昨年の前橋ブックフェスで、
作家の岸田奈美さんと糸井重里が
トークショーをおこないました。
岸田さんが本を出版される前から
何度もおしゃべりしてきたふたりですが、
ふたりだけで、多くの人の前で、
じっくり話すのはこれがはじめて。
書くだけで生きていくには、枠線、
悲しみから芽吹くもの、家族についてなど、
話はどこまでも広がっていきます。

>岸田奈美さんプロフィール

岸田奈美(きしだ・なみ)

作家。

Webメディアnoteでの執筆を中心に活動。車いすユーザーの母、ダウン症の弟、亡くなった父の話などが大きな話題に。株式会社ミライロを経て、コルク所属。

主な著書に『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』、『傘のさし方がわからない』、『国道沿いで、だいじょうぶ100回』など。Forbes 「30 UNDER 30 JAPAN 2020」「30 UNDER 30 Asia 2021」選出。 

岸田さんのnoteはこちら。

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第6回 悲しみのままでは、いないぞ。

岸田
あの、わたしは神戸市北区っていう、
ニュータウンの生まれなんですよ。
いわゆる開発された土地で。
糸井
外から移り住んだ人たちの街なんだね。
岸田
なので、祭りがないんですよ。
糸井
なるほど。
岸田
歴史がないから祭りがなくて、
わたしはでっかいマンションに住んでいて
お父さんがそこの自治体に入ってたんですけど、
今だから話すと「祭りを作ろうぜ」
っていう話が起こったんです。
みんなばらばらで関わりがないから、
ひとつになれる「祭り」にあこがれがあった。
でも、新しい土地なので祀る神がいないんです。
風習も文化もない。
そうしたら、マンションで大ビンゴ大会を開く、
という祭りになったんですよ。
糸井
ビンゴと祭り。
岸田
みんなが得することをしないと、
人が集まらない感じだったんです。
で、ビンゴの景品が、祭りの回数を重ねるたびに
どんどんよくなっていくんです。
ただのマンションなんですけど、
1等がハワイ旅行になったり。
糸井
おおー、ビンゴでハワイ。
岸田
そうすると、隣町からも来るんですよ。
やべえビンゴやってるマンションの祭りがあるぞって。
会場
(笑)
岸田
ビンゴカードを100円で売るんですけど、
子どもがそれをお年玉で買い占めて、
NINTENDO64を当てるために
ずらーってあぐらかいた子どもが並んで、
ただのマンションのビンゴ大会が
成り上がっていったんですよ。

糸井
すごいねぇ。
岸田
すごいじゃないですか。
「このビンゴで、この街盛り上げていこうな」
って考えてる、みんないい人たちなんです。
ボランティアで、とくに金銭も発生しない。
ただ、ビンゴ券ってどうやら売ったらダメらしく、
普通に、賭博法に違反してまして。
会場
(笑)
糸井
おじさんたちはね、この街のためにって。
岸田
警視庁から人が来て、
ビンゴ大会が一斉検挙されたんです。
その時のしゅんとした大人が、トラウマで。
糸井
はいはい。
岸田
あんなに、ハワイだ!いぇーい!って。
10階建てのマンションで、
みんなベランダでビンゴカード持ってたんです。
うわあーって盛り上がって、
ラスベガスみたいな街だったんですよ。
糸井
いいねぇ(笑)。
岸田
大人になったらわたしがこの会を盛り上げるんだ、
くらいに思っていたら、一気に全員。
糸井
ああー。さすがだな、あなたは。
岸田
いやいや。
でも、祭りがなくなったことに
わたしはすごく傷ついて、
未だに神戸市北区のことが
そんなに好きになれないんです。
そんなときに、前橋ブックフェスは、
わたしにとって希望なんです。
糸井
これのすごいところは、
得する人がいないところ。
岸田
そうですか?
糸井
ビンゴは得するんだけどね。
岸田
だから、結局、得でつながる人間はもろい。
糸井
得で集まるような場所をつくるのが、
ぼくにはできないのかもしれない。
お店が開店した時に花輪がいっぱい飾られるんだけど、
オープンが終わった途端に
近所の人が自転車でやってきて、
その花をみーんな持って帰るんですよ。
岸田
います、います!
うちのおばあちゃんがそうでした。
餅まきの餅を、全部持って帰ったり。
糸井
そういうことの逆をやりたい気持ちがあったんで、
本をなんでも持っていってくださいっていうのは
うまくいかない可能性があったんですけど、
でも、できたから泣けました。
岸田
わたし、家から持ってきた本を
会場にどうやって置いたらいいかわからなくて
困っていたら、ボランティアの方が、
めっちゃうれしそうに
「え、持ってきてくださったんですか!」って
感謝されたんです。
でも、その人なんの得もしてないじゃないですか。
糸井
そうですよ。
岸田
それが、すごいなと思って。
糸井
すばらしいですよ。
だから、そんなことがあり得るんだって場面を見ながら
中学生や高校生が育っていくと、
その子たちが大人になった時に
やることが違うでしょ、きっと。
岸田
‥‥そう。
わたしはビンゴで育ったから、
人はハワイがないと集まらないと思っていたので、
前橋ブックフェスを見て、
人はビンゴがなくてもこんなに集まるんだと知りました。
糸井
あのー、もう時間が来ちゃったんでね、
最後パッと終わるんですけど。
ぼくはね、祭りって悲劇から生まれてるんだと思うの。
岸田
どういうことですか?

糸井
つまり、奈良の大仏がある理由って、
大飢饉があって、地震があって、
鎮魂しなきゃなんないから生まれましたよね。
岸田
鎮魂。
糸井
五穀豊穣を祈っても
飢饉の可能性があるから、
祭りをして神様に対してごまをするわけですよ。
岸田
ごまをする‥‥
糸井
その意味では前橋って土だったから。
関東平野の赤城山の裾野で、
「めぶく」ってスローガンになるくらいだから、
何もないところに何かを作りたいっていう
悲しみが前橋ブックフェスという祭りをつくってる。
岸田
でもわたしのエッセイも、
悲しみ苦しみから来てるので。
糸井
そうですよね。
岸田
だから、すごく共感できます。
悲しみがスタートで、
供養するため、成仏させるために書くし祭りをする。
糸井
大雑把に言うと、
あのシャッター街商店街って言われてる場所
を悲しんでる気持ちがあったから、
ぼくなんかが通行人にお礼を言われるのは、
「この場所がこんなになるとはねぇ」
って悲しみを含んでよろこばれている。
岸田
じゃあ前橋の人って、悲しいお調子者なんだ。
糸井
そうです。
会場
(笑)。
糸井
いやちょっと、そう思いませんか?
その「悲しみのままではいないぞ」
っていう気概はあったわけで、
それが、ここで結実してるんです。
岸田
愛おしい。
糸井
はい。で、まぁ、急に終わりますよ。
岸田
はい(笑)。
糸井
さあ、「奈美の部屋」を締めてください。
岸田
トゥールル、トゥルル、トゥールル‥‥
今日は、糸井重里さんに来ていただきました。
‥‥ちょっとがんばりたいです。
糸井
でも、できそうだ。
会場
(拍手)
岸田
ありがとうございます。

岸田
私、糸井さんに欲しがっちゃったことがあって、
「一言付けてください」とか
言っちゃったことがあったんですよ。
そしたら、めちゃくちゃ嫌そうな顔しながら、
「いっぱい書いて、すごい」
ってきました(笑)。
でも今思うと、悲しみも怒りも全部いっぱい書いて、
すごいなって思いました。
糸井
そうですね。
岸田
これからもいっぱい書いて、
次からは、いっぱい読まれてすごい、
になっていこうかなと思います。
今日はありがとうございました。
糸井
こちらこそ、ありがとうございました。

(おわります。岸田奈美さん、ありがとうございました!)

2025-05-07-WED

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