
- ほぼ日には2度目のご登場です!
『タッチ』や『みゆき』など
数多くの名作を生み出した
マンガ界のレジェンド・あだち充さんが、
昨年10月に「前橋ブックフェス」で、
糸井重里とのトークショーをおこないました。
会場には満員御礼300人を超えるお客さん。
公の場にほとんど姿を出さないことで
有名なあだちさんですが、
どうして糸井のオファーを
受けてくださったのでしょうか?
前回のふたりの対談を読むと、
その関係性がわかってさらにおもしろいです。
60分のトークを全5回でどうぞ! -
あだち充(あだち・みつる)
マンガ家。
1951年生まれ。群馬県出身。血液型AB型。1970年に『消えた爆音』(デラックス少年サンデー)でデビュー。『タッチ』『みゆき』『クロスゲーム』など大ヒット作多数。この3作品で、小学館漫画賞・少年部門を2度受賞。2008年には単行本累計2億冊突破の偉業を達成。現在は『ゲッサン』(小学館)で『MIX』を連載中。
ほぼ日での登場コンテンツ
『あだち充のほどよい距離感。』
- 糸井
- ご自分ではどういうマンガを読むんですか。
- あだち
- 貸本マンガが全盛の時代に育ったので、
白土三平さん、永島慎二さん、
さいとう・たかをさんも
素直におもしろがってましたし、
少年マンガだとちばてつやさんですね。
- 糸井
- ちばてつやさんは
マンガ界のシンボルみたいな人ですよね。
お元気だって聞くだけでうれしいです。
- あだち
- はい、いまだに会うとドキドキします。
- 糸井
- いま思ったんですけど、
原作なしのちばてつやさんとあだち充さんは、
ちょっと似たものがありますね。
- あだち
- そう言ってもらえるのは、
ぼくとしてはすごいうれしいです。
ちばさんのあの細かい描写とか、
大きなストーリーと関係なく
脇でやってる細かいところとか、
そういう遊んでる部分は昔からすごく好きでした。
- 糸井
- あぁー、そこは似てますね。
原作のある『あしたのジョー』でも、
まずは大きな山の構造があって、
そこにちばさんが木を
植えていくみたいなやり方だから、
いわば根性マンガのなかにも
そういうものが入ってますよね。
- あだち
- 細部にちばさんの色がありますよね。
そのへんを見つけるのはすごくたのしいし、
それがないのとあるのでは、
まったく作品が変わってきます。
ただの原作付きマンガになっちゃう。
- 糸井
- ぼくが思う「いい表現」というのは、
どんなにたのしい作品でも
核になる点に「悲しみ」があることなんです。
中心に悲しみが潜んでいないと、
甘ったるいものは甘いだけになっちゃう。
- あだち
- はい。
- 糸井
- あだちさんのマンガにも
じつは中心に悲しみがある気がするんです。
それは描く人の性格によるものなのか、
自分が取り入れてきたものの影響なのか。
そのあたりはきっと、
ごっちゃになっているとは思いますけど。
- あだち
- 根っこにあるものは、
ほんとにもうぐちゃぐちゃですね。
自分でも分析していないんです。
ただ、好きな作品と描く作品は
全然ちがうというのは昔から思ってます。
小説を読むにしても、映画を観るにしても、
まったく関係ないものが好きです。
- 糸井
- 映画はどういうものに惹かれますか。
- あだち
- 時代的には西部劇は大好きでした。
- 糸井
- スカッとするような映画ですね。
じつはぼくも案外そうなんです。
ぼくは『バーフバリ』とか好きで(笑)。
- あだち
- ははは、インド映画ですね(笑)。
ぼくはビリー・ワイルダーの作品とか、
そういうものがずっと記憶に残ってます。
子どものときは選んで観てたわけじゃないのに、
大人になってから好きな映画を調べたら、
ほとんどビリー・ワイルダーの作品でした。
- 糸井
- やっぱりどこかで、
いつも味わっている日常とはちがうものを
体験したくなるんでしょうかね。
- あだち
- 小説でも、江戸川乱歩とか、
あっち方面ばっかり読んでましたね。
いろいろとふるいにかけて、
残ったものから自分の根っこみたいなのが
できていったとは思うんですけど、
当時は変なものばかり取り込んでた気がします。
- 糸井
- いろいろ取り込んだあとに、
砂金取りみたいにふるいをかけたら、
案外、いろいろ残ったなと。
- あだち
- そういうのってすごく大事だと思います。
最近はAIがその人の趣味にあうものばかり
おすすめしてくれますけど、
それやられちゃうと困るんですよね。
その範囲のなかでしか出会えないから。
- 糸井
- うん、そのとおりだ。
- あだち
- 逆にまったく関係のない、
とんでもないものを放り込んでもらったほうが、
ぼくとしてはうれしいんだけど。
- 糸井
- そうなんですよね。
「こういうのを好きな方にはこれがおすすめ」
とか言われてもねぇ。
- あだち
- ちがうよねぇ(笑)。
- 糸井
- それは友だち付き合いもそうで、
同好の士ばっかりで集まるのはたのしいけど、
それだとやっぱりその枠に収まっちゃう。
- あだち
- はい。
- 糸井
- ぼくは「なんでなの?」が
簡単に説明できちゃうものって、
やっぱりたかが知れてるなって思うんです。
例えば、前橋ブックフェスみたいなことをやると、
「これにはどんな目的があるんですか」とか、
みんな一言で答えられることを聞きたがるんです。
- あだち
- あぁー。
- 糸井
- とくに立派そうに思われがちなことほど、
「一言では言いたくないなぁ」という気持ちが、
ぼくのなかにすごくあります。
- あだち
- ぼくは前橋ブックフェスが、
どういう催しなのか知らずにここにいます(笑)。
- 糸井
- (観客に向かって)ほら、すごい人でしょう?
- 観客
- (笑)
- あだち
- なんの説明も受けていないので、
失礼なゲストなんですけれども(笑)。
- 糸井
- いや、それは失礼ではなくて、
それがぼくは普通のことだと思うんです。
「こういう目的があってこうする」とかは、
全部とりあえずいまの社会を
うまくまわしていくための技術なんです。
いまはその技術にとらわれすぎてる気がします。
- あだち
- うん。
- 糸井
- 早起きは三文の徳って言うけど、
「その三文の徳ってなに?」って考えたら、
よくわかんないじゃないですか。
ぼくはその「よくわかんない」がやりたいし、
それがおもしろいんですよね。
あだちさんのマンガもまさしくそうで、
どこが魅力なのかを箇条書きでわかっても、
それはあんまり意味がないなって思います。
(つづきます)
写真:木暮伸也
2025-01-12-SUN