ふとしたきっかけから、糸井が
「対談してみたい」と思っていた方と、
その場が設けられることになりました。
お相手は、NHK「クローズアップ現代」で
23年にわたりキャスターを務めた国谷裕子さんです。
日々、森羅万象のテーマを取り上げ、
時事問題に切り込み続けてきた国谷さんだけに、
発せられることばは、まっすぐで、
洞察力に満ちていて、
「こういう番組に出たかった」と、
思わず糸井もつぶやいたほど。
国谷さんの視点、かっこよかったです。

>国谷裕子さんプロフィール

国谷裕子 プロフィール画像

国谷裕子(くにやひろこ)

国谷裕子(くにやひろこ)
大阪府生まれ。米国ブラウン大学卒業。
NHK衛星「ワールドニュース」キャスターなどを経て、
1993年から2016年までNHK総合「クローズアップ現代」の
キャスターを23年間にわたって務める。
2012年に菊池寛賞、2011年に日本記者クラブ賞、
2016年に放送人グランプリを受賞。
現在、東京藝術大学理事、
国連食糧農業機関の日本担当親善大使。
著書に『キャスターという仕事』(岩波新書)。

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第4回

めげないで、たのしく。

国谷
古典とか、シェイクスピアの勉強とかも
やってらっしゃいますよね。
糸井
はい、「ほぼ日の学校」の講座で。
学校をつくる、なんていうのも、
個人でできなかったことのひとつです。
国谷
おもしろいなと思って。
糸井さんが古典をはじめた、だなんて。

糸井
ぼく自身が古典を
コンプレックスに思っていたんです。
古典をスルーできちゃうのは、
戦後の人の特徴ですよね。
昔の人はみんな古文が読めたけど、
三島由紀夫より後の人は断絶してますから。
国谷
でも、これは儲からないだろうな、
とも思ってしまって。
糸井
基本的には儲からないです。
でも、実は大学は儲かってるんですよ。
資格が取れるというご褒美に対して
お金を払う人たちがいるし、
認可の学校は税制でも優遇されているから。
そうじゃないなかで、
「学校」をはじめた理由の1つに、
演劇やコンサートに人が集まっているのを
違う角度から見ると、
ここには可能性があるな、と思ったんです。
たとえば、好きな歌手の
コンサートのチケットを取っている人は、
大雨が降っても行くでしょう。
あの熱心さのなかに、
シェイクスピアの学校に行かなきゃ、
という人がいる可能性があるんです。
国谷
それが糸井さんぽくておもしろい。
糸井
そう?
ちょっとおもしろいのは、
サイドストーリーみたいなものが、
やってるうちにはできてくるんです。
「ほぼ日の学校」で
シェイクスピアを教えてくれている
松岡和子さんとか、ほかの先生の授業まで
全部聴いていってくださるんです。
国谷
ああ、そう。
おもしろいのね、きっと。
糸井
人を夢中にする何かがあるんです。
コンサートと同じように、
自分の時間を使える人にとっての
私的なたのしみというものが、
これからは市場になると思います。
これは、ぼくらよりも先に銀行の人が言ってます。

国谷
実は私、東京藝術大学で
理事を務めているんですが、
藝大の教授の中には、
彫刻家で仏像などの古美術の
修復・研究をされている方もいらっしゃいます。
藝大は、唯一の国立総合芸術大学だけに、
音楽分野でも邦楽から
洋楽まで幅広くカバーしています。
様々な分野の先生方が講義をする朝食会もあって、
そこにはビジネスマンが来ます。
糸井
来ますよね。
国谷
朝が早いんですけど、
みなさん「おもしろい」とか
「刺激がある」とおっしゃって。
今、古典文学に対する若い人の関心が薄れて、
大学でも、生徒が集まらず
授業も減っていると聞いています。
そんななか「ほぼ日」が古典の講座をやる、
と聞いて、おもしろいな、と。
上場会社の社長として、
ただ単に、企業価値を高めるとか、
ブランディングのためにやっているとは思えないし、
どういう発想でなさっているんだろう、と。
糸井
自分にとっても、まわりからみても、
やっぱり「うまくいった」
という言い方ができるのは、
ビジネスとしても成功したときだと思うんです。
ぼくもそうしたいとは思っていて、
だからいろいろ苦労しているわけだけど。
国谷
それでもビジネス重視になってないところが
やっぱり、糸井さんらしいです。

糸井
うちは、商業的には、
いわば手帳の会社と人は思ってるかもしれない。
でも、うちは手帳のチームが威張らないんですよ。
つまり、一番稼ぎ出してるチームが威張る、
みたいなことが
一般にはよくあることなんだけど。
国谷
ありますよね。
糸井
NHKでいえば、視聴率の高いチームは
ブイブイいわせるとか(笑)。
国谷
いま、いいことを言いましたね(笑)。
糸井
そういうのが全然ないんです。
いろいろチームがあるなかの、
イチ手帳のチームなんです。
国谷
それはどうしてそうなっていくんですか。
糸井
風土だと思います。
威張らないに決まってるっていう、
もともとの風土がある。
国谷
そういう考え方を、
どうやって社員に浸透させているんでしょう。
糸井
毎週しゃべってるんです。
水曜日の昼に、全社員の前で。
国谷
毎日書きながら、毎週しゃべってる。
それを維持するのも、すごいです。

糸井
でも、たとえばの話、
これは全然儲かってないよね、
という事業でも、
誰かが買いものしてるかもしれないし、
ポートフォリオのような扱いにもできるし。
スポーツのチームと結構似てます。
エースがケガしちゃったけど、
意外なあいつが打ってくれたから勝つね、とか。
人が見たら危ういところも含めて、
ぼくたちはここで頑張るんだ、みたいなところを、
明るく言い続けることができるかどうかが、
たぶん分かれ目なんじゃないかな。
国谷
なるほど。
糸井
結局は、めげないで、たのしくやる、
ということがすごく大事で。
めげないでやろうね、
と毎週言ってるんです。
普通に頭のいい人はめげちゃうと思う。
国谷
そのクリエイティブなパワーというか、
企画力とか、
世間が欲しているものを察知する感度って、
研ぎ澄ませていないとできないですよね。
糸井さんだけに任せるわけじゃなくて、
みなさん、やっぱりそうなんでしょうか。
社員の皆さん、自由にしてらっしゃるんですか。
糸井
そうですね。
それぞれ持ち場のチームはありますが、
相互乗り入れが可能な体制になってます。
昔、ぼくがもっと自由に見えていたときよりも、
いまのほうがくたびれるけど、おもしろいんです。
国谷
ものすごい勢いで走ってますから。
糸井
走ってますね。
「ほぼ日の学校」も授業という感じが
あまりなくてたのしいですよ。
きのうまでダーウィンと何の縁もなかった人が、
授業を受けて「ダーウィンおもしろいね」って。
そういう様子が見たかったんです。
ぜひ、来てください。
国谷さんにも出てほしいです。
学校についても、
今後、いろんな企画を考えています。
国谷
そこはビジネスマンですね。
糸井
必死なんです。
ビジネスマンにならないと、
潰しちゃうわけにはいかないから。

(つづきます)

2020-03-22-SUN

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