
2024年、神奈川県のYさん宅の水槽で、
国内2例目となる珍しい
「モトスマリモ」が発見されました。
このまりも、日本の自然界では見つかっておらず、
なぜか民家の水槽にだけ出現するという
謎だらけのまりもだったのです。
多摩川でひろった1個の石。
妻からの一言。まりもを見つめるエビ。
いくつもの偶然がYさんのもとで重なり、
歴史的な大発見へとつながっていきます。
さらに物語の糸をたぐっていくと、
すべてのはじまりは約70年前、
ある少年の自由研究にたどり着き‥‥。
ニュースでは報じられなかった
まりも発見に至るまでのエピソードの数々、
Yさんのご自宅でたっぷりうかがいます!
- こんにちは、ほぼ日の稲崎です。
- いまから2ヶ月ほど前のこと、
読者からこんなメールがとどきました。
ここでは「Yさん」と仮名で呼ぶことにします。
はじめまして。神奈川県在住の会社員です。
突然のご連絡となりますが、
わがやの水槽にまりもが発生いたしました。
阿寒湖で有名なマリモとは別種類の
「モトスマリモ」と呼ばれる種類のまりもで、
国内で2例目の発見事例となり、
NHKニュースなどでも取り上げられました。
その後、一連の報道をきっかけに
全国からまりもの報告があつまり、
モトスマリモのほかに、
全5分類のまりもが民家の水槽から見つかりました。
昨年の7月~9月には
国立科学博物館で展示も行われました。
このモトスマリモ、まだ自然界では見つかっておらず、
わがやのように民家の水槽からしか見つかっていません。
これまで誰にもまりもと気づかれずに、
そっと人と寄り添って生きてきたということになります。
ほぼ日のみなさまにご連絡いたしましたのは、
「ちょっと面白そうではありませんか?」と思い、
友人にこそっと教えたくなるような気持ちで
ご連絡をいたしました。
瓶に詰めてお持ちすることもできますので、
もし「見てみたい」と思われるようでしたら
ご連絡いただけると幸いです。
- まりも? まりもです。
あの丸くて、緑色をしていて、
湖の底でころころ転がっている、
あの、まりもです。 - まりもといえば、まず思い浮かべるのは、
北海道の阿寒湖の「マリモ」だと思います。
あのマリモは国の天然記念物に指定された絶滅危惧種。
Yさんが発見した「モトスマリモ」は別の種類で、
2022年に甲府の民家の水槽から突如現れた、
日本では3種目の非常に珍しいまりもだったのです。 - 当時、モトスマリモは謎だらけでした。
甲府の民家から発見されたあと、
研究者が周辺の湖や川などを調査するも、
どこを探しても見つけられませんでした。
ところが、その2年後の2024年。
神奈川県のYさんの家の水槽に、
なぜか突然「モトスマリモ」が出現したのです。
- その出来事は、
国内2例目の発見事例として
NHKのニュースでも大きく扱われました。
すると、そのニュースを見た人たちから、
「うちの水槽にも似たようなまりもがいる!」と、
全国から続々と報告がよせられ、
謎のまりもの研究が一気に加速していきます。 - Yさんのメールにもあるように、
このモトスマリモは、
まだ自然環境の中では見つかっていません。
なぜか民家の水槽でしか出現しない
「謎のまりも」なんだそうです。 - ああ、気になる‥‥モトスマリモ‥‥
いったい君はどこからやってきたんだ‥‥。
- ということで、取材に行ってきました!
メールをくださったYさんのご自宅におじゃまして、
本物のモトスマリモを見せてもらいながら、
たくさんお話をうかがってきました。 - さらに今回の取材には、
Yさんのまりもを遺伝子解析された
国立科学博物館の辻彰洋さんにも
ご同席いただきました。
▲「国立科学博物館植物研究部」研究主幹の辻彰洋さん
- 辻さんは今回のできごとを通して、
Yさんとは何度もやりとりされているそうで、
発見した当時のエピソードのほか、
まりもの生態についても教えていただこうと思います。 - 前置きはこれくらいにしまして、
まずはその貴重な「モトスマリモ」をご覧ください。
阿寒湖のマリモと比べると、
かたち、色、手触り、けっこうちがうみたいです。
- ──
- おぉ、これがモトスマリモ!
- Yさん
- はい、わがやのまりもです。
▲メールを下さったYさん(左)とYさんの妻(右)
- 辻
- このまりも、触るとペチャっと崩れます。
非常にやらかいんです。
- ──
- 崩れちゃうんですか?
- 辻
- それが「モトスマリモ」の大きな特徴なんです。
手のひらに乗せるとよくわかります。
- Yさん
- 崩れるというより、
フニャって平べったくなるんです。
- ──
- あー、なるほど。
- 辻
- あと、最初に言っちゃいますけど、
「まりも」と「マリモ」については、
私たちは区別して使うようにしています。
- ──
- 「まりも」と「マリモ」はちがうのですか?
- 辻
- ちょっと意味がちがうんです。
「まるい藻」という総称として使うときは、
ひらがなの「まりも」を使っています。
一方、「マリモ」と書くときは、
阿寒湖のものをピンポイントで指します。
向こうは標準和名が「マリモ」なんです。
- ──
- ひらがなの「まりも」は、
全体の総称みたいな感じなんですね。
- 辻
- そうです。
私が勝手にそうしているんですけどね(笑)。
- ──
- モトスマリモ、毛先がフワフワしてますね。
緑色のポメラニアンのようです。
- 辻
- この種の特徴ですよね。
阿寒湖のマリモの毛はもっと硬くて、
ビロードの絨毯のような感じです。
▲阿寒湖のマリモ(撮影:辻彰洋)
- Yさん
- もしよかったら触ってみますか。
ちょっと手のひらを出してもらえたら。
- ──
- いいんですか。
- 辻
- せっかくですから、触ってみてください。
ベターッとした感じが重要なので。
- ──
- おぉぉ、なるほど。
たしかにフニャっとなりますね。
海苔の佃煮みたい。
- 辻
- やわらかいでしょう。
水の中だと丸くなるのですが、
陸上だとかたちが崩れちゃうんです。
- ──
- 一本一本の毛が細いですね。
- Yさん
- 見た目は海苔の佃煮ですよね。
- ──
- でも、きれいな緑色ですね。
- Yさん
- きれいですよね。色も非常に濃い。
- ──
- 手のひらに乗ってるもの、
これで1つのまりもになるんですか?
- Yさん
- それで1つのまりもです。
- 辻
- 中心から糸状に広がっています。
房が四方に広がっていってる感じですね。
- ──
- ということは、中心がある。
- 辻
- はい、わりとあります。
- ──
- 水槽の中に置かれた「石」に
藻がびっしり生えていますが、
もしかしてこれって‥‥。
- Yさん
- 石の表面についた藻がまりもです。
というか、その石がすべてのはじまりなんです。
- ──
- この石からまりもが生まれているんですか?
- Yさん
- そうなんです。
多摩川からひろってきた石で、
最初はふつうのツルツルの石だったんです。
それがだんだん表面が緑っぽくなって、
気がついたらこういう状態でした。
そのうち表面の一部がポロッとはがれます。
- ──
- 自然にはがれる?
- Yさん
- はい、自然にはがれます。
石のいちばん上を見ていただくと、
ちょっと禿げたところがありますよね
- ──
- てっぺんだけ石の表面が見えます。
- Yさん
- 最近、そこがポロッとはがれたんです。
はがれたものは、
水中で勝手に丸くなっていきます。
- ──
- はぁぁ‥‥。
- Yさん
- (ピンセットで水槽を探しながら)
あ、これがはがれた直後のやつですね。
- ──
- そういう見分けもつくんですか。
- Yさん
- わかるようになりましたね(笑)。
放っておくとどんどん数がふえていきます。
- ──
- 1回はがれても、また生えてくるんですか?
- Yさん
- 新しいのが生えてきます。
はがれたと思ったら、また自然と生えてきて‥‥。
いまのまりもで3世代目くらいでしょうか。
- ──
- 石からまりもが次々と‥‥。
- Yさん
- はい。
(つづきます)
2025-08-26-TUE