これからの自分の道のりを思うとき、
直面して困ることが、おそらくあるだろう。
いま話を聞いておきたい人は誰?
伊藤まさこさんの頭に浮かんだのは糸井重里でした。
大切な人を亡くしたとき、どうする?
からだが弱ってきたら、どうする?
なにをだいじにして仕事していく?
この連載では、伊藤さんが糸井に、
訊きたいことを好きなだけ訊いていきます。
読み手である私たちは、ここで話されたことが、
自分ごとになってスッと伝わってくるときに、
取り入れればいい。
そんな意味を入れたタイトルにしました。
長い連載になりそうです。
どうぞゆっくりおたのしみください。

おしゃべりの場所
秩父宮ラグビー場

写真
平野太呂

>伊藤まさこさん プロフィール

伊藤まさこ(いとうまさこ)

スタイリスト。
おもな著作に
『おいしいってなんだろ?』(幻冬舎)、
『本日晴天 お片づけ』(筑摩書房)
『フルーツパトロール』(マガジンハウス)など。
「ほぼ日」でネットのお店
weeksdaysを開店中。
エッセイ、買物、対談など、
毎日おどろくような更新でたのしさ満載。

> 糸井重里 プロフィール

糸井重里(いといしげさと)

コピーライター。
WEBサイトほぼ日刊イトイ新聞主宰。
株式会社ほぼ日の社長。
おもなコピー作品に
「おいしい生活。」(西武百貨店)
「くうねるあそぶ。」(日産)など。
ゲーム作品「MOTHER」の生みの親。

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第4回 仕事依頼のこつ。

糸井
いまはチームプレーだから、ほぼ日のみんなに
「俺みたいにやれ」とは言いません。
チームプレーとはどういうことかというと、
自分がキャッチャーとしてそこにいるなら
ピッチャーはしない、ということです。
それぞれがそれぞれとして、
「うまくやってくれないかなぁ」
と、思いあうのです。
自分の立場で自分を活かしたことをしないと、
チームは勝てない。
こんなこと、最初はやっぱり
「わぁ、得意じゃないかも!」って思ってました。
でも、変わらなきゃいけない。
伊藤
それはもう、すごい変わりようですね。
糸井
ほんと、すごい変わりようです。
でも、そうじゃないと、
この遊びはできないことは、
わかっていました。
伊藤
それまではコピーの仕事を
お願いされることが多かったと思うのですが、
ほぼ日をはじめてからは、
人にお願いする立場に変わりましたよね? 
依頼するのってけっこう難しいんですけど、
糸井さんはどうなさってるんですか?

糸井
それについては、方法はないです。
「これをやりたいんだ」と告げること、そして、
「相手がやりたがってくれるように、
組み立てを作ること」
たぶんこのふたつだけです。
だって、ディズニーランド行こうよといっても、
行きたくない人は行かないから。
伊藤
そうですね。なるほど。
糸井
上手なお願いってたぶん、
相手を活かそうとすることだと思います。
だから、仕事を受ける場合も、
「こっちからお願いして
やらせてもらうようなものにしてから」と
頭のなかをひっくり返すようになりました。
伊藤
私もweeksdaysをはじめるまでは
ほぼ「お願いされる側」だったんですが、
これまでふたつ、
印象に残った依頼がありました。
ひとつは『クウネル』の編集長だった
岡戸絹枝さんが、
『クウネル』で台所特集をするといって、
取材をご依頼くださったときのこと。
私はそのとき引っ越しを予定してて
「その号が出る頃にはもう
この台所は存在してないので」
と、お断りしたんです。
そのとき岡戸さんがおっしゃったのが
「私が知りたいのは台所の機能や形ではありません。
棚板の数でも鍋の種類でもない。
伊藤さんの台所の在り方を取材したいのです」
ということでした。
雑誌のページって、
きれいに写真を数カット撮って、
話をサラッと聞けば形になる、
なんてことがあります。
でも岡戸さんはそうじゃありませんでした。
私もいつか、誰かにお仕事を依頼するときは
自分のしたいことをきちんと伝えたいな、
と思った出来事でした。
糸井
ああ、それはすごいショックだったしょうね。
岡戸さん、さすがだな。
伊藤
あとは、もうひとつ。
雑誌の沖縄特集号で
工芸家を訪ねる記事を
「何人かの方に会って、書いてくれませんか?」
と、頼まれたことがありました。
すごくやりたかったんですけど、
娘がまだ6歳くらいの頃で、
2週間ほど沖縄に行くために家を留守にしないといけない。
連れてくわけにもいかないし、
泣く泣く「無理です」と諦めました。
その後、その号が発売されて、
「あの企画、誰が代わりにやったんだろう?」なんて
思いながら開いてみました。
すると、工芸に関する記事は、
私の代わりに誰かをあてるのではなく、
「工芸に対する考えを編集部が書く」
というかたちでまとめられていたんです。
糸井
「伊藤まさこさんにやってもらうなら」という
企画だったんだね。
そうじゃなくなったから、編集方針を変えたんだ。
伊藤
その記事を読んだときは、すごく感動しました。
こんな人たちに対して
「ま、伊藤さんでいいや」みたいな仕事を
しないようにしないと、と思いました。
代わりのいない人たちと仕事をしたいし、
自分もそうありたい。
weeksdaysではそういうことができるようにと、
つとめています。

糸井
すごいことだよね。
そんな機会はなかなかないよ。
「こういうことができる人いない?
何人でもいいから」
なんてことになっちゃってるのが、
いまの仕事ですよ。
だからいま、頼む側も頼まれる側も
落ち込んじゃってると思う。
「これは確実にできます」という技術を見込まれて
「腕」と呼ばれることは、
あんまりうれしくないですよね。
伊藤
はい。
頼まれたらできることかもしれないけど、
使い勝手のいい人に
なりたくないなと思います。
糸井
「君とやりたいんだ」って言われたら、
うれしいですよね。
伊藤
うれしいし、
自分もそう頼みたいと思います。
糸井
あとね、自分の経験から、
「仕事の依頼では、するまい」
ということがあります。
伊藤
なんでしょう? 
糸井
断られたとき、
無理にやってくれるように、
もっていくこと。
これはしない。
伊藤
ああ(笑)、わかります。
断りづらいお願いをされるの、
心苦しくなります。
糸井
「断っていいんだよ」と
安心して思ってもらってから、
引き受けてもらいたい(笑)。
伊藤
すごくやってほしいけど、
断れる軽やかさを伝えたい。
糸井
断る理由って、
ほんとうには説明できないんです。
つまりは、忙しいことも含めて
「いやだ」というだけなんですよ。
断ったり断られたとしても、
ほんとうにつながりがあれば
またいっしょにやるときが来ます。
「じゃあ今回は見逃そう」と
思ってくれる人とつきあいたいです。
伊藤
うん、そうですね。
あんまりしつこく理由を訊かれると
「ピンとこないんで」
とか、ひどいことを言ったりしてしまいます。
糸井
ぼくも「どうしてもダメですかね」なんて
言われると、
この人とは二度とやらないだろうな、
って思います。
断る、断られるの話は
自由を大切にしてるかどうか、ってことだから。

(明日につづきます)

2020-01-17-FRI

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