
メタルのパーツが3つ付いています。
ーー
かっこいいです。
メロ
あとこのカニ。
このシリーズは、ほかにも恐竜なんかがいます。
これ、すごいのは、
新選組、3つとも全部キャラクターが違ううえに、
レリーフ調の半立体で作っている。
かなり手間がかかってます。

(m)

メロ
これはファンシー絵みやげとは
違うかもしれませんね。非常に近いですが。
ちょっと「おはよう!スパンク」みたいな絵柄ですし、
少女漫画からきた
ファンシーグッズなのかもしれません。
おもしろいですね。
猫がオバケみたいになってますね。

もうひとつありました。
どこか旅行で行った先のお土産屋さんで
買ってもらったものです。
ビーズが取れているのは
自分が何かにビーズを使いたくて
取ったみたいです。
(m)

メロ
これは非常に、手芸寄りなカントリー感があります。
ただ、さきほどの犬のケースよりは、
こちらの方がおみやげ店で
売られている可能性が高いです。
ーー
mさんは、さらに2つ送ってくださっています。

今も現役のピニームーの裁縫箱と、
こちらもお土産でもらった
名前入りの指輪とキーホルダーです。
皆さんのファンシー小物が拝見できて
素敵な企画ですね。
(m)

メロ
名前入りの指輪とキーホルダー、
これは、たしかに観光地で売られていました。
少し後の時代かもしれませんが。
やはりその場で名前を彫ってくれるサービスは
健在だったんですね。
裁縫箱に用いられている「ピニームー」は、
その後、「すみっコぐらし」や「リラックマ」が
大ブレイクするサンエックスのキャラクターです。
ーー
へええ。リラックマの。
メロ
当時、裁縫箱そのものがファンシーで、
それを小学校で注文しましたよね。
ーー
あ、はい。私は、
「うちのタマ知りませんか?」
の裁縫箱でした。
メロ
‥‥お、その話になりましたか。
その話をさせていただくと、
うちの学校も、裁縫箱は
「うちのタマ知りませんか?」でした。
ただ私には7つ上の姉がおりまして、
私が小学校に入ったとき、姉は中学生。
つまり姉の要らなくなった
お下がりを使わさせられてたんです。
習字セットは、女子用の赤い習字セットを持たされ、
それが恥ずかしくて、
習字セットを墨で全部黒く塗りました。
でもところどころ剥がれてきて
赤が見えてきちゃって‥‥。
ーー
(笑)
小学生にとっては一大事ですね。
メロ
そうです。子どものころはすごく嫌で、
絵の具セットだけは親に無理を言って、
中身はいいからバッグだけ、
バッグだけは青いやつ買ってくれ、みたいな、
そういう苦労をし続けてきたんです。
その最たる例が裁縫箱!
ーー
裁縫箱、はい。
メロ
みんなが一斉に、
かわいい「うちのタマ知りませんか?」
シリーズの裁縫箱を注文。
クラス全員がお揃いの、猫のイラストですよ。
そんな中、自分だけ、
リアルな子猫の写真の裁縫箱だったんです。
みんなはファンシーな猫のイラストを使っているのに、
私だけリアルな、猫の写真。
ーー
リアルな猫の写真。
それもかわいいと思いますけど、
みんなと違った、という
思い出が蘇ってきたわけですね。
メロ
ええ、ピニームーを見ていたら、
トラウマを思い出しました(笑)。
ーー
この企画の最初のほうの投稿でもありましたが、
裁縫箱にはファンシーが
使われがちだということですね。
メロ
そう。
私が手に入れられなかったファンシーです。

(つづきます)

2020-04-06-MON

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