2024年、神奈川県のYさん宅の水槽で、
国内2例目となる珍しい
「モトスマリモ」が発見されました。
このまりも、日本の自然界では見つかっておらず、
なぜか民家の水槽にだけ出現するという
謎だらけのまりもだったのです。
多摩川でひろった1個の石。
妻からの一言。まりもを見つめるエビ。
いくつもの偶然がYさんのもとで重なり、
歴史的な大発見へとつながっていきます。
さらに物語の糸をたぐっていくと、
すべてのはじまりは約70年前、
ある少年の自由研究にたどり着き‥‥。
ニュースでは報じられなかった
まりも発見に至るまでのエピソードの数々、
Yさんのご自宅でたっぷりうかがいます!

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第2回 妻は知っていた。

──
もともとYさんご夫婦は、
まりもとは無縁の生活だったんですよね。
Yさん
もちろんです。
Yさん(妻)
はい。
──
まりもについて詳しかったとかもなく。
Yさん
まったく。
Yさん(妻)
ぜんぜん知らなかったです。

──
そんなおふたりが、
どうやってまりもを発見するに至ったのでしょうか。
Yさん
どこからお話しすればいいか‥‥。
──
できれば最初から順番にお聞きしたいです。
Yさん
となると、引っ越しですね。
4年前にこの家に引っ越してきたんです。
──
お引っ越しされた理由というのは?
Yさん
コロナのあとなんですけど、
会社でリモートワークが定着したのが
いちばんの理由ですね。
会社からすこし離れてもいいから、
住みやすいところに引っ越そうと思って、
4年前にここに引っ越してきました。
──
お引っ越しとまりもが、
どうつながっていくんでしょうか。
Yさん
じつは前の家のときから
趣味でメダカを飼っていまして、
ここに引っ越したときに、
新しい水槽をひとつ増やしたんですね。
テレビの横の水槽なんですけど。

──
あー、この水槽ですね。
Yさん
もともとの水槽は
いまベランダに置いてあります。
どっちかというとメインはそっちです。
メダカもそっちにいます。

──
ほんとだ。外に置いてあるんですね。
Yさん
そっちがメインの水槽で、
メダカもずっとそこで飼っています。
──
新しい水槽はなんのために買ったんですか?
Yさん
リビングにある水槽は、
ちっちゃいメダカが冬を越すために
補助的に用意してたものなんです。
冬はベランダだと寒すぎるので、
その時期だけ家のなかにメダカを移そうと思って。
──
冬の間の別荘みたいな。
Yさん
そうです。
でも、それまで水槽に何もないのもさみしいので、
ここに引っ越してきた日に、
近くの多摩川で石をひろってきたんです。
──
引っ越してきた日に?
Yさん
はい。
その日に河原をすこし散歩して、
石を1個、水槽に入れようと思ってひろいました。
おにぎり型でかわいいなと思って。
──
で、それを水槽に入れた‥‥。
Yさん
一応、水も入れて準備だけして。
ただ、補助的な水槽なので、
あまり手入れすることなく放っておいたんです。
水槽に藻がついても気にせず‥‥。
そしたらある日、妻がその水槽をジーッと見ながら、
「これ、まりもじゃない?」って。
──
えっ、いきなり!
Yさん
いきなりでした。
「これ、まりもじゃない?」って言ったんです。
──
奥様はなんで「まりも」とわかったんですか?
Yさん(妻)
わかったというよりも、
そもそも私はぜんぜん水槽に興味がないんです。
これは夫の趣味なので、
私はふだんほとんど気にしてないというか。
──
水槽には興味がないんですね(笑)。
Yさん(妻)
まったくないです。
ただ、興味はないんですけど、
水槽がテレビの横に置いてあるので、
ゲームをしていると自然と視界に入ってきます。
なので、横目では見ていたんです。
「なんか石がフサフサしてるなぁ」って。
──
見た目も緑色になってるし‥‥。
Yさん(妻)
そしたらある日、
石にくっついていた藻がはがれて、
水槽のなかで丸くなっていたんです。
「まるい藻‥‥まるいも‥‥まりも?」
──
まりも発見!
Yさん(妻)
それで夫にすぐに言いました。
「これ、まりもじゃない?」って。
そしたら「んなわけない」と言われたので、
「じゃあ、逆に聞きますけど、
まりもじゃなかったら何藻なんですか?」と。

──
「まるい藻は、まりもでしょう」と(笑)。
Yさん(妻)
「ちがうと言うなら、じゃあこれは何?」って。
Yさん
だって、まりもっていったらふつうは‥‥。
──
阿寒湖のマリモを想像しますよね。
Yさん
それが水槽にはできるはずないなと。
でも、一応調べてみるかと思って、
「水槽 まりも」で検索してみたんです。
そしたらあるニュースが1件見つかりました。
それが甲府で発見された
「モトスマリモ」のニュースだったんです。
──
あ、そこにつながる!
Yさん
甲府の民家の水槽から
国内ではじめて「モトスマリモ」が見つかったと。
ただ、そのときは
「へぇ、そんなこともあるんだ」くらいで、
とくに何をするでもなかったんです。
それからしばらく経って、
水槽もずっとそのままだったんですけど、
2024年の1月1日に、
「‥‥いや、やっぱり本物のまりもかも」と。
──
元旦に(笑)。
Yさん
年明けの1月1日でした。
ネットに載っている写真を見ると、
どう考えてもうちのものと似ているんです。
それでプレスリリースに
国立科学博物館の辻さんのお名前を見つけたので、
お問い合わせフォームからメールを送りました。
──
辻さんはそのメールを、
いつご覧になったんですか?
ええと、正月休み明けです(笑)。
1月の仕事初めの日に、
それこそ広報の担当者から
「こういうメールが来てますので対応してください」と。
──
メールを読んで、どう思われましたか。
甲府で発見されたモトスマリモは、
本栖湖で見つけた「二枚貝」を
水槽に入れたのが原因と考えたんですね。
そこにモトスマリモが付着していたと。
でも、Yさんのご自宅は川崎だったので‥‥。
──
可能性としては低いな、と。
でも、写真を見るかぎり、
たしかに甲府のモトスマリモと似ていたので、
まずは遺伝子を調べさせてください、
というお願いをしました。

Yさん
そのとき辻さんから
「まりもを送ってください」と言われたんですけど、
人生でまりもなんて送ったことないので、
「クール便がいいですか?」って聞いたりして。
──
わかんないですよね(笑)。
Yさん(妻)
配達の方に渡すときも、
「これ、ナマモノですか?」と言われて、
「ナマモノ‥‥なの?」って(笑)。
──
そうやって届いたまりもを、
辻さんが調べた結果‥‥。
甲府で見つかったものと
非常に近縁だというのがわかりました。
それですぐにYさんに連絡しました。
もう、これはすごい発見だということで。
──
それまで「モトスマリモ」が見つかったのは、
甲府での1例のみだったんですよね。
だからもうびっくりですよね。
突然2例目がバーンと来たんですから。
1例目のときは、
本栖湖由来の可能性が高いということで、
私らは富士五湖に潜ったりして、
ずーっと何年も調査していたわけですよ。
──
それでも見つからなかった。
富士五湖周辺をくまなく調査して、
あちこちずっと探していたんだけれど、
まったく出てこなかった。
そしたらある日突然、
また民家の水槽から出てきたってなって、
それはもうおどろきましたね。

──
しかも今度は「川崎」ですもんね。
関東エリアの水槽と聞いて、
「えぇーー?!」っていう感じでしたね。
──
Yさんもびっくりですね。
Yさん
辻さんから連絡をいただいて、
もう頭がまっしろになりましたね。
それですぐに妻にも伝えました。
すると、妻は「言ったとおりでしょ?」と(笑)。
──
「私は知ってたわよ」と(笑)。
Yさん(妻)
最初からずっと言ってましたからね。
Yさん
でも、私はびっくりですよね。
うちの水槽に本物のまりもですから。 
「そんなことがあるの?!」って。

(つづきます)

2025-08-27-WED

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