
災害が起こったとき、
私たちはどんな選択を迫られるのでしょうか。
ほぼ日乗組員9人で、
防災研究者の廣井悠先生等が開発した
「KUG(帰宅困難者支援施設運営ゲーム)」に取り組み、
災害時の行動を具体的に想像してみました。
帰宅困難者による混乱を生まないため、できるだけ
社内に人を滞留させることを第一に考えましたが、
いざ引き留めようとするとさまざまな難しさが明らかに。
強制力のある結論を出すものではないので、
ひとつの例として、乗組員たちの決断を
追っていただけたらうれしいです。
それでは、ゲームスタート!

大都市防災研究者、廣井悠先生と
SOMPOリスクマネジメント㈱が共同開発した、
帰宅困難者を受け入れ・滞留させる施設のための
図上訓練キットです。
架空の事業所のBCP要員(緊急事態発生時に、
事業継続を担うために指定された職員)として、
起こったトラブルへの対応を決めていきます。
今回は「都市で日中に地震が起こった」
という設定で取り組みました。
また、ファシリテーターとして、廣井悠先生と
SOMPOリスクマネジメントの宮田桜子さんに
進行いただきました。
- 地震発生当日の夕方に入りました。
2チームとも、「帰りたい」と希望する人を
できるだけ引き留める方針で進んでいます。
ここで、大きな余震が‥‥。
イベント⑤〈発災当日18:00〉
みなみもり市でマグニチュード7.6
(広範囲で震度6強)の
非常に大きな地震が発生しました。
ひがしの市、にしやま市、みなみもり市全域で、
電気・ガス・上下水道が停止しました。
復旧の見込みは立っていません。
鉄道は全て運転を見合わせています。
信号が停止し、
道路交通網は全面的に麻痺しています。
なお、当ビルは最大60時間運転可能な
非常用発電機があるので、
しばらくのあいだ電力を供給することができます。
必要な対応を検討してください。
- いしざわ
- マグニチュード7.6というと、
2024年の能登半島地震と同じくらいだ。
- やまと
- こうなってしまったら、
もう帰宅どころじゃないね。
「社内でどう過ごすか」を考えないと。
- かのう
- 「家族が心配だから帰りたい」という人も
出てくると思うから、
社員の家族の安否確認もしておきたいですね。
- あやや
- 安否確認システム、一応登録しているけれど、
切実に必要だなぁ。
使い方をちゃんと確認しておこう。
- 宮田さん
- 大変です!
いまの地震で、転倒してしまった人がいます。
イベント⑥〈発災当日18:10〉
技術部技術2課の松岡さん(社員番号256)が、
いましがたの地震の揺れで転倒し、
足を負傷しました。
自力で歩けないようです。
必要な対応を検討してください
(松岡さんが社内のどこで転倒したかは、
適宜設定してください)。
- あやや
- おんぶだな。
- 方針
- おんぶする。
- のなか
- いやいや、早く救急車を呼びましょう!
- あやや
- 私は骨折したことがないんだけど、
骨折って病院に行けば治るものなのかな?
- やまと
- 痛み止めを処方してもらえると思う。
- あやや
- じゃあ、社内に痛み止めを用意していれば、
病院に連れて行かなくてもいいかもしれないね。
この時点では、医療機関に負担をかけないために、
感染症や大怪我以外では、
なるべく病院に行かないほうがいいと思うの。
自分たちで応急処置をして、
社内で安静にしてもらうのはどうかな。
- やまと
- でも、すごく深刻な骨折かもしれないよ。
私は、このとき松岡さんを
病院に連れて行かなかったせいで、
とりかえしのつかないほど
怪我が悪化してしまったら‥‥と考えちゃう。
- あやや
- たしかに、その危険性はあるね。
一度、医療機関に診てもらったほうがいいのか。
- かとう
- どうやって病院まで連れて行きましょう。
いま、交通網が麻痺しているから、
救急車を呼ぶのは難しそうです。
- あやや
- おんぶだ。
- やまと
- どうしてそんなにおんぶしたいんですか。
- かのう
- おんぶするかはともかく、
交通機関は使わず、
歩いて連れて行くしかないですね。
- あやや
- どうにかして病院に行けたとしても、
診察してもらうまでに
どれくらい時間がかかるかな‥‥。
もしかしたら、病院も大混雑しているかもしれない。 
- やまと
- そう考えると、やっぱり病院に行かず、
社内でできるだけのことをしたほうがいいのかな?
- あやや
- 社内に、痛み止めの薬を
できるだけ備えておければいいね。
あと、「どのくらいの怪我だったら病院に行くか」
の方針と知識を、みんなで共有する。
- のなか
- 体調不良者用の隔離部屋とは別に、
怪我人が休める救護室も
どこかにつくっておきましょう。
- やまと
- うんうん。
まわりの人も、痛がっている人を見ると
不安になるかもしれないから、
怪我をした人用のスペースはあったほうがいいね。
- 方針
- 社内でできるだけの処置をする
(そのための知識を備えておく)。
怪我人用の部屋を設ける。
- さくま
- 救急車を呼びましょう。
- やすな
- うーん、でも、交通網が麻痺しているから
救急車は呼べないし‥‥
社内で応急処置をするわけにはいかないかな?
冷やして固定するとか。
- しもー
- うんうん、たしかに。
病院も混雑するかもしれないですね。
- さくま
- ちょっと待ってください。
僕は、怪我については少し詳しいんです。
応急処置は、別名「RISE処置」ともいって、
「Rest(安静)、Ice(冷却)、
Compression(圧迫)、Elevation(挙上)」を
指します。
でも、RICE処置は
打撲や捻挫などへの初期治療なので、
足の骨折のような大きな怪我の場合は
すぐに病院にかかることが推奨されているんです。 
- やすな
- そうなんだ!
じゃあ、できるだけ病院に連れて行く方針で
考えたほうがいいんだね。
- ゆーないと
- ちなみに、さくまくん自身は骨折したことある?
- さくま
- あります。
そのときは、病院に行くまでに4時間かかって、
かなりつらかったです。
痛み止めを飲んでも変わらないくらい、
痛かった‥‥。
- ゆーないと
- うわぁ、そうか。
救急車が来られない可能性も高いけど、
やっぱり台車などを使って病院に連れて行ったほうが
いいのかな。
- さくま
- 僕の骨折経験から言わせてもらうと、
揺れると痛いので、できれば台車ではなく
救急車を呼んであげてほしいです。
社内の応急処置で済ませるのは、
どうしても病院に連絡がつかなかったときの
最終手段と思っておくのがいいかもしれません。
- やすな
- となると、社内の誰が応急処置ができるのか、
知っておいたほうがいいですね。
- ゆーないと
- 全員ではなくても、興味がある人は、
応急処置のやり方を身につけておこう。
- 方針
- なるべく救急車で病院へ連れて行く。
どうしても救急車が来られなかったら、
社内で応急処置をする。
イベント⑥〈発災当日18:10〉
みなみもり市の木造住宅密集地で
大規模火災が発生しています。
延焼が広範囲にわたり、
消火の目処は立っていません。
営業部営業3課の藤本さん(社員番号198)と
品質保証部顧客サポート課の
尾崎さん(社員番号290)から要望です。
「3歳の子どもを預けている保育園と
連絡がとれないので帰宅したい」
必要な対応を検討してください。

- あやや
- これはきつい状況だなぁ。
- やまと
- 藤本さんは自宅が火災現場から離れているから、
そこまで緊急性はなさそうだけど、
尾崎さんが心配ですね。
火災が発生したみなみもり市に自宅があるし、
3歳の息子さんの安否がわからないし‥‥。
- 宮田さん
- ちなみに、いまは停電中です。
外は日が沈んで真っ暗です。
みなさん自身のいる社内にも、
少しの明かりしかありません。
- あやや
- そうか、停電しているんだった。
暗いなかを帰るのは危険ですね。
家に着くのは夜中になっちゃうし。
これはもう、尾崎さんをみんなで元気づけながら、
朝まで待つしかないかも。
- やまと
- えぇ、マジですか。
私が尾崎さんだったらきっと、
「でも、息子が心配なので帰ります」
って言うと思います。
- あやや
- その気持ちはすごくわかる。
けど、大規模火災が起こっているわけだから、
家の近くまで帰ったとしても近づけないよ。
- かのう
- 尾崎さん自身の身も危ないですね。
- やまと
- うーん、帰ったとしてもできることがないのか‥‥
でも「帰ってもしょうがない」とは思えないよー。
- あやや
- 思えないけど、しょうがない!
ここは、私たちが冷徹な人間になって、
尾崎さんを説得して、励まし続けよう。
尾崎さんの命を守るためにも。
- のなか
- 厳しい選択だけど、
ワン・フォー・オール、
オール・フォー・ワンですね。
- やまと
- そうだね‥‥うわーー、きついーー。
いざというとき、冷静になれる人が
どれだけいるかが大事ですね。
- あやや
- うん、みんなで冷静でいよう。
- 方針
- 藤本さん、尾崎さんに、
なるべく帰らないよう相談する。
みんなで冷静でいる。
- しもー
- この状況を想像しただけで泣きそう。
- さくま
- まず、自宅が火災現場に近い尾崎さんの対応から
考え始めますか。
- ゆーないと
- 「どうやって帰るか」が問題だね。
- さくま
- 帰った尾崎さん自身が危険な目に遭ってしまう、
二次災害の可能性は考えたほうがいいですよね。
- しもー
- しかも、家に帰ったところで、
会社にいるより安全とは思えないから、
保育園からの連絡を待つしかないかもしれない。 
- ゆーないと
- 心配だけど、電車も止まっているしね。
とにかく、みんなで尾崎さんを励まそう。
- さくま
- もうひとりの、自宅が火災現場から遠い藤本さんは、
妻の無事が確認できているんだね。
娘さんは、藤本さんが保育園に迎えに行けるかな。
- しもー
- 藤本さんは自宅まで15kmあるから、
歩いたら6時間くらいかかるかも。
いま18時すぎだから‥‥
着くのは深夜24時ごろになっちゃう。
- やすな
- 24時に保育園に着いても、
入れるかわからないね‥‥。
「朝になってから動く」
という方針で固めたほうがいいかな。
- さくま
- そうですね。
さっき、東西線がクマ駅まで復旧したタイミングで、
東西線ユーザーは帰してあげればよかったのかな。
- しもー
- でも、それだと、復旧後に起こった余震で、
東西線で帰った人たちが被災してしまった可能性が。
- ゆーないと
- 私たちが「あのとき帰したせいで」って
後悔することになったかも。
帰す判断も、帰らせない判断も難しいね。
- 方針
- 藤本さん、尾崎さんに、
なるべく帰らないよう相談する
(朝になるまで待つ)。
(つづきます)
2025-08-20-WED