糸井

ぼくは永田琴さんという方に、
お世話になった覚えがあるんです（笑）。

永田

はい、なってるんです（笑）。

糸井

あれは５年ほど前なのかな。
ほぼ日手帳のキャンペーン用の映像を
作っていただいたんです。
女子高生が大きな筆で習字をするというもので。
あれ、よかったですねー。

永田

ありがとうございます。

糸井

ああいう仕事って、
かんたんにできるものじゃないんですよ。
ぼくは「大変でしたか？」という聞き方は
なるべくしないようにと思っているのですが、
あれ、大変でしたよね？

永田

いえいえ、あのときは
出てもらえる女の子たちが見つかって、
体育館で書いてくれるってなって、
もう「よっしゃー！」みたいな感じでした。

糸井

本人たちもたのしそうでしたもんね。

永田

あの撮影、ちょうどコロナ禍だったんです。
だから「マスクしなくて平気ですか？」とか、
そういう気づかいのほうが大変でしたね。
体育館に人が集まることとか。

糸井

そうか、そうか。

永田

彼女たちもコロナがあって、
最後の作品発表ができなかったそうで、
顧問の先生からも、
「撮影があってすごくありがたいです」と
おっしゃっていただきました。
あのお仕事は、ほんとにやってよかったです。

糸井

あれはぼくも大好きなんです。
永田さんにとっては
広告の端っこみたいな企画だと思いますけど、
やっぱり本気なんですよ。

永田

本気、本気（笑）。
えっ、そんなに熱かったですか？

糸井

生徒たちも、撮ってる人も、
「やってるなー！」というのが伝わるんです。
いいものができたなぁって、
ぼくもうれしかったんです。
その人が映画を撮ってることも知っていたので、
「試写会に行きませんか？」といわれて、
「それはいいねー」ってすぐ返事したんです。
なんか、お父さんみたいな気分で（笑）。

永田

はははは。

糸井

それで試写会場に行って、
何も知らないまま観はじめたんだけど、
青春群像なのかなと思ってたら、
もう最初からそれが崩れるじゃないですか。

永田

半グレの世界ですからね。

糸井

犯罪の世界なわけですよ。
たしか最初のシーンは神田川ですよね？　
あんな場所があるんですね。

永田

私もまさにそういう感じでした。
「この川って、あの歌の神田川？　
こんなところなの？」みたいな。
あそこ神田川なんです。
新宿よりもうちょっと西側なんですけど。

糸井

コンクリートの底が見えていて、
やっと水が流れているような場所ですよね。
ゴミはあるわ、砂利はあるわの川に、
コム・デ・ギャルソンのシャツが投げ込まれて。
「‥‥これは青春群像なのか？」って。

永田

ですよね（笑）。

糸井

きょうも対談にちなんで着てきましたよ。
白シャツ。ふだんまったく着ないのに。

永田

あ、やっぱり！　
コム・デ・ギャルソンですよね？　
さっきお見かけして、
もしやと思っていたんです。

糸井

これは家にあったやつで、
仕事する人でも着られるものだから、
映画のとはちょっと形がちがうかも。

永田

かなり似てますね。
撮影のときは２枚必要だったんですけど、
そのときお店に売ってなくて、
メルカリで買ったりしていたんです。

糸井

映画がはじまってすぐに、
この白シャツが汚い川に投げ込まれるわけです。
こっちは朝ドラみたいな気持ちで観てるのに、
ぜんぜんちがうタイプの方々ばかり出てくるし。

永田

主演の北村匠海さん、
まさに朝ドラに出てましたしね。

糸井

朝ドラの北村さんとは、
まず髪の色がちがいますから。

©2025 映画「愚か者の身分」製作委員会

永田

じつは北村さん、
この映画を撮り終えた直後から
朝ドラの撮影に入ったそうなんです。
映画の撮影がぜんぶ終わったあと、
北村さんが「明日、坊主にするんです」って。

糸井

えーっ。

永田

学生時代のシーンから撮るとかで、
坊主にしなきゃいけないって。
「だからやり直しできませんけど、
いいですよね？」と聞かれて、
「もう１回、台本だけ見ていい？」って（笑）。

糸井

そうか、役作りでね。
映画の中の彼のヘアースタイルは、
きっとオリジナルですよね。

永田

はい。

糸井

いいですよね、あれ。発明ですよ。

永田

ありがとうございます。

糸井

だから青春群像と思って、
ぼやーっと座っていたぼくは、
この映画の主人公と
朝ドラのやなせたかしさんが同じ人って、
最初気がつかなかったんです。

永田

あ、そうなんですね。
そういってもらえるのはうれしいです。

糸井

だって朝ドラのやなせさんは、
「私は目立たないように一生を送ります」
みたいな方じゃないですか。

永田

そうでした（笑）。

糸井

まだ観てない人に先輩ぶっていいますけど、
この映画の主演の北村さんは、
あの朝ドラのやなせたかしさんですから。

永田

まさに北村匠海さんって、
どの作品を観てもぜんぜんちがうので、
私もちょっと謎だったんです。
いろいろ観れば観るほど、
どういう人かわかんなくなるというか。
でも実際にお会いしてみると、
ものすごくニュートラルな方でした。

糸井

そうなんですか。

永田

受け身というか、すごくフラット。
役者さんの中には
「こういう感じでやりたいです」と
ハッキリおっしゃる方もいますけど、
北村さんはそういうのがぜんぜんない。
それはちょっとびっくりしました。
ジェンダーレスぐらいスタンスがニュートラル。

糸井

女性役もやれそうですよね。

永田

やれそうなぐらいニュートラルでした。
いい意味で、
「この人は何にでもなれる人なんだ」と
思いましたね。

糸井

思えば、この映画の主人公も
そういうタイプですね。
「俺はこれがやりたいんだよ」って、
クロールで泳いでいないというか。

永田

受け身なんですよね。
弟のためにとか、こいつのためにとか。
どっちかっていうと自分のことよりも、
人のために何かしてあげたい人なんだと思います。

糸井

じゃあ、ちょうどよかったんだ。
彼があの役をするのは。

永田

そうなんです。

©2025 映画「愚か者の身分」製作委員会