糸井

映画の中の綾野剛さんと恋人との掛け合い、
あれはラブコメですよね。

永田

観る人によっては、
彼女に裏があって、
あそこで何か起きるんじゃないかと（笑）。

糸井

あー、なるほど（笑）。
アメリカ映画で似たようなシーンがあったら、
そう思うのかもね。
でも観る人がそう思ったとしても、
綾野さん自身はあの役を貫くじゃないですか。
あれは助かるんですよね。

永田

はい。

糸井

なるべくネタバレにならないように
気をつけながら話しますけど‥‥
ええと、映画の途中で、
ある人の体に大きな不具合が起きます。

永田

大きな不具合（笑）。

糸井

不具合はあるんだけど、
そのあともけっこう元気なんですよ（笑）。

永田

はははは。

糸井

もし原作が自分だったら、
ああは作れないでしょう、たぶん。

永田

あー、そうかもしれない。

糸井

ただもうハラハラしろよっていうね。

永田

それが狙いではありますね。

糸井

「映画ですからね」という印を、
ちゃんといくつも置いていますよね。
「フィクションですから」というサインが
あっちこっちにある。
そのわりにリアルなところもあって、
しゃべりの間とかは、
ただ会話を撮るんじゃなくて、純文学というか、
けっこうコクのあることをしてるなって。

永田

そこは演出もありますけど、
編集の仕方で決まる部分もあるんです。
映画はやっぱり尺で戦っていくので、
現場でいいものが撮れたとしても、
編集で切ったり、逆にここは絶対に残そうとか、
そういう戦いがあります。

糸井

アクションシーンでいうと、
劇画がつづくように撮ってますよね。
空を飛んでるような殴り方があったり。
そうかと思ったら、
兄弟分とふたりだけの静かな時間のときは、
殴り合いのときとは
またぜんぜんちがう筆で描いていたり。

永田

それは、たぶんですけど、
いわゆるアクションものを撮る監督が
この映画を作っていたら、
そういう静かな時間のところは
カットされちゃうような気がします。
いい方はあんまり良くないですけど、
いわゆる男性監督だとしたら。

糸井

女性監督ですよね、思えば。

永田

じつは今回のスタッフ、
私以外、全員男性だったんです。

糸井

おぉー。

永田

この映画がそもそも男の物語だし、
私も「男同士だったらどんな話しする？」とか、
そういう相談ができるので、
そこはすごく助かった部分でもあるんです。
でも、だからといって、
まわりの意見をあまり聞きすぎると、
よくある映画にどんどん寄ってっちゃう。
「ここ省いちゃいましょうよ」とか、
「ここ切ってテンポ良くしませんか？」とか、
そうやって提案されるところにかぎって、
私が大事にしているシーンだったり（笑）。
「ダメダメ、私はこれがやりたいんです」みたいな。
そういうやりとりはけっこうありました。

糸井

そのシーンがなくても映画は成立するんだけど、
たぶんもっと理屈っぽくなってますよね。
整合性が取れすぎちゃうというか。

永田

そうなんですよね。

糸井

永田さんが大事にしていた場所って、
もっと人の心情の部分だと思うんです。
騙そうとするときの、
あの心に嫌な感じがする感じとか。
その部分とアクションシーンの部分、
そのふたつがアンバランスで、
一見トーンが揃っていないように見えるけど、
ぼくはそこもおもしろいと思ったんです。
映画好きの人たちもそう思うんじゃないかな。

永田

アクションシーンのことでいうと、
アクション専門の方たちからすると、
ほんとうはもっと細かくしたかったはずです。
細かくカット割りして、
かっこいいところだけテンポよくつなげる。
でも、ぜんぶそうすると、
それこそもっと別ものっぽくなるので、
殴ったあとの流れまで入れましょうとか、
もうちょっと長めに撮りましょうとか、
そのへんは相談しながら撮影していました。

糸井

その現場での葛藤が、
結果、よかったんじゃないでしょうかね。

永田

ありがとうございます。
ぜんぶポジティブに受け止めます（笑）。

糸井

そろってないことも魅力なんですよ。
木と金属を接合させたみたいな。
そういうこと、他の方にもいわれませんか？

永田

「ギャップがすごいね」とはいわれます。
激しいバイオレンス映画を撮る
白石和彌監督という方がいますけど、
試写を観た人たちから
「あれは白石監督もやんないよ」って（笑）。

糸井

うん、やんないと思う（笑）。

永田

そういうギャップのことだったり、
あとは、映画の題材もそうですけど、
男性監督とか女性監督とか、
そういう区別する時代は終わったね、とか、
そういってくださる方もいらっしゃいます。

糸井

ふだんが離れてるがゆえに、
必然性を越えて思いっきりやれちゃうというか。

永田

割り切ってやれちゃうところはあります。

糸井

指揮者が永田さんだとして、
譜面という原作はある。
あとはオーケストラですよね。
第一バイオリンの一番聞かせるフレーズは、
おそらく「友情」だと思うんです。
みんなこの映画を観て、
そこを心に残して帰るんだけど、
あとで思い出すとクラシック音楽なのに、
ドラムが入ってましたみたいな（笑）。

永田

「なんで？」って（笑）。

糸井

しかもそれが効いてるんです。
あえて整えないで出してる感じが。
昔、タランティーノの映画で
『フロム・ダスク・ティル・ドーン』って
あったじゃないですか。

永田

ああ、はい。
ちょっともう記憶にないですけど。

糸井

あの映画、前半は追っかけものですけど、
後半はゾンビが出てきて
大暴力シーンばっかりの映画なんです。
最初「こういう感じの映画なんだ」と思っていたら、
後半はぜんぜんちがう映画になる。

永田

寿司屋に入ったのに、
ステーキが出て来たみたいな（笑）。

糸井

そうそう（笑）。
でも観終わった人は、
「あー、おもしろいゾンビ映画だった」って
思いながら映画館を出るんです。
最初はぜんぜんちがうトーンだったのに。
じつはこの映画も
ちょっとそういうところがあって、
そこがまたおもしろいと思ったんですよね。

©2025 映画「愚か者の身分」製作委員会